《傭兵と壊れた世界》第百十四話:足地の在処
天巫の儀式にはいくつかの制約がある。
彼の力はいわば千里眼のようなものだ。星天の力で大地を見下ろし、人やモノがどこにあるのかを見通す。だから「場所」は見えても「理由」は見えない。例えばアーノルフが祭りの最中に元老院の樞機卿と會っているのが見えても、會合の目的まではわからないのである。
もちろん制約があるとしても比類なき力だ。大國が數多の戦爭に勝利したのは、敵陣の配置を丸にして最小限の損耗に抑えたからに他ならない。
「本當は事前に準備が必要なんだけどね」
「殘念ながら急いでいるんです。私も世間話から流を深めたいところですが、あまり時間をかけるとあなたの猟犬に噛みつかれそうなので」
「襲撃したのはそっちでしょうに。場所はミラノ水鏡世界だよね。離れていて、儀式を始めるよ」
天巫が祭壇の中央に両膝をつき、祭と呼ばれる儀式槍を床に立てた。床に刻まれた幾何學模様のに水が注がれていく。封晶ランプの燈りが消え、壁と天井の境目がだんだんと曖昧になり、半明の花びらがにわかにを帯びた。
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天巫のから発せられるが天井の星々と繋がる瞬間、彼は理外の力を得る。失われたとされる力だが、ごく一部の人間や國、あるいは足地に殘っていた。天巫もその一人。
アーノルフは平然と腕を組んでいる。きっと彼は儀式の様子を何度も見たことがあるのだろう。
あっという間の出來事だった。気付けば儀式が終わっており、疲れた様子の天巫が今にも倒れそうな様子で立っている。
「儀式は功ですか?」
「うん、足地の場所がわかったよ。君は忘れ名(わすれな)荒野の大斷層を知っている?」
「かつて荒野にあった國を丸ごと飲み込んだ亀裂のことですね」
忘れ名荒野には國をまたぐほどの大きな斷層が存在する。百年戦爭と同時期に発生し、その全貌は未だ判明していない。一説によると、大斷層は地殻変ではなく、消えた王の國が人為的に引き起こしたものだと云われている。
「忘れ名荒野の大斷層、深き谷底の瀑布を下りて、忘れられた湖を目指しなさい」
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そこにミラノ水鏡世界のり口がある、と天巫が告げた。
○
地上の戦いは続いている。激闘を繰り広げるイヴァンと親衛隊。もともと時間稼ぎが目的のイヴァンにとっては好都合だが、逆の立場であるアメリアは焦りと苛立ちが積もってしまう。
「いい加減に倒れろ亡霊! 戦場をかきす疫病神め!」
「戦いは良いものだぞアメリア。戦場の空気がすべて忘れさせてくれる――過去も、現実も、使命もだ」
「貴様と一緒にするな! 我々は天巫様を忘れたいと思ったことなど一度もない!」
イヴァンが手榴弾を投げた。敵兵から奪ったものだろう。覚を共有したローレンシア兵は即座に反応し、手榴弾から距離を取る。
「総員退避しろっ、発するぞ……いや、不発弾か?」
発しない。奇妙な靜寂のあと、手榴弾から白い煙が噴出した。親衛隊の一人がぶ。
「煙幕か! アメリア軍団長、敵は逃げるつもりです! 突しますので軍団長は退避を!」
「おい待て、罠だ!」
アメリアが制止するも間に合わず、煙の中へ足を踏みれた兵士は次々と倒れた。
睡眠ガスだ。襲撃時と同じ白い煙が煙幕のように見えたのだろう。どこぞの口のうるさい研究者が作った特別製であり、その効力はいうまでもない。
「これでしばらくは時間を稼げるだろう。まったく、豬のようなだ。用意しておいた罠がほとんど効かないとは」
霊像で戦うとわかっていたため、イヴァンは事前に罠を張り巡らせたが、それらは覚共有した兵士やアメリア自の的な勘によってことごとく失敗した。今や手持ちの武も限られており、かといって敵兵から調達するには相手が悪い。
「ナターシャが來るまでもうしってところか。さすがに殘弾數がきびしいな」
イヴァンは戦闘によって壊れた建の二階で、壁に背を預けながら一息をつく。
煙草を吸ったら駄目だろうか。いつもならば戦闘中に吸うなとナターシャに怒られるのだが、幸か不幸か彼はいない。一本だけ、この一本だけだから、と彼はうきうきとした様子で煙草をくわえようとした。
「ん?」
距離にして二百。街にそびえる支柱の一本に一筋の反。
「ちぃっ、休ませてもくれないか……!」
狙撃だ。脳が判斷したと同時に床を転がった。直後、崩れかけの壁に銃痕が刻まれる。腕の良い狙撃手だ。気付くのが遅ければイヴァンのに風が空いていただろう。
「ひええ、外しちゃった!」
「距離八、左に四修正。外したというより気付かれたの。どんな目をしているんだか」
ココットが支柱の窓で弱々しい聲をあげた。彼のとなりには同僚のミリアムが観測手(スポッター)を擔っている。戦闘が始まってから時間が経過し、散らばっていた親衛隊が集結し始めているのだ。
「ほ、本當にあの人が襲撃者なのかな? 実は銃で抵抗する一般市民だったりしない?」
「平和ボケしてんじゃないよ。ただの住民が親衛隊と張り合えるわけないでしょ」
「ふええ」
「ふええじゃないよ、言っておくけど撃つのはココットだからね」
「ふええ」
以前はミリアムが狙撃手だったのだが、最近になってココットの腕前が急激に上達したため代した。ミリアムとしては悔しさ反面、友人がようやく開花したようで嬉しくもある。
そんな彼たちを奇妙な銃弾が襲った。とっさに頭を伏せるミリアムとココット。壁の向こう側からパキパキと何かが長するような音がする。
「ひい、反撃!?」
「向こうも棒立ちで撃たれてはくれないからね。とにかくもう一度よ。ほら、狙撃銃を構えて……ってあれ?」
窓が結晶化している。しかも窓枠に固定していた狙撃銃と一緒に。
「う、うそ! なんで!?」
「これじゃ援護できないね」
「しかも私の銃なんだけど! アメリア軍団長に怒られるのは私だからね!?」
銃を引き抜こうとするも、結晶の中に埋まってびくともしない。二人がやいのやいのと言い合っているうちに他の窓も結晶化し、彼たちの覗きは完全に塞がれてしまった。
「これで良しっと。教えた果が表れているのは嬉しいけど、今はじっとしていてしいからね。さあ、イヴァンのところに向かおう」
妨害したのはナターシャだ。彼は主塔の廊下からを乗り出していた。
「霊像まではし遠いわね。サーチカには天巫様を頼んじゃったし迎えは期待できないか。ベルノアの縦がしいわ」
そう呟きながら飛び下りる。
普通に考えれば自殺行為だ。しかし、彼は重力が軽くなったように緩やかな速度で屋に著地した。続けて一つ、二つと階層を飛び下りていく。淡くる髪飾り。ナバイアの人魚が殘した反重力の力だ。
風がをでる。揺れるりは封晶ランプ。屋から屋へ、連絡橋からラスクの空へ。ナターシャは霊像に向かって一直線に飛んだ。
次第に銃聲が大きくなる。まだ戦闘が続いているならば間に合ったということだ。ナターシャは安心して結晶銃を前に抱えた。が空を駆ける。階下で戦う仲間のもとへ。
○
アメリアは表を歪めた。彼の力は良くも悪くも集団の戦闘能力を底上げするものだ。アメリアがいなければ意味がなく、兵がなければアメリアも真価を発揮できない。そのためイヴァンを排除するまでは天巫の救出に向かえないのである。
「イヴァンはこの建の中だ!」
故に速攻で仕留める。
イヴァンが逃げ込んだ建を囲むローレンシア兵。逃げ道はすべて塞いだ。援軍も続々と到著している。あとは追い詰めるだけ。
「総員突撃! 絶対に逃すな!」
建に兵士が突する。部屋をしらみつぶしに捜索し、一階クリア、二階クリア、と徐々に上の階へのぼっていく。やがてイヴァンが待つ最上階の扉が開かれた。屋のない吹きさらしの階だ。戦闘の余波で壁が崩れており、一眼で隠れる場所がないとわかる。
「待て、止まれ!」
そこにイヴァンの姿はなかった。アメリアが目を見開く。この狀況での出は不可能だ。なくとも建の包囲は完璧だったはずである。なのに現実としてイヴァンは消えてしまった。
「そんな馬鹿な……これでは本當に亡霊じゃないか」
呆然と呟いたのはアメリアか、それとも名も知らぬ兵士か。彼らは狐につままれたような顔で辺りを見渡した。一度見失ったらアメリアの同調機構も意味を為さない。ローレンシア兵は揺を隠せずに顔を見合わせた。
イヴァンはどこに消えたのか。答えは上である。
「お待たせイヴァン」
「いいや、丁度良いタイミングだ」
ラスクの空は別の階層によって塞がれており、各階層からあふれた住居が氷柱(つらら)のように下へびている。イヴァンを回収したナターシャは反重力を使って天井に跳び、住居に摑まりながら親衛隊の様子を眺めていた。
ちなみに反重力はあくまでも髪飾りの力。つまりナターシャにれていなければ恩恵をけられない。
「ねえお姫様(イヴァン)、の子に抱えられて空を跳んだ心境はどんなじ?」
「……ふん」
「あら照れているのかしら」
「やかましい、その髪飾りを寄越せ。俺が使う」
「だーめ。絶対に渡さない――きゃっ、やめなさい! 暴れたら落ちるでしょ!」
やんややんやと騒ぎ聲。戦闘を終えた二人は気付かれないように天井を飛び移り、やがてラスクの街並みに消えた。
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