《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》77 10年間 4

その日、私は普段よりもたくさんの夕食を食べることができた。

目覚めて以降、初めて外に出たことも理由の1つだけれど、主な理由はフェリクス様の話を聞いたことだろう。

國王というのは、何が原因で足元をすくわれるか分からない立場にある。

そんな彼が文句を言われる原因に、私がなってはいけないと思ったため、一口でも多く食べようとしたのだ。

もちろん、私の気持ちは一言だって口に出していないのだけれど、どういうわけかフェリクス様には考えを読み取られたようで、食事が終わった後に申し訳なさそうな表で謝られる。

「ルピア、私のために無理をして食べてくれて申し訳なかった。私は冗談を言ったつもりだったのだが、恐ろしく下手だったようで、冗談だと解されなかったようだ。……何というのか、もうし會話を學ぶことにする」

「えっ、それは……食べ終わる前に言ってほしかった気持ちだわ」

何てことかしら、フェリクス様の冗談を勘違いしたのね、と思って苦しくなった胃の辺りをさすっていると、もう一度謝罪された。

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「すまない。申し訳ないとは思いながらも、君が普段より多く食べてくれるのが嬉しくて……聖獣様が恐ろしいことを言っていたんだ。君にたくさん食べさせ、眠らせ、様々なを抱かせて、人としての生活を取り戻させないと、君が人から遠いものになってしまうと」

「まあ」

バドったら、そんな風に魔をぺらぺら話すなんて、やっぱりフェリクス様を気にっているんじゃないのかしら。

そう思って部屋の中を見回したけれど、こういう時だけは要領よくどこかへ行っている。

フェリクス様に視線を戻すと、私の返事を待っている様子で首を傾げられた。

「ええと、そうね。確かに目覚めた直後の生活は大事で、人としての生活に馴染ませないと、全てにおいて、じ方が希薄になってしまうかもしれないわね」

軽い調子で答えたけれど、フェリクス様は誤魔化されてくれず、さらに詳しく聞いてくる。

「それは、的にどういうことだろうか」

「……例えば、食事に関して言うと、空腹をじなくなって、食事をしたいとも思わなくなって、食べても味しいとも、味しくないとも思わなくなるわね」

容的に一番問題がなさそうな食事の例を出してみたのだけれど、フェリクス様はとんでもない話を聞いたとばかりにびくりとを跳ねさせた。

それから、私にもうあと一口食べさせようとでもいうかのように、テーブルの上に視線を走らせる。

そのため、私は慌ててお斷りをれた。

「フェリクス様、私は十分食べたから、もう何もらないわ」

「……そうか」

失敗したわ。フェリクス様の表から判斷するに、今後はさらに多くのを私に食べさせようとしてくる気がする。

何か彼の気を逸らすはないかしら。

そう思ったものの、うまい話題が思い付かなかったため、ふと浮かんだことを獨り言のように呟いた。

「明日はどこに行ってみようかしら?」

すると、フェリクス様が行き先を提案してくれる。

し離れた庭はどうかな? あるいは、日當たりのいい朝食室に。どちらにしても、明日の君の調次第だが。ところで、湯浴みの用意ができたようだから、まずはを溫めてごらん。終わった頃にまた來るよ」

そう言うと、フェリクス様は部屋を出て行った。

そして、お風呂上りに再び現れたフェリクス様は、懐かしい覚えがある表紙の本を手に持っていた。

「フェリクス様、それは?」

不思議に思って尋ねてみると、フェリクス様は小さく微笑んだ。

「寢語に本を読むのはどうかと思ってね。だが、小さな文字を読み続けるのは疲れるだろうから、よければ私が代わりに読んであげよう」

「まあ」

フェリクス様はそう言ったけれど、彼が手に持っているのは、私にとって懐かしい本で―――つまり、私の母國のものだった。

だから、ディアブロ王國の言葉で書かれているはずだけど、と思いながらちらりとフェリクス様を見上げると、彼は小さく微笑んだ。

「ダメだよ、本を読むのは君が寢臺にってからだ」

まあ、本を読んでもらうのを待ちきれない様子だと思われたわよ。

そう考えたけれど、確かに本の容を知りたい気持ちが湧き上がってきたのは事実だった。

そのため、私は素直に頷くと、スツールに座る。

そして、ミレナが丁寧に髪を乾かしてくれる間、大人しく待っていた。

途中でこっそりとフェリクス様を見ると、仕事の書類に目を通している。

そのため、忙しいのかしらと思ったけれど、私が立ち上がるとすぐに書類を伏せ、近寄ってきて手を貸してくれた。

「フェリクス様、スツールから寢臺まで移するくらい1人でできるわ」

仕事を中斷させたことが申しわけなく、大丈夫だとお斷りをれたけれど、困ったように微笑まれただけだった。

「ごめんね、私が君に手を貸したかったんだ」

そんな風に言われたら、何も言うことができない。

そのため、無言のまま顔を赤くしてベッドに橫になると、フェリクス様は私の枕元に置いてあった椅子に座り、本を読み始めてくれた。

彼の口からディアブロ王國の言葉が紡がれる。

それはとってもらかで、母國語を話しているのかと思うほどの流暢さだった。

しばらく聞いていたけれど、一音も不自然な発音がないのだ。

嬉しくなって、その懐かしい響きに聞きっていると、フェリクス様が本を読むのを止めて手をばしてきた。

どうしたのかしらと思っていると、指で目の下を拭われる。

見ると、彼の指先にしずくが付いていた。

私はびっくりして自分の頬をってみたけれど、そこにはもう涙は殘っていなかった。

なぜ涙を流したのかしらと不思議に思い、目を瞬かせていると、フェリクス様が普段よりも低い聲で話しかけてきた―――ディアブロ王國の言葉で。

<ルピア、ディアブロ王國の言葉はとても優しい響きを持っているね。君が元気になったら、一緒に君の母國を訪問しようか>

目を見張って彼を見上げると、フェリクス様こそが泣き出す寸前のような表をしている。

<それから、この部屋で2人きりの時は、ディアブロ王國の言葉で話をすることにしようか。君がしでも心地よさをじるように。ルピア、君が私を選んでくれた時、私は君に多くのを手放させてしまった。その全てを取り戻すことはできないが、しずつでも君に返していきたい>

彼の言葉を聞いた私は眉を下げると、恐る恐る手をばした。

そして、力なく本の上に乗せられていた彼の手の上に自分の手を重ねる。

「フェリクス様、私は何も手放していないわ。離れた場所に置いてきただけで、全部そのまま殘っているもの。そして、今日はあなたの口からディアブロ王國の言葉を聞けたから、1つ寶が増えた気分よ。ね、そうやって考えると、私の持ちはどんどん増えているわ」

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