《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第十九話

 足音を立てないように、慎重に森の中を進んでいくディーネ。

 幸い暗闇というのは、闇に生きる暗部にとって強力な味方として力を貸してくれる存在だ。姿を隠し、ターゲットへと近付いてからの一撃必殺を旨とする彼らにとっては大きな利點として働く。

 しかし、相手も暗部であった場合このアドバンテージは消えてしまう。さらにディーネが魔法を扱う時には、前述の通りワンテンポの遅れが生じてしまう上に、暗闇中での戦闘においては『る』という一點において大きなデメリットを背負っている。その為、彼は『隠』という一點においては他の追隨を許す結果となってしまっているのだ。

 魔法で自らの匂いや姿を消すことが出來ない彼は、必然的に気配を斷つのではなく『慣らす』という方法を取らざるを得なくなった。その完形が、現在のディーネである。

 森をただ靜かに歩くだけでなく、自らの痕跡を『慣らして』いく。自分が存在していたという事実を消すのではなく、存在していること自がなにもおかしくないという狀況へと持っていく。それがディーネの編み出した暗殺者としてのやり方だ。

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 他にもメリットは々とあるのだが、一度それは置いておこう。何故なら――

「――見つけた」

 ――ディーネが森の中で不自然にく影を見つけたからだ。

 明らかに野生のなどではない、大きな影。それが二つ。星達のではやや薄暗く、ディーネの位置からでは顔の判別はつかないが、どうやら何かを話しているようで、離れたディーネにも微かに話し聲が聞こえてくる。ディーネは彼らに気付かれないように木の影へと隠れつつ、その會話の様子を伺った。

「――うだな? 本當にこいつでヤツが倒せるんだな?」

『ああ。我輩は闘爭も破壊も好むが、噓は言わん。そやつを使えばニンゲンの一人や二人、息継ぎをする間も無く殺せる』

「だけど、あいつは凄く強いんだぞ!? 萬が一次負けたら、今度は何をされるか……」

『そこまでは我輩の管轄外であるな。我輩に出來ることは力を授ける事のみ。一つ言えるのは、その件のカオルとかいう人になら負けることはないということだ』

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(チッ、何をしようとしてるんだアイツ……)

 顔こそ見えないが、聲の片割れはディーネも聞いたことがある。この聲は、確実に決闘で打ちのめした筈の宇野のだ。

(狀況まで演出して完璧に叩きのめした筈なのに、まだ懲りて無かったのか……その上、こんな怪しげな取引にまで手を出すとはな。評価を下方修正する必要があるか?)

 心で舌打ちをしつつ、靜かに様子をうかがうディーネ。一先程から宇野と話している人は誰なのだろうか。このような特徴的な話し方をする人は、生憎彼の記憶には無い。せめて會話の中だけでも聞いておこうと、ディーネはより覚を研ぎ澄ませた。

「ぐっ、無責任な事を……!!」

『やれやれ、悪意を植え付けたのは確かに我輩であるが、それでもここまで扱いづらくなるとはな。いっそ直々に手を下した方が早かったか?』

「うるさい!! そもそもこれを使えば水樹に惚れられるって言って怪しげな薬を貰ったけども、結局何の果も出てないじゃないか!! インチキもいい加減にしろ!!」

『その怪しげな薬に頼るとは笑止千萬だが……まあ心配するな。その敵を殺すことが出來ればそのミズキとやらも自然に手にれることが出來るだろう』

「ほ、本當か?」

『ああ。そやつの対象がいなくなれば、その薬の効果も自然と現れるだろう。我輩は噓は言わん』

(なんだよそのガバガバ理論は。その場で効果が現れない惚れ薬とかあり得るはず無いだろ。ヤツもヤツだ。そんなアホみたいに怪しいヤツに引っかかってんじゃねぇよ)

男の話は人を小馬鹿にしているとしか思えないデタラメな容であったが、それに騙されている宇野も宇野である。

『さあ、この小瓶の中を飲み干せ。さすれば強大な力を……む?』

「な、なんだよ?」

『……ふむ。どうやら招かれざる客がいるみたいだな。全く、この星がしい夜に無粋なことよ』

(っ!?)

背筋に氷のつららが刺さる。そんな寒気を覚えたディーネは、慌ててその場から飛び退く。次の瞬間、ディーネが先程までいた場所に闇の槍が突き刺さった。

(無詠唱での高火力呪文……!! 相當なやり手か!!)

ディーネは自らの正を隠す為、変呪文を解除・・する。『薫』がこの場で飛び出すのはあまりに不自然。その上、薫の姿では現在所持している故障した寶しか使えなくなってしまう。それだけでは目の前の相手には勝てないと判斷した結果だ。念の為フードを目深に被ると、戦闘態勢に移行する。

「『魔法爐起ラジエーターオープン』……『詠唱:暗夜之鎖』!!」

ディーネの呪文が発し、男の足下に魔方陣が展開。闇の鎖が男へと絡みつく。

『ほう。中々の強度だが、これだけでは我輩を留めるなど出來ぬぞ?』

が、クイと軽く腕を引くだけでその鎖は破壊される。星に照らされ、男の袖からわになる。それを見てディーネは男の正を見抜いた。

(――こいつ、魔族か!!)

魔族。この世界の故事に著される存在であり、その名の通り魔をる事に長けた一族の呼稱である。

種族數こそないが、その強さからかつての人類を絶滅寸前にまで追い込んだとされる驚異の存在であり、當時の魔王の生みの親でもあるが、その討滅と共に封印を施されたという歴史を持つ。実際にその跡も殘っており、存在していたという証拠はあったのだが、ディーネもこの目で見るのは初めてである。

『さあ、かかってくると良い。いたぶるのは好きだが、強者はさらに好みなのだよ』

(こちとら男に好かれるような趣味は無いんだがな……)

だが、こちらがくまで待つというのなら好都合。ディーネは懐から予備の短剣と袖のブレードをばしつつ、魔族の男へと駆ける。勿論、強化の呪文も忘れずに。ディーネのを緑が纏うと、彼の速度が目に見えて上がった。

『ほう、強化か。面白い』

(チィ!?)

どこから取り出したのか、男は禍々しい直剣を振りかざしている。避ける事は間に合わない。ディーネはとっさに左の短剣を構えると、彼の剣と激しく切り結んだ。

(強化された筋力でもここまで厳しいとは……!)

『ほほう、中々やる。無口なのが玉に瑕だが、それもまた一興か』

男は力任せに剣を振るう。ディーネはそれに逆らうこと無く後ろへ飛びすさり、彼と距離を取った。

(一発一発が重い。本來の得があればまだしも、予備の武程度では話にならないか……)

ちらりと自らの短剣を覗く。先程までしく煌めいていた白刃は、ただ一合の切り結びでその姿を見窄らしいにしていた。

『どうした? 早く掛かってくると良い。貴様の実力ならば、やもすれば我輩を倒せるかもしれんぞ?』

そこからのディーネの判斷は速かった。自らの短剣を二本とも男に投げつける。狙うは首、足の腱。的確に急所を狙った彼の一撃は、しかし男には屆かない。

『フン、小賢しい』

魔族の振るった剣に二本の短剣がれる。次の瞬間、短剣は々になってそのを空へ散らした。

いくら刃こぼれしていたとは言え、短剣は金屬。それを一撃で々にするというのは並大抵の事では無い。剣の能力にしろ魔族の能力にしろ、それが驚異であるのは間違いのない事だ。

だが、ディーネの目的は急所を突くことではない。

「『詠唱:暗夜之霧』」

『ぬぅ?』

短剣の投擲はフェイク。ディーネは本來の目的である逃走を果たす為、目くらましとなる呪文を発していた。一瞬で辺り一帯は闇の霧に包まれ、彼らの姿を覆い盡くす。

『……なるほど、逃走用か。一杯食わされたな』

尋常では無いスピードで遠ざかっていく気配に、魔族は頭を掻きながら呟く。

『まあいい。本來の目的だけでも果たして帰るとしよう。奴との決著はお預けだな』

そう言うと、彼はけなく地面に転がっていた宇野を引っ摑んだ。

◆◇◆

「あ、薫!! こんな夜更けにどこ行ってたのよ!!」

「……ああ、ミズキ。いや、ちょっと自主練をね」

「こんな夜遅くに? 一人で? ……ほー。ふーん」

「……なんだよそんなジト目をして」

「別に? 私に黙って一人で訓練だなんて水臭い、なんーて思ってませんよーだ」

「……えっと、一緒に訓練したいの?」

「はあ!? べべ、別にそんなこと無いんだけど!! ただ一人じゃ寂しいだろうし、効率も悪いんじゃ無いかなーってし思っただけなんだから!!」

「うん。じゃあ今度一緒に訓練しようか」

「え!? 別にしたいわけじゃ、でも、あんたがどうしてもって言うなら、その……」

「メリエルさんも一緒に」

「薫のバカ!!」

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