９月第二週の土曜日。

俺はまた早霧さんにわれて、「アドヴェロス」の中で稽古をしていた。

外苑西通りと靖國通りの差する富久町にあるので、電車で行くのはちょっと不便だ。

早霧さんはよく幾つかの警察署の剣道場へ行ったり、そこからの伝手でどこかの剣道道場へも行く。

毎日剣を振るっていないと技が落ちると言っている。

俺も土日の休みにわれることが多い。

一応は父親から剣の手ほどきもけているからだ。

同様に拳法家の葛葉さんとも組み手をしたりする。

拳法もある程度教わったからだ。

俺も早霧さんや葛葉さんとの鍛錬は楽しいし役に立つ。

俺の能力の「無影刀」は念じるだけで斬る能力だが、あくまでも人間の技だ。

剣や拳法のきはとても參考になるし、同時に自分の防の訓練にもなる。

俺は父親が剣や拳法を教えてくれた意味を深くじていた。

「よし！　そろそろ晝だな！」

早霧さんが笑って言った。

「今日は「イイザカ」に行こう！」

「え、フレンチですか？」

「なんだよ、何か喰いたいものがあるのか？」

「いいえ、そうじゃなくて、高いお店ですから」

「遠慮すんなよ！　俺が喰いたいんだから付き合えよ」

「はい！」

早霧さんは食家だ。

いつも俺を稽古にっては、どこかの味しいお店に連れて行ってくれる。

俺が自分の分は出すと言うと、稽古に付き合ってくれた禮だからと言って、払わせてくれない。

いつの間にか、俺も笑ってご馳走になるようになった。

早霧さんの連れて行ってくれる店がどこも味しいためだ。

自分では死ぬまで知らない店ばかりだっただろう。

「こないだのアワビは味しかったですね！」

「ああ！　伊勢海老もな！　本當はディナーのメニューなんだが、特別に作ってくれた」

「イイザカ」はシェフのおまかせが基本だ。

シェフは世界中の日本大使館で料理長を歴任してきた、超一流の人だ。

早霧さんも、よく通う名店だった。

「十河さんと、葛葉と鈴もうか！」

「いいですね！」

鈴さんもよく稽古を一緒にする。

人で優しい人だ。

ただ、俺が相手だと組み手にならない。

俺が一方的に攻撃するだけで、鈴さんからは一切何も來ない。

防に徹するだけだ。

聞くと、とても俺を攻撃出來ないと言われた。

「だって！　磯良が大好きなんだもん！」

「！」

早霧さんと葛葉さんが大笑いした。

二人が相手だと、ガンガンやるので、俺はますます困った。

まあ、俺がまだ子どもだからだろう。

俺と早霧さんは、訓練場から建の中へった。

線で、十河さんたちに連絡をしようとしていた。

警報が鳴った。

「磯良！」

「はい！」

俺たちはすぐにインカムを裝著し、狀況を聞きながら中央作戦室へ走った。

敷地にいる時には、常にインカムの攜帯が義務付けられている。

ハンターは急事態に常に備えておくためだ。

休日に閉じていた門を超えて、侵者がったらしい。

建のり口も閉鎖されているが、ドアを破壊して中へった。

警備隊が向かっている。

中央作戦室には、當直の瀬さんがいる。

「早霧さん！　磯良！」

瀬さんが俺たちに、すぐに出撃の準備をするように言った。

葛葉さんと鈴さんも、すでに裝備の準備を始めている。

早霧さんは「虎徹」を握るだけだ。

俺と葛葉さん、鈴さんは専用のボディ・アーマーをに著ける。

十河さんは待機だ。

ここでは十河さんの能力は使えない。

裝著しながら、スクリーンの映像を観ていた。

外國人の３０代の男が二人。

どちらも日本刀のような刀剣を手に持っている。

急シャッターが降りてゆく手を阻んでいるが、二人は笑いながらシャッターに斬り付けていた。

「瀬！　妖魔か？」

「いえ、分かりません！　でも、門を超えた時點では何も持っていなかったはずです！　いつの間にか手に刀を握っている」

「どういうことだよ？　背中にでも隠してたか？」

「そうじゃないんです。全の映像を確認しましたが、どこにも持っていなくて」

「じゃあ、妖魔だな」

「早霧さん！　まだ早計です！」

「おい、そのつもりがねぇと、やられるぞ？」

「……」

既に早乙さんには連絡が行き、もうこちらへ向かっているそうだ。

スクリーンでは、シャッターが完全に破壊されていた。

厚さ５０ミリの鋼鉄のはずだったが、切り刻まれて廊下に散していた。

警備隊が発報する。

瀬さんの指示だ。

もう、敵を「妖魔」と認定した。

５人の警備隊が、Ｈ＆ＫのＧ３を連する。

炸裂弾と徹甲弾のり混じった攻撃だ。

一瞬、畫面がブラックアウトした。

そして、スクリーンに廊下に転がった警備隊の姿が映った。

「瀬！　警備隊じゃ無理だ！　俺たちが出る！」

「待って下さい！　デュール・ゲリエを出します！」

既に待機させていた瀬さんが、２階の階段で３のデュール・ゲリエに男たちを迎撃させた。

一がM134「ミニガン」を持っている。

毎分４０００発もの発速度がある。

他の二は両腕がブレードになっていた。

侵者の戦闘を見ての裝備だろう。

ミニガンのガンナーは、大きなバッテリーと、給弾ベルトを納めたボックスを３個持っていた。

「ハインリヒ！　ヘンな連中が來たぞ！」

男の一人がんだ。

スクリーンにそれがドイツ語であることと、日本語へ翻訳したものが浮かぶ。

一のデュール・ゲリエが踴り場の男たちに跳び、男たちは刀で薙ごうとした。

その瞬間、デュール・ゲリエが壁を蹴って男たちから離れる。

同時にミニガンのガンナーが男たちを連した。

スクリーンの中で、男たちが高速で移した。

刀でミニガンを斬り、もう一人がブレードのデュール・ゲリエに襲い掛かった。

ミニガンは破壊され、ブレードは刀をけた。

「こいつら、いぜ！」

「本気でやれ！」

階段下にいたデュール・ゲリエが「槍雷」を放った。

一人の男の左腕が吹っ飛ぶ。

もう一人が大笑いしていた。

「なんだ、こいつら……」

葛葉さんが呟いた。

左腕を失くした男が、右手の刀を下に振った。

刀がびて、を貫かれたデュール・ゲリエが倒れた。

大笑いしていた男は、二のデュール・ゲリエの首を刎ねて斃した。

そして信じられない景を見た。

左腕を拾った男が、それを切り口に當てがった。

すると、どうなったのか、腕が元に戻った。

「瀬、出るぜぇ」

早霧さんが言った。

「はい！　お気を付けて！」

部屋を出ると、鈴さんが俺を後ろに下がらせた。

「磯良のことは必ず守るから」

そう言って、両腕を「妖魔化」した。

「はい！　俺も鈴さんを守りますよ！」

鈴さんが、嬉しそうな顔をして振り向いた。

「待って！　迎撃中止！　「虎」の軍が來ます！」

インカムに瀬さんの聲が響いた。

「なんだよ！」

「すぐに戻って下さい！　全シャッターを閉じます！」

「ちぃっ！」

早霧さんが猛烈に怒っていた。

みんなで手を引いて下がらせた。

中央作戦室に戻ると、スクリーンは映像を切っていた。

「虎」の軍は、まだ俺たちに見せてはもらえない。

協力関係にあることは分かっている。

これまでも何度も手伝ってもらっているし、渋谷での無差別憑依攻撃の際には、俺自が助けられた。

味方ではあるが、正を隠している。

５分後。

シャッターが全て上げられ、早乙さんが中央作戦室にって來た。

「もう終わったよ。侵者は「虎」の軍が連れて行った」

「ケッ！」

早乙さんが早霧さんを見た。

葛葉さんが、戦い損ねたのを怒っているのだと説明した。

早乙さんが笑った。

「申し訳ない。あいつらは元々「虎」の軍が追っていた連中なんだ」

「分かりましたよ！　でもこっちも警備隊とデュール・ゲリエをやられたんですぜ？」

「ああ、そうだね。でも警備隊は多の怪我はあるけど、みんな無事だ。デュール・ゲリエはちょっと修理が必要だけどね。すぐに治るよ」

「え、警備隊は生きてるんですか！」

「ああ、大丈夫だ。気絶させられただけだよ。これから一応検査するけどね」

「良かったぁ！」

早霧さんがんだ。

みんなも喜んだ。

「早乙さん、あいつらは何者だったんですか？」

「俺もよくは知らないんだ。妖魔とも違うらしいんだが、後で詳しく聞いておくよ」

「磯良！　飯を食いに行こう！」

「え！」

「もう終わったんだ。葛葉と鈴も行こうぜ！　あ、十河さんも是非！」

「じゃあ、俺が奢るよ」

「イイザカですけど？」

「ああ、あそこは味しいよね！」

みんなで喜んだ。

「ああ、瀬さんは不味いよね？」

「いいですよ！　楽しんで來て下さい」

「また今度ね？」

「是非！」

十河さんが早乙さんのポルシェに乗り、他の人間は早霧さんのジープの「グラディエーター」に乗った。

エンジンを掛けると同時に、いつものヴァン・ヘイレンの音楽が鳴る。

早霧さん以外の誰も好きではないのだが、早霧さんが機嫌になるので、みんなも笑っている。

「こないだよ！　やっとヴァン・ヘイレン以外のギタリストでいい奴を見つけたんだ！」

「そうなんですか！」

助手席の俺に早霧さんが大聲で言った。

「「ＴＯＲＡ」って奴でさ！　ほら、堂総理が東京ドームで演説會やったろ？」

「ああ！　あの時の！」

俺も素晴らしいギタリストだと思った。

「あれで一発で惚れ込んでよ！　ＣＤ探したらあったんだよ！」

「そうなんですか！」

「クラシックなんだけどな！　でもそれもまたいいんだぜ！」

「へぇー！」

「今度貸してやるよ！」

「是非！」

近いのですぐに「イイザカ」に著いたが、ヴァン・ヘイレンの曲が終わってなかったので、早霧さんが降りることをじた。

みんなで笑って終わるまで待った。