《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第4章 1963年 プラスマイナス0 - すべての始まり 〜 2 二度目の逮捕

2 二度目の逮捕

「あのね、記憶喪失なんて、調べたらすぐにわかるんだよ。だいたいおかしいだろうよ、気づいたらあそこにいたなんて、いったい誰が信じるかね? まあ、あんたがあそこに現れるまで、わしらがまったく気づかなかったってのも、まあ不思議なんだが。とにかくだ、今あそこは、立ち止になってるんだよ。ちゃんとロープだって張られてる。それなのに、あんたはなんのためにあそこにいたんだ? ちゃんとその理由があるんだろ? なあ、忘れでもしたのかい? の付いたナイフとか? それとも、桐島智子に関するものかな? さっさと言っちゃえよ……なあ、おにいさんさ」

そう言って、高齢の刑事がなんとも言えない笑顔を見せた。

そこは警察の取り調べ室で、まるで二十年前と同じような部屋だった。

ただあの頃とは大きく違って、彼は自分の置かれている狀況を十二分に知っている。

「でも、本當に何も覚えていないんです。自分の名前も、どうしてあんなところにいたのかもです。だいたい、あそこはいったいどこなんですか? 本當に、何もわからないんですよ」

最初にそう告げてから、剛志はそれ以降貝のように口を閉ざした。

免許証や財布などは、みんなショルダーバッグにれてある。幸い――と言っていいのかどうかわからないが――元の時代に置いてきてしまった。もしもそんなのが見つかっていたら、今よりもっと面倒なことになっていたろうと思う。

當然、未來から來たと話したところで、信じてもらえるはずがない。

本當の名をんでも、ここにはもう一人の自分が存在しているはずなのだ。

戸籍は高校生の剛志のものだし、分を証明する手立てはないに等しい。となれば伊藤がそうしたように、記憶喪失だと思わせるのが一番だ。それにペラペラ答えていれば、いつなん時口をらせてしまうとも限らない。

「ほお、なんだか変わったズボンを穿いてるね。そんなにピタッとしてて、大事なところは痛くないのかねえ……」

そんな刑事の第一聲に、剛志は思わず言いかけたのだ。

ただのジーンズですから――なんて臺詞がフッと浮かんで、まさに言葉にしようとした時だった。

――そう言えば、ジーパンっていつからだ……?

この時代はどうだったか考えるが、なくとも高校生だった自分は穿いてなかった。

――俺が初めてジーパンなんて穿いたのは、きっと就職してからだ……。

彼は大學時代でさえ、ジーンズを一本も持ってはいなかったのだ。

この時代、ジーンズと言えば輸品で、穿いている人など滅多に見ない。やっとそんな事実を思い出し、ギリギリ浮かんだ臺詞を呑み込んでいた。そしてあと小一時間もあったなら、この老刑事は怒鳴り聲の一つもあげたろうと思う。

ところが三十分くらいした頃だ。部屋の扉がノックされ、り口から若い男が顔を出す。それから老刑事に手招きをして、 彼を部屋の外へ連れ出した。そうして數分、再び戻った老刑事の顔は、さっき以上に苦み走って見えるのだった。

「おまえは本當に、自分の名前を知らないのか?」

戻るなり、腰を屈めてそう言って、顔を剛志の眼前に突き出した。

だから刑事の目をしっかり見據え、剛志は首のきだけで答えを返す。するといきなり、老刑事は彼の前髪をギュッとつかみ、顔面を反らせるよう力を込めた。上向きになった剛志の顔に刑事の顔面がさらに近づき、すぐ目の前にシワだらけの顔が迫った。

毆られる! そうじて剛志は衝撃に構える。ところがだった。

「くそっ……」

そんな聲が聞こえて、頭にあった痛みがスッと消えた。

老刑事は彼から離れ、そのまま剛志に背中を向ける。そしてひと言だけ言い殘し、すぐにその部屋から出ていった。

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