《星の家族:シャルダンによるΩ點―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困する外科醫の愉快な日々ー》「神殺し」の欠片
9月の第二週となり、俺はようやく出勤するようになった。
一江が毎日目一杯にオペをれて來る。
別に仕返しや意地悪でもなんでもなく、単に俺の復帰を待っていたためだ。
俺のオペを待っている患者に一斉に対応しているだけ。
月曜日の恒例の一江の報告の後で、一江からオペ・スケジュールの確認をされた。
俺がまたもや死に掛けたことを心配してのことだ。
電話で大丈夫だから目一杯にれろと言っておいた。
一江はその命令通りにスケジュールを組んで來たが、念のために俺に見せて聞いたということだ。
流石に分かっている奴で、無理なく組んである。
時間が読めないものが、毎日最後のオペになっている。
「部長、大丈夫です?」
「ああ、問題ない。お前はやっぱり俺の右腕だな」
「ありがとうございます。でも、無理があったらいつでも言って下さい。必ず対応しますので」
「分かった」
幾つかのオペには、率先して斎藤と山岸が見學を申請して來る。
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こいつらはいい。
時々呼んで近くで説明したり、手元を見せてやったりもする。
何度か柳にもポリクリ(臨床実習)のような立場で同席させたりもした。
「柳、オペ室では厳格にクリーンなものとそうでないものとが區別されている」
「はい!」
「お前がクリーンなものにれれば、その道は使えなくなる」
「はい! 気を付けます!」
「逆にクリーンでないものにれた場合、お前を退出させることもある」
「はい! 分かりました!」
「見學者は基本的にでいることになっている」
「はい! ウソですね!」
鷹が笑っていた。
「俺は全員全でオペをするのが夢なんだけどなぁ」
「いつか実現しましょう」
「おう!」
うちは系列の病院の醫師の見學をけれたりもする。
他の人間もたまにある。
醫療機械の営業マンだ。
目的は新しい機の使い方の説明のためだが、俺が同席を擔うことも多い。
俺が使ってみて、その確認をするためだ。
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院長経由で命じられることが多い。
今週も一度、ある醫療機メーカーの営業マンが同席した。
新しいレーザーメスの導のためだ。
今回は「Nd:YAGレーザー」のもので、腹腔鏡下でのオペのものだ。
俺はそれを使って、高齢者の患者の小腸の腫瘍除去のオペを行なった。
開腹してのオペでは患者への負擔がかかるために、視鏡を使ってのオペを実施したのだ。
腹腔鏡下でのオペは鉄則があり、患部が明確に判明していなければならない。
実際には視鏡で探り確認しながらのオペになるが、広範囲を探すには適していない。
俺の経験から可能になるオペだった。
腫瘍の場所を予見しているから出來ることだ。
だから、他の人間が観ても、俺が何をやっているのかはよく分からないことだった。
視鏡をかしながらレーザーメスで腫瘍を破壊していく。
それだけのことが、どのような技で為されていることかは理解出來ない。
逆に、それをやるということがどういうことかが、一流の人間にだけ分かる。
その日はそのオペが最後になっていた。
夜の8時過ぎにオペが完了し、そのままいつものように最後のオペに立ち會った人間と食事をする。
「宮川本廛 赤坂宮川」の鰻弁當を頼んでいた。
同席した醫療機の営業マン・長谷川もった。
まだ30代半ばの若さだったが、真面目で信頼出來る人間とじた。
「君のところのレーザーメスは良かったよ。溫度の調整が簡単で細かく出來るのがいい」
「ありがとうございます!」
俺は先端の形狀について希を言った。
長谷川はすぐに技に言って改良して納品すると即答した。
「おい、そんな約束をしていいのか?」
「はい! 私が必ずやります!」
「それは助かるけどなぁ」
「いいえ! 高名な石神先生のご指摘です! 有難く頂戴いたします!」
オペ看の何人かで溫めた弁當を持って來てみんなに配った。
お茶も淹れて來る。
「石神先生! いただきます!」
「ああ、腹も空いているのにこれだけで申し訳ないな」
「とんでもありません!」
長谷川は一口食べて「味い!」とんだ。
営業マンとしての接待モードではあるが、気持ちのいい人間だった。
オペ中の俺からの質問にも、瞬間に丁寧に答える。
醫療機の営業マンは、多くはその営業マンのやる気で千差萬別だ。
メーカーとしても教育制度はあるし、新しい機の講習會もある。
しかし、そこから先は個人に任されている。
人柄で売り込むという方針の営業マンもいるが、大抵使いにならない。
長谷川は自社製品に通しているばかりでなく、競合他社の製品や、周辺知識も富にあった。
それに、何よりも自社製品を使ってくれる人間のために何かをしたいと思っている。
最高の部類の営業マンだった。
「本日は石神先生の見事なオペを拝見できて、嬉しく思います」
「俺なんかは大した人間じゃないよ」
「いいえ! 腹腔鏡下での腫瘍切除など、普通の醫師では出來ません! 石神先生はそれを一切の躊躇なく最後までなさっていました!」
オペのことが分かっている人間だった。
俺は長谷川とし話をし、先に食事を終えて帰ることにした。
長谷川が慌てて弁當を食べ切って、俺に近づいて來た。
「あの、石神先生。個人的にお話ししたいことがあるのですが」
「俺に?」
「はい。石神先生は、特殊なおですよね?」
「なんだって?」
「すみません、ここでは詳しくは」
恐する長谷川に興味を持ち、俺はオークラの「スターライト」にった。
個室が空いていたので予約する。
「もう遅い時間だけどいいか?」
「はい! ありがとうございます!」
まあ、醫療機の営業マンは毎日最低でも12時間は働く。
今は9時過ぎだが、こんな時間は何でもないだろう。
二人でカクテルを頼み、ローストビーフと白魚のマリネ、キャビア、オリーブ、オマール海老のフリカッセを頼んだ。
「若いんだから、どんどん喰ってくれ」
「ありがとうございます!」
長谷川は俺に言われるまま、口にしていった。
「それで、俺のがどうって言ってたな」
「はい」
長谷川は自分の生い立ちを話した。
母親が沖縄のユタ(霊師)の家系で、そのせいか自分にも不思議なものが見えるのだと言った。
「最初に石神先生にお會いした時に、真っ赤な火柱の中にいるのが見えてびっくりしました」
「そうか」
どうやら本のようだった。
「それで、僕などには何の力もないのですが」
「なんだ?」
「あの、失禮ですが、石神先生はこれまで何度も死に直面されてますよね?」
「そういうことも分かるのか?」
「はい。それで気になったのは、つい最近も死に掛けたんじゃないかと」
「ほう」
長谷川は俺が素直に話をけ止めて行くので、逆に驚いていた。
「あの、こんな話を信じていただけるんでしょうか?」
「もちろんだ。君の能力はもちろん、君自が信頼出來る人間だと分かったからな」
「そうですか!」
長谷川は喜んだ。
「それでですね。相當な力のある方が治したのは分かるんです」
「そうか」
まあ、ネコと柱だが。
「でも、石神先生の右肩の後ろ。小さな黒いものが見えたような気がして」
「え?」
「もう僕も分かりません。でもオペ中にほんの一瞬でしたが見えたんです」
「そうなのか?」
「はい」
長谷川はしきりに、自分などには大層な力はないのだと繰り返した。
でも、俺の耳にれておきたかったのだと言った。
「先生を治された方は、凄い力を持っていることは分かってるんです。でも、気になってしまって。僕の見間違いの可能もあるのですが」
「いや、ありがとう。わざわざ、自分が信頼を喪うかもしれないのに、俺に話してくれたんだな」
「いいえ。石神先生は素晴らしい方なので、どうしても気になって」
営業マンとしては逸どころの話ではない。
突飛な話をし、相手の信頼を喪う可能が高いものだった。
しかし、長谷川は「人間」として俺に打ち明けてくれた。
偏に、俺のためだと考えて。
俺は長谷川にどんどん食べるように言い、俺も食べた。
カクテルを2杯飲んで、バーを出た。
長谷川は時間を取って話を聞いてくれたことと、大変なご馳走になってしまったことを禮を言い謝って來た。
そういう男だった。
家に帰って風呂上がりに上半になった。
「ロボー!」
呼ばれたロボが俺の所へトコトコ來る。
背中を見せて、右肩の後ろあたりを指で示した。
「おい、ここになんか無いか?」
ロボがじっと見ている。
子どもたちも不思議がってこっちを見ていた。
《ぷす》
ロボが俺の右肩の後ろに爪を刺した。
その瞬間、抜けきれなかっただるさが消えた。
「おお! 調子いいぞ!」
ロボを抱き上げて顔にキスをたくさんした。
ロボが喜んで俺の顔を舐めて來た。
「タカさん! 今のって!」
亜紀ちゃんが聞いて來る。
「ああ、まだ「神殺し」の破片みたいのがあったようだ」
「えぇ!」
「もうこれで消えた」
「大丈夫なんですか!」
「ああ、確実にな」
後日、長谷川とまた會って、長谷川の醫療機メーカーを堂帝國の傘下に置くことに決めた。
その意味は長谷川にも分かった。
「今後、海外でも大口の発注をバンバンするからな」
「ありがとうございます!」
「それに、技も流して行くことになると思うよ」
「技ですか?」
俺はほんの一部、量子コンピューターを使った未來予測制や量子解析の測定などの話をした。
専門的な知識が必要な容だったが、長谷川はその故に俺の話を理解し、信用してくれた。
その後、長谷川の會社は「虎」の軍の様々な測定や解析裝置の開発と組み立てを擔うようになった。
醫療機メーカーとしても、世界で最高峰の規模になる。
長谷川は代表取締役になり、俺と堂帝國を支えてくれるようになっていった。
人間の真心が人間に何かをもたらす。
人生には縁がある。
しかし、その縁をどう回転させるのかは、真心の問題だ。
俺は長谷川の真心によって命を救われた。
じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出身の魔導士、通訳兼相棒の新米回復術士と一緒ずてツートな無詠唱魔術で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】
【2022年6月1日 本作が角川スニーカー文庫様より冬頃発売決定です!!】 「オーリン・ジョナゴールド君。悪いんだけど、今日づけでギルドを辭めてほしいの」 「わ――わのどごばまねんだすか!?」 巨大冒険者ギルド『イーストウィンド』の新米お茶汲み冒険者レジーナ・マイルズは、先輩であった中堅魔導士オーリン・ジョナゴールドがクビを言い渡される現場に遭遇する。 原因はオーリンの酷い訛り――何年経っても取れない訛り言葉では他の冒険者と意思疎通が取れず、パーティを危険に曬しかねないとのギルドマスター判斷だった。追放されることとなったオーリンは絶望し、意気消沈してイーストウィンドを出ていく。だがこの突然の追放劇の裏には、美貌のギルドマスター・マティルダの、なにか深い目論見があるようだった。 その後、ギルマス直々にオーリンへの隨行を命じられたレジーナは、クズスキルと言われていた【通訳】のスキルで、王都で唯一オーリンと意思疎通のできる人間となる。追放されたことを恨みに思い、腐って捨て鉢になるオーリンを必死になだめて勵ましているうちに、レジーナたちは同じイーストウィンドに所屬する評判の悪いS級冒険者・ヴァロンに絡まれてしまう。 小競り合いから激昂したヴァロンがレジーナを毆りつけようとした、その瞬間。 「【拒絶(マネ)】――」 オーリンの魔法が発動し、S級冒険者であるヴァロンを圧倒し始める。それは凄まじい研鑽を積んだ大魔導士でなければ扱うことの出來ない絶技・無詠唱魔法だった。何が起こっているの? この人は一體――!? 驚いているレジーナの前で、オーリンの非常識的かつ超人的な魔法が次々と炸裂し始めて――。 「アオモリの星コさなる」と心に決めて仮想世界アオモリから都會に出てきた、ズーズー弁丸出しで何言ってるかわからない田舎者青年魔導士と、クズスキル【通訳】で彼のパートナー兼通訳を務める都會系新米回復術士の、ギルドを追い出されてから始まるノレソレ痛快なみちのく冒険ファンタジー。
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