《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第二十六話

「せあぁぁぁぁぁぁ!!」

メリエルが手持ちのランスを叩きつけると、その場所を起點に巨大な亀裂が走る。全力で放たれた一撃には、オークを足止めするための十分な威力が備わっていた。オークはたたらを踏むと、その場で立ち竦む。

一瞬出來た隙。それがディーネ達にとっての千載一遇のチャンスだった。

しばかり止まって頂きましょうか…… 『詠唱:鉄璧城砦』!」

 一分の隙も無い、完璧な城塞がオークの眼前に立ちはだかる。怒りに狂っているオークはそれすらも破壊して突き進もうとするが、この壁は名前の通り鉄『璧』を作り出せる城塞だ。単純な理攻撃ではそうそう破れるではない。オークが攻撃をいくら仕掛けようとも、びくともすることはない。

「……く、皆様、早く攻撃を! この魔法はそれほど持ちませぬ故……」

 が、攻撃が通じないオークと完璧に防ぎきっているメリエル。顔が優れないのは何故か後者であった。

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 それもそのはず、相手の攻撃を完全に防ぎきれる魔法の維持が楽である筈がない。この魔法は、使うだけでにある魔力をバカ食いする大食漢でもあった。更に、攻撃をければけるほど魔力も更に削れていくというおまけ付きだ。

 これほどに燃費の悪い魔法、例え國一番の魔法使いといえども數分持たせるのが々であろう。ましてや本職は騎士のメリエル。彼が長時間この魔法を持たせることなどほぼ不可能に近かった。

「了解! ちょっと早いけど、切り札行くわよ!」

「ん、時間稼ぎは任せて」

水樹はとっておきのスキルを発する、その為の準備を開始する。その待機時間を稼ぐ為、骸が闇の門を開いた。

「今度こそ、捉える……」

次々と展開された闇の門は、オークの頭上、背後、果ては足下にまで広がる。

「――『鎖よ』」

數え切れない程展開された門から、一斉に闇の鎖が飛び出す。オークのに巻き付くと、そのを固定する。同時に展開されていた城塞は霞と消え、メリエルの限界を伝えていた。

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「ぐっ……すまない皆。し、限界のようだ」

「気にしないでメリエルさん。後は僕たちが……おっと! 大丈夫?」

力を使い果たし、膝を突いたメリエルを支えるディーネ。ガシャリと音を立て、ディーネの腕へ倒れ込む。

「……」

「どうしたのさメリエルさん? まさか、どっか怪我したとか……」

「……はっ。いえいえ、別にに異常はありませんよ。ご心配いただきありがとうございます」

この、実はディーネに著しているのを良いことに、彼の臭を嗅ごうと畫策していたのだ。彼は鎧をに纏っているというのに、それでも気にしてしまうのがをする者のというか。まあ、こんな変態的なと一緒にされてはをする者も溜まったでは無いだろうが。

「ちょっと、いつまで著してるのよ!」

「おやおやミズキ殿、今は自らの仕事に集中した方が良いのではないか?」

「ぐぅ……」

ぐうの音も出ない、ならぬぐうの音しかでない水樹。骸が頑張っている以上、彼も他のことに気を取られる訳にはいかない。例えそれが敵だとしてもだ。

「あーもう! とっととあいつを片付けるわよ! 『天使の軍勢エインヘリヤル』!」

水樹のスキル、『天使の軍勢エインヘリヤル』。その名の通り、天界の軍勢を呼び寄せ攻撃、監視、防などに使える便利なスキルである。発に多時間は掛かるの、それに見合うだけの能力は持っていると言えるだろう。

雲間から差したと共に、羽を生やした達ワルキューレが降り立つ。その數9人。皆それぞれに武を攜えながら、主の敵に対して鋭い眼を向ける。

「ごめん水樹、ちょっとキツい……」

その時、苦悶の表を浮かべた骸が限界を口にする。現界していた闇の鎖が々に砕け、オークが再び自由を取り戻した。

「気にしないで骸。これで十分、時間は稼げたわ!」

水樹は笑みを浮かべつつ、天使達に指令を下す。

「さあ天使達、奴のきを止めなさい!」

絶対である主からの指令をけた天使達は、その命令を実行する。一斉に散開すると、瞬時にオークの前後左右へ回り込み、各々の手にの槍を顕現させた。

オークは雄びを上げ、それらを薙ぎ払おうと一歩踏み出すがもう遅い。

『―――』

天使達が聲にならない聲を上げると、手に持った槍を出。合計九本のがオークの足を地面とい止めた。

『ゴアァァァァァァァァァァ!!!!』

殘った腕で抗戦しようとするも、それは葉わない。なぜなら――

「今度こそ、やらせない」

――ディーネが立ちはだかっていたからだ。

オークの右腕が振われ、ディーネのいた地面をえぐり取るが、その程度の単純な攻撃にやられる彼では無い。彼はブースターを吹かし、一気にオークの眼前まで接近する。

「――大人しく」

ディーネの右腕がオークの顔面を鷲摑みにする。ミシミシ、という鎧から鳴る音すらも無視。

「寢てろォ!!」

ブースターの推進力を利用しつつ、一瞬だけ全力で押し込んだディーネの一撃は効果覿面だったようで、オークは抵抗むなしくそのを地面に落とす。

「今よ、殘りの腕も拘束しちゃって!」

水樹の指示が響く。先ほどまでのどれよりも強力な武で拘束されたオークは、今度こそその運を止める事となった。

「さあ、今がチャンスよ奏!」

「ふふ、分かりましたわ」

奏は生した毒を片手に、オークへと近づく。

そう。奏の提案した作戦とは、オークをけないレベルまで拘束した後、自らの毒を使いオークを殺すという単純なだ。最も、そこまでの道のりは単純なとは言えなかったが。

未だ荒々しい呼吸をして、近づいてくる奏を睨み付けるオーク。彼は顔にこそ示さないが、その足は恐怖に震えていた。それこそ、この作戦を提示してしまったことを後悔するほどに。

それも仕方が無い。彼はいくら顔に出さないとはいえ、中は至って普通の子高生である。そんな彼に対し、野生の殺意に怯むなと言う方が難しいだろう。

「……はぁ」

そして見かねたディーネは、奏から毒のった小瓶を奪い取る。

「あっ」

「僕がやるよ。オークがまた暴れたりしたら大変だしね」

それにこういう仕事は自分が一番向いているし、という言葉は仮面の下で呟くのみとなった。今ばかりはこの兜がありがたい。

「……ふふっ。ありがとうございます」

奏の謝辭に、ディーネは片手を上げるだけで応える。そんな二人に、疑問を投げかける者が一人。

「……なーんか仲良くない?」

後ろに天使の軍勢エインヘリヤルを従えさせ、彼らを疑の目で見る水樹。主人のが伝播したのか、天使達も疑念の目を向けてくる。

「ほう、それは私も気になるなカナデ殿。特にいなくなっていた間の事とか」

「えっと、それは……」

「……ん。奏、ファイト」

相変わらずのない連中だ。そう思いつつもディーネはオークの元へと向かう。

(……ん? このアミュレットは……)

オークの付けていた首飾りに目を付けるディーネ。

(本來ならば魔獣に裝飾品をにつける程の知能など無いはず。だが、これは……)

ディーネはその首飾りを回収し、躊躇無く毒を流し込む。

かくして、一夜の激闘は終わりを迎えた。あまりにあっけないその勝利は、ディーネの心に不安要素だけを殘していったのだった。

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