《彼氏が悪の組織の戦闘員Eなんですが…》
栗生院くりゅういんくんは腕を出して傷を執事に治療してもらっていた。
ちなみに私の家はバイト先から徒歩で15分圏なのにヘリで送られているという異常事態発生中。
「雪見さん何歳ですか?」
「えっ?17ですけど」
「あっ…、僕より一つ上うえだね!」
「えっ…そ、そうですね…」
おばさんだわ…。すみません、こんなおばさんが…。
「でも、お禮は言ってよ…」
「いえ、こんな豪華なヘリで送ってもらっているのが、もう既にお禮ですから」
「ええ?こんなのが?お禮のうちにらないし、僕の気がすまないよ?
ねぇ鳴島、どうしたらいい?」
と困って老執事に聞く。
「坊っちゃまぼっちゃま…一般人の方かたにいきなり豪華なもてなしをしても引かれます。
相手のレベルに合わせるのです、一般人の行く映畫とか食事とか」
「あっ、そうか!」
いや、待って!水一本!水一本でそこまでしてもらうわけにはいかぬよ!!
「いいえ、ほんとに、あの、気にしないでください!いいんです!ほんとに何なにもいりませんから!」
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と私のボロアパートの真上付近に來た。ヘリは上空で停止した。そして
「雪見さん、では僕にしっかり捕まって?」
「え?」
私が戸っていると、またホールドされ、彼は開いたヘリの扉から
シュルリとロープやワイヤーで固定し、あっという間に地面に著地する。
「………」
「雪見さん?大丈夫?怖かった?」
怖えこえええええよ!!!
「いっ…あの…えっと、ありがとうございました!で、では私はこれで!!」
と私はぺこりと頭を下げてダッシュでアパートを駆け上がってドアを閉めてしまう。
バラバラとヘリが遠ざかる音が聞こえる。
落ち著け。もう會うこともない。
貴重な験ができた。
私は自分の部屋でやっと一息ついた。
*
「直ぐに彼の調査を」
僕は鳴島に指示を出した。
僕の正を知られ、僕に水をくれた恩人に、お禮もなしでは気がすまない。
「坊っちゃまぼっちゃま…あまり過度なことをされては…」
「うーん、でもちょっと興味あるよ?僕の周りまわりにいないタイプだし」
「それは全く、その通りですが、坊っちゃまぼっちゃまには婚約者も」
「ああ、それ要らない、破棄はきしといて」
「はあ、畏まりかしこまりました」
とあっさり婚約者を捨てた。
元々もともと顔合わせは一度だけだし、別に好きなタイプでもないし?
それより、なんか楽しくなってきたな。ヘリに乗っただけで、あんなに驚いた顔になるんだ、一般人て!
もっと見たい!彼の驚いた顔!
「新しい玩おもちゃを発見した顔ですな」
「失禮だろう鳴島!丁重に扱え!」
「はぁ…」
鳴島はため息を吐いた。
*
今日はバイトが休みやすみだ。スーパーに直行して見切り品みきりひんを買って帰ろう…。
米こめが切れそうだ。素麺そうめん買おうか。
トボトボと校門に向かうと、ザワザワと人集りひとだかりが出來てる。
何だろうと覗いたら、昨日のドル顔の栗生院くんが高校生の制服を著て
手に薔薇ばらの花束を持ち、私を見つけると、満面の笑みで走り寄った。
人集りひとだかりが一斉にモーゼの十戒のように割れてしまう。
「雪見さん!待ってました!ごめんね急に來て!今日僕もバイト休みやすみなんだ!デートしよう!」
と薔薇ばらを差し出して笑う。それに周りまわりが
「きゃーっ!素敵!」
「何だあの!」
「羨ましい!」
口々に悲鳴や愚癡に嫉妬が飛びった。とんでもないことになった。
そりゃ、こんなダサメガネがイケメン男子に迫られていりゃ、子校の話題になるのは確実。
明日からどう生きていけばいいんだ?
すると、スッと自然に手を繋がれて、私はどきりとするが、おかまいなしで
栗生院くんは私を連れて校門を出た。
大通りに出ると高級車が待ち構えており、それに乗せられた。
ひいっ!私のHPが!
「お禮はいいと言いました」
「ごめんね?やっぱり、注目されちゃったよね?でも、君を悪く言う子の家は潰すから、安心してね?」
「え?」
なんか恐ろしい言葉が聞こえたが、回路がショート中なので、もうよく聞こえない。
「君のことを、生まれた病院からみっちり調べさせてもらったんだ、苦労したんだね。
苛めっ子いじめっこの家を調べて、今、早急そうきゅうに対処させてるところだから安心してね?」
ええええーっ?調べた?私のことを?それにあの王様じょうおうさまを対処するってどういうこと?
怖いぞ!このクソ金持ち!
悪の組織でバイトしてるし、やっぱりおかしい!!
そもそも、この世界には、悪の組織と正義の組織というものが一応ある。
なんか、いつも闘っていて、正義の組織が勝つと街の人々は喜ぶが、悪の組織が勝つと裏社會の人間が喜ぶという獨特の世界なのだ。
「あの…あなたの正は言わないから、もう私を解放してください…」
「うーん…嫌だな?後、僕下っ端でバイトしてるけどね、
完全に暇つぶしでやってるんだよ。同僚にもなんだ僕のこと…」
「暇つぶし…だって、あのヒーローとかにボコられるのが暇つぶし?」
「うん、そう!やられ役やってみたくてさー!だってE E E…とか言うの面白くて!」
変な人ひとだ!変な人ひとがいる!
「でも毎回毆られるの痛いでしょ?この前も傷だらけで」
「別にマゾってわけでもないけどね、痛いもんは痛いけどこの仕事にやり甲斐があってね。
僕ってほら、クソ金持ちで人から毆られたりしたことないんだよ!
毆ったらそいつ社會的に抹殺でしょ?
だからちょっと自分を鍛える意味で正隠しながら下っ端バイトしてんの」
なんだそりゃ?どういう価値観なのかさっぱり解らない。
いや、こんな変な人ひとだから私に目を付けたのが正解なのだとしたら?
「あの…私を解放する気は…」
「うん、ないよ?」
とにっこり微笑まれる。
完全にこれ私玩おもちゃじゃん!おい、人のとこにいけよ!
口答えしても無駄な気がした。
「そうだ、雪見さん!僕の彼になってね?
お金で買えないものって言ったらしかないし」
「は…はいいいいい???」
栗生院くんの言葉にいよいよわけがわからなくなった。
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