《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第二十七話

大の字に橫たわっているオークの死は、やがてそのを虛空へと散らしていく。

「……今度こそ、終わったようですな」

メリエルは若干汗に濡れている額を拭い、山場を切り抜けたと安堵のため息を付く。

を構している魔素の分解。普通の生とはの構造からして違う魔獣にとっては、この現象こそが『死』を伝えるだった。死が殘らない分人間よりやりやすいし、分かりやすいとの事はディーネ談。

そして魔素が消え去った後には、魔獣が生み出された際に『』となった獣の一部が殘される。今回出現したのは豬の牙。オークとなる素材としてはありふれたである。

最も、ありふれた素材とは言いつつもその価値は大きい。濃な魔素に包まれていたそれは、いかなであっても魔の強力なとなるからだ。その為、魔獣の討伐を奨勵している冒険者ギルドでは高値で買い取って貰える事も多々ある。腕に自信がある者が、一攫千金を目指して冒険者になるには十分な理由だろう。

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ディーネは地面に落ちている牙に近付き、それとなく観察する。

(……あそこまでの力を出したにしては、どうにも平凡すぎる素材だな)

普通は強大な力を誇る魔なら、素材もそれなりのであるはずだが。その點で言えば、豬を素材としているオークはそもそも強いという事自がおかしいと言える。本來ならばディーネ達が苦戦する事すら怪しいだろう。

やはりこいつが原因か、と手元のアミュレットを観察するディーネ。中央に埋め込まれた紫の寶玉が、怪しいを放っている様にも見える。

「ほえー、そのネックレス綺麗だねぇ」

「……付けたら、悪役レベル上がりそう」

「それが魔からのドロップ品ですかな?」

「あらあら、隨分と高そうなが……」

三者三様ならぬ、四者四様。皆思い思いの想を述べつつ、ディーネの手元をマジマジと覗き込む。

「いや、ドロップ品はこっち。豬の牙だよ」

 そう言って地面に転がっている牙を指差すディーネ。一同はその指先を追い、見すぼらしく土に汚れたそれを凝視する。

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 再度顔を上げ、ディーネの手元。もう一度目線を下げ、地面。

「……ないない」

「薫、寶石を獨り占めしたいからって噓は……」

「うむ。ドロップ品は山分けと決まっているからな」

「あらあらうふふ。獨占はよくありませんわね♪」

「(ダメだ、ここには敵しか居ない……)」

 ディーネの証言を信じる者は誰一人として居なかった。あまりのアウェーさに思わず膝を付きかけるが、彼はなんとか踏み留まった。ディーネもやられてばかりではない。日々長を遂げているのだ。

 最も、その長が良いものとは限らないが。というか長というよりむしろ慣れではないのか。

「嫌、本當なんだって。このアミュレットはオークの首に掛かってたんだよ」

「ほう、しかし魔が死ねばその裝飾品も共に消えるはず。なのに消えないというのはそれがである証拠ではないですかな?」

(余計な所だけ鋭くなりやがって……!)

 なるほど、確かにその話なら筋は通っている。しかし、事実としてこれはオークのでないのだからディーネとしても引くわけには行かない。弱小魔のオークがここまで強くなった理由がこのアミュレットに詰まっているのならば、ディーネとしても解析する必要があるからだ。

 例えの話だが、これが王國の新兵だったりしたらもう大変だ。量産されて魔に取り付けられ、なおかつ制する方法が存在するとしたら、一気に世界の趨勢は王國へと傾いてしまうだろう。最悪制する方法が無くとも、帝國へと適當に放り投げるだけで十分な被害が出てしまう。

 それにーー、とディーネは思案する。

 以前彼が報告書で読んだ魔達の活発化にも何処か似通っている節がある。兇暴化、異常なまでの破壊活ーー。この二つを関係無いとして割り切るのは些か早計ではなかろうか。

 一通りこのアミュレットを持っていかれる訳には行かない理由が出來たディーネは、彼らを説得するべく口を開くーー

「おい、この辺りで一何が……って、薫じゃないか! それに水樹達も……この騒ぎ、もしかして君達が?」

 ……と、その前に闖者の相手をしなければならないようだ。ディーネは唐突に森の中から現れた春斗、そしてその他パーティーメンバーを見て溜め息をついた。

◆◇◆ 

「へえ、そんなことが……いきなり襲撃だなんて、薫達も災難だな」

「本當だよ……異世界に來てからどうにも災難続きで、最近は隠居するならどこが良いかななんて考えてるんだ」

「隠居するには早いだろ……」

 事を一通り説明し終わると、やや憐憫の眼差しを向けてくる春斗。なるほど、確かに薫として見れば異世界に來てから苛められ、遭難し、挙げ句の果てに死んでいる。これを災難と言わずなんと言うのか。

「そうだよ薫! 隠居するならまずお嫁さんを決めないと」

「その通りですな。まずは嫁を迎えるのが最優先では無いかと……婿りでも問題無しですが」

「ごめん、二人はちょっと引っ込んでて?」

 ここぞとばかりに自己主張してくる水樹とメリエル。そのアピールがこの上無くディーネからの好度を下げているという事に、彼らはいつ気付くのだろうか。

「はは! 援護に來たつもりなんだけど、この調子じゃ必要なかったみたいだな。俺の出る幕が無い」

「むしろ何人か引き取ってくれないかなと思ってるんだけど……」

「頑張れ、薫!」

 グッ、と爽やかな笑顔を浮かべつつサムズアップ。思わずイラッと來たディーネは、彼の向こう脛を蹴り上げる。

「痛い!」

「僕の痛みはこんなもんじゃない。さあもう一撃も甘んじてけ取れ」

「ちょっと待てって! よく考えろ、同じ立場だったら引き取ってるか?」

「……引き取らないね」

 同意の言葉に我が意を得たりと笑う春斗。

「だけど、それとこれとは話が別だ」

 が、一瞬で絶の表へと変化した。

 痛みに悶える春斗は放っておき、制裁を終えたディーネは改めて手元のアミュレットを見る。

(……中央の寶玉がっている?)

 星明かりが反しているとも考えられるが、どうにも怪しげなだ。見るものを魅了するような、虜にするような……

(……あっぶねぇ!!)

 咄嗟に危険と判斷したディーネは、アミュレットを地面に叩き付ける。その場にいた全員が何事かと彼を見つめた。

「ちょ、薫? 一どうしたのよ?」

「……ついに薫も、そのアミュレットの虜に……」

「骸、変なこと言わないでよ……」

「……いや、ムクロの言う通りだ」

『え?』

 ディーネの発言に、水樹達どころか言った當人の骸まで驚く。

「これには『魅了』の魔法が掛かっているみたいだ。それも結構強力な、ね」

 ディーネの臺詞に目を見開く一同。メリエルはその真贋を確かめるべく、『鑑定』の魔法を発させる。

「……なるほど、確かにその通りのようだ。ただ、これほどの魔法ですと持っただけでも危ない筈ですが」

「そこはそれ、この鎧があるからね」

 噓だ。ディーネの纏っている鎧にそこまでの魔法耐は無い。彼が魅了を逃れ得たのも、単に自の抵抗力の賜である。

 最も、その抵抗力すら突き抜けて自らを侵食してきたこの魔法こそが驚嘆に値するのだが。

『うーん、流石の噓だよねぇご主人は。その技を私の製作者相手にも発揮できればいいのに』

 どこかで鎧の妖が何か言っているようだが、ディーネは聞かなかったことにした。

「まあ、幸いにしてれなければ効果は発揮しない様です。今のに破壊しておくのも良いのですが……」

 言葉を濁すメリエル。

「ですが、どうしたのよ?」

「いえ、これがあのオークに影響を及ぼしていたのなら、王國としても回収しておかなければ。こんなものが世にばらまかれては、とんでもないことになりますので」

 そう言って魔の格納庫を開くメリエル。

「カオル殿、手伝っていただけますか?」

「ああ、わかったよ」

 殘念ながらディーネの手には渡らないようだが、まあ後で盜れば問題ないかと呑気に考える。 

「薫、そんなことによく気づいたわね? 私の方が魔法に詳しい自負はあるけど、全然気付かなかったわ」

「……いや、偶々さ」

「……まさか、薫のめられし力が……」

「だから偶々だって。て言うかムクロは當初からキャラぶれてない?」

「ぶっちゃけキャラ付けだった」

「とんでもないカミングアウト!?」

 衝撃の発言に慄く一同。

「無口なのは元々だけど……能力的にクールな方が格好いいかなって」

「雑に雑を極めたかのような理由ですわね……」

 

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