《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》2022・2023年ぎ記念【アレフ・プレイ・ゲームその2・グレン・ウォーカーの悲

「ワタシは無力だ。何度やってもキミを救うことが出來ない……」

紅い髪のショートボブ、そこから跳ねて一房わかられたサイドテール。白よりもよりも白い、雪が塗されたような白いまつ、白い

およそ素のないその容姿はまるで、伽噺に出てくる妖か何かのような常軌を逸した。白の中に浮かび上がるように存在する紅い瞳は、視界にると一瞬、固まってしまいそうになる怪しい魅力を放つ。

「もう! ワタシ、は! ワタシは、うわあおあああああ!!」

そんな弩級のが、喚きながら四つん這いになって倒れ伏す。

味山は彼のホットパンツやタイツに包まれた腳に目が行かないように目を瞑りながらうんうんと頷いた。

「クラーク……わかるよ、その無力……」

完璧に沼にはまったソフィに味山が聲を。

あれからまた1時間。なんやかんやでプレイを進め完全に"推しがすぐ死ぬループ"、通稱、"推死"と呼ばれる狀態にソフィは陥っていた。

「だめだ、だめだよ、アジヤマ。ワタシは、ダメなやつなんだ。……ワタシのことを友達と言ってくれた彼の死を何度……あと何度彼を見送ればいいんだい? ニルンを、死なせているのはワタシなのでは……?」

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「わかるよ、クラーク。でもな、お前は知ってるはずだ。人間、結局大切なものを本気で守りたいなら戦うしかねえってことを。みろよ、お前はまだ、コントローラーを投げ捨ててもいない!」

「ぐ、うううう!」

そう、ソフィはコントローラ―だけは手放していない。白い新雪で出來た彫像のような貌を苦悶に歪めながらも未だ、その目はゲーム畫面を睨みつけている。

「あ、あのー。タダ? センセ?」

「そうだ、ワタシは、まだ諦めるわけにはいかないんだ!」

「おい、クラーク? このイベント……なんか、新しい分岐してねえか?」

「な、な、なんだって……!? これは、まさか……! そうか、王都の図書館、書!? おい! アジヤマ! この本に書かれてある容! あの村の古老の話とは違うぞ! 異神の魂の依代を、その役割から解き放つ伝承が載っている! あの村のジジイ! このワタシを騙したのか!?」

「……これは、見たことない分岐だな……。この古砦のイベントで書庫の話なんてwikiでも見たことねえ……この化け神鬱ダークファンタジーオープンワールドゲーム。周回要素あるんだが、発売から3ヶ月経った今も、100%クリアした奴はいないんじゃないかって噂が……」

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「おーい、気付いてー、帰ってきたっすよー……」

「上等だ! このワタシ、ソフィ・M・クラーク! "史"の名にかけて! この世界の謎を解き明かしてみせよう! アジヤマ! ついてこれるかな?」

「ぎゃはは。誰に言ってんだぁ? 俺はもうこのゲーム7週目なんだぜ? ……まあ、どれも多分、バッドエンドというかビターエンドというか、みたいな終わり方だったけども」

「あのー!! お2人さん! そろそろこっちの存在に気づいてもらえませんかねえ!!」

「「うおっ」」

背後から響いた大きな聲。頭の悪いバカと頭のいいバカが同時に振り返る。

「よーやく気付いたんすか。もー、何してんすか? こんな部屋真っ暗にしてよー。シアタールームで飲み會するんでしょ? ほら、部屋明るくして準備するっすよ?」

ぱちり。彼が、部屋の電気をつけつつ、酒やらをテーブルに置きながらぼやく。

グレン・ウォーカー。アレフチームのメンバー、アレフ3にして、ソフィの補佐探索者である男。

のミドルヘアに褐、水の瞳のイケメンマッチョがそこにいる。服の上からでも隆起した筋の凹凸が分かる、理想的なの持ち主。

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「グレン、か。あれ、アレタはどうしたんだい? 買い出し一緒に行ってきたんだろう?」

「ああ、途中でスカイ・ルーンさんに會って、しなんか用事があるって言って別れたんすよ。買い出しの荷だけけ取ってるっすから。まあまだ飲み會までは時間あるし……って、2人とも聞いてます?」

「どうする……? アジヤマ」

ソフィがグレンの言葉にし正気に戻りつつあるらしい。

それを見た味山はーー

「……クラーク、俺はお前に強制したりはしない。でも、一言だけ。……あの子が復活した異神を抑え込み、依代として、お前と世界を守る為に消えた時、なんて言った?」

まだソフィを正気に戻す気はなかった。ライフ・フィールドにどハマりした味山は今回をきっかけに、チーム全員を沼に引き摺り込む気でいるのだ。

「……"誇ってくれ、あなたの友人として最高にカッコいい選択をするアタシを"って」

故に、その無駄にある演技力を稼働させ、ゲームの中で散ったソフィの推しキャラ、"ニルン・ノエル"のセリフを巧みに引用しつつ、ペースを握る。

「ずび……クラーク、今のお前、カッコいいか? 飲み會の準備に追われて、自ら、今、運命を切り開くチャンスを一時中斷するその姿は、本當に……」

「ソフィ・M・クラーク、探索を続行する」

「流石クラーク」

ソフィと味山が同時に指をパチリと鳴らす。音センサーがその音を拾い、再び部屋の照明を落とした。

「ええ……ちょ、また電気消すし……もう、2人ともなーにをそんな真剣にやってるんすか? ビデオゲーム?」

「ウオオオオオオオオ!! ワタシはもう2度と負けない! アジヤマ! 古を使わせてもらうよ!」

「ぶちかませ! クラーク! ……グレン、すまん。見ての通りだ。今、クラークは探索者としてではなく、冒険者として自分の人生に向き合っていてだな」

「ええ……珍しいっすね。センセ、インドアの癖にビデオゲームとかやらないタイプですし。でも、ふーん。おお、すげえ迫力。綺麗な映像っすねー。これジャンルはアクションっすか?」

「あれ? グレン、お前結構イケる口か?」

「あー、まあガキの頃にチョロチョロと。でも、大人になってからはめっきりっすねー。こうなんていうんすか? 電源つけるのがめんどくさくなっちゃって。へえ、でも、最近のアクションゲームすげえなぁ」

「いや、サードパーソンアクションRPG生活・・経営シュミレーションダークファンタジーオープンワールドだ」

「……なんて?」

「だから、このゲームのジャンル。サードパーソンアクションRPG生活・・経営・戦略・育シュミレーションダークファンタジーオープンワールドだ」

「2回言われても分かんねえんすけど!?」

真顔の味山に、グレンが目を見開いてぶ。味山の目に曇りは一切ない。故にグレンにはより胡散臭く見えた。

「ア、アジヤマ、み、見て! 見て! これ、これえええ!」

「お! おお!? 待て待て待て待て。このイベント分岐見たことねえ! もしかしてこれ、"古・拡がる白き霧"を使えば、異神の魂とニルンの魂のつながりを斷ち切れるんじゃねえか!?」

「それだ! アジヤマ! あの村のクソジジイ!! 何が古の力は異神には通用しないだ! ……いや、待て。萬難を廃したい。三つ子の月が次の満月になるまで時間はまだある……アジヤマ、これ、この書庫の知識がある狀態で村にいくとどうなるんだい?」

「わかんねえ。だが、行くしかねえだろ。”この――」

「”この冒険にたった一つのやり方など存在しない”。TGS2027の発売日決定告知トレーラーの言葉だね。すでにゲームをプレイしつつ、ライフ・フィールドの報収集は進めている」

「さすがクラーク」

その高スペックを恐らくものすごい無駄使いしている指定探索者、そしてそれを指摘するはずもないバカが一人。

「な、なんすか。かつてないほどセンセイがバカになってる気がする。なんてゲームだ……」

「ライフ。フィールドだ」

「いやもうそれは聞いたっすよ。ジャンルが……ゲームでもあるんすか?」

「ーーグレン、興味があるか?」

「え、いや、まあ。昔、そういうゲームしてみたかったんすけど、なんかちょっと恥ずかしくて結局やってなかったなって。まあ、今更なんすけど」

「グレン。何かを始めることに遅いことってなんもねえんだよ」

「え、タダ?」

「俺はつくづく考える。人生ってやつは意地が悪いよな。ぼーっと生きてるだけじゃどんどん辛くなっていくくせに、楽しくなんて一切なんねえ」

「お、まあ、確かに」

「だからな、俺たちは生きていく中でどんなに毎日忙しくても、だるくて辛くても楽しそうなことを探し続けないといけないんだ。今、お前はそれに出會っているのかもしれない」

「あ、あーでも、今、ほらセンセイが――」

「ぬあああああああ、外なる神よ! 異神二アルテートよ! 貴様はそういうシステムなのだろう! 貴様には悪気すらないのだろう! だが! しかし! ワタシは貴様の存在を容認できない! ワタシはワタシの願いの為に! ワタシの友人の未來のために! 彼なしで貴様を斃す!」

コントローラーを握りしめ、エナジードリンクをストローで吸い上げながらソフィが畫面に向かってぶ。その聲量は昨日の探索で怪へ向けていたものより數倍大きいものだった。

「ほら、なんか今、センセイからあのコントローラー取り上げるの、怪種の巣から卵を盜むよりも難しいっすよ」

「グレン」

「え、これは」

味山が差し出したのは、スマホ型の探索者端末、その畫面にはすでにあるアプリが起されてあり――。

「ライフ・フィールドアプリ・ユア・ライフ」

「へ? アプリ?」

「ああ。ライフ・フィールドの本編主人公、”リトゥ・イル・ソリトス”とは違う視點、一人のモブとして本編ほどじゃないがある程度ライフ・フィールドの世界を楽しめる連攜アプリなんだ」

「は、はあ」

「このアプリではライフ・フィールドの世界の主要都市を舞臺にある神の謎を解き明かすのがメインストーリーなんだが、グレン、お前におすすめしたいのはミニゲーム、本編のおまけ要素の方だ」

「おまけ? んーでも、タダ。いうなればこれあのゲームの本編ではないんすよね? おまけのおまけってあんま、俺」

「歓楽街のキャバクラみたいな店で、キャストのの子とのギャルゲーが楽しめる」

「詳しく」

グレンがバカの餌に食いついた。

「――そのままさ、グレン。このゲームでは本編と同じく數多の魅力あるキャラクターが存在する。そのキャラクターとは仲間になったり、友人になったり、人になったり結婚することもできる。このアプリはその中でもこの世界の街に重きを置いたゲームでな。人間が集まる街には楽しい夜のお店が出來るだろ? それを楽しめるんだよ」

「む、むむむ、でも、こういうのって選択肢とか分岐が決まっていて」

「全てのキャラにAI人格が設定されて同じ反応とか一切ないぞ」

「へ」

「キャラ一人一人に人格AIがいる。ゲームの設定に沿った思考、背景、格のもとに會話のけ答えとか行を決めるんだ。食べの好みとか信條とか信仰の違いとかな。だから仲良くなる時もまずそのキャラのことを知っていろいろ考えねえと好度が全然稼げないかなりシビアなギャルゲーだ」

「面白そう、っすね。それ、やばいんじゃ」

「おお、やばいぞ」

淡々と味山がグレンの言葉に返事をしていく。もう、時間の問題だ。

「まだだ! 選択はまだある! ニルン! もう君が消えることはないんだ! 書區で手にれた資料にあった! 異神よ! 貴様は狡猾だった! 貴様は人間をよく知っていた! 世代を重ねる人間の強さを逆手にとり! 間違った言い伝えを眷屬を用いることで伝えることで、己の復活を邪魔する人間を遠ざけ続けた! だが、あえて言おう! 神風が! 人間から! 真理と謎を解明することが快楽である我々人間から真実を遠ざけることは出來ない! ”古(アンティーク)・拡がる白き霧”! そうだ! 1000年間の匿戦爭において貴様を殺したなる神のした力! 今、ここに! 神殺しをワタシが為す!」

ゲームを心から楽しんでいるソフィを眺めるグレン。

もう、味山は確信している。

「じゃあ、まあ、ちょっとだけ」

勝った、と。

「な、なんすか、タダ。言っとくけど、俺、割とこーゆーゲームにはうるさいし、ゲームと現実は別って割り切ってる人間っすからね。センセイのあれは、普段そういうフィクションに慣れてない人間が、免疫がない人間が陥るあれっすから」

◇◇◇◇

「ぬあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。エレシアちゃああああああああああああああああああああああん!!! なんでえええええええええええ、なんで死、ダメだダメだ死ぬな! 死ぬなああああああああああああああ! なんで、ようやく、キミの夢がかなうって……あの村から街に出てきて、華姫として頑張ってさあ! お金貯めて、故郷に殘してきた家族に楽をさせてやるってさあ、あああああ! 誰だあああああああああああああああ、こんないい子を、どうしてええええええええええええええええええええええええ」

「知ってた」

スマホ型端末を握ったままぶグレン。

うんうんと頷く味山が仕事の手応えをじた。

「タダ、俺、おれえええ、どうすれば……エレシアちゃんが、エレシアちゃんが冷たくなっていくのを俺は見ているだけで……なんで、俺は見ていることしか出來ないんすか? 俺は、弱い……!」

「わかるよ、グレン」

「せ、センセイ?」

慟哭の中にいるグレンに聲をかけたのはソフィだった。

泣き腫らした目をすっと細めるその笑いはなにかをし遂げた人間の目だ。

すっと、味山とグレンが畫面に視線を向けて。

『ええ、ありがとう。アタシ、嬉しいよ、アンタとまたこうして一緒に冒険出來るなんて。もうさ、二度と死んでいいとか言わない。自分が犠牲になればとか、そういうのはもう二度と。だって、アンタがくれた命だもん、アタシはあんたのくれたこの命を大事に抱えて生きていくって決めたよ。だから、その――』

畫面にはソフィがやり遂げた報酬の景が。

『これからも、末永くよろしくね!』

「こ、れは」

グレンが言葉を詰まらせて。

「ワタシは諦めなかった。ワタシは進んだ。グレン、わかるよ、今君は深海の泥よりも濃く、重たい絶の底にいるんだろう。推しの死は本當に苦しいからね」

「せ、センセイ、俺、俺はあああ、でも、エレシアちゃんが苦しんでるときに、泣いてるときに傍にいてやることすヴぁー―」

「グレン・ウォーカー。よく聞け、キミは彼から何をもらった?」

地面に伏せていたグレンの倉をソフィがつかみ、ぐいっと引き上げる。その紅い眼が炎の郭のごとく揺れて。

「お、れが、もらったもの?」

「そうだ、それを數えろ、それを噛み締めろ。それは君が彼からもらったものだ。キミはこのまま、それを何一つ返さずにあきらめるのか?」

「お、れは――」

「速やかに立ち上がれ、グレン・ウォーカー。キミがこのワタシ、ソフィ・М・クラークの補佐足り得るのなら、キミは彼から借りた借りを。そして君から彼を奪ったくそったれの悲劇と世界から貸しを取り戻す必要がある」

「あ。ああ、でも、このアプリ版だと、もうエレシアちゃんは――」

「引継ぎ連攜機能」

「えっ」

壁にをよりかけた味山が呟く。右手にアプリのった探索者端末を。

「ライフ・フィールドの數ある神機能のひとつ。アプリ版やPC版でのデータを本編に引き継いだり、連攜することで特別な特典が得られる。グレン、エレシアを救いたいのなら、お前にはまだ方法が殘っている」

そして左手には本編。コンシュマー版のコントローラーを。

「あ、あああ」

「”悲劇に立ち向かうのは君と私”」

味山がライフ・フィールドの発売3日目に突如公開されたTVCMのキャッチコピーを呟きながらコントローラーを差し出す。

「”最後に君と、笑い合っていたいから”」

ぷしゅっ。ソフィがエナジードリンクのプルタブを開栓し、ストローを刺してグレンに差し出す。

その言葉は発売4日目、ゲームスレの住人たちがライフ・フィールドがキャラロス前提の鬼難易度ゲームだと気づき、數々のプレイヤーが推死により苦しんでいるところに公式より投下された、各キャラのハッピーエンドの映像をチラ見せする形のPVの最後のセリフ。

「俺は、俺は――いや、俺が」

グレン・ウォーカーが仲間から差し出されたものをうけとり――。

「俺が彼を幸せにしてみせる!!!!!」

グレンが、ゲームを開始した。

味山とソフィがハイタッチした後、クッションを引っ張ってそれぞれグレンの両隣に座った。

「上級探索者! グレン・ウォーカー! 探索開始!」

アレフチーム・ライフ・フィールド沼生存者、殘り1名。

今年も宜しくお願いします。

凡人探索者の書籍版、今年発売予定! お楽しみに!

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