《星の家族:シャルダンによるΩ點―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困する外科醫の愉快な日々ー》シベリア大走 Ⅳ
亜紀ちゃんが空けた巨大な谷から、全長80メートルの巨人が現われた。
その頭上100メートルに、人が浮いているのが見えた。
「1億ほどでは、この程度か」
浮いている人間が言った。
驚く程に聲が響いている。
老人の聲のようだった。
「全ての妖魔で呼び出すはずが、お前たちもなかなかやる。あの巨大な機獣に呑み込まれると、もう手が出せないようだ」
「お前は誰だ!」
俺の聲が聞こえているかも分からない。
「まあ良い。これでも《ティターン》だ。お前たちに神が殺せるか!」
老人の笑い聲が響き、そのまま消えて行った。
「月狼」が巨人に挑んだ。
巨人の左に「地獄道」の顎で食らいつく。
飛沫を上げて、の半分が消し飛んだ。
「やれるか!」
しかし、數秒後にが再生された。
「!」
俺は亜紀ちゃんに「最後の涙」を最大出力で巨人に放つように言った。
巨大なエネルギーが巨人のに炸裂する。
しかし、表面をし荒らした程度で、すぐにそれも再生した。
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「タカさん!」
「お前たちは殘りの妖魔を斃せ! あいつは俺がやる!」
「気を付けて下さい!」
亜紀ちゃんが飛びながら俺を見ていた。
あの男は「神」だと言った。
ギリシャ神話では、《ティターン》は冥界に落された神だ。
全を「地獄道」にれれば何とかなるかもしれないが、一部だけでは再生してしまうだろう。
俺は「虎王」を両手に握った。
「月狼」には他の妖魔の駆逐を命じた。
恐らく、今回の侵攻は雑多な妖魔の死骸をにして、強力な高位の存在を呼び出すためのものだったのだろう。
そのようなことが出來るとは俺たちにも分からなかった。
「業」は妖魔の「王」は無理にしても、タマやタヌ吉のような高位妖魔を呼びだせると考えた方がいい。
今回は「神」と言っていたが、完全なものではない。
全ての妖魔の死をにすれば、より高位の者を呼び出せたのかもしれないが。
しかし、この《ティターン》を斃せなければ、俺たちに勝利はない。
俺は高速機で《ティターン》を斬り刻んで行った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「タカさんが戦ってる!」
私はルーとハー、柳さんとで谷を迂回して來る妖魔を駆逐していった。
まだ數千萬はいるので、厳しいことは確かだ。
だけどほとんど中級以下なので、戦いに不安は無い。
だから時々タカさんをみていた。
「亜紀ちゃん! もっと集中して!」
ルーに怒られた。
確かに余裕があるわけではなかった。
ルーとハーは私と同じく安定しているが、柳さんがちょっと苦しそうだ。
無理もない。
全力で1時間近く戦った経験がないからだ。
戦闘そのものがほとんど経験したことがない。
私はルーに言って、なるべく柳さんの傍で戦った。
後方へ逃げる妖魔もいるが、もう羽さんと紅さんに任せるしかない。
それほどの數は抜けていないだろうから、多分大丈夫だと思いたい。
定期的に、輸送機の発著の知らせがって來る。
あっちも頑張っている。
ほぼ30分以下で離陸し、ほぼ同時に次の輸送機が走路にっている。
デュール・ゲリエもアラスカから來た機と代しながら、全力で戦っている。
驚異的なのは武神「月狼」で、7割は「月狼」が仕留めている。
「亜紀ちゃん!」
ルーから通信が來た。
「タカさんは今指揮が取れない! 私の指示に従って!」
「分かった! どうすればいい?」
「また「最後の涙」で渓谷を作って! 幾つも!」
「やっていいの?」
「お願い! 私が責任を取る!」
ルーが、侵攻の時間を稼ぐために、また妖魔の前に谷を作れと言っている。
確かに理解出來る。
私は指示された場所に、次々に「最後の涙」を撃ち込んだ。
妖魔の進軍が止まる。
「月狼」がその集団に飛び込んで、呑み込んで行った。
またタカさんを見ると、《ティターン》が飛沫を上げて削られていた。
(タカさん、頑張って!)
私も妖魔の集団に「オロチストライク」を撃ち込んで行った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「ワハハハハハ! 大分再生のスピードが落ちたんじゃねぇのかぁ!」
最初は瞬時に再生していた《ティターン》のは、徐々に間に合わなくなって來た。
攻撃はほとんど手足を振るうことしかしていない。
再生力で攻撃を無効化するが、攻撃力はそれほど脅威ではない。
俺にしてみれば、悠々と回避出來る。
今だ再生は厄介だが、それも徐々に鈍化している。
《ティターン》が両手を組んで上に上げた。
俺は構わずに斬り刻んで行く。
頭頂から両斷しても再生するのは驚いたが、恐れることはない。
その時、全を電が襲った。
(しまった!)
まともに攻撃を喰らい、俺はコンマ數秒意識を喪った。
全が痺れている。
電撃で神経が麻痺したことを瞬時に悟った。
地上に落下しながら、渾の意識を集め、「虎王」を《ティターン》に突き立てスピードを減衰させた。
地面への衝撃はおでほぼ逃がせた。
転がっての回復を図る。
《ティターン》も全塗れで、俺への攻撃が出來ないでいる。
俺は呼吸を整え、「絶花」で全を甦らせた。
油斷した。
攻撃の手を緩めたことで、「虎王」の「極星結界」が弱まった。
「ふぅー! ヤバかったな! じゃあ第二ラウンドだぁ!」
俺は再び飛び、石神家奧義「連山」を放った。
両足を次々に斬り刻み、《ティターン》が地響きを立てて倒れる。
足元から「連山」を撃ち込んで行く。
「どうしたぁ! 再生してねぇぞ!」
《ティターン》は左腕で上半を起こし、俺は腰まで斬り刻んでいた。
《ティターン》が怨嗟に満ちた目で俺を見ている。
「『月蝶舞』!」
両手の「虎王」を差し振り下ろす。
十文字の波が《ティターン》の巨を突き抜けて行く。
切斷面が崩れながら溶解していった。
《ティターン》が甲高い悲鳴を挙げた。
巨が崩壊していく。
突如、《ティターン》の全が燃え上がった。
俺は空中へ飛び、離れてその最後を見た。
最後まで悲痛なびを挙げ、それが途絶えて一層激しく燃えた。
哀れでいて、しい景だった。
子どもたちも見ていた。
妖魔たちも見ていた。
神が死んだのだ。
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