《星の家族:シャルダンによるΩ點―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困する外科醫の愉快な日々ー》「カタ研」 BC兵
9月中旬の木曜日。
「カタ研」全集會。
「では今日は、対ジェヴォーダン防のスパイクの能について話し合いたいと思います」
部長の柳が宣言した。
「ちょっと部長、いいですか?」
「はい、坂上さん」
「その議題もいいんですが、僕は別な攻撃のことも話し合うべきじゃないかと思うんですが」
「別な攻撃ですか?」
ルーとハーと三人で夕べ遅くまで掛かって、スパイクの資料を作っていた亜紀の表が変わる。
「これまで、「業」の既存の戦力、特にジェヴォーダンの脅威に対しての話題が多かったんですけど、僕は一度もっと広範囲の視點で見直してみてもいいんじゃないかと思うんです」
「なるほど」
亜紀が挙手した。
「はい、亜紀ちゃん」
「あの! 理屈は分かるんですけど、今日の議題はスパイクについてでしたよね? 今後話し合うというのはいいとは思うんですが、私たちは喫の事柄について話し合うべきだと思うんです!」
いつになく口調がきつかった。
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「亜紀ちゃん、別にスパイクの話題をやめようというわけじゃ」
「坂上さん。私たちは実際に戦ってるんですよ。敵の戦力の対抗手段がしいんです」
坂上は、まるで自分が遊び半分で楽しんでいると言われたような気がした。
「それは対癥療法だ。効果はあるけど、僕はもっと基礎研究的な視點も持とうと言ってるんだよ」
亜紀もが高まった。
「坂上さん! ジェヴォーダンは強力なんです。ルーとハーが死に掛けたんですよ!」
「分かっているよ。でもね……」
「坂上さんは何も分かって無い!」
「僕だって一生懸命に考えているんだ!」
「何をですか! じゃあ言って下さいよ!」
「た、例えばBC兵とか……」
「なんですか、それ?」
他のメンバーは、亜紀が的になり過ぎていることで困した。
これまで主に意見を出している亜紀と坂上が衝突することもあった。
だが、ここまで的に対立したことはない。
「亜紀ちゃん、ちょっと落ち著いて」
「亜紀ちゃん、坂上さんに言い過ぎだよ」
「何よ、あんたたちまで!」
「ここは自由に話す場所だよ。ちょっと落ち著いて坂上さんの話も聞いてみようよ」
「夕べ、あんなに頑張って資料を作ったじゃない!」
そこが亜紀の怒りの発端だった。
自分程真面目にこの「カタ研」に関わっている人間はいないと思っていた。
「私はタカさんのために、有用なことをしたいのよ!」
「みんなそうだよ。亜紀ちゃんだけじゃない」
亜紀は「自分が一番」だと思っていた。
柳やルーとハーも同じだとは思っていたが、それでも自分が一番考えていると思いたかった。
言い爭っている雰囲気を察し、ササミを食べ終えたロボが立ち上がって亜紀を宥めようとした。
優しいロボは、家族が喧嘩していると仲裁にることがある。
らないことも多いが。
ロボが亜紀の膝に前足を乗せて「ニャー」と鳴いた。
カワイイ。
「ロボは邪魔!」
亜紀に前足をどかされた。
「!」
頭に來たロボは払われた前足で「ハリケーン七獄流星拳」を柳に打った。
柳が吹っ飛ぶ。
「なんでよぉーーー!」
床に正座してポテトチップスを食べていたパレボレが立ち上がり、亜紀の隣に來た。
「今のは亜紀さんが悪いです」
「なんだとぉー!」
「落ち著いて下さい。毆るのなら、僕を毆って下さい」
「おお!」
もちろんボコボコにされた。
首がヘンな方向へ曲がっていたが、雙子が「手品ですよー」と言いながらグキっと直した。
「アキさん」
ジョナサンが立ち上がり、亜紀を見た。
亜紀はがかせなくなったことに気付いた。
ジョナサンのPK能力だろう。
本気を出せば拘束から逃れられるが、そうすればこの場が滅茶苦茶になる。
「わ、私は……タカさんのために早く役立ちたいの。だから出來ることは全部すぐにやりたいのよ」
「分かってるよ、亜紀ちゃん」
「だからみんなでやって行こうよ」
亜紀のその気持ちは全員が分かっている。
亜紀が真剣に石神のことを考えていることも知っている。
「亜紀ちゃん、まずは坂上君の話を聞いてみようよ。そういうことは大事だよ」
上坂が亜紀を宥めた。
ようやく亜紀が沈靜化してきた。
「はい、すみませんでした。坂上さん、本當にすみません。言い過ぎなんて言葉じゃ済まない酷いことを言ってしまいました」
「いいんだよ。僕も悪かった。折角亜紀ちゃんたちが用意した議題なのに、橫車をれてしまった。ごめんね」
「こちらこそ! あの、良かったら坂上さんの意見を聞かせて下さい!」
「ありがとう」
みんなが拍手をし、柳は雙子に「手かざし」をされ、椅子に戻った。
パレボレは床に転がったままだ。
雙子が気を遣ってコーヒーを淹れてみんなに配った。
「偉そうなことを言って申し訳ないんだけど、あまり大したことはまだ考えていないんだ。でも、対癥療法だけでは行き詰ってしまう。「業」はもしかしたら、まだ戦力と言うか、戦い方を隠している可能もあると思うんだ」
「それは確かに!」
坂上の言葉に、亜紀が同意した。
本當に申し訳なかったと思っている。
「これまで、今回のジェヴォーダンもそうでしたけど、「業」は私たちが思いも寄らない方法で攻撃してきました! そうだった! 坂上さん、ありがとう!」
亜紀に褒められ、坂上も照れた。
「あの、現代戦ではBC兵は使用が難しいよね。非人道的であることが最大の理由だけど、運用も味方まで影響しやすいから難しい。でも、「業」ならばそのハードルは無いと思ったんだ」
「なるほど!」
メンバーが全員で拍手をする。
「「デミウルゴス」はその一手段だと思うんだけど、果たしてああいうものだけかな?」
「「業」の薬は、人間を妖魔化するために開発されているよね?」
「あと、洗脳かぁ」
「レイがやられたものだね!」
亜紀たちの顔が多獰猛になる。
「要は、人間をコントロールするものってこと?」
「そうだね」
坂上が言った。
「ねぇ、そこをもっと拡げて考えてみないか? 本來の生兵なり化學兵の考え方でさ。「業」は人間を滅ぼそうとしているんだろう?」
「「「「!」」」」
坂上の意見に亜紀と雙子、柳が驚いた。
「だったらさ。人間を滅ぼすウイルスなり化學……」
亜紀が立ち上がって坂上の手を握った。
「坂上さん! 凄いよ! それは十分に考えられますよ!」
「洗脳って、自分の意志を消すものだよね。でも、能力は殘すってもので」
「そこを無視して、殺すものだけならもっと簡単に出來るよね!」
「「渋谷HELL」では、変して兇暴化してた。でも、もしも妖魔がらなくても兇暴化することが出來たら!」
亜紀たちがある記憶に辿り著いた。
「チェルノブイリの近くの村!」
「謎の兇暴化細菌!」
「あれを「業」が手にれただろうってタカさんが言ってた!」
話が見えない他のメンバーのために、柳が説明した。
チェルノブイリ原発事故の影響で、近くの村で奇病が発生したこと。
染した人間は狂暴化して、恐ろしい力を振るって他の人間を襲ったこと。
ソ連はそれを隠ぺいして村を隔離して全員を殺したこと。
サンプルとして保管されていたウイルスか細菌があり、それを「業」が手にれただろうこと。
幾つか推論の域を出ないが、確信していることだった。
「妖魔を人間に取り込むためのものだと限定していたよ!」
「そうじゃない可能背も十分にあるよね?」
「あんなものを撒かれたら、大変なことになるね!」
「坂上さん! 凄いことを発見したよ! お祝いだぁ!」
亜紀たちが前に出た。
顔を背けている柳が亜紀に手を引かれた。
「じゃあ! 祝いの「ヒモダンス」! やるよ!」
四人で踴った。
《ヒモ! ヒモ! タンポンポポポン!……》
みんなが笑い、みんなも前に出て一緒に踴った。
《ヒモ! ヒモ! タンポンポポポン!……》
ブレイクスルーが起きた。
パレボレは床に転がっていた。
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