《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第三十六話
「オーバーヒートモード停止、クールダウンを実行……第一拘束、再起。システムの完全停止を確認。ステータス、異常無しオールグリーン」
黃の魔力は青へと戻り、彩のも元の碧へと変化する。
彼に掛かっていたリミッターは、魔力爐の過剰駆による熱暴走、それに伴うディーネへの悪影響をカットするための存在だ。リミッターを解除することで莫大な魔力と運能力を手にすることが出來るが、それにより彼は命の危機にまで曬される。
制限を掛けなければ暴走を起こす魔力爐とはなんという欠陥品か、と考えるのも不思議なことではない。だが、この辺りにはディーネの出生が関連しており、話が長くなるため割させていただこう。
「……脈は無し、か」
  倒れ伏した魔族の首筋に手を當て、生死を確認するディーネ。魔族の構造が人間と違う可能はあるが、それでも確認しておく必要はあるだろう。
  に魔力球を叩き込まれた際の衝撃か、白目を剝いた彼はピクリともく様子は無い。これならば當分は問題無いだろうと、ディーネは魔族のを弄り始める。
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(まだ余りがあれば、このアミュレットと同型のがあるはずだが……)
  散々戦闘に巻き込まれた為今の今まで有耶無耶になっていたが、彼の本來の目的はアミュレットの出所を調べる事だ。容疑者である魔族を調べないわけにはいかない。
懐の辺りを弄っていると、背後から何者かの気配をじる。ディーネはそれをじ取りつつ、懐に忍ばせていた短刀を握りしめる。
地面を踏みしめる重厚な足音。徐々にディーネの元へ近づいてきたかと思うと、その足音の主はディーネの真後ろで立ち止まり――
「だーれだ」
「……フィル、なんだこの手は」
足音の主は冒険家アメリアとして活していた彼の部下、フィリスであった。なぜか唐突に巫山戯始めた自らの部下に、ディーネは呆れた聲で問いかける。
「すいません、最近ストレスが溜まっていたのでつい」
「普通に聲を掛けろ。思わず警戒しちまったじゃないか」
「局長は見知った私の気配すらじ取れないと……フィルは悲しいです」
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「お前そんなキャラだっけ?」
普段はディーネの悪ふざけを止める側の彼が、なぜだか巫山戯る側に回るという現象。何かあったのかと思わずフィリスのを案じるディーネだったが、よく考えれば彼もストレスの量では負けていない。質問はせずに、そっと話題を変えることに決めた。
「まあいい。ところで、そちらの方で何か収穫はあったか? 報告は聞いたが、一応の確認だ」
「そうですね。王國の重要施設にも部下を潛させましたが、特に収穫は無いようです。やはり、基本的には王宮主導で話がいているのではと」
「だろうな……チッ、なんとかして王宮の上層部に取りる必要があるか? いや、いっそのこと人員を派遣して……駄目だ。時間が足りない」
自問自答を繰り返すディーネだが、頭を悩ませるだけで一向に答えが出そうに無い。仮にも一國の機報を暴こうとしているのだ。簡単である筈が無い。
フィリスはディーネの前に倒れている魔族に目をやると、訝しげな表を浮かべる。
「……局長。こちらの・・はどうされたのですか?」
「うん? コイツは人間じゃ無くて魔族だぞ……というか待て、?」
フィリスの発言に疑問を覚えるディーネ。そもそも、魔族に別が存在するなど聞いたことも無い。
「ええ。どう見てもでは無いでしょうか? 髪や顔つき然り、型然り。ローブで分かりにくいとは思いますが……」
「いや……魔族に外見的特徴も何もあったじゃないだろう。人間と同じという保証も無い。それに、襲ってきた奴の別など考えるでも無いだろ」
そう呟きながら再び所持品をし始めるディーネ。最も、フィリスからしてみれば完全にのを弄る犯罪者にしか見えないが。これではどちらが襲ったのか分かったでは無い。
「――あった」
元から出てきたのは、禍々しい形をしたアミュレット。付ければ呪われてしまいそうなそれは、ディーネが持っているアミュレットと酷似したデザインをしている。どうやら、ディーネの予測は正しかったようだ。
だが、それでも疑問は殘る。魔族がなぜこんなことをしたのかという機だ。「なんとなく」と言われてしまえばそれまでだが、大抵のことには機が存在するだ。なにより、武人然としたこの魔族がそんな下らない理由で戦いを仕掛ける訳が無い。
「……『魔王配下《七》が一人』。確かアイツはそう言っていたな。ならば魔王の命令? ということは――」
――既に魔王は復活している。
そこまで思考が回ったところで、ディーネはフィリスへと聲を掛ける。
「おい、今すぐ國王に連絡する準備を整えろ」
「了解しました。急連絡用の魔方陣を展開……いえ、待って下さい」
唐突にフィリスがストップを掛ける。一瞬疑問に思うディーネだったが、背後の気配をじ取り、すぐさま距離を取る。
「……お前、生きていたのか」
「フフ、魔族という存在は兎にも角にも総じて生き汚なくてね。心臓が潰されても、魔力があれば再生できる。辺りの魔力や自の魔力を掻き集めて、今ようやく復活できた所だよ」
疲労を隠しつつもニヤリと笑う魔族。だが、その立ち姿からは余裕をじられない。戦闘時の疲労が未だに殘っている為だ。
「悪いが、ここで逃がすわけにはいかない。生きているなら、魔王の居場所とやらを吐いて貰わないとな」
「敗者として、勝者には大人しく従おう、と言いたい所だが……悪いがそれに応じるわけにも行かなくてね」
「そう易々と逃げられると思うか?」
「いいや、逃がして貰うよ」
言うが速いか、自らの魔力を圧して上空へと飛ばす魔族。魔力弾はそのまま炸裂し、夜の森を煌びやかに照らし出した。
「……何の真似だ?」
「何、貴様のお仲間を呼び出しただけさ。ちょっとした伝手を使って君たちの様子は見させて貰っていたが、あの『カオル』は貴様の事なのだろう? 姿形は隠せても、魔力は誤魔化せんさ」
自らの擬態がバレていたことに、思わず舌打ちをするディーネ。確かにこのまま魔族を捕らえようとすれば、その間に水樹らが來てしまう可能は高い。流石に顔を見られただけで『ディーネ=薫』と繋がることは無いが、それでもディーネ本人の顔を見られてしまうのは宜しくない。
任務の遂行と、魔王の報。ディーネにとっては、比べるまでもない比較だった。
「……いいだろう。今は見逃してやる」
確かに魔王は帝國にとっても脅威だ。だが、帝國にとっての脅威はそれだけでは無い。魔王を倒した後の、勇者達の処遇も問題だ。直近の問題を、リスクを犯して今すぐに解決するよりは、後顧の憂いごと斷ち切った方がいい。そう判斷しての処遇だった。
「わかりがいい奴も大好きだよ。貴様は本當に我の好みだ。無口を除いて、だが」
背の翼を広げ、さあ飛び立とうとする魔族。だが、彼は最後、思いついたかのように「ああそうだ」と口にする。
「魔族も生だ。しっかりと雌雄も存在する。どうやら貴様は我を男だと思っていたようだが……殘念ながら我はだ」
そう言い殘して飛び去っていく彼。いや、彼・・。
「……どうやら、私の方が正しかったみたいですね」
「……そうだな」
最後の最後で締まらないオチである。肩を落とし、力なく答えるディーネだった。
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