《7 Start》

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佐藤真城さとうましろ…

…19時41分

マンションの一室

202號室ニイマルニゴウシツの鍵を開けた僕は獨り言を呟く

「ただいま」

返事は返ってこない

いつもは點いてる部屋の明かりも今は消えている

玄関の靴置き場を見ると

家族は皆みんな出かけているようだった

僕の家は五人家族で

會社員をしている父と

パートで働いている母と

大學1年生の姉が一人と

中學3年生の弟が一人居る

家族仲は良好で、たまに喧嘩をしたりもするが

平凡で平和な暮らしを送れていると思う

僕は玄関で靴をいでから、リビングに向かう

リビングの電気を點けると木製のテーブルの上に

白い紙を見つけた

紙には

「旅に出ます探さないでください」と

まるで家出でもするかのような、文字が書いてあった

この字の書き方は母親のものだろう

うちの母はたまに

こう言うおちゃめな置き手紙をしたりする

昔はこのような手紙を見て

本當に家出をしたのではないかと焦った事もあるが

何度も似たような事をするので、もう慣れっこである

推測だが、弟のまひろが家に居ない事を考えると

おそらく一緒に外食にでも行っていっているのだろう

今日は焼を食べて帰ると伝えてあったので

まひろが駄々をこねて、外食になったのかもしれない

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僕は置き手紙をくしゃくしゃに丸めて、ゴミ箱に捨てた

臺所に行き、冷蔵庫を開けて中を確認する

プレッツェルチョコと1Lイチリットルの烏龍茶があったので、取り出して冷蔵庫を閉めた

リビングに戻り、テレビをつけて、ソファーに腰掛ける

テレビ畫面の向こうでは味しそうに焼を食べるの姿が映っている

「うまそうだな」と僕は獨り言を呟きつつプレッツェルチョコの袋を開けた

中までチョコぎっしりで有名な

「TPO」と言う名前のチョコ菓子である

筒狀のプレッツェルの中にチョコがぎっしりとっていて

チョコレート菓子でありながら、チョコの主張を抑える上品な味わいが

大人子供問わず人気な商品だ

「いただきます」と口にしてから、TPOに齧り付く

やっぱりTPOは冷やすと、とても味しい

僕はチョコがプレッツェルからはみ出している口の部分が特に好きである

烏龍茶を間に挾みつつTPOを食べる

テレビ畫面では先程からずっと焼の映像が映し出されていた

どうやら今日は焼特集をやっているらしい

そこでは炭火派VSガス派、鉄板派VS網あみ派など

熱いディベートが繰り広げられていた

僕はぼんやりとテレビを眺める

「やっぱり炭火が最強ですよ!遠赤外線の力で中なかまでしっかりムラなく焼く事ができる!」炭火派のイケメン俳優が斷言する

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その意見に対してガス派のお笑い蕓人が申す

「遠赤外線遠赤外線って言いますけどね?今時は炭を使わなくても遠赤外線で焼ける機械も出てるんですよ?遠赤外線は炭だけのじゃなくなってるんです!しかも煙を抑えられる機械もあって、目をやられる心配もない!炭だとどうしても煙くなっちゃうじゃないですか?匂いも付くし!」

「いやいや、食べ味しく食べるって時に、匂いが付くとか気にしてるのシャバいですよ!しかも煙も味しくする上では欠かせない重要なファクターなんです!炭に落ちた脂で煙が強くなり、煙に當たったが更に味しくなるんです!軽めの燻製ですよ!今流行ってるじゃないですか燻製!」

ガス派のお笑い蕓人が押され気味になった所で

ガス派の優が新たな意見を打ち立てる「そもそも遠赤外線って中なかまでしっかり火が通りやすいって話じゃないですか?本當の意味で味しく食べる為にはやっぱりレア焼きが大事だと思いませんか?炭火だとそれが難しくなる気がするんですよね」

その意見に対して炭火派の演歌歌手が噛み付く

「いやー、はね、しっかり焼かないと駄目!、お腹壊しちゃうし危ない!カリッカリになるまで焼かないと」

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演歌歌手の意見にガス派のお笑い蕓人がツッコミをれた

「カリッカリってそれ焦げてますやん!ガンになりますよ!」

僕は心しながらテレビを見ていた

の世界は奧が深い

焼き方や道などをこだわる事で新たな味しさが見つかるかもしれない

僕も焼を食べる時は、もうしだけ々意識して焼いてみようと心に誓った

20時12分

僕は自室で勉強をしようと機に座っていた

開いたテキストには文字が沢山書かれている

さっきから文字の意味が全く理解できない

理解できないと言うか、頭にってこないのだ

勉強に集中できない

頭の中は一つの事でいっぱいになっている

なんでこんなに集中できないのだろう?

煩悩を振り払うように頭を振るが、それで簡単に切り替わる程世の中は甘くなかった

今僕の頭の中をスキャンして文字に起こしたら、確実に9割がと書かれているだろう

特集を見てからと言うもの、ずっと味しいの事ばかり考えている

炭火焼き、ガス焼き、網焼き、鉄板焼き、ロース、カルビ、豚トロとんとろ、ホルモン、タン、ハラミ、豚バラ、鳥もも、せせり、レバー…

駄目だ駄目だ、今日は味しいを沢山食べたではないか

極悪チキン丼に、スタンダードたこ焼き16個りいり、コンビニのチキンと、TPO…

あれ?よくよく考えると余り食べてないぞ?

どう言う事だろう?

僕は思考を巡らせる

そうか!焼屋でガッツリ食べることを考えていたから、事前の飯を抜いていたんだった!

夕飯を食べたのに、まだまだ食べ足りない自分をしだけ自己嫌悪していたが、よくよく考えたらこの空腹は當然の権利ではないか?

僕は夕飯分は食べたかもしれないが、まだ朝食と晝食分は食べていない!

僕にはまだまだ食べる権利が殘っている!

先程烏龍茶を飲んだせいもあってか

むしょうにお腹が空いている

家族はまだ誰も帰ってきてない

僕は臺所に向かい冷蔵庫の中を漁った

豆腐や野菜や果などはあるが、類は見當たらない

どうしたら良いのだろうか、この気持ちを

僕は今無むしょうに類が食べたいのだ

買い出しに出ようか?

しかし財布の中も僕と同じで空腹狀態だ

そう言えば豆腐をステーキにして食べるみたいな、魔法のレシピが存在すると聞いた事がある

僕は姉のパソコンを借りて、豆腐ステーキで検索をかけた

豆腐ステーキは割と有名なレシピらしく様々なサイトで紹介されていた

レシピをメモして臺所に向かう

まずは木綿豆腐を四分割ヨンブンカツし、ペーパーを乗せた水切りトレイの上に豆腐を乗せる

更にその上からペーパーを乗せて、冷蔵庫で30分間放置

インターネットでは水分をしっかり取る事が大事だと書いてあったので、この工程は外せない

その間に、玉ねぎと生姜とニンニクをりおろしすりおろしたボウルに醤油、みりん、料理酒、砂糖、お酢をれて、合わせダレを作る

水分が取れたであろう豆腐に塩コショウで味付けをし、小麥を全につける

「揚げ出し豆腐アゲダシドウフは片栗でも良いが、豆腐ステーキは小麥の方が味しく仕上がる」と書いてあったので忠実に守る

溫めたフライパンに胡麻油ごまあぶらをひいて、中火で2.3分にさんふん片面ずつ焼く

ひっくり返すと表面がきつねになっていて

テンションが上がってくる

焼けていない側面もしだけ焼いてから

フライパンに合わせダレをかけて、し焼いたら

豆腐を皿に盛る

フライパンに殘ったタレを豪快にかけ

ネギを散らしたら、豆腐ステーキの完である

僕はリビングまで豆腐とうふステーキを持っていき

早速頂く事にした

「いただきます」

箸で頂く

うまい

甘すぎず辛すぎからすぎずでとても優しい味がする

おふくろの味とでも呼ぶべきだろうか?

豆腐とうふに染み込んだタレが僕を昔へとタイムスリップさせるような…懐かしい味だ…

まぁ昔と言っても、僕はまだ高校生だから思い出に浸るような年齢ではないのかもしれないけど

ぷるぷるとした豆腐とうふは全ての人に平等で優しいなとじる

ただ僕はこの時

とても大事な事実に気づいてしまった

結局はまやかしだ

味しい事は味しいのだが

豆腐はどう頑張ってもにはなりえない

豆腐は腐っても豆類なのだ…

と言うか腐っているから豆腐なのだ…

僕は我慢ができなくなり、食を片して自室に向かった

部屋の工箱からハンマーを取り出した僕は

勉強機に置かれているピンクの豚貯金箱を叩き割った

中の小銭を數えると、7157円がっていた

これだけあればが買える

僕は父が普段キャンプ等などで使っている炭と小型のBBQセットをリュックに詰めて

急いで家から出た

21時11分

僕はスーパーでを購し近くの河川敷かせんじきに向かった

河川敷カセンジキの隅で、小型BBQセットを展開する

この辺りなら人も來ないだろうし、煙で迷をかける心配もないだろう

本當は家のベランダでやりたいのだが、うちのマンションは火気厳

もし火気厳じゃなかったとしてもベランダでBBQを実行するのは単純にリスクが高い

近隣の住民にクレームをれられる可能もあるし

煙が部屋にってきて、火災警報が作するかもしれない

ガスコンロとフライパンで焼けば良いだけの話なのだが

あのような番組を見せつけられては、炭火で焼きたくなってしまうと言うものだ

僕は黒炭を小型BBQセットの中にれた

家には豆炭と黒炭があったのだが、豆炭は燃えにくいと判斷して、黒炭を持って來ていた

ガスバーナーで火をつけると黒炭はすぐに燃え出す

炭火なのに結局はガスを使っている

これは炭火と呼んで良いのだろうか?

元がガスだからガス火と呼ぶべきなんじゃないだろうか?

テレビ番組では炭火VSガスと言う対立構造を見せられてはいたが結局はどちらも得意不得意がありそうにじる

僕は燃え上がる火を見てスーパーで買ったパックのれていく

ジュウジュウと燃え盛る

これは期待が出來そうだ

僕はワクワクしながらを焼く

家から持ってきたトングでを育てていると

後ろから足音が近づいてきた

僕が驚いて後ろを振り返ると

そこにはボロボロな服を著たおじいちゃんが居た

「こんな時間に何をやってる?」

おじいちゃんに問いかけられた僕は張をしながら答えた

「すみません、を焼いてます」

先程コンビニで店員から叱られたばかりなので、またそのパターンかもしれない

僕はしだけ挙不審になっていた

おじいちゃんはそんな僕に話しかけてくる

「こんな時間に?」

「はい、ちょっと炭火がしたかったもので」

「炭火か…なんかもう、しばらくは食べてないな」

「そうなんですか?もしかして脂っこいから歳的に厳しいですか?」

「そうじゃないわい!ワシもは大好じゃった…ただ、もうなんか買う金かねはないんじゃ…」

「貧乏なんですね…服もボロボロになってますし…」

「まぁワシはホームレスじゃからな…」

「ホームレス…」

「この河原に住んでおるんじゃ…夜だけな…」

「大変そうですね…」

僕は焼き上がったを食べながらおじいちゃんと話をする

おじいちゃんは嫌そうな顔をしながら僕に説教を始めた

「ここはホームレスの寢床だから、夜に近寄るのは危ないぞ!元ヤクザとかの、気が荒い連中もおるしの…」

「そうなんですか?」

「そうなんじゃ…ここは夜に寢るには悪くないスポットじゃからな…ここには人生に絶しても、自分の事を諦められないようなプライドの高い奴らがゴロゴロとしておるからな…もちろん気の優しい奴らもおるが…お前さんみたいな幸せそうな年を間近で見ると、正直なにをしだすか分からない連中もおるでな…」

なんだか騒だ

僕は気になった事をおじいちゃんに尋ねた

「プライドが高いのにホームレスになっちゃうんですか?外で暮らすなんてプライドが許さないってならないんですかね?」僕の疑問におじいちゃんは丁寧に答えてくれた

「いやいや逆じゃよ、プライドが高いからこそ人の力は借りない、國の力は借りないって意固地になって、自分の力で頑張ろうとした結果、ホームレスになるんじゃ…、まぁ力を借りようとしても、門前払いをされたりして仕方なくと言うケースもあるにはあるがな…ただ「自分はまだやれる」とか「自分の力でなんとかするんだ」と自分自の事を、心の底では諦めてはいないから、なんとか踏ん張っているんじゃよ…ただ、住居じゅうきょを持たない者を雇いれてくれる場所は、なかなかないのが現実じゃがな…」

悲しそうに呟くおじいちゃんを見て、僕は々な事を考えていた

その日の食住よりも、自分自の生き様を優先する姿勢

食べられなくなって、痩せ細って、ボロボロになって、それでも自の在り方を考えている

「同するなら金かねをくれ」と言う言葉を何かのドラマで聞いたような記憶はあるが、それの真逆だ

「金かねなんていらないから同なんてするな」と

彼らは訴えているのか?

彼らと一括りひとくくりにするのは良くないかもしれないが

生活保護をけられないような人達も居るかもしれないし

ただ、犯罪者になって牢獄にった方がまだ味しい飯にありつけそうなのに、それでも悪に手を染めずに頑張っている…

ホームレス…僕には想像の出來ない世界だ…

僕が真剣な顔で考えていると、おじいちゃんが苦笑いをしながら指摘してくる

「お前さん焼き過ぎではないか?」

ふと、BBQセットを見ると大量のが焦げていた…

最悪だ…これでは家で焼いた方がまだ良かったではないか…

僕は泣きながら焦げたを食べた

22時22分

僕はホームレスのおじいちゃんに別れを告げて、家まで帰宅した

靴置き場を見ると、どうやら弟と母親は家に帰ってきたようだ

リビングにり「ただいま」と口にすると、僕の聲に母とまひろは返事を返す

「ましろ遅かったわね?」と

テレビを見ていた母がこちらを向きながら訪ねてきたので適當に返事をした

「ちょっと々あって」

母はそんな僕の返事を聞き

「そっか〜、青春だねー」と

変な事を呟きながら、テレビ畫面に視線を戻した

まひろの近くに行くと、まひろは自慢げな表で聲をかけてきた

「ましろ!今日焼だったんだよね?味しかった?僕もさっきジュジュエンに行ったぞ!…ってどうしたの兄ちゃん…?」

僕の悲しい表を見たまひろは、しだけ引いていた

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