《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》2
「そっか、じゃあ尾が増えただけで特に変わった事はないんだな。良かった」
「ようこ……でしたっけ? 不思議な種族もいるのですね」
朝からドタバタしていた話をフレドさんとエディさんに「こんな事があったんですよ」と報告がてら教えると、二人ともほのぼのとしつつも興味深そうに笑っていた。
確かに、とても気になるよね。
一晩で新しい尾が一本増えたわけだけど、どうやって増えたのかとか。後から一本追加されたのなら、もう一本と見分けがつかない並みが一晩で生えそろった事になるが、何が起きたのか……とか。
世の中はまだ私の知らない事でいっぱいだ。出來るなら増える所を観察したかったなぁ。
……いや、出來るかもしれない。琥珀は「大人になるにつれて増える」と言っていたけど、これからも増えるなら、今後チャンスと出會える可能は高い。
でも昨日も予兆みたいなものは何も無く突然起きたから、計畫的に観察するのは難しそうだ。寢室に映像記録できるような魔道を設置する許可を取る訳にもいかないし。
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「なに?! 何も変わってないとは何事じゃ! いくらフレドでも聞き捨てならんぞ!」
「いや……ごめんって。でも尾が増えた以外背が急にびたとか……目に見える変化が無くて。琥珀の種族にとっては大きな事だと思うんだけど……」
私もアンナもそこは思っていた。そうよね……いったい何が「長」したのかしら。
いや、孤児院の冒険者志の子達との一件について、心は長したと思うけど。でもこんなにダイレクトにに影響が表れるものなの?
でも琥珀は自然にけれてるし、これが普通なのだろうけど。琥珀の種族について、文獻で存在だけは知っていたけど詳しくは全然分からないから何が正解なのか……悩むだけになってしまう。
「ふふん! 尾が二本になった琥珀の力をとくと見せてやろう! フレド、髪のを一本寄越せ」
「え、髪の?」
「冒険者とあろうものが髪のの一本や二本でガタガタ言わんでもいいじゃろ」
「ちょ……何に使うか知らないけど、抜くのはやめてくれ琥珀!」
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ソファに座るフレドさんの襟足に手をばした琥珀を慌てて制止している。このままではむしられかねない、と顔を悪くしたフレドさんが、席を立ってキョロキョロする。機の上に置いてあった、私が新聞のスクラップブックに使ったハサミを見つけると、止める間もなく襟足を一筋切り取って琥珀に渡した。
琥珀を止めつつ「私のもので良ければ差し上げますから!」と半分んでたエディさんも、あまりに素早いフレドさんに口を挾む隙も無かったようだ。
「それで何するんだ?」
「大人しく見ておれ。驚かせてやろう」
琥珀の言う「長」が何の事か全く分からない私も、ただぽかんとしたままそのやり取りを眺めるだけになってしまう。
見てろ、と言った琥珀は私達の見てる前で、摘まんだ髪のをおでこにあてて……ぴょんと飛び上がると宙返りをして見せた。
「あれ? おかしいな……たしかこうやって……」
とん、と著地して首を傾げた琥珀はもう一度空中で前転するように、綺麗な宙返りを披する。
「ちょっと、下の階の人に迷でしょ。部屋の中で暴れちゃダメ」
「ちが、違うんじゃ! ただの宙返りがしたいんじゃないのじゃ!」
あまりに思いがけない琥珀の行に、一瞬止めるのが遅れてしまった。いや、ほんとに、何がしたかったのだろうか。
たしかにすごい能力だけど、當然私達は琥珀がそのくらい出來るって知ってるのに。
「琥珀、をかしたいなら、午後で良ければ外に連れてってあげるから」
「だから、ちがうのじゃ~。琥珀は、琥珀がすごい事が出來るようになったのを見せてやりたくて……ん、ああそうか、こうじゃな」
腕を摑んだと思ったのに、するりとひねって抜け出されてしまった。……琥珀、やはり強いな。
模擬試合だと私が毎回勝ってるけど、本気を出されたら多分負けそう。
拘束を解かれて呆気に取られてる私の目の前で、琥珀がまたしても宙返りをする。今度は後ろ向きに、を弓なりに反らせて。くるりと背面向きに飛んだ琥珀のふさふさの尾が私の顔をかすめて、思わず目をつむる。
「コラ琥珀、危ないで……しょ……」
「おお、功したぞ! どうじゃリアナ、琥珀が手にれた新しい力は。すごいじゃろう?」
顔を上げた、そこに立っていたのは……なんと、フレドさんだった。
いやおかしい、私の後ろに立っていたはず。と振り返るとそちらにもフレドさんが。アンナも、エディさんも一緒に、口をぽかんと開けて……フレドさんの姿をして、琥珀の口調で喋る謎の人を見つめていた。
「琥珀……なの?」
「そうじゃ! 驚いたろう? 本のフレドと見分けがつかないじゃろう」
琥珀が? 琥珀が姿を変えてフレドさんになったという事? 得意満面、という表を浮かべるフレドさん……の姿をした琥珀を、ひたすらびっくりして見上げるしか出來ない。
確かに……完全にフレドさんの姿だった。ただ、頭の上に琥珀と同じふさふさの狐耳がぴょこんと立っているのを除けば……だが。
「耳は琥珀だけど……確かに、それ以外はほんとに、フレドさんにしか見えない……これ、幻とかではなくて? ほんとにが変わってる……」
「何? 耳が……うぬぅ。ここは化けそこなったか。尾みたいにあるか無しかのやつは簡単にフレドのまんまに出來たんじゃがのう」
ダメだ。「フレドさんの外見なのに中が完全に琥珀」なの、違和がすごすぎて頭がくらくらしてくる。
でも確かに、尾はなかった。……服裝まで変化している中で、あのボリュームのある尾が二本も殘ってたら服が破れたり大変な事になっている所だった。
「でも最初の変化(へんげ)のからこんなにそっくりに化けられるとは、さすがは琥珀じゃと思わんか?」
「そうね……ほんとに……とてもすごいと思う」
「琥珀さん、々頭にれても良いですか?」
「良いぞ」
「すごい……フレド様の耳の後ろの黒子も再現されてる……これは……あの、どういった原理で姿を変えているのですか?」
「髪のを一筋持ってな、ぎゅうっと腹に力を込めてギュルルッとして爪先からパッとやると姿が変わるのじゃ」
「……なるほど、私や他の人には絶対に無理そうですね」
その「変化の」とやらの「普通」がどこにあるか分からないが。「変化の」自がとてもすごい。何、これ……「狐火」も十分、私の知る「魔法」からすると常識外れだったけど、これはもっととんでもない。
幻ではなくて、が変わっている? 琥珀の頭があったはずの位置には人間ののしかなくて、琥珀の頭上を空ぶるはずの位置には髪のと顔がある。
それとも、幻覚を見せた上で、まで錯覚させてる?
エディさんが口にしたように、見えない位置の黒子なんてものまで再現されてるのはすこい。
いずれにせよ、何らかの魔法で同じ事をしようと思ったら、どうやったら出來るのかすら想像も出來ないような技だ。そのものがこんなに大きく変わってしまう方法なんて知らない。
ちょっとした姿を変える魔法は私も知ってるけど……それとも違う。何より、それでは長や格を大きく変えるのは無理だし、出來たとしても見せかけでると分かるようなもので。
何より、今の琥珀のからは何らかの魔法を使ってる気配が全くないのだ。
私が逃走時に化粧などを使って理的な変裝をしたのはそのためだ。ちょっと魔法に詳しい人にはすぐバレてしまうから。
ほっぺたも、琥珀のらかくもちもちとした手りではない。私のとも違う、し固い手りがした。こんな、私が知らなかった事まで再現出來てるなんて、すごい。
「リ、リアナちゃん……琥珀だけど、俺と同じ顔をそうやってられると……ちょっと恥ずかしいな……」
「……?! ご、ごめんなさい!! 琥珀のが長も格変わりすぎて、不思議だなって思ったらつい……」
私は、中が琥珀だからと無遠慮にっていた手を慌てて離した。
そうなのだ。フレドさんなのに。フレドさんと同じ顔で同じ姿の琥珀にべたべたるなんて、私はなんてはしたない真似をしていたんだろう。
真っ赤になる私とフレドさんの橫で、琥珀が不満げな聲を上げた。琥珀の無邪気さが今はありがたい。
「もっと褒めても良いのだぞ。最初の変化で、こうして服まで変えられるのがどれだけすごい事かおぬし達は分かっとらんじゃろ」
「……ちょっと待って?! じゃあ、琥珀の力が足りなかったら……『児用のワンピース姿の俺』に変してたかもしれないって事か?!」
本人にとってはとんでもない問題なのだが……フレドさんのその悲痛なびに、思わず想像しかけてグッとを詰まらせてしまった。
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