俺たちは條件の話し合いをしていた。

第一に、絶対服従を誓うこと。

これは別に奴隷にするわけではない。

要するに、二度と逆らうなということだ。

第二に、ブルートシュヴェルトが実権を握る「ローテス・ラント」の権益について。

現在はロックハート家の下に付いているが、基本的にはその狀態のままだ。

但し、幾つかの資源については、新たに「ローテス・ラント」への供給を始める。

的には石油とウランだ。

今はアメリカから海路での輸送になっているが、輸送費が高くつく。

ヨーロッパになるべく安価に供給したい筆頭の品目なので、直接ドイツにクロピョンに運ばせ、そこから「ローテス・ラント」に任せたい。

卸価格については、ロックハート家の監視下に置く。

第三に戦力の提供だが、これはあまり期待はしない。

しかし、「虎」の軍と共に共闘することは確約させる。

話し合いを続けていると、ドアが開いた。

「レジーナ（王）！」

老人たちが一斉に立ち上がる。

ドア側にいた俺たちも、ただならぬ波をじ、立ち上がって振り向いた。

威厳のある老がそこにいた。

「まさか！　目覚められたのですか！」

「そうだよ。「シューネス・ティア（schones Tier：獣）」が來たんだからね」

俺を真直ぐに見詰めていた。

「久し振りだね、獣。また戦うんだね」

「なんだ？」

「あんたたちも、また一緒なんだね。仲の良いこった」

子どもたちを見て微笑んだ。

「アキーレ、またあんたは綺麗な子になったね」

亜紀ちゃんを見て言った。

「？」

「ルーティアとハーティアもまたいるね。コキーティアはいないのかい？」

今度はルーとハーだ。

「「？」」

またドアが開き、巨大な玉座のような椅子が運ばれる。

老人たちの中心が開けられ、そこにレジーナと呼ばれた老が座った。

老人たちはレジーナが腰かけてから、自分たちも座った。

「１８００年ぶりか。獣はこれまでで一番しいね」

レジーナは老婆だが、非常にしいだった。

皺はあるが、それが気品となっている。

服裝は現代のものではないが、重厚な最高の仕立てのものだと分かった。

豪奢な刺繍が全を覆っている、絢爛なドレスだ。

「一、何者だ？」

俺は正面に座ったレジーナに問う。

「忘れているのも無理はない。獣と１６００年前に一緒に「カルマ」と戦ったんだよ。そこのアキーレたちと一緒にね」

「なんだと？」

俄かには信じられない話だ。

「あの時は「カルマ」じゃなかったけどね。ヤズデギルドという名前だった。でも、獣と一緒に、このブルートシュヴェルトが一緒に戦ったんだ。私は隣に立って戦ったのさね」

「信じられねぇな」

「アザゼルにでも聞けばいい」

「アザゼルだと！」

「そうさね。あの時はアザゼルもやる気になっていた。「の王」を守るためにね」

「……」

再びドアが開き、紅茶が振る舞われた。

俺は雙子を見て、二人が頷いたので口を付けた。

「これほどの客人に茶も出さないとは。本當に失禮した、獣」

「お前は本當に俺のことを知っているのか？」

「もちろんだ。ヤズデギルドが多くの人間を殺して悪魔に捧げ、強大な力をに宿した。東ローマ帝國にいる「の王」を殺すためにね。だからお前が戦った」

「お前はノスフェラトゥだろう。何故俺に味方したんだ？」

「フフフ。お前に惚れたからさ」

「……」

レジーナは俺を見て微笑んだ。

その顔には、何かを懐かしむものが浮かんでいた。

「お前は本當にしかった。今も同じだがな。しく、そして兇暴で恐ろしく強かった。キリスト教を認め、東方教會を公認したことから、東ローマ帝國はヤズデギルドに重い信を置いていた。しかしその正を知っていたお前が、仲間と共に戦い、撃ち滅ぼした」

「……」

「お前はアザゼルが用意した白い馬に乗っていた。私たちは共に戦場へ行き、ヤズデギルドが召喚した悪魔たちと戦った。激しい混戦になったが、お前が道をこじ開け、ヤズデギルドに迫って斃した。凄まじい戦いだったな」

「……」

「タカさんは勝ったんですね！」

亜紀ちゃんがんだ。

「そうだ。だが激しい戦いであったため、獣も深く傷ついた。戦いの後、まもなくして死んだ」

「「「！」」」

話を聞いているうちに、俺の中で何かが反応しているのをじ始めた。

レジーナの話を俺の深い所の何かが正しいのだと訴えていた。

「フフフ、もう昔話も甚だしい。これくらいでいいだろう。信じなくても構わない。ただ、今回も我々が協力することは約束する。年を経て、我らも変わってしまったところもある。１６００年も過ぎたのだ。多の変節は許せ」

「何を協力すると言うんだ？」

「持てる全てを。まれる全てを。我々の全てを使え」

「また信じられんな」

「気位が高いのは生まれつきだ」

俺は笑った。

「何しろ、人間よりも余程優れているのだからな。だが、人間の中には我々を超える者がいることも知っている。そういう者は皆、君臨する王だ。我らは、王に従う」

「さっき、お前たちの最大戦力を潰して來たところなんだがな」

「戦い方は一つではない。我らは妖魔とも戦える」

「あのの刀ででか？」

「そうだ。それに我らは人間よりも遙かに頑丈だ。むざむざと殺されることもない」

「なるほどな」

レジーナは微笑んだ。

老の容姿だったが、その笑顔はしかった。

「それにな、お前との約束がある」

「約束？」

「ヤズデギルドはまた復活するとお前は言った」

「……」

「お前はあの時、何度もあやつと戦って來たと言っておった。だから、お前もまたこの世界に生まれ、再びあやつと戦うのだと言った」

「そうか」

「だから、我が生きて居るうちにお前が生まれたのならば、また共に戦ってしいと言った。我ももちろん約束したのじゃ」

「分かった。じゃあ、また力を貸せ、レジーナ」

「ふん、レジーナはこ奴らが呼ぶ名よ。獣、お前は我を「ルイーサ」と呼べ。それがお前だけの呼び名よ」

「ならば俺のことは「タカトラ」と呼べ。発音しにくいかもしれんがな」

「わかった、タカトラ」

「よろしくな、ルイーサ」

黙っていたマクシミリアンが直していた。

「どうした？」

「おい、ブルートシュヴェルトの首領の名を知ってしまったぞ！」

「なんだよ？」

「レジーナは恐ろしく長い年月、我々には謎の人だったんだ！　姿を見ることはおろか、名を知ることも出來なかった」

「良かったな」

「イシガミ！　これはとんでもないことだぞ！」

まあ、どうでもいい。

老人の一人が言った。

「レジーナはお前たちバチカンなど、どうとも考えてはいなかった。だが、これからイシガミと共に戦うのであれば、バチカンとも共闘しよう」

「お前たちはそれでいいのか！」

「どうということもない。お前たちを好んではいなかったが、特別な何かがあったわけでもない」

「なんだと！」

「お前たちは必死に我らに抗おうとしていた。つまらぬ嫉妬よ」

「！」

バチカンとブルートシュヴェルトは犬猿の仲だ。

最高幹部の老人が他無しと言っているが、そうではないことは分かる。

これから一緒にやって行く上で、「お前たちが嫌いなことは変わらない」と言っているのだ。

別に構わない。

どこの軍隊でも反目や軋轢は付きだ。

まだ今の段階でブルートシュヴェルトや「ローテス・ラント」の運用は分からない。

ただ、ルイーサの権力が絶対であることは分かった。

有能な集団だ。

組織がいのは、優秀であることを示す。

しかも、千數百年もこの組織は続いて來たのだ。

「さて、じゃあ帰るか！」

「タカトラ。詫びにもならないが、あなたがたを歓待したい。どうかこのまま殘って食事を振る舞わせてもらえないか？」

「いいよ、また來るさ」

「そうか。アキーレたちとも話したかったが」

「ああ、こいつは亜紀、それにルーとハーだ」

「分かった。覚えておく」

「それに皇紀という男が同じ兄弟だ。今は日本にいる」

「やはり一緒だったか。コウキだな。他にも懐かしい奴がいそうだな」

「どうでもいいさ。俺たちは同窓會でいるわけじゃねぇ。今の人生を行くだけだ」

「分かっている。今後は昔話はやめておこう」

俺はルイーサに近づいた。

老人たちと護衛がくが、ルイーサが立ち上がって手で制した。

俺はルイーサを抱き締める。

「記憶は無いがな。懐かしい気持ちはあるんだ」

「嬉しい、獣」

ルイーサが俺にを預けて來た。

俺の腰に手を回す。

「じゃあ、これから宜しくな。一緒に戦おう」

「どこまでも、タカトラ」

俺たちは部屋を出た。

雙子が剝製をしがったが、やめとけと言った。