《星の家族:シャルダンによるΩ點―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困する外科醫の愉快な日々ー》KYOKO DREAMIN XⅢ
「やはりここにも來ましたね」
バチカン市國サン・ピエトロ大聖堂。
「虎騎士団(Tigers Ritter)」団長マクシミリアン・ヘルガーは目を輝かせて、向かってくるジェヴォーダンとバイオノイドの戦列を眺めていた。
「準備はいいな」
「もちろんです!」
副団長のシュナイダーは意気軒昂に答えた。
「「虎」の軍から事前に報はもらっていましたが、本當にその通りで驚いています」
「今は「虎」の軍ほど「カルマ」の報を持っている機関は無い。イシガミはいつもながらに見事な差配をする」
「はい。イシガミとは団長は親しいのですよね?」
「昔日本で出會った。あいつは俺の目の前で「ブルートシュヴェルト」を瞬く間に制圧して見せた。痛快だったぞ」
「古來から敵対していたブルートシュヴェルトと共闘する切っ掛けは、その時からだと」
「そうだ。伝説のレジーナまで出て來てな。そういう話になった。それが半日も掛からないで決まったのだからな!」
何度聞いても楽しい話だとシュナイダーは思った。
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それに、この話題になると、マクシミリアンの機嫌が最高に良くなる。
「私が最も敬するのは教皇猊下だ。だが、最も大好きなのはイシガミだ」
「ワハハハハハハ!」
「あいつと共にいるのは楽しい。あいつの話、あいつの行、あいつの沈黙すら楽しい。一瞬がすべて面白い男だ」
「いいですね」
「そして、私の全てを捧げるのは、「の王」だ」
「はい」
各配置から、いつでも出撃命令を待つと連絡がった。
「教皇猊下は?」
「いつも通り。只今はお茶の時間ですね」
「やはり避難なされなかったか」
「団長を信頼しておられるのですよ」
「イシガミもな」
「はい!」
スクリーンに敵勢力の報が映し出される。
ジェヴォーダン130、バイオノイド210、
「そろそろですね」
「虎」の軍の設置した戦闘量子コンピューターが映し出すスクリーンに、バチカン市國外周にジェヴォーダンたちが集結したのが見える。
「あ! やっぱり出ましたよ!」
「あの人たちは命令など聞かないからな」
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「仕方無いですねぇ、イシガミ・フェヒター(Ishigami Fechter:石神の剣士)は」
「今回は30人を借りている。まあ、ほとんどはあの人たちがやるんだろうな」
「掃除が大変ですね!」
「ワハハハハハハ!」
スクリーンではジェヴォーダンたちに襲い掛かる袴姿の日本人たちが映されていた。
全員が高出力型「カサンドラ」の《レーヴァテイン》を持っている。
長大な10メートルにも及ぶプラズマの刀で、次々と敵を屠って行った。
「我々も出るか」
「あの勢いだと、超妖魔が出て來るのも早いでしょうね」
「それは我々の仕事だ。悪魔を滅するのが我々の使命だ」
「はい!」
マクシミリアンは石神が自分専用に調整してくれた《スルトミリアン》を手にした。
部屋の外の廊下で待機していた「虎騎士団」の鋭が敬禮を捧げる。
「聖戦だ! 悪魔共を絶やしにするぞ!」
怒號の歓聲が沸き、マクシミリアンを先頭に100人の騎士たちが続いた。
白い巨大な戦闘バイク「スレイプニール」にり、戦場となっているバチカン市國周縁に向かった。
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途中で散見されたバイオノイドは「スレイプニール」に搭載された荷電粒子砲によって殲滅された。
「現代で騎兵戦が出來るとは思いませんでしたね!」
「これもイシガミのおだ! 騎士たる者は騎馬で戦わねば面目が立たんとな!」
「アハハハハハ!」
「まあ、あいつが子どもの頃にバイクで暴れ回っていたそうだからな。著があるらしい」
「そういえば「クリムゾン・リッカ」軍団もバイクらしいですね」
「ああ、「虎」の軍の最強部隊の一つだな。軍団長は世界最高のらしいぞ」
「「虎」の軍の募集でタイガーレディ・リッカがポスターになったら、凄い応募があったらしいですね」
「お前、詳しいな!」
「私もファンなんです」
マクシミリアンが大笑いした。
戦場ではまだイシガミ・フェヒターが暴れ回っていた。
「カサンドラ」や「レーヴァテイン」は、剣技を駆使することが出來た。
妖魔を斬ることが出來るイシガミ・フェヒターの特殊な剣技が「レーヴァテイン」で再現出來、それが膨大な敵、強大な敵を撃破する要となっている。
一部のイシガミ・フェヒターは、「レーヴァテイン」のクールタイムの間、刀を使っていた。
現代兵の銃火が通じないジェヴォーダン相手に、刀で戦い勝利しているのを見て、マクシミリアンたちは驚愕する。
一人の男が手を振っていた。
「よう、マクシミリアン!」
「コハク、お前も出ていたのか」
「たりめぇだ! 當主の命令だからな!」
「お前、年を考えろ」
「バカ言うな! こんな楽しい場所で死ねるのなら最高だろう!」
「お前たちは理解出來ん」
そう言いながら、マクシミリアンは笑いながら「スレイプニール」を降りて虎白の隣に立った。
「ほとんど終わりそうだな」
「ああ。じゃあ、いよいよ金か」
「ナリキン?」
「將棋だよ! 裏返って以前より強くなるのさ!」
「ああ、なるほど」
虎白たちも、死んだ敵から強力な妖魔が生まれることがあるのを知っている。
全員がその気配をじていた。
同時にマクシミリアンに通信がった。
「チャンピーノの森林地帯から3000萬の妖魔出現! 直進して來ます!」
「!」
「「虎」の軍から電! 《デスキング》がパリから來ます!」
「なんだと!」
マクシミリアンは全軍に命じた。
「イシガミ・フェヒター! 妖魔を各個撃破!」
全員が進軍する。
「コハクさん、もうちょっと付き合って頂けますか?」
「もちろんだぁ!」
虎白に命じられる前に、石神家の剣士たちは新たな敵勢力に突っ込んで行った。
マクシミリアンは大笑いした。
「あの人たちは何も命ずる必要はないな」
「そうですねぇ」
マクシミリアンも笑いながら「スルトミリアン」を抜いて妖魔軍に向かった。
地を覆うほどの大軍団は見る間に數を減らして行った。
機力のある「イシガミ・フェヒター」が妖魔軍の左右にとりつき、「レーヴァテイン」を1キロまでばして駆逐していく。
石神家の剣士たちは思うままに中央に突し、次第に大を空けて行った。
「《デスキング》! 來ます!」
仲間の認識コードを信し、高空に士王が來たことが知らされた。
「全軍退避!」
マクシミリアンの號令で、イシガミ・フェヒターたちが妖魔軍から離れる。
石神家の剣士たちも自然に離れた。
高空から紫の螺旋のが地上に撃ち込まれた。
數キロの直徑のが、妖魔軍を覆い、地上が弾け飛んだ。
「「テンライカ(天雷華)」だな」
「初めて見ました!」
地上に、長185センチの鍛え上げた軀の青年が降りて來る。
長髪に緩くウェーブがかかり、丈夫の青年だった。
「ヘルガー騎士団長ですね」
「マクシミリアンと呼んでくれ。君がシオウか」
「はい。父に命じられて來ました」
「イシガミによく似ているな」
「ありがとうございます」
士王が笑い、その笑顔も石神にそっくりだと思った。
「さて、何か出て來るかな」
「必ず。妖魔の増援の報を聞いて、父が確信しています」
石神家の剣士たちも來た。
「よう! 士王!」
「虎白さん! お久し振りです!」
「まだ生きてんだよ!」
「アハハハハハ!」
他の剣士たちも士王を囲んで親しく話していた。
戦場の空気が変わった。
全員が一つの方向を向いた。
黒い瘴気が集まり、長2メートル半の何かが生まれた。
「お、意外と小さいな」
「そうですね」
鋼鉄のようなだが、骨組みのような構だった。
40センチほどのスパイクに覆われ、頭部はパイロンを橫にしたような形で、尖った先端に牙の集した口のようなものがある。
右手にはスパイクを並べた弓のようなものを持っていた。
「スピードタイプか」
虎白が言った。
「そうですね。あのスパイクを打ち出すってじですか」
「誰が行く?」
「え、みんなでやるんじゃ?」
「お前! 分かってんな!」
そう言いながら、虎白と士王、マクシミリアンとが怪に向かった。
狀況によっては、他の人間も応援に出るということは、全員が心得ていた。
強力な超妖魔には単純な人海戦は犠牲を増やすばかりだ。
士王が言った「みんな」とは、初見で対応できる人間たちという意味があった。
50メートルまで近づいた時、怪は高速移しながら、何かを打ち出して來た。
虎白が日本刀で払い、他の二人も回避した。
「なんだ? 俺一人で良かった?」
「虎白さん、喰らってますよ」
「ん?」
虎白の右に、直徑5ミリ長さ30センチ程の針が刺さっていた。
「ああ! 俺が老眼なのを知ってやがったかぁ!」
「大丈夫ですか?」
「問題ねぇ!」
士王が前に出て、怪に向かった。
お互いに高速移をしながら距離をめて行く。
虎白とマクシミリアンも左右から怪に迫った。
士王が「槍雷」を放った。
軌道を予測し、怪の腹部に命中する。
怪の骨格のようなものをし削ったが、きに変化は無かった。
士王がもう一度「槍雷」を撃つ。
怪はまたそれを喰らった。
右足が四散した。
「士王! お前も汚い戦い方を知ってるな!」
「アハハハハハ! 仇は討ちましたよ!」
一度目は効果のない程度の威力で。
それに安心させ、二度目は高出力の威力で放った。
けなくなった怪に、三人が一斉に襲い掛かる。
士王は頭部に「オロチストライク」を。
虎白は腹部に「レーヴァテイン」を。
マクシミリアンは部に「スルトミリアン」を。
士王の攻撃がレジストされた。
「士王! てめぇ! 半端なことをすんじゃねぇ!」
「すみません!」
しかし、他の二人の攻撃もほとんど効果は無かった。
切り裂かれた骨格はすぐに再生する。
士王が破壊した右足も再生していた。
同時に怪が高速移し、またスパイクを撃ち込んで來る。
「ちょっとい奴だな」
「面倒ですね」
士王が空中に飛んだ。
怪の直上に迫り、右手の人差し指を向けた。
指先から何かの糸のような線がび、怪の頭部に當たった。
頭部が崩れ、互いに激しい電を結びながら崩壊していく。
その下の部も腹部も両手両足も同様の現象で崩壊した。
怪の破片が地面に散らばり、やがて細かな末となって消えた。
「あんだよ、今のは?」
「父の「龍牙」を改変しました。名前はありませんが」
「付けろよ」
「必要です?」
「カッコイイだろう! 俺らの奧義もみんな一生懸命考えて付けてんだ」
「そうですか」
マクシミリアンが大笑いした。
「なんだかよく分からないうちに終わったな」
「俺ら、結構斬ったぜ?」
「そうだな。禮金はちゃんと用意するよ」
「それとよ。余ってる洋剣もくれねぇか?」
「分かった、用意する」
虎白は満足そうに笑った。
「じゃあ、宴會だな!」
「俺はこれで帰りますよ」
「なんだよ、士王! お前も付き合えよ!」
「彼を待たせてるんで」
「あんだと?」
「最近知り合った子で、いいじになってたとこだったんですよ」
「けっ! お前はまったく高虎の子だな! あいつみてぇにあちこちで子どもを産ませんじゃねぇぞ!」
「アハハハハハ!」
みんなで笑っていた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
(士王ちゃん以外は知らない人ばっかだったなー)
響子は今観た夢を思い返していた。
(でも、なんかみんな余裕だった。これまでは危なくて、死んじゃった人もいるけど)
戦闘を楽しんでいる場面さえあった。
特に士王の力は圧倒的だった。
(なんだろう。何かが変わった? 全然負ける気がしなかった)
「レイ」
響子はまだ薄暗い空間に向かって呼び掛けた。
響子にだけ見える、大きな虎が枕元に顔を乗せて來た。
響子は嬉しそうにその広い額をでた。
「ねぇ、何か未來が変わって來たように思うの? どうなのかなー」
虎は口を開けた。
吼えはしない。
「そうなんだ。やっぱりね。タカトラがまた大きな試練を乗り越えたからなんだね」
虎は響子の顔を優しく舐めた。
響子が喜ぶ。
「タカトラ、がんばって!」
響子はまた目を閉じて眠った。
虎は一瞬、しいの姿になり、響子の額を優しくでた。
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