《星の家族:シャルダンによるΩ點―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困する外科醫の愉快な日々ー》「神殺し」
俺はすぐに「虎病院」に運ばれた。
検査をけて行く。
麻痺はまだ左腕と左足だけだが、痛覚などはあった。
運機能だけが麻痺している。
検査の合間も、ずっとハーが「手かざし」をしている。
しかし何の効果も無かった。
いつもならじる「手かざし」の癒しを、しもじることは無かった。
2時間後。
全ての検査を終えたが、何の異常も発見出來なかった。
神経はおろか、俺ので炎癥の兆候すら見つからない。
まだ結果の出ていない検査項目もあったが、俺はこれが霊的な攻撃と考えていた。
「ハー!」
「はい!」
「道間家へ行く。麗星に連絡してくれ」
「はい! 皇紀ちゃんに頼みます!」
「ああ」
俺はその間に、俺の移の準備を命じていた。
右手の麻痺もじて來た。
病院の通信室から戻ったハーに言った。
「車いすも用意してくれ」
「はい!」
「ハー、ルーと同行してくれ。ああ、亜紀ちゃんに収容所施設の破壊を確認してくれな」
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「分かりました!」
妖魔を片付けてから、亜紀ちゃんが最後に収容所を破壊することになっている。
もう何も殘っていない筈だが、念のためだ。
「「月狼」は帰れと命じるだけでいい」
「はい! タカさん、一度家に寄る?」
「いや、このまま直行する。時間を掛けない方がいいかもしれない」
「栞さんには?」
「まだ何も言うな。皇紀の返事をけ取り次第に出るぞ」
「分かった!」
ハーは再び通信室へ走って行った。
もう皇紀が段取りを付けているだろう。
ハーが戻り、同時にルーが到著した。
俺を車いすに乗せ、待機している「タイガー・ファング」に搭乗する。
青嵐と紫嵐が心配そうに俺を見て、すぐに出発した。
「道間家では庭に著陸場の指定をしてもらっています」
「そうか」
「タカさん、他に痺れは?」
「右手がしな。まだかせるが」
「拡がってるね」
「そうだ」
臓、特に循環系にまで麻痺が拡がれば俺は終わりだ。
それはまだ口にはしない。
「妖魔は?」
「もう全部駆逐してると思うよ。ルーはそれを見どけて來たから。念のために亜紀ちゃんと柳ちゃんが探ってる」
「そうか」
「「ウラール」でも確認したから大丈夫だと思う。今頃は収容所を破壊して撤収してるよ」
すぐに京都の道間家の上空へ著いた。
地上で麗星たちが手を振っているのが、機のスクリーンに映っている。
赤い布で著陸場の目印を作っていた。
青嵐たちがそこへ靜かに機を降ろした。
後部のハッチが開き、麗星と五平所たちが待っているのが見えた。
車いすに乗った俺を見て驚いている。
「悪いな、シャワーもまだ浴びてねぇんだ」
「あなたさま!」
麗星が俺に駆け寄って抱き著いた。
「頼む、急いでくれ。俺が死ぬとなれば、いろいろ指示が必要だ」
「なにをおっしゃいますか!」
「可能の話だ。これは予想外に酷い」
「必ず! 必ずわたくしがお助けします!」
「頼むぞ」
麗星は泣きながら俺の車いすを押した。
あまりにも泣くので前が見えなくなり、五平所が替わった。
麗星はそれでも俺の肩から手を離さなかった。
俺の右腕も右足も、完全にかなくなっていた。
薄暗い部屋へ通され、俺は布団の上に寢かされた。
麗星たちが「妖探盤」に似たものや、その他のよく分からないもので俺のを探っていく。
何かの枝のようなもので、俺の頭頂から足先までをでる。
何カ所か鍼も打たれた。
俺はその間に、狀況を説明させられた。
「《ティターン》と呼ばれていた。長80メートルの巨人だった」
「西洋のギリシャ神話の神ですね」
「そうだな。ウラノスによって冥界に落された」
麗星たちは様々な検査をした後で俺に告げた。
「あなたさま。あなたさまは「神殺し」をなさったのです」
「そうか」
麗星の表は険しい。
しかし、しっかりと俺を見詰めて話した。
「人ので神を殺すことは大罪でございます」
「他無い奴だったけどな」
「強さではございません。あなたさまは、それはもう強大なお方ですので、「神殺し」も可能だったのでしょう」
「そうか」
「でも、「神殺し」は大罪のゆえ、神罰が下ったものと思われます」
それが「業」の狙いであったことが、今ならば分かる。
「神の呪いは簡単には解けません」
「何とかなるか?」
「必ず! 必ずわたくしが!」
麗星が険しい顔のままんだ。
その表で、俺は分かった。
「麗星、一つだけ約束してくれ」
「はい!」
「お前の命を使うことは許さん」
「!」
「もしもお前の命で贖ったならば、俺は自決する」
「なんですと!」
「地獄でもどこでも、お前を追ってぶちのめす。だからお前の命は使うな」
「……」
麗星が大粒の涙を零した。
「では! それではどうしろと! もはや神の呪いは他の者がけるしかないのでございます!」
「ならば俺がければいい。元々俺がそうなったんだ」
「嫌でございます!」
「俺が許さん」
麗星が俺に覆いかぶさって泣いた。
雙子も泣いていた。
「麗星、俺にはどれくらい時間が殘っている?」
「……」
「答えろ! お前は俺の妻だろう!」
「!」
麗星は、今の診立てでは數日の命だと言った。
「恐らくは二日で口も利けなくなるでしょう。その翌日には……」
「よし、分かった」
俺はルーとハーに、まだ亜紀ちゃんたちには伝えないように命じた。
俺は一人になりたいと言い、全員を部屋から出した。
俺が死ねば、俺に従っている妖魔たちは離れるだろう。
ジェヴォーダンや「バイオノイド」には対抗手段は何とかなると思う。
しかし、対妖魔の點では非常に厳しい。
そのために、俺は蓮花と「武神」を建造した。
但し、「武神」が出れば、世界は大規模な破壊に見舞われる。
妖魔を領域ごと攻撃する兵だからだ。
今回は限定的に武神「月狼」を運用した。
あれは萬一の高位妖魔との戦闘に特化した「武神」だから出來たことだ。
もちろん「月狼」にも広域殲滅の兵裝がある。
「業」に知られないように使わなかっただけだ。
蓮花には、俺に萬一のことがあれば「武神」を出撃させるように命じてある。
しかし、そうなれば恐らく世界が「虎」の軍の敵になる。
それに、「業」はまだ別な戦力を持っていると俺の予が告げていた。
俺たちはまだ、その対抗手段を持っていない。
奈津江のことを思った。
響子を、六花を、栞を、麗星を、鷹を、蓮花を、士王を、天狼を、吹雪を、そして亜紀ちゃん、皇紀、ルー、ハー、聖や早乙、院長夫妻、斬や千両、俺は多くの人間の顔を思い浮かべた。
俺の死によって、俺が巻き込んだ人間たちがどうなるのか。
俺は思い浮かべ、ただ謝るしかなかった。
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