《星の家族:シャルダンによるΩ點―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困する外科醫の愉快な日々ー》「神殺し」 Ⅱ

アラスカから、柳さんと羽さん、紅さんと一緒に帰って來た。

さんたちはタカさんの異常は知らない。

ただ、用事があって先に帰ったことになっていた。

さんと紅さんは、早乙さんの屋敷に泊ることになっている。

私と柳さんは家に戻り、待機するように言われていた。

心配で私も京都に行きたかったが、それは止められている。

皇紀が心配して、私に詳しい様子を聞いて來た。

「左の腕と足がかないようなの。タカさんは大丈夫だと言っていたけど」

「でも、道間家へ直行したんでしょう? それって本當に大丈夫なのかな」

「うん、ルーとハーが付いてるから。何かあれば連絡が來るだろうし」

「うん、そうだね」

皇紀は納得はしていないようだったが、ひとまず退いた。

ロボはタカさんが一緒じゃないので不満そうだった。

私はロボを抱き上げた。

「すぐにタカさんも戻って來るから。一緒に待ってよ?」

「にゃー」

そうは言ったが、私も不安だった。

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柳さんもずっとふさぎ込んでいた。

皇紀が蓮花さんから連絡をけ、武神「月狼」が無事に戻ったと聞いた。

タカさんがいない理由を聞かれ、皇紀が戸っていた。

私が電話を替わる。

「ちょっと道間家へ用事があって出掛けているんです」

「さようでございますか。でも、「月狼」の件ですぐにご報告することになっていたのですが」

「そうなんですか。とにかく急用だったようで」

「かしこまりました。それではまた改めて。亜紀様も本當にご苦労様でした」

「いいえ。あ! デュール・ゲリエは大活躍でしたよ!」

「そうですか! それは嬉しいことをお聞きしました!」

蓮花さんは何もまだ知らない。

タカさんの右腕とも言える人だが、まだお話するわけにはいかない。

武神「月狼」のデータ解析の第一報を報告したかったようだが、もうし解析を進めてからまた連絡してくれると言っていた。

もう夜になっていた。

いつも通り各部屋の燈が點いているが、いつもより暗いようにじた。

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タカさんがいないと、この家は暗い。

どうしようもなく。

ロボが何度も玄関とリヴィングを往復している。

タカさんの帰りを待っている。

夜はまた、タカさんのベッドで眠るのだろう。

私たちがいくらっても、いつもそうだ。

遅くまで待っても、ルーたちから連絡は來なかった。

そのことで一層不安になった。

タカさんがどうにかなるわけはないと思っていたが、不安に圧し潰されそうだった。

何で連絡が無いのだろう。

タカさんが戻ったって、すぐに電話が來ると思っていたのに。

何で連絡が無いのだろう。

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

「羽! 紅! ご苦労様!」

早乙さんが笑顔で迎えてくれた。

まあ、いつ見てもとんでもない家だ。

石神さんが建てたと聞いてなければ、こんな場所には絶対に來ない。

3階のリヴィングに通され、俺と紅は早乙さんに報告した。

お綺麗な雪野さんが紅茶を出してくれる。

俺は敵の妖魔が2億6千萬も來たことを話した。

早乙さんも驚いた。

「紅の裝備は大したものだったんですけどね。それでも危うい時も何度かありましたよ」

「羽が全て駆逐してくれました。でも大変だったのは石神様たちの方で」

「圧倒的な數でしたからね。2億6千萬だったそうです」

「そんなにか!」

「石神様が半數を斃しました。あの方はやはり素晴らしい方です」

紅が頬を紅させて話した。

ほんのし妬けた。

「でも羽も紅も頑張ったんだろう? 輸送機には一切近づけなかったと聞いているよ」

「そんな。私は石神様と蓮花様が與えて下さった兵裝があったからです。羽が相當頑張りました」

「そうか」

夕飯をご馳走になった。

紅は食べないので申し訳なく思ったが、食事の席には同席し、楽しく話した。

「石神が一緒に帰って來ると思ったんだけどな」

「はい。先にルーさんとハーさんと戻ったそうですよ。忙しい人ですよね」

「ああ。大きな作戦だったからな。いろいろ事後処理もあるんだろう」

紅と、最後の巨大な妖魔の話を早乙さんに伝えた。

「俺たちは離れていたんで詳細は分かりませんが。後から《ティターン》というものだったと聞きました」

「そうか。それはまた大変だったな」

「はい。急に出現しましたし、80メートルの巨人でした。石神さんのお子さんたちの攻撃は通用しなくて。遠目ですが、再生をしていたように見えました」

「そんな妖魔がいるんじゃ大変だ!」

「そうなんですよ。首を飛ばされても再生してましたからね。石神さんじゃなきゃ、どうなっていたことか」

「そうかぁ」

「紅はどう見た?」

「ああ、普通の妖魔とは違ったな。私は「ウラール」の霊素レーダーと一部リンクしていたが、未解析のデータが多かった。妖魔とはまた別なものだったのかもな」

「へぇー」

「霊素の組み合わせが瞬時に変わるんだ。それは、霊素を自由にる、より高次の未知の量子の形態があることを示しているんだと思うよ」

「なんだ、そりゃ?」

「だから妖魔とは違うものなんだと言っているだろう」

「まあ、よく分からんけど。でも、石神さんならぶっ殺せるってことだろ?」

「そういうことだ。石神様はやはり尊い」

「そうだな!」

俺も今度は嫉妬もせずに、紅に同意した。

あれほどの厳しい戦況で、更に瞬時に再生するような化けと対峙して勝ったのだ。

石神さんは、やっぱりスゲェ。

「まあ、今晩はゆっくり休んでくれ。羽、酒を一緒に飲もうか?」

「いいえ、流石に疲れちゃって。大人しく寢ますよ」

「そうか」

俺は風呂を頂き、紅と同室で休んだ。

紅が俺にマッサージを施してくれ、俺はぐっすりと眠った。

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

俺の麻痺は進み、右足もかせなくなっていた。

それと、麻痺した部分が激しく痛む。

ルーに戦場に持って行った救急道から鎮痛剤を出させたが、全く効かなかった。

「Ω」と「オロチ」の末も効果が無い。

俺はタマを呼んだ。

道間家には特別な召喚の場所を空けてもらった。

「主!」

「おう、やられたぜ」

「それは「神」か!」

「どうやらそうらしい。下級神らしいけどな」

タマが驚いていた。

「クロピョンか誰かに治せる奴はいないか?」

「主……それは無理だ。「王」と雖も、「神」の呪いを解ける者はいない」

「やっぱそうか」

「「神」は「王」の上位の存在だ」

「ああ、前にモハメドから、そんな話を聞いたな」

「主ほどの者が、よもやこのような……」

「まあ、分かったよ。もう帰ってくれ」

「主、傍にいても良いだろうか」

「あ? ああ、でもな。道間家に無理を言ってお前を呼び出したんだ。もう帰ってくれ」

「分かった」

タマはまだ消えずにいた。

「主。あなたに仕えられ、楽しかった」

「俺もだよ。世話になったな。俺が死んでも、出來る範囲でいいからみんなを守ってくれないか?」

「分かった。必ずそうしよう。他の者にも伝えておく」

「ありがとうな」

タマが消えた。

俺のの激痛は徐々に強まって行く。

このままでは口が麻痺する前に、何も出來なくなる可能があった。

俺はルーとハーを呼んだ。

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

「ルー!」

「亜紀ちゃん、落ち著いて聞いてね」

「何!」

私は猛烈に嫌な予がした。

「タカさんは、もう長くないの」

「何!」

「明日一杯で、多分」

「あんた! 何言ってんの!」

「亜紀ちゃん!」

「絶対に助けなさいよ! 絶対に! 絶対にだからね!」

「亜紀ちゃん! 手は盡くしたの! もう誰にも何も出來ないのよ!」

「ダメだ! 許さない!」

「私だって! ハーだって必死にやった! でもダメなのよぉー!」

ルーが電話の向こうで大泣きしていた。

私は中の力が抜け、床に座り込んだ。

「ハーだよ! 今替わった! 亜紀ちゃん、皇紀ちゃんと柳ちゃんを連れてすぐに來て! タカさんの最後の言葉を伝えるからって!」

「……」

「亜紀ちゃん! 聞いてる!」

「聞いてる」

「すぐに來て! タカさん苦しんでる! もうまともに話せなくなってる! だから早く來てね!」

「……わかった……」

私はやっとのことでそう言った。

泣いている暇は無い。

すぐに向かわないと。

柳さんがずっと見ていた。

もう泣いていた。

ロボが心配そうに近寄って來た。

「ロボ! タカさんがぁー! タカさんが死んじゃうんだってぇー!」

私はロボを抱いて泣いた。

柳さんも駆け寄って來た。

「亜紀ちゃん!」

「柳さん! タカさんがぁ!」

「うん、すぐに行こう! 京都の道間家だよね?」

「はい!」

ロボが私の手からすり抜けた。

そのまま窓を割って飛んで行った。

「ロボ……」

私と柳さんは、呆然と砕け散った窓を見ていた。

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

翌朝。

俺と紅は早乙さんに泊めてもらった禮を言い、帰ることにした。

雪野さんが朝食を作ってくれ、それもまた味かった。

エレベーターで下に降り、早乙さんが見送ってくれた。

「しかし石神はやっぱりスゴイな!」

「そうですよね!」

「ええと、《ティターン》だったか。そんな神まで倒してしまうとはなぁ」

「アハハハハハ!」

夕べの話の続きを三人で話していた。

その時、エレベーターホールに置いてあった柱がいた。

「え!」

柱が早乙さんに駆け寄り、小さな手で肩を摑んだ。

「「柱」さん! どうしたんです?」

柱は左手を耳に當て、右手の人差し指を立ててその手を回した。

「え? もう一度話せってことですか?」

柱が前後にを揺らした。

俺も紅も何が起きているのか分からない。

だと思っていた。

「ええと、石神の話?」

またを前後に揺する。

「一昨日、シベリアで作戦があってね。そこで膨大な妖魔を斃して……」

早乙さんの頬を、柱の手が平手打ちにした。

「え! そこじゃない。ああ! 石神が《ティターン》を斃してって話?」

柱が両手を口(?」に當てた。

すると、小さな羽の生えた柱が飛んで來た。

した。

《すぽ》

「「「……」」」

どう見ても、それは間に生えたオチンチンだった。

呆然とする俺たちを無視して、柱が玄関へ駆けて行った。

どこからかランというアンドロイドが現われ、ドアを開き、深々と頭を下げた。

「え? ラン?」

早乙さんも驚いていた。

柱はそのまま外に出て、一瞬で姿が消えた。

「「「……」」」

「なんだったんでしょう?」

「分からない。俺もこんなことは初めてだ」

三人で外へ出たが、玄関先に四つの窪みが見つかっただけだった。

空のどこにも、何も見えなかった。

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