《スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜》第216話 魔龍領域
「儂らが奴のきを止め時間を稼ぐ。お主らはその隙に水龍に止めを刺せ」
バルタザレアとガルガンティアは大暴走に対処しながら同時に水龍ラグナ・アケルナルのきを封じる。カストールの力を借りて俺たちは魔龍へと接近し、奴の息のを止める。それがガルガンティアの作戦だった。
「ハァー……、結局俺様が突っ込むことになんのか」
ガルガンティアの提案を聞いてカストールが肩を落とす。
「本當はこんなリスク負いたくないんだがヨ……。だがしかし、後ろで腕組みしながら小僧共に戦わせるほど臆病でもねえ。それにオメーらの覚悟を見せられちゃ、おめおめ逃げ帰ることもできやしねぇしな」
カストールのアイン・ソピアル『風掌(シーヴァ)』は空中でもかなり自在に飛行が可能だ。咄嗟の攻撃を回避し、魔龍に接近するためには彼の力が欠かせないそうだ。
「みなさん、お願いします……!」
「方針は決まった? こっちはそろそろ限界なんだけど」
バルタザレアの使役する巨大な影人形は、街へ接近する魔龍を全力で食い止めている最中だ。あれをかすのに一どれほどの力を使っているのか、彼の様子は一層苦しげに見える。
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「アンナ、良く耐えてくれた。後は儂に任せるがよい。——そして頼んだぞ、カストールよ」
「言われなくてもわかってらぁ」
言うが速いかカストールは俺とフウカを連れて一気に加速した。互いに組み合い、絡み合う魔龍と影人形が瞬く間に近づいて來る。
背後から強烈な冷気をじた。振り返るとトレト河の水面を一筋の氷の道が走っていた。それは水面を凍りつかせ、大きな霜柱を突き上げながら猛然と水龍へと向ってびていく。
氷の道が水流の首元へ到達した瞬間、影人形が黒い靄となって霧散し、龍のを解放する。そして氷柱は瞬く間に首回りの水面を凍てつかせたかと思うと、質な音を鳴り響かせながら魔龍のを包み込むように、周囲全てを急激に凍てつかせモンスターの軀ごと覆い盡くしていく。
數秒の後には、魔龍の存在した場所には聳え立つ山の如き巨大な氷塊が浮かんでいるばかりだった。
「龍を丸ごと凍らせた……!」
「…………」
『銀嶺(ニヴルヘイム)』の力の前に明いた口が塞がらない。ほんの一瞬であの巨大な氷山を生するなんて、今見た景が現実のものだとはけれ難い。バルタザレアの影人形といい、たった一人の人間にここまでのことが可能だなんて、アイン・ソピアルってやつは一どれだけの可能をめてるんだ。
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「呆けてんなヨ。氷山に突っ込むぜ」
「はい!」
「削り取れ、『崩旋華』(プルア・ヴァーユ)」
俺たちの前方から強風が吹き付け、目前に迫った氷山の表面が細かい氷の破片となってみるみる抉り取られていく。一瞬で俺たち三人が余裕でれるほどのができ、カストールはそこに飛び込むと勢いのままに風で氷を削り掘り進んでいく。
「オメーら覚悟はいいか。このまま進めば魔龍の頭とご対面だゼ。さすがの俺様でもオメーらを守りきれる保証はねえぞ」
「大丈夫です!」
フウカも俺の言葉に頷く。
「その意気だゼ。よし……、出るぞ!」
前を塞ぐ氷が割れ砕け、俺たちは氷山部の空間に突した。そして魔龍は俺たちの前に姿を現す。分厚い氷に覆われた水面から飛び出した太い首と、刺々しい鱗と角に覆われた長い頭部。そこに左右三つずつ並んだ六つの赤い瞳が俺たちを見たような気がした。
クオオオオオオオオオォォォォォォォン……!!!!
龍が鳴き、削られた氷山部の空間が振でビリビリと揺れる。
やべえ、めちゃめちゃ怖い。
「もっと近づかねえことにはどうしようもねえが……、アレを見ろ」
水龍のを覆うようにして、青い水のオーラがモンスターの周囲に漂っている。
「あれ、ただの水じゃないよね」
「だな。アレをなんとかしねーと近づくことすらできねえな」
二人の見立てでは水のオーラの側にるのは危険なようだ。
「私が『重障壁(オル・ウィオル)』を使えばオーラの側にれるかな」
「それだと俺はオメーらを運んで飛べねぇ」
「そうだよね……」
「……むっ?!」
俺たちが魔龍と距離をとり迂闊に近づけないと見るや、奴は長い口を開く。口腔の発と共にそこから無數の青いが放たれる。
俺たちを狙い降り注ぐの雨を、カストールは急加速し空を壁に沿って飛びながら回避していく。ぎりぎりで避けたが氷壁に衝突し、すぐ背後で轟音と氷燐が弾け散る。
「うわああああっ!!!!」
「口を閉じてろボーズ!」
複雑な軌跡を描き空を高速で飛び回るカストールのきに舌を噛みそうになる。
圧された水の屬攻撃が止むと、今度は地面の氷に次々と亀裂が走る。砕け、割れた氷河から水流の竜巻が立ち上り、氷の空を躙する。
「…………ッ!!」
カストールは全神経を水龍の攻撃回避に集中させ、最早口を開く余裕もないようだった。ラグナ・アケルナルは水のフィルを意のままにり、広範囲かつ強力無比な攻撃を連発していた。熾烈な攻撃を前に回避に一杯で、これではとても攻める隙など見いだせない。
「……危ないッ! 『重障壁(オル・ウィオル)』! ——きゃあっ!」
カストールの回避が追いつかずに迫った攻撃をフウカが波導障壁でけ止める。だが、そのあまりの威力にかなりの反を喰らってしまった。このままでは長くは持たない。何かこの狀況を覆す手は————。
「あれは……?」
空に立ち上る水流渦の合間に覗く魔龍の首。そこに生えている無數の鋭い角の中に、先端が発しているものがある。いくつかのとりわけ大きな角はを放ち、その周辺は濃い青に染まっていることが水のオーラ越しに見て取れる。
る角は左右で対になっており、龍の背中に等間隔で生えているようだ。
「フウカ! あいつの角、っている部分があるよな! あそこの周囲の水、なんか普通より青くなってないか?!」
フウカも俺の言葉を聞いて魔龍の方を注視する。
「……ほんとだ。あの角の周り、ものすごく強い屬(エモ)が渦巻いてる!」
「もしかしたら、あのる角がオーラを発生させている……? あれをへし折れば頭に近づけるんじゃ」
「試してみる価値、ありそうだね」
「その通りだとして……、どうやって奴に近づくんだヨ! あのオーラがある限り近寄れねーっての!」
「俺がなんとかします! 角の側まで飛んでもらえませんか?」
カストールの橫顔を見上げ頼み込む。彼は眉間に皺を寄せ渋い顔をしたが、すぐに前に向き直った。
「わぁーーったヨ! やってやる! マジでなんとかできんだろーなボーズ?!」
カストールはぐんと急転換し、氷の空の中央、龍の頭へと突っ込んでいく。
魔龍の口が開き、発とともに水弾が束となって俺たちの進路を塞ぐ。カストールはそれを紙一重で躱しながら勢いを殺す事無く龍の正面へと辿り著いた。リベリオンを解放し、意志を込める。
「叛逆の剣——、『ソード・オブ・リベリオン』」
瞬く間に巨大なの刃が形される。これならオーラなんて関係ない。距離さえ屆けばオーラごと角を叩き斬ってやる。
「屆けぇ!!」
魔龍の頭上を過ぎ去る差の剎那、最大まで巨大化させたリベリオンを、水のオーラの外側から角に狙いを定め、思い切り振り抜いた。
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