《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第三十二話
 ほぼ同時に駆け出した二人だったが、先手を取ったのはディーネの方であった。強化の魔を口ずさみつつ、右に持った剣を薙ぐ。狙いは魔族の首筋。
 仮に宇野やメリエルがここにいたとしても、その一撃を見切ることは出來なかっただろう。それほどの尋常ではない速度を発揮した一撃であったが、ただ早い程度の攻撃が魔族に通用するはずもない。
「躊躇のない一撃だな! だが、々あからさまでは無いかな?」
 後ろに下がることでディーネの攻撃は難なく躱される。だが、彼の攻めがただの一撃で終わった事など無い。
 左に握られた白刃を煌かせると、地面を削りながら逆袈裟に振り上げる。一撃一撃が致命の箇所を狙い済まし、尚且つ音速と見紛うばかりの速度。
 これもを引いて躱す魔族だが、それはディーネ相手に悪手と言える行為だった。
 好機と見たディーネは、両手の剣を次々と繰り出していく。魔族はそれに対しを退く事でなんとかやり過ごす。いや、正確には退かされているのだ。
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 ディーネ相手に一度でもを引いてしまえば、その相手はほぼ終わったに近くなる。彼の卓越した技量、魔力で強化された力、そして無盡蔵の力に押され、抵抗することも出來ず倒れていくのだ。
 そして魔族もその例にれない。余裕の笑みを浮かべつつ下がっていた彼だったが、その背中が背後の木に當たった瞬間、その顔を不愉快そうに歪める。
「チッ! なるほど、そういう狙いか……!!」
気付いた時にはもう遅い。逃げ場の無い敵に対し、ディーネは容赦をせず両手の剣を振るう。
右から振るわれた剣は大剣にガードされ、その刃は屆かない。
だが、左はガラ空きだ。その隙を見逃すはずも無く、左の白刃が閃く。
そして――
「……ふむ、々焦ったぞ。中々良い一撃だ」
(コイツが効かないか……!)
ディーネの放った一撃は確かに魔族に當たった。なくとも、普通の相手であればこの一撃で絶命していたであろう。そのくらいの威力は込めていた。
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だが、強固な皮に守られている魔族に対しては力不足。彼の一撃は魔族の片腕に留められていた。不測の事態に対応する為、常に余力を殘して戦う。その癖が今回は仇になったのだ。心で歯噛みしつつも、距離を取るディーネ。
「さて、もてなしの禮をせねば。次は私の番だな」
そう言って大きく剣を振る魔族。風圧がディーネの元まで屆き、彼の前髪をふわりと揺らす。
コイツは面倒な戦いになりそうだ――。そう考えたディーネは剣を改めて構え直すと、追加で魔力を流し込む。刀が燐に包まれ、武者震いのように震えた。
◆◇◆
「まずはこの一撃、けきってみせよ!!」
一瞬で施された強化から、一気に駆けだしてディーネの元へ飛び出す魔族。この程度の速度ならばディーネも焦ることは無い。攻撃を見切り、剣を當てることでいなそうとする。
刀と刀の接點から、激しく火花が散る。激しい衝撃に耐えながら、ディーネは懸命に攻撃をけ流した。
「ほう? いい技を持っている。ならば次だ!」
踏み込んだ軸足に力を込め、強引に逸らされた大剣を真橫に薙ぎ払う。急激な方向転換に、一撃を防いで隙の出來たディーネは対応出來ない。辛うじて剣を掲げ、威力を軽減させる事しか出來ない。
魔族のあまりに強引な力業は、ディーネに痛手を與えるに十分な威力を持っていた。強化された剣を砕くだけでは飽き足らず、彼のを激しく吹き飛ばす。
「チィ!!」
舌打ちをしつつけを取り、即座に勢を整える。だが、魔族の追撃は終わらない。
「らぁぁぁぁぁぁ!!!」
全力で振り下ろされる大剣。ディーネは橫っ飛びにローリングすることで回避する。
先ほどまでディーネのいた場所に全力の一撃が加えられる。地面に罅がり、周りの木々が激しく揺れた。
「どうした! 武を失って戦うも無いか!」
本來ならば両手で扱う大剣を、まるで片手剣のように軽々と振り回す魔族。先ほどとは逆の狀況で、ディーネは剣を抜く余裕も無く徐々に追い詰められていく。
(このままじゃジリ貧だ……ッ!)
先ほどと同じ展開になってしまえば自分に勝機は無い。ディーネは覚悟を決めると、再度魔力をに流す。
そして背中、肩甲骨の辺りから一気に魔力を噴。その推進力を利用し、一気に魔族との距離を詰める。
「シッ!!」
「なっ!?」
驚愕する魔族の表を眺めながら、ディーネは自らの右手に魔力を込め、剣の形に生する。魔を発するだけの時間はない。ならば、多燃費が悪くとも魔力そのもので攻撃してしまえば良い。それがディーネの考えだった。
強めに込められた魔力は、ディーネの予想通りに能を発揮してくれた。魔族の紫のに軽く傷を付け、そのを夜闇に散らしたのだ。驚愕した魔族は思わず攻撃の手を止め、その隙にディーネは後ろへ下がる。
「……クク、まさか私に傷を付けるとは。流石に驚いたぞ人間よ」
「よく口が回るな魔族よ。どうやらその、魔力への抵抗は低いと見える」
「どうかな? 私は魔から生まれた魔族だ。ただ貴様の技量が高かっただけかも知れんぞ?」
どうだかな、とディーネは呟くが、それ以上會話はわさない。代わりに亜空間から剣を抜き、再度魔力を通して強化する。
「……ほう、またその剣か。だが私に傷を付けるには、そいつではいささか役者不足ではないか?」
「余計な世話だ」
そう言ってディーネは駆け出す。魔族は大剣を振る事で接近を阻もうとするが、その攻撃は魔力の噴で強引に飛び上がる事で回避。そしていかに取り回しが軽かろうと、攻撃を振り切った瞬間には隙が出來るものだ。
空振った勢のまま、上空を見上げる魔族。その驚愕に染まった顔を見て、ディーネはニヤリと笑った。
「吹っ飛べ……!!」
手に持った剣を二本とも投げつけるディーネ。魔族は咄嗟に腕を構えることでそれに対抗しようとする。勿論、自らの堅固さを信頼しての行為だ。決してやけっぱちのガードではない。
しかし、戦闘中とはいえ魔族は考えるべきだったのだ。彼が「吹っ飛べ」と言った意味を。
「ぐぅっ!?」
思わぬ衝撃に苦悶の聲を上げる魔族。彼の皮に當たった瞬間、剣は周囲に魔力を撒き散らしながら発を起こしたのだ。
ディーネの読み通り、強固な表面は理への抵抗は高くとも魔力への抵抗は低かった。その為、魔力による攻撃ならばダメージを與えることが出來る。焼け焦げた片腕を見て、魔族はその表を喜悅に歪めた。
「ククク……やはり面白い!」
片腕はすでに再生を始めている。これならば、まだ戦える。その事実に、魔族の心は沸き立っていた。
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