《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第二十五話

「援護は任せてよね! 行くわよ骸!」

「……りょ」

骸の能力は『闇の門ゲートオブダーク』。闇から様々な武を生み出し、それらを扱うという珍しいスキルである。自らの手でることや、門を作り出してそこから出するという使い方も出來る。汎用の高いスキルだが、唯一の懸念はその闇がどこから來ているのか分からないということだろうか。

門を作り出す場所は、骸の周囲であればある程度自由に指定できる。それを利用し、骸はオークの死角に門を作り出した。狙うは足首。人間で言うアキレス腱の辺りである。

(これで打ち抜く……!)

が、野生を生き抜いてきた者特有の勘とでも言うのだろうか。オークは自らの足首付近に突如現れたそれを、反的に回避した。目標を失った剣が空を切る。

「……む、外した」

「まだよ! 『詠唱:永久凍土』!」

水樹のが発する。目指すはオーク本……ではなくその足下。瞬間的に冷卻された水分は氷となり、オークと地面を結びつける。戸ったような唸りを上げ、オークのきが止まった。

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「骸!」

「サンクス。開け、闇の門よ」

『點』が避けられるのならば、『面』で攻める。骸は門をオークの周囲に作り出し、無數の剣を出現させる。

「――出」

闇によって構された剣や槍が、オークの肢を襲う――

『ゴアァァァァァァァァァァ!!!!』

――かに見えた。

オークは雄びを上げると、自らの凍った足に棒を叩きつける。尋常で無い膂力には、いかな魔法の氷といえど耐えられるはずも無い。激しい破砕音と共に、水晶のようにき通った氷の欠片が辺りに飛び散る。

自らの足が傷付く事も厭わない、あまりに強引な方法。しかしそれは、野的とはいえ効果的な方法だと言えた。

「そんな!?」

「……わーお」

氷の戒めから解かれたオークは、そのまま真上に飛び上がる。唯一門がカバーできていなかった場所、頭上ならば安全であると咄嗟に判斷した為だ。

だが。

『甘いよ』

背のブースターを吹かし、いち早くオークの頭上に回り込んだディーネ。振りかぶった剣から彼の腕にかけては、紫の煌めきを纏っている。筋力強化の魔が掛かっている証拠だ。

咄嗟に棒を構えたオークだったが、彼に出來るのはそれが一杯だった。ディーネの一撃をけた得は木っ端微塵に砕け、オーク自もそのまま地上へと押し戻される。そして勿論、押し戻された先には――

「ないす……」

骸の総攻撃。剣、槍など様々な武がオークの肢躙する。辺りは土煙に捲かれ、オークの姿を覆い隠した。

「やったか……?」

「あっ、バカ!」

「メリエル……それフラグ……」

「? ふらぐ? 何のことですかムクロ殿? それにミズキ殿、バカとは失禮ですなバカとは。これでも王國の厳しい試験を通って騎士になったのですぞ」

「そういうことじゃなくて……ああもう、説明は又今度! 骸、更に追撃を……」

「……あ」

そんな軽いゴタゴタの間に、土煙は収まり、再びオークの姿が曬される。

骸の攻撃の殘滓か、中のあちこちに闇の武が突き刺さっている。時間の限界か、武達は粒子となって虛空に消えていくが、その傷跡は殘ったままだ。

「お、意外と効いてる?」

「……フラグ建築、失敗」

「なあ、だからフラグとは一……」

『――いや、まだだよ』

水樹達の言葉を遮り、ディーネが警告する。その言葉の通り、敵は未だその闘志を失ってはいない。それを表現するかのように、オークのからは煙が立ち上っていた。

「な、何この熱気は?」

「あつい……」

オークのから発せられる異常なほどの熱気は、水樹達の元まで屆いていた。立ち上る煙は、その溢れるほどの熱気の発である。緑だったも、今では強烈な赤に変していた。

オークという種から考えても明らかに異常な事態。なくとも、ディーネはオークがこのような現象を起こすという報告は聞いたことが無い。それはメリエルも同じようで、驚愕のわにする。

「真っ赤なオーク……だと? そんな、生まれてこの方聞いたことなど無いな。新種か?」

『うーん……それに、ただのオークとも違うみたいだね。見てよ、あの傷跡』

を覆い盡くすほどの煙の出所は、全て傷跡の付近だ。煙に阻まれてよく見えないが、徐々にその傷跡が小さくなっているのが確認できた。

「あれってもしかしなくても……」

「……再生能力」

ゆっくりと立ち上がるオーク。先ほどまで傷だらけだっただが、今ではほとんど殘っていない。確認できるでもかすり傷程度である。

「……これってさ」

『……どうしたの水樹?』

「もしかして……」

オークが一歩踏み出すと、地面が揺れる。真っ赤なに、口の端かられる白煙。まさに迫力満點だ。

「……大ピンチ?」

『……もしかしなくても大ピンチかな』

「ですよねー」

◆◇◆

「一つ、良い考えがありますわ」

「あれ、奏!? どうしてここに!?」

「……まさか自力で出を」

ディーネとメリエルが前線でオークを食い止め、水樹と骸が援護をする。基本的な戦闘形式は変わっていないの、オークの回復力からジリ貧の狀況に追い込まれていたディーネ達。

そんな中、焦りを覚える水樹にどこからともなく現れた奏が話しかける。まさかいるとは思わなかった者の存在に驚きを隠せない水樹と骸。いや、骸はなんか違うかもしれない。

「別に囚われていた訳では……いえ、あながち間違ってはいないかもしれませんわね」

「?」

「?」

 ポッ、と顔を赤らめる奏に、疑問符を浮かべる水樹達。明らかに言っている容と様子が噛み合っていない。

「まあそれはいいんです。それよりも、どうやらあのオークに苦戦している様ですわね。話は聞きましたわ。半分くらい」

「うん、まあ微妙に心配だけどそれなら話は早いわ。いい考えがあるって言ってたけど、本當?」

「ええ。簡単に言えば、私のスキルを使えば良いんですわ」

「えっと、確か奏のスキルは……なんかこう、薬をキメるって事は覚えてるんだけど」

「人聞き悪すぎるスキルですわね……」

 奏のスキルは『強化薬剤パンプアップ』。様々な効能を持つ薬を作り出せる、強力な能力である。ディーネに盛ろうとした痺れ薬も、この能力で生み出しただ。

「……なるほど。外からがダメなら中からってことだね」

 骸が納得の聲を上げる。それに遅れて理解すること數秒、水樹が理解したという合に指を鳴らした。

「そうか! 奏がその能力で毒を作って、奴に送り込めば良いのね!」

「ええ、その通りです。問題は、この薬を魔法に乗せる事は出來ないという點ですが……」

 奏の言葉の途中で、オークの突進を防ぎ吹っ飛んできたメリエルがり込んでくる。同時に退いたディーネも一緒だ。

「……それは彼らに任せましょう」

「む? カナデ殿では無いですか! ご無事だったので!?」

『……いつの間に』

 先程の出來事で彼が完全にダウンしていたと思っていたディーネは、骨にならない程度に驚愕する。まあ完全に賢者モードというか、力した狀態から短時間で回復できるのは驚きであろう。

 もっとも、ディーネの考える奏が遅れた理由と実際の理由には大きな違いがあるのだが。

「ふふ、この狀況を打開できるかもしれない案です。乗っていただけますか?」

 小悪魔的な笑みを浮かべた奏のそんな言葉に、彼らは頷くしかなかった。

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