《勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~》第五十二話
  一方、こちらは水樹達の側。急に走り出したドローレンを止めるべく、彼の姿を見失わないようになんとか後を付いていこうと必死に走る。
彼たちはまだ若く、學生と言うこともあり力は富な方だ。だが、それにもかかわらず一向にドローレンまで追いつく気配は見えない。それどころか、目の前に映る背中は徐々に小さくなっているような気さえしてくる。きにくいシスター服を著ているというのに、一どこからその速さが出てくるのだろうか。
「はっ、ちょ、ドローレンさん速すぎない!?」
息を切らしつつもなんとか文句を呟く水樹。骸らもそれに同意の心は持つものの、生憎と息も切れかけのこの狀況で何か言い返すような余裕は無い。荒い息づかいと、石畳の上を駆ける靴音だけが水樹への返答となっていた。
 遙か先で煌めく金髪が左へと靡き、そのまま建のに隠れる。これで一何回目の曲がり角だろうか。いい加減この不な追いかけっこに心の中で『もう終われ!』とびつつ、水樹たちはその後を追う。
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次はどこへ行ったのか。出來れば分かりやすいところにしてしい。そんな願いを込めながら水樹らは角を曲がる。
「……あれ?」
  それまでの疲れも忘れて水樹が素っ頓狂な聲を上げる。それもその筈、曲がり角の先は家に囲まれた行き止まり。しかしここにったはずのドローレンは影も形も見當たらない。
「はぁ……はぁ……一、何処に……」
「逃げ足の……速い、お方ですわね……ふぅ」
  息も絶え絶えになりながら春斗と奏が呟く中、意外と元気な骸が路地に転がっていたバケツを拾い上げる。
「骸?  バケツなんて気にしてどうしたの?」
「……なるほど」
  水樹の疑問にも構わず、暫くしげしげとそれを見つめた彼は、納得したような聲を上げるとそのバケツを右手側にあったドアの前に置く。
「……跡の形が一緒。地面の濡れ方から考えて、この跡自は最近ついたもの。と言うことは、このバケツは一度使われてから何らかの理由でここまで飛ばされている」
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「る程!  そう考えると、このドアの先にある可能が高いってことね!」
「……あくまでも可能。魔法か何かで瞬間移されてたらこの限りじゃないけど……あ」
  補足として注意を付け足していた骸だが、その言葉を聞く前に水樹は扉を開けて中へと進。しょうがないと肩を竦め、骸もその後に続く。
「……元気ですわね二人とも」
「全くだ」
  奏、春斗両名の文句は、殘念ながら彼らに屆いていなかった。未だれる息を整えつつも、ドアの中へとって行く。
  骸の懸念は外れ、部屋の中にはドローレンが一人佇んでいた。何か考え事でもしているのか、水樹達がってきたにも関わらず床の一點をジッと見つめたままじろぎひとつしない。
「ドローレンさん?  どうかしたんですか?」
「……あら皆様、いらしておられたのですね。すいません、々考え事に耽っていまして」
  水樹の掛け聲で漸く気付いたようで、ドローレンは笑みを浮かべて彼らの方を振り向く。だが、その笑顔が今急造で作られただというのは素人目にも十分に分かる。
「ここに司祭さんの手掛かりが?」
「恐らくは。魔力反応を見る限り、ここに居たのは間違いない様です。ただ……」
  そこで言葉を切り、再度床に目を向けるドローレン。水樹達も釣られてその場所を覗く。
  何の変哲も無い板張りの床が広がっているが、よく見ると床と床の間に何かが挾まっている。チラリと頭を覗かせているだけであり、詳細までは伺えないが、恐らく黒い何かだという事だけは見て取れた。
  ドローレンがゆっくりと近付き、その黒いを引き抜く。
「これは……何かの紋章?  隨分ズタボロに引き裂かれている様だけど」
  黒の布地に、赤糸でわれた何かの紋様。春斗の言う通り、ボロボロになってしまっている為元の形を推測するのは容易なことでは無い。
  とは言え、とドローレンは考える。黒地に赤の糸などという禍々しい組み合わせを徽章エンブレムに使う様な所はそう多くない。いくつかの候補に、この國に來ていたフィリスの正を掛け合わせて鑑みれば、自ずと正は絞られてくる。
「あの……ドローレンさん?」
「……あら、申し訳ありません。どうにも考え込んでしまう癖がついてしまっているようで」
  だが、確たる証拠と言えるほどに強い証ではない。下手に話すのも余計な混を招くだけだと考え、ドローレンは自の推測を口にはしなかった。
  シスター服の元にそれを仕舞いつつ、ボロ切れが落ちていた辺りの床を探る。すると予想通りと言うべきか、床の木目にも逆らった明らかに不自然な切れ目が確認出來た。
「これ、ですわね」
  板と板の隙間に無理矢理指をれ、不自然に繋がった床板を強引に引っぺがすドローレン。思った程の抵抗も無く外れたその下からは、本來あるはずのないが鎮座していた。
「これって……取っ手?」
「……ん、錆びてるけどそうみたい」
  金屬で出來た、丸型の取っ手。よくドアに取り付けられているのは見るが、生憎と何も無い床下に設置するようなではない。では、一どうしてこんな所にあるのか。
  考えられる可能はただ一つ。全員が同じ考えに至った所で、ドローレンが代表してその可能を口にする。
「隠し扉、という訳ですか」
  彼が取っ手を摑むと、錆びた金屬特有の耳障りな金屬音が辺りに響く。だが錆びついてかないというほどでは無い。つい最近まで使われていた、という事だろう。
  思い切ってドローレンが引っ張り上げると、周りの床板ごと地面が持ち上がる。結構な重さであるが、彼にとっては大した障害にはならない。
  そして隠し扉の先に現れたのは、ぽっかりと空いた黒い。明かりが燈っていない為か、先は全くと言っていい程見えない。
「『聖句詠唱:不滅燈火イモータル・ランプ』」
  ドローレンの詠唱により、彼の手に消えることのない明かりが燈る。先を照らすと、どうやら空間は斜めになりながら下へと続いているようであり、明かりでも照らしきれない暗闇が奧へと続く階段の先に見えた。
「隨分と深いな……」
「この先に何かがあるのは間違いないようね」
「……イベントの予」
「骸ちゃんは呑気ですね……」
  水樹達の反応を見屆けると、ドローレンは明かりを手に隠された空間へと足を踏み込む。
「皆様はここでお待ち下さい。この先は全く未知の空間……知り合ったばかりの方々を私の都合で危険に曬す訳にもいきません」
  やんわりと同行を斷るドローレンに、しかし水樹達は従わない。いくら危険と言われようと、元より彼ら彼らは曲がりなりにも勇者だ。誰か一人を危険に曬して、平気な顔をしていられる程が曲がってはいない。
  何より先日の宇野の一件から、長したいという水樹らの思いは何よりも強まっている。自分勝手と言われようと、ここで我慢して待っているという選択肢は彼らには存在しなかった。
「一人でドローレンさんを行かせられませんよ!  私達も付いていきます」
「……まあ、一応同かな」
「ふふ、骸ちゃんは素直じゃないんですから」
「足手纏いにはなりませんーー俺達も連れて行ってはくれませんか?」
  思い思いの臺詞をドローレンへとぶつける。それでも斷ろうとするドローレンだったが、水樹らの『絶対に引かない』という意志の篭った目を見た事で諦めたようだ。
「……分かりました。ですが、絶対に私の前へ出ないように。後単獨行も止です。これを守れるならば同行を許可します」
  諦めが悪い人間は面倒臭い。図らずもこの言葉がドローレンへと帰って來ることになった。この場にフィリスが居れば、大笑しながらドローレンの事を揶揄ったであろう。
【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔術師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】
※書籍化決定しました!! 詳細は活動報告をご覧ください! ※1巻発売中です。2巻 9/25(土)に発売です。 ※第三章開始しました。 魔法は詠唱するか、スクロールと呼ばれる羊皮紙の巻物を使って発動するしかない。 ギルドにはスクロールを生産する寫本係がある。スティーヴンも寫本係の一人だ。 マップしか生産させてもらえない彼はいつかスクロール係になることを夢見て毎夜遅く、スクロールを盜み見てユニークスキル〈記録と読み取り〉を使い記憶していった。 5年マップを作らされた。 あるとき突然、貴族出身の新しいマップ係が現れ、スティーヴンは無能としてギルド『グーニー』を解雇される。 しかし、『グーニー』の人間は知らなかった。 スティーヴンのマップが異常なほど正確なことを。 それがどれだけ『グーニー』に影響を與えていたかということを。 さらに長年ユニークスキルで記憶してきたスクロールが目覚め、主人公と周囲の人々を救っていく。
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