《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第二十一話

『はぁっ!』

 鎧を纏ったディーネが勢いよく右足を振るうと、その度に軌道上に居た魔獣が吹き飛んでいく。魔獣はその一撃で斷末魔の悲鳴を上げると、幾つかの素材を落としそのままの帯となって宙に解けていった。

 そしてディーネは思う。

『……一これいつまで続ければいいんだ』

「あら、そんなの決まってるじゃない。いつまでも、よ」

 思わず愚癡が口に出ていたのか、ディーネの獨白に水樹が反応する。まるで圧政を敷く暴君のような言い草に、ディーネは苦笑いしながら反論した。

『うん、まあ僕もこの演習が規定の時間まで終わらないということを知っているし、何よりパーティーとして固い前衛が僕しか居ないということも知ってる……いや、メリエルさんはあれだけど……』

「いや、私としてもカオル殿を助けたいのは山々なのですが……いかんせん任務の目的が勇者様の長なので、私が迂闊に前に出るのはあまり好ましくないというか……」

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 流石に熱が籠るのか、今では兜をぎ去りその流麗な金髪を背に流しているメリエル。日本人では決して出せないその西洋的なしさに、しだけ水樹がイラッとしたのは緒の話だ。

 余談だが、ディーネの鎧にはしっかりと空調機能がついている。鎧に空調機能とかふざけているのかと思わず言いたくなるが、別にディーネの要ではなく作った本人が勝手に著けたものであるからどうしようもない。

 さらに言うとこの鎧の設計図を確認し認可したのは國王である。ただ見逃しただけなのか、それとも見た上で認めたのか。真相は國王のみぞ知る。

『まあそこらの事は薄々気付いていたし、こうして僕が前に出るのは至極當然の事だ。ただその上であえて言わせてもらうけど……』

 ディーネは後ろを振り返る。背後に控えているのは勿論彼のパーティーメンバーであり、常に戦いに備えている筈である。

……筈、なのだが……

『君ら何やってんの?』

「え? ……卓上遊戯?」

「まあ有りに言ってしまえば……」

「……ん、トランプ」

切り株の上に広げられたカードの山。なんだこれは、というディーネの視線をけつつも彼らの手は止まらない。

「あ、私はこれで上がりね。はい、大富豪」

「あー! 私が都落ちしちゃうじゃない!」

「……ん、次は私が親。八切りからの七で上がり」

「骸まで!? まだ私手札八枚あるんですけど!」

「フッ、甘いなミズキ殿。私はイレブンバックからの四で上がりだ。これで名実ともに大貧民だな!」

「くぅ……さっき散々馬鹿にしたから何も言い返せない……」

(え? メリエルって異世界こっち側だよな? なんでしれっと混じってんの?)

ディーネには訳の分からないルールだが、それにごく自然に混ざっているメリエル。どれだけこのゲームをやりこんだのかと言うのが目に見えている。

「あはは……その、すいません。最初は私たちも手伝おうと思っていたのですが、その……余りにもやることがなくて……」

『あー、うん。まあそれは仕方ないと言えば仕方ないけどさ』

確かにディーネがほぼ一人で、それも一撃で敵を倒してしまえば訓練も何もあったでは無いだろう。鬱憤晴らしの意図もあったが、それでもやや大人げなかったのは確かだ。

「そーだそーだ! 私たちにも機會を要求するー!」

「……ようきゅう、する」

『調子良いね君たち?』

こんな時にだけ無駄に口を開く骸。無口キャラならば出來る限り無口を貫けと思わなくもない。

『まあ、とりあえずこれ以上の戦闘は必要ないと思う。演習は三日に渡って行われるし、何より……』

ディーネは空を指さす。演習を始めた頃の青かった空は、既に半分ほどが赤に染まっていた。

『夜も近い。野営の準備をしておくべきじゃないかな?』

「そうなの? まだ結構明るいけど……」

「いや、カオル殿の言うとおりですぞ。夜になってからでは準備は遅い。このあたりで準備を始めるのが丁度良い頃合いでしょう。カオル殿が言わなければ私が言っていた所でした」

(おっと、余計なことを言ったか?)

ディーネとしての経験から野営を提案したのだが、それは々余計な気遣いだったようだ。バレるには程遠いだろうが、あまり不安要素を殘すでは無い。行をやや控える必要がありそうだ。

「……ふう」

「お疲れ様です、薫君。はい、これをどうぞ」

鎧を解除したディーネに水筒を差し出す奏。役割を先んじられたメリエルが遠くで「ああっ!!」と嘆く聲が聞こえたが、それはどうでもいい事だ。

「ん、ああ。ありがとう」

一瞬警戒するディーネであるが、ここで拒否するのも不自然だ。おとなしく水筒をけ取り、キャップを開ける。一方、奏はまるで一挙手一投足も見逃さないと言うかのようにディーネを凝視している。

「……えっと」

「はい、何でしょうか?」

「……そんなに見つめられると、ちょっと飲みにくいなぁと」

「ふふ、気にしないでください。他意はありませんので」

「いや、そういう問題じゃ無くて……まあいいや」

ディーネは説得を諦め、水筒に口をつける。

彼が中を口に含んだ次の瞬間、ディーネの口に僅かに痺れるような覚。

(……遅効の痺れ薬か)

メリエルが態々薬を盛るとは考えにくい。いや、理由ならありそうだが、彼は真正面から來るタイプだろう。と言うことは、目の前の彼が一服盛ったと言うことになる。

ディーネは中の水をあえて全て飲み干す。即効があるならまだしも、遅効の薬であれば解毒は容易だ。特に暗殺者という職業上、そういった武を扱うことも多々ある為、毒の扱いには人一倍長けていると自負していた。

ここで彼を問い詰めるのも良いが、その場合はディーネが気付いた理由も吐かなければならないだろう。その點を突かれるのは避けたい所だ。

「……ありがとう。味しかったよ」

「ふふ、どういたしまして」

奏の表は相変わらずの笑顔から揺るいでいない。とんでもない鉄面皮である。最初の癒やしという評価は改めなければならないな、とディーネは考えた。

「カオル殿ー! テントの設営手伝っていただけますかー!」

「え、ああうん。今行くよメリエル! ……そういう訳だから、ちょっと行ってくるよ」

「うふふ、されていますのね」

……?)

奏の言葉に若干の疑問を覚えつつも、ディーネはメリエルの元へ急ぐ。

「……本當に、されていますわね」

その小さな呟きをディーネが聞き逃すことは無かった。

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