《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第三十八話

『……なるほど、確かに報告け取った。まさか魔族が出張ってくるとはな。見間違い、という可能は?』

「翼と角が生えて、尚且つ俺と対等に渡り合える青の人類がいるって言うなら見間違いかもな」

『わかった、真実ということだな』

  フィリスの取った宿屋にて、盜聴などの確認をした後に國王、ヴァルゼライドへの魔話を繋げる。どれほど遠くに離れていようと、魔力さえあれば聲を相手に屆ける事が出來る式は、この世界において非常に重寶される。

  それ故、この式に対する対抗手段も多くあるのだが……脇の甘いこの王國の事だ。抜け道を作ればそうそう見つかる事はない。

『これで魔王の復活はほぼ確定した……ということで間違いないだろう。全く、次から次へ問題が山積みだ』

  威厳のある風貌とは裏腹に、疲労した雰囲気を漂わせるヴァルゼライド。ディーネは彼の『問題が山積み』と言う言葉を耳聡く聞き付け、質問を飛ばす。

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「と言うと?」

『つい三日前の話だがな、デリュージョン共和國の頭だった、穏健派であるパラス首相がクーデターにより殺された』

「はぁ? あの無駄に臆病な爺さんがか?」

  ディーネの頭に思い起こされるのは、常に青褪めた顔をした痩せぎすの壯年男だ。兎にも角にも臆病で、常に護衛を侍らせている姿が印象に殘っている。聞いた話では、寢てる間もベッドの橫に待機させているとか。

『その臆病も、真正面からの武力には無力だったということだろう。それより問題なのは、臨時の議會によってトップに立ったのが急進派代表のチェッカーマンということだ』

「怪しい、どころじゃなく百パーセントそいつが黒幕じゃねぇか。議會は……期待するだけ無駄だろうな」

『ああ。報告では、パラスの他に穏健派の有力議員も何人かやられたという話だ。全く、七面倒な話だよ』

「確かに。急進派の奴ら、未だに帝國が持ってった土地の奪還を政策に加えてやがるからな」

デリュージョン共和國とは、帝國の隣に位置する、帝國や王國とは又違った共和制の國である。その質上、君主制の両國とは度々衝突することも珍しくない。

今でこそ小康狀態にあるが、お互いの先代君主の時代には帝國と共和國は戦爭狀態にあった。その際、帝國が共和國と隣接している土地をいくらか接収しており、それ故當時の政権を握っていた急進派は今でもその場所の奪還を考えているのだ。

そして再度急進派が政権を握ったと言うことは、當然政策も攻撃的なとなる。魔王関連で忙しいこのご時世に、なんと面倒な事か。

「魔王出現の一報でもれたら? 案外ビビって何もしてこないかもよ?」

『そもそも我らの言葉を信じないだろうがな……それに、奴らは伝説の存在を信じようとしていない。本的に話し合いで済ませるのはむべくもないだろう』

「だよねぇ……言ってみただけなんでお構いなく」

ため息をついて腕を組むディーネ。報局のトップとしてはすぐにでも共和國のを調べたいところだったが、王國からくことの出來ないこの狀況がもどかしい。

「何人か追加で人員を送り込んだ方がいいか?」

『そうしてくれ。本來なら暗殺も頼みたいところだが、流石に狀況が悪い。當分は手を出すなよ』

「あいよ。追加の報はこんなもんか?」

『ああ、そういえもう一つ伝え忘れていたよ』

ヴァルゼライドは思い出したかのように背後の空間を指さす。

『花瓶分、給料から天引きだ』

それだけ伝えた後、プツンと途切れた通信。唖然とした表のまま固まるディーネに、フィリスがフォローをれる。

「……局長」

「……なんだフィリス」

「給料アップの件よろしくお願いします」

「せめてめろや!!」

現実は非である。

◆◇◆

ディーネ達が報告をしている頃、水樹、骸、奏、春斗の四人は騎士団長メリーランの部屋で先日の報告をけていた。

「宇野君の処遇が決まった。彼は當分の間謹慎処分となり、他人との接じられる事になるだろう。事実上の監だな」

「やはり、ですか」

春斗が呟く。確かに、魔の力に溺れた者へ対する処分としては問題のあるでは無いだろう。それどころか寛大な処置とも取れる。これが勇者という立場で無ければ、裁判もひとっ飛びに死刑までなっていた可能すらある。

「まあ、これでも結構減刑された方なんだ。初めは呪を知られたことが問題視されて、それを知った君たちまで死刑にしようなどと言う輩もいたからね」

「それは……」

一高校生にとって、政治の裏の話を聞くのは気が重くなるだ。しかし、勇者という分ではそれらからも逃れることは出來ない。

「勇者という立場が君達への厳しい処分を防いだ……だが、それでは納得しない者も多くてね。ここにいる君達、次いでここにいないカオル君にも処分が下される事になった」

「私たちにまでですか!?」

予想もしていなかった自分たちへの罰。呪の存在を偶々知っただけなのにあまりに理不盡だ、というが心のに沸き上がる。

「ああ。といっても、表向きは海外留學みたいなだ。勇者という存在を大々的に裁く訳にもいかなくてね」

「そんな……納得いきません!!」

「……これは君達を守るための処置でもあるんだよ。我々王國の部事に付き合わせるのは大変心苦しいが、分かってくれ」

「それは……俺たちにの危険が迫っているということですか?」

春斗が質問すると、メリーランは渋い顔をして頷く。

「言いにくいが、勇者反対派はまだまだ存在していてね。我々の手で庇えるのも限界がある……すまない」

「……いえ、お気持ちはわかりました。俺は決定に従おうと思います」

「ちょっと春斗!?」

「ん、私も問題ない」

「ええ、私もですわ」

「骸、奏まで……!!」

次々と決定に従う事を表明する一同。一人だけ取り殘された水樹は、なおも不平を口にする。

「皆はそれでいいの!? 私たち何もしてないのに、それでも罪を著せられてるんだよ!?」

「俺だって悔しいに決まってる!!」

水樹の聲をかき消すほどの春斗の聲量。水樹さえも怒りを忘れて、怒りをわにした彼を見る。

「……大聲を出してすまない。だが、俺たちを守るための判斷だ。それを無礙にして、あまつさえ他の奴らも危険に曬すのは本意じゃ無い」

「……その、悪かったわよ。私も変に意地張っちゃって」

ひとまず収まった険悪な雰囲気に安堵するメリーラン。自のせいでこうなってしまったと思えば、心労も人一倍であろう。

「それでは、皆さんに行って貰う場所ですが――」

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