《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》3

ちょっと話を、と言うミセルさんが笑顔なのが怖い。前回、そんな笑顔を浮かべるような容なんて話してないから余計に。

「あの、フレドさんを引き抜きたいというお話なら、前にお伝えしたように本人と直接話してください……!」

絶対、聞いたらもっと面倒くさい話になると分かっているので、私は先手を打った。打とうとした。

そう言い捨てて冒険者ギルドの中から出ようとしたのだが、出り口との最短距離をふさぐように立っていた彼の橫を通る時に、手首を摑んで止められてしまった。

「これを渡したかったの。今日ギルドに伝言頼む所だったので、ちょうど良かったわ。はい、これ」

「え? これ……パーティー解散屆……?」

「あ。勘違いしないで。ちゃんと下の書類も見てしいの。そう、『パーティー加申請』の紙もあるでしょ? うちが書くところは全部記してもらってあるから。あとはリアナさん達がパーティー解散して、うちに加すればいいだけ」

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「……はぁ……?」

ミセルさんの話す容は、報として頭にはって來るけど、何で今こんな話をされているのかよく分からない。

「ええと……なぜ私達がパーティーを解散してそちらに加するという話になってるのかちょっとよく分からないんですけど……」

「フレド君、リアナさん達の面倒見るためにパーティー組んでるんでしょ? ……でも、私達のパーティーにれば、フレド君も銀級冒険者として定期的に仕事が出來るし、フレド君の代わりに私達のパーティーが先輩としてサポートしてあげられるから」

……いや、やっぱり話を聞いても、それでなぜ私達がパーティーを解散してり直すのが「良い話」なのか全く理解できなかった。

サポート……うーん、冒険者としてって事だよね……? フレドさん以外から「冒険者としての常識的なふるまい」を教わる……確かに必要だったなとは思うけど、それについてはもう遅過ぎる気がする。このおけるのが銀級に上がる前なら、考えてたかも……。もいるパーティーだし。

いや、この人達があの時フレドさんと一緒に國境を越える任務をけてたんだから、時間的に無理か。

「本當は、琥珀ちゃんみたいな年齢の子を冒険者として働かせるのは反対なんだけどね。このくらいの年の子って、親や大人が守ってあげるべき存在なのに……」

……いや、タイミングが合ってたとしてもお願いはしなかったかもしれないな。

憐れみを浮かべて琥珀を見た彼に、そう思った。

「……でも、冒険者ランクが違うから、私と琥珀がけた依頼に一緒に來られないですよね?」

「まぁそれは、指導って事で私達も合わせてあげるから」

「いえ、それは」

「大丈夫! 後輩のフォローは得意なの」

何だろう、話が噛み合わないな。

私はこの會話の違和の原因に気付けないのがどうにも気になった。でもとりあえずそこを置いておいて、話を切り上げて立ち去ろうとしても言葉を遮られて上手く斷れない。

どうしても、質問形式で言葉をかけられるとついその質問に答えてしまって、自分が言いたい事を言うタイミングが摑めない。ダメだ、ちゃんと意思主張をしないと。

そう考えると、私が家や學園の狹い友関係の中で経験してきた「會話」は、誰かが喋り終わってから次の人が喋るものしか無かったんだな。こうして言葉の途中でポンポン応酬がある事自に慣れてなくて、聞くだけというか、防戦一方になってしまう。

「その書類、絶対フレド君に見せてね? 隠して捨てたりしたら分かるから」

「……」

「約束して? ね?」

「い……っ」

笑顔のまま、ミセルさんは摑んでいた私の手首に力を込めて、ツキりと痛みが走った。

思わず痛い、と口に出しそうになった瞬間、私の斜め後ろでずっとを逆立てていた琥珀が飛び出していきそうになる。

ダメ、と聲をかけるまでもなく、琥珀はすぐに足を止めたが一瞬ひやりとしてしまった。

殺気を出した琥珀に驚いて摑まれていた私の手は離されたけど、見るとくっきりと爪の痕が殘っている。

「ちょっとそこ、強引な勧はギルド規則違反よ?!」

「っ……違います! 無理矢理なんかじゃ……と、とにかく、その書面ちゃんとフレド君に見せてね?!」

「えぇ……?」

私が「そのお話は本人にしてください!」と言って逃げるはずが、逆に「その書面必ず渡してね!」と逃げられてしまうとは。

私は、押し付けられた書面を片手に呆然と彼の背中を見送ってしまった。……私ももっと自分の発言をきちんと押し通せるように強くならないと……。

「リアナちゃん、大丈夫?」

「あ、ありがとうございます。聲をかけていただいて……」

すわ喧嘩か、とカウンターの中から慌てて出てきたダーリヤさんも駆けつけて、最初の時みたいな騒ぎにはならずに済んだが、ちょっとした騒ぎになったので注目されてしまった。また上手くかわせなかったなぁ。

「何を渡されたかちょっと見せてもらえる? もちろん、あなた達が言いがかりを付けられた方だって分かっているけど」

「はい、もちろんです。けど……」

「そうね。さっき出たばかりであれだけど、もうちょっとあそこで話聞かせてもらってもいいかしら?」

人がない時間帯とはいえこんなに目立ってしまって、居心地の悪い思いをしているとダーリヤさんがさっき使っていた付ブースにまた案してくれた。自分ので庇うようにして、私達を他の冒険者の視線から守るように。

それだけで隨分気持ちが楽になった。

「あの子は……モンドの水の魔師の子ね。強引な勧を後でギルドから注意しておくわ」

「でも私への勧と言うよりかは……」

「そうね。フレド君と親しくなりたいんだろうけど、なんか逆効果よねぇ」

冒険者ギルドではランクに関わらず、パーティーへの勧や加で「強要」は止されている。強い人をったり、強いパーティーにれてしいと思う人は多いし……その辺りの渉は冒険者間でかなり自由だけど、聲をかけられた側が迷じたり、冒険者ギルド側が問題視したら罰則が與えられることもある。

今回は多分「注意」で終わるだろうけど、効果はあると思う。でも冒険者ギルド任せにしないで自分でも解決できるようにきたいな。次こそは……。

渡された書面をダーリヤさんに預けて、さっき言いつけ通り喧嘩を無暗に買わずにいた琥珀は褒めておこう。

「でもあの、おかしな事言っとったな。自分達が教えてやるとか……琥珀達の方が強いのに何言ってるんじゃ」

「えーと……私達の冒険者ランクを知らないみたいでしたね」

「実際、知らないのだと思うわ」

「え、ほんとに知らないんですか?」

琥珀の直球な言葉を言い換えると、思ってもみなかった話が返ってきて素で驚いてしまった。でもそう考えると、あの噛み合わなかった容がストンと納得できる。

「リアナちゃんはずっと目立ちたくないって言ってたから、それが分かってる私達も報が広まるような事はしてないの。新しい金級冒険者が登録された事くらいは皆噂で聞いてるだろうけど、それがリアナちゃんだと知ってる人はないはずよ」

リンデメンの冒険者ギルドには、私と琥珀の事を言いふらす人ようなはいなかった訳か。確かに、あの表彰式のあった晩餐會でも、それまで私を男だと思ってた人もいたくらいだし。

表彰されたあの記事が載るような新聞を購読してる冒険者もないし、そもそも寫真も小さくて不鮮明だからそうと思って見ないと私達だと分からないかも。

高ランク冒険者や報通には知っている人もいるみたいだけど、そういった人達ほど個人報を広めるような事はしないから、そう考えると彼が知らなかったのも妥當なのかも知れない。

「これからも、宣伝や売り込みはしないでなるべくひっそりやっていくので良いのよね?」

「うむ、真の英雄は力をひけらかさずに活躍するものじゃからな」

「あら、そうね。うふふ。たしかに英雄様は自慢話しないわね」

私が「それでお願いします」と言う前に琥珀が答えたのがあまりに可くて、でも笑ったら悪いなと思った私は琥珀に分からないように後ろで悶える羽目になったのだった。

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