《幻影虛空の囚人》第四幕二話 「大地揺れ、揺るがぬ魂」
「本棲もとすさん、回避を!」
「えええええっ、もう間に合わないって!」
本棲のすぐ上にロボットの足が迫っていた。
このままでは踏み潰されてしまう───
『【提案】兵裝20b、及び3b7の同時展開により當該攻撃の威力の90%をカットすることが可能───』
「なんでもいいから早くやって!」
本棲がぶと、瞬時に本棲の頭上に三層に渡る巨大なシールドが展開され、ロボットの足をけ止めた。
「今のうちに逃げなきゃ……!」
「本棲さん、こっちへ!」
「わ、わかった!」
何がなんだかわからないまま西川さいかわの聲がした方へと跳んだ本棲だったが、彼はふと気づいた。
「……ここ、どこ?」
ついさっきまで繁華街にいたはずだったのだが、今いる場所はどう見ても山奧である。
アスファルトを踏んでいたはずの足は土に若干めり込んでおり、鼻腔をくすぐるのは草と木の匂い。明るかった繁華街から一転し、木と木の間からわずかに差すのみが周囲を照らしていた。
「すみません、咄嗟だったのであらぬ場所に著いてしまいました…もう一回やらせてください。」
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「もう一回って、何を…?」
「もちろん、転移をです」
西川が「転移」という言葉を平然と口にした次の瞬間、目の前が一瞬真っ白に染まった。
あまりの眩しさに一瞬目を瞑ってしまう本棲だったが、なんとか目を開けてみる。
目の前にあるのは…空?
「え?」
本棲が足元に目を向けてみると、そこに地面と呼べるものは存在しなかった。
その代わりに、複雑な模様が刻まれた青い魔法陣が二人のを支えていたのである。
「ここの…いくらなんでもこれは凄すぎない…?」
「いえ、私もまだ慣れないもので…もっと練習が必要かと…」
「まだ謙遜するかっ、いい加減自分の凄さを認めてよ!」
西川のあまりの謙遜ぶりにツッコミをれる本棲。
一瞬だけ場の空気が緩んだものの、唐突に響いた咆哮に再び空気を戻された。
「…こうして見ると、やっぱりとんでもないね」
「ええ。分かってはいましたが…改めて見ても、とても適う相手には見えません」
「かと言って、逃げたところで何の解決にもならないからねぇ…うーん……」
『"やるしかない"かと』
「Cc……セリフを取らないで貰えない?」
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「Ccさんの言う通りですね。誰もやってくれないなら、私たちがやるしかありません」
「うん、もともとそのつもりだったよ。それに、ここのが居れば百人力だからね!」
「それは私も同じですよ。本棲さんが一緒に戦ってくれるのは心強いです」
二人の目に、闘志の炎が宿る。
「では…本棲さん、手を出してください」
「えっ?いいけど…」
西川に言われるがまま手を差し出すと、彼はおもむろにその手を取る。
「はぇ、ちょ、ここの!?」
突然手を包んだ溫もりにうろたえながらも、その手をしっかりと握り返す。
「行きますよ。………三姫みつき」
「えっ?今、名前────」
続く言葉は、二人が消えた後の空間に置き去りにされるのであった。
「しかし……ほんと、恐ろしいほどの長スピードだね。もとの能力が強いとはいえ、短期間であそこまで綺麗に使いこなせるようになるなんて…」
「教え方が良かったんじゃないか?」
「私は空間転移も空中浮遊も教えてないよ…あの娘が勝手に力をにつけてるんだ。西川心音さいかわここの…あの娘には、天賦の才ってやつがあるのかもね。」
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明見あすみと四尾連しびれが、二人の様子を映し出している巨大ディスプレイを見ながら會話しているところだった。
吾蔵が居合わせていないため、二人の間にもいつものような張がなく、緩んだ空気が流れている。
一方吾蔵はというと、何やら用事があるらしくしばらく所長室にいるとの事だった。
「西川とは対稱的に、本棲は相変わらず力を使いこなせてない印象だな。まぁ、あれが普通なんだけどさぁ…」
「急に強大な力を與えられて、いきなり使いこなせる方がおかしいからね。でも、あの娘もスジは悪くなかったよ」
明見はディスプレイを見つめたまま、四尾連にそう返す。
「ただ、あの娘は人工知能…Ccと意識を共有することを最後まで拒んでたからね。それが彼のパフォーマンスを下げる最大の要因になってるんだと思う」
「……いや、それは違うぞ」
不意に真剣な眼差しになった四尾連に、思わず目を見開いてしまう明見だった。
「人間にしかできないことはある。人間だからこそできる発想がある。それを手放さないためにも、あの娘は自分で闘う選択をしたんじゃないか?」
「…今のところ、自分が拒んだCcに助けて貰ってるところしか見てないけどね」
「それは…そうなんだけどな。」
ハハハ、と乾いた笑いをしてみせた四尾連は一瞬張り詰めた空気を緩めるように姿勢を崩す。
「とにかく、彼たちを信じるしかないだろ。吾蔵さんは吾蔵さんで々手を打ってるらしいけど、正直何をしてるのか全く分からないし」
「……そうだね。」
一瞬、明見の目が泳いだように見えた。滅多に見せない表を見せた明見に驚いた四尾連だったが、彼の表はすぐに元に戻ってしまう。
(気のせい、か?)
「何?急にジロジロ見たりして」
「え?あぁいや、なんでもない」
慌てて目を逸らす四尾連に、し訝しむような表を向けたのは明見である。
───やはり気のせいだったのか?
四尾連はどこか気になるものをじつつも、ディスプレイに視線を戻した。
西川が使う転移魔法をしっかり見てみようと、今回は眩しいながらも目を見開いてその一部始終を見守っていた。
原理はよく分からないが、どうやら西川が使う転移魔法は、研究所が保有していた空間を砕くような転移技とは異なり、空間に小さなを開けることで今いる場所と目的地を繋いでいるらしい。
……正直な話、原理は全然わからない。
Ccが解説してくれたから概要は分かったが、理解はできていない。
だが、そんな事はどうでもいい。
どうでもいいのだ。
それよりも大事なのは、何故西川は……ここのは、私の手を取ったのか、なぜ突然下の名前で読んでくれたのか…
頭の片隅で何者かがんでいるのがわかる。
だが、それにしっかりと耳を傾ける気は無い、そんな余裕などありはしない。
あの時手に伝わってきた溫もりと、想像していたよりも遙かにらかな指、手のひら、そして私を「三姫」と呼んでくれたここのの聲が、脳を駆け回っている。
壁にぶつかり、跳ね返り、また別の壁にぶつかっている。
ぶつかるたびにその言葉は脳で反響している。ここのの聲に包まれ、何も考えられない…
「本棲さん、本棲さん!」
「はぅあ!?」
突然現実に引き戻された。
慌てて周囲を見回すと、自分が再び空中に立っていることに気づく。
そして、目の前にいたのは…し前に踏み潰されそうになったロボットのようなものだった。
改めてその姿を見てみると、無機質なその出で立ちの中に、僅かながら自我のようなものが垣間見える。
機械巨人、機械生命と呼んだ方が正しいのかもしれない。
「先手必勝。気づかれていない今のうちに攻撃をれていきましょう」
「りょーかいっ!」
本棲の聲に応えるかのように、彼の背中から無數の兵裝が現れた。
ミサイル、レーザー、マシンガンetc…
相変わらず殺意の高い武ばかりだと、苦笑を一つしてみせる。
「──行くよっ、全弾発!」
本棲が合図すると、背中に生えていた數多くの兵が一斉に火を噴いた。
「では、私はお手伝いをさせていただきますね。」
そういうと、西川は発されたばかりのミサイルに指を向け、空中でその郭をなぞってみせた。
すると次の瞬間、ミサイルのスピードが倍になる。さらに、どこからともなく現れた小型ミサイルが加速したミサイルを追うように加速していく。
「?????」
突然の事に目を白黒させる本棲とは対稱的に、構わず次の魔法を編み始める西川。
西川の手際に気を取られていると、いつの間にか遠くで響いた発音が響いていた。
どうやら命中したようだ。
「やばっ、追撃いれないと…!」
『再裝填完了、追撃を開始』
間髪れずにCcが追撃を開始した。
背中やら腰やらから生えている騒な武たちが砲撃を続けている。
意外にも音はそこまでうるさいとじなかった。Ccが配慮してくれているのかもしれない。
學兵が敵の裝甲を焼き、熱せられた箇所に容赦なく銃弾の雨が降り注ぐ。
加えて西川が必殺の一撃を放つ準備をしている。
最初こそびっくりしたけど、今回もあっけなく決著ついちゃうかも?
そう思った。
その油斷が、命取りになったのかもしれない。
雨のような攻撃で敵がいた辺りには煙が立ち上っており、Ccの補助がなければその郭すら捉えることが出來ないほどだった。
赤外線を用いて敵のきと表面溫度を確認していたが、ここに來て微だにしていなかった敵にきが見えた。
「攻撃が來る…!?Cc、防の準備を!」
『【報告】先の襲撃で使用した兵裝20b及び3b7は現在修復中。殘存防兵裝は108です』
「108個もあれば十分でしょ、頼んだよ!」
そう言い放つと、本棲は西川とを寄せあって敵の攻撃に備える。
『【警告】敵部から高エネルギー反応を検知』
「來るか…!」
西川が攻撃魔法を編む片手間で完させていた防魔法を展開する。
すると、周囲に複雑な文字が刻まれた球狀のバリアが現れた。
それに加え、本棲も電磁バリアや鋼鉄のシールドなどを展開し、鉄壁の防を固めていく。
『敵部のエネルギー、増大中…來ます』
「おそらくあの攻撃は一撃必殺の攻撃として繰り出されると思われます。攻撃直後の隙を叩けば、有効な一撃を與えることも可能だと思います」
「おっけー、任せて!」
防を固める中でも、西川は必殺の一撃を見舞うための攻撃魔法を、本棲はさらなる一撃を與えるための超高出力レーザーのエネルギー充填を始める。
『【警告】───來ます』
「「來い!」」
完璧に固めた防で敵の攻撃をいなし、こちらから必殺の一撃をお見舞して───
やろうと思った、次の瞬間。
その機械生命は、大きく腳を上げると…一気に踏み込んだ。
瞬間、地面にとてつもない衝撃が伝わると、それは地震となり、大地を大きく揺らす。周囲の建造は一斉に倒壊し、瓦礫の山となった。
そうして積み上がった瓦礫は突如浮かび上がると、まるで意思を持ったかのように西川と本棲の元へと飛來した。
「瓦礫っ…!?なんで急に…」
「っ…!この攻撃、ただ瓦礫を飛ばしているだけではないようですね」
『【報告】各飛來から敵エネルギーを知』
「なるほど、溜め込んでたエネルギーをこの瓦礫と一緒にぶつけて防を剝がそうって算段か…」
本棲がいつになく冷靜な表で分析する。
実際、固めていた防はしづつ削られており、その影響は侮れないものだった。
「撃ち落とすしかない!」
本棲が照準を足元から飛びかかり続ける瓦礫に向けて合わせた、次の瞬間。
突然夜になってしまったかのように、周囲が暗闇で包まれる。
「え、何…?」
「本棲さん、上っ!」
西川がぶと、本棲は慌てて上を見る。
───絶句した。
敵が、目の前にまで迫っていたのである。
相當距離を取っていたはずだ。なくとも、あの巨でも一歩や二歩では到達できない距離にいたはずだ。
それならば、今。音も立てずに目の前に迫ってきたこれは…一なんだ?
『【警告】ッ、敵左腕部から高エネルギー反応検知!來ます!』
Ccの警告する聲が聞こえる。
だが、もうどうしようもない。
敵が、私が展開していたシールドを指でつまみ々にするのが見えた。
あのバリアも、この距離では意味をなさない。
それがわかってしまった以上、これ以上何をすればいいのだ?
目からハイライトを失った本棲は、絶の表のまま、あまりにも眩いに呑み込まれた。
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