《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第四十四話

「カード……というか木の板ですよねこれ。凄い角の辺りがザラザラしてますけど」

手にしたカードをしげしげと観察し、自らの所を述べる水樹。言葉にはしないが、地球出勢は皆同じ事を思っているだろう。

確かに、彼等にとってカードというのはプラスチックで出來た板狀のが一般的だ。そんな価値観からしてみればこの世界のカードとの違いに驚くのも無理はない。

「まあそうとも言うな。何、いざという時には薪の一つくらいにはなるだろう。私も何度か使っているぞ? 乾燥してるから案外良く燃えるんだ」

「本來の用途とはだいぶかけ離れてますよねそれ……」

まあ、木製には木製なりの良さがあると言うことである。水樹にもいつか分かる日が來るだろう。きっと。

「でも、本當に書いてあることは最低限の報だけなんですね。もっと々と書かれるかと思ってましたけど」

のカードを指し示しながら、意外そうな聲を上げる水樹。確かに彼の言うとおり、カードにたいした報は書かれていない。彼の名前と発行したギルドの場所、加えてギルドの紋章らしきが彫られており、それ以外は天井にかして見ても特に何も書かれていない。

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確かに個人を証明するともなれば、もうしなにがしかの報が書かれていると思ってしまっても仕方ないだろう。だが、ICカードといった便利ななど存在しない異世界において、必ずしもそれは有用とは言えない。

「まあ、ギルドが発行したという証さえあれば元の証明にはなるからな。逆に言えば、それ以外の価値は無いんだ。下手に個人の報を書いたりして、そいつを盜まれたりしたら事だろう?」

「なるほど、それもそうですね」

殘念ながらいくら魔法が発達していると言えど、一般の人間にまで強固なセキュリティを行き渡らせるほどのでは無い。その點においては、地球よりも一歩劣っているのは否めないだろう。

「さて、カードも発行し終えた所で早速お仕事の話だ。我々にはそれほど路銀が無い。いや、あるにはあるのだが、これで処分が終わるまでの間を持たすのは無理な分量だろう。そこで君達にはしでも路銀を稼いで戴こうと思ってね」

「……お仕事、キライ」

「骸、流石に四の五の言ってられる狀況じゃ無いわよ……」

早速飛び出した骸のやる気なし発言に肩を落とす水樹。死んでいた骸の目が更に腐って最早ゾンビの如く黒ずんでいる。それだけ働きたくないという事だろう。

余談であるが、骸はアルバイト経験ゼロである。まあ、理由は言わずもがなだろうが。

「ははは、申し訳ないがムクロ殿にもきっちりと働いて貰う事になるな。ご心配なく、當面は全員で行しながら依頼をこなしていこう。効率は落ちるが、安全面ではこれが一番だ」

と、そこまで何かを思案していた春斗が口を出す。

「……アメリアさん。それじゃあ俺だけ別行にしてくれませんか?」

「……ほう?」

アメリアの厳しい視線と、他の一同からの訝しみの視線が彼に浴びせられる。合計十の視線が一瞬彼をたじろがせるも、それだけでは彼は諦めない。

「一応理由を聞かせて貰おうか」

「……先日の戦いで、俺たちは嫌と言うほど辛酸を舐めさせられました。魔の力を借りた宇野に手も足も出ず、結局は貴の力に頼る形で事を終えてしまった……その事がどうしようも無く心に殘ってるんです」

彼がかに抱えていた苦悩を、皆の前で吐する。

「ずっと考えていたんですよ。宇野が言ってた『チカラ』について……アイツが言ってたことが正しいとは今も思えない。力だけ追い求めた結末があの姿なんて、絶対に正しい道だとは考えない。けど……正義をすのにも、やっぱり力は必要なんだ」

「でも、あれは反則みたいなじゃ無いか。春斗が悩むこと無いだろ」

「だけど、敵はそんなこと待ってくれない。そうだろう?」

ディーネが一応の説得を試みるも、春斗に止まる様子は無い。これ自の説得で意思を変えるのは無理だと察し、ディーネはフィリスにアイコンタクトで助けを求める。

「だから、しでも強くなるために俺は一人できたい。それでは理由として不十分でしょうか?」

「……思いはけ取った。だが、それでも認めるわけには行かない」

フィリスはそんな彼の願いをすげなく斷った。ややショックをけたような顔をしながらも、春斗は理由を聞く。

「……なぜですか?」

「理由は々とあるが、老婆心として一つだけ言わせて貰おう」

フィリスは諭すような口調で彼に答える。その容だけは、噓をつき続けている彼の中に唯一存在する本心で。

「――焦って強さを求めても、手にしたは張りぼてでしか無いぞ」

「っ!!」

先人からの言葉に、図星をつかれたような表で固まる春斗。

「……なるほど、それをアメリアさんに言われたら何も言い返せませんね」

「何、強さを求める姿勢を崩さなければ悪くない所までいけるだろう。結局は日々の鍛錬が重要というありきたりな話さ」

「いえ、とても參考になりました。ありがとうございます」

どことなく吹っ切れたような表謝の言葉を述べる春斗。ここで終われば綺麗な話なのだが、殘念なことに彼を引き留めた事には裏がある。

すべてはディーネの懸念だが、春斗が一人で行することで例のシスターと鉢合わせすることを恐れたのだ。彼はあまりにもこちらの報を知りすぎている。裏に彼のことを『処分』出來れば楽なのだが、彼はアルテリア法國の重鎮。そんな存在を殺してしまえば國家間での戦爭は免れない。

國力で言えば帝國に利はあるのだが、ここは宗教國家の総本山。無條件で何かを信頼する人間というのは、どの世界でも恐ろしいである。その為、迂闊に手を出すことが出來ないのだ。

とはいえ、フィリスの言葉によって春斗が立ち直ったのも事実。そこは言わぬが花である。

「春斗、私たちも居るんだから大丈夫だよ! 一人じゃ勝てなくても、複數居れば問題ないって!」

「……ん、レイドボスは複數人が基本」

「ふふ、私も微力ながらお力添えさせて戴きますわ」

「そうだね、僕も力を貸そう」

「皆……」

そんな景が一通り繰り広げられた後、ここが衆人環視のギルドの中だと思い出して赤面する一同。フィリスはそんな彼らの様子に苦笑しつつ、一枚の紙を彼らの前に差し出す。

「さて、真面目な話はこれで終わりだ。早速だが適當な依頼を見繕っておいたぞ……なんだカオル、そのしょっぱい顔は」

「いや……」

スパイをしてても空気はあまり読めないんだな、という言葉は辛うじて飲み込むディーネであった。

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