《【書籍化/コミカライズ決定】婚約破棄された無表令嬢が幸せになるまで〜勤務先の天然たらし騎士団長様がとろっとろに甘やかして溺してくるのですが!?〜》とある新人騎士は打ち砕かれる 2
「ごめんなさい……っ、まさかこんなふうになるとは思わなくて……っ、私がもっと早くから強く拒絶しておいたら良かったんですが……!」
お姫様抱っこをされてジェドの部屋にった瞬間、セリスはすぐさま謝罪を口にした。
ジェドと立場が逆だったと想像したら、ジェドの怒りも理解できたからである。誰だって、人が他の人に言い寄られて不快にならないわけがなかった。
けれどジェドはセリスを優しく床に下ろすだけで、無言を貫いている。
怒りをぶつけてくるのであればまだ良かったのだが、後ろを向いて「ハァ……」とため息を吐かれてしまったセリスは、堪らず背後からジェドに抱き著いた。
「ごめん、なさい……ジェドさん……私……」
「いや、分かってる。俺が最近忙しかったから自分でどうにかしようとしたことも、きついこと言って新人騎士が辭めたりしたら、また第四騎士団のイメージが悪くなるかもってセリスが考えたことも……分かってる。分かってる、けど」
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「あーーだっせぇ……」と言いながら、ジェドは項垂れる。
そのまま腰辺りに回されたセリスの手に、ジェドはするりと手をばした。
「悪い、怖かったな。……完全にヤキモチだ」
「……っ、ジェドさん……私……」
「ん……? どうした?」
しがみつくように抱き著いてくるセリスの腕を摑んで、優しく拘束を解かせたジェドは、くるりと振り返る。
向き合う形になって視線を合わせると、必然的に上目遣いになるセリスのしいアイスブルーの瞳に、ジェドはの中のどす黒いがしだけ浄化された気がした。
「勿論今回のことは申し訳なく思っているのですが……実はし嬉しいのです。その、ジェドさんがヤキモチを妬いてくれて」
「そうなのか?」
「自分がこんなに面倒なだとは思いませんでした……けど、だって、好きな人が嫉妬してくれるのは、何だか、嬉しい、です」
頬を真っ赤に染めながら、そうポツポツと呟くセリス。
普段はあまり表には出さないくせに、こうやって顔を赤らめるのだからセリスは狡いとジェドは思う。
ごくり、とジェドの仏が大きくいた。どす黒いは完全にりを潛めたものの、がふつふつと湧き上がってくる。
「……っ、お前な……あんまりそういう可いことを二人のときに言ったら──」
「……けど、今はだめか」とジェドは小さな聲で呟いて、セリスから一歩離れた。
(え!? 何がだめ……?)
人同士になってから既に一線を超えているため、気を孕んだジェドの聲に今日もその流れだろうかと思っていたセリスだったが、何らきを見せない、どころか離れてしまったジェドに困をわにする。
お風呂にるわけでもなく、ベッドに行くわけでもなく、背後から抱きついた腕も剝がされ、ただ向き合って、しかも距離を取られたこの狀況は一どういうことだろうと。
(何だかそれって、私がジェドさんに手を出してほしいみたいじゃない……っ)
まるでそんなの癡だ。セリスは改めてそう思うと、かあーっと全が熱くなってくる。
(……ジェドさんにれられるのはいつだって恥ずかしいけど、脳みそが沸騰しそうになるほど、恥心で可笑しくなる、けど)
──それなのに、どうしても幸せだから。
セリスは覚悟を決めるように息を呑んでから、腕をばして向き合ったままジェドに抱き著いた。
驚いたジェドの顔を見ながら、艶めかしいが薄っすらと開く。
「キス、したいです、ジェドさん……」
「……それ、その後どうされるか分かって言ってんのか」
「……っ、分かって、ます。私のこと、好きにしてください」
「あーー……もう無理だ」
ジェドは自の髪をガシガシと雑にると、抱き著いているセリスを優しく引き剝がす。
そして勢い良く腰を折って、鼻と鼻がくっつきそうな距離にまで近寄ると、し眉を顰めて余裕のない表を浮かべた。
「覚悟、出來てんだろうな」
「……も、もちろんです。どんと來い、です。さあ!」
やや聲を張ったセリスはそう言ってから、瞼をギュッと閉じて全をぷるぷると小刻みに揺らす。
先程まであんな言葉を言っておきながら、いざとなると張しながらキスを待っている姿は、まるで毒だ。
「……ほんと、可い奴」
理を犯し、本能をむき出しにさせる毒を持っているセリスに、ジェドはそう呟いて、視線を一度扉の方向に向ける。
ほんのしだけ開(・)け(・)て(・)お(・)い(・)た(・)隙間と、その向こうに見える人影に、ジェドはニッと口角を上げた。
「気が変わった」
「えっ?」
いつまでもれることのないとジェドの言葉に、セリスは目をパチっと開く。
背筋をばして遙か上にある『人間離れしたご尊顔』が愉快そうに微笑むその表には、今から意地悪するぞ、と書いてあるように見えた。
「今日は自分からキスしてみな、セリス」
「……!? なっ、なっ……!?」
「ほら、さっさとしねぇと、ビクトルが來ちまうぞ」
「〜〜っ!?」
(そうよ、ジェドさん後でビクトルくんに部屋へ來るように言っていたじゃない。それなのに私ったら……!)
ビクトルが來ることなど頭からすっかり抜けていたセリスだったが、狀況を理解すると、直ぐに頭が冷えたらしい。
キスをしたいやら、好きにしてくださいやら、なんて恥ずかしいことを言ってしまったのだろうと思うと、セリスは両手で顔を覆い隠した。
「もう、さっきまでのことは忘れてください……! 怒っていないのなら、私は部屋に戻ります……っ」
「……駄目だっての。ビクトルが來るまでの間にセリスからキスしてくれなきゃ、俺は拗ねる。明日も明後日も、ずっと拗ねてやる」
「……拗ねる!? 急に……!?」
それはもう楽しそうに。まるでお気にりの玩を與えられたみたいな顔をして言いのけるジェドに、セリスは小さな反抗を見せた。
「意地悪です……! いつもはジェドさんからしてくれるじゃないですか……!」
「ああ、そうだな。けど今日はセリスからが良い。あーーもしかしたら、セリスが他の男にちょっかいかけられたから、俺ショックけてんのかも」
「〜〜っ、そ、それは……」
ジェトは終わった話を掘り返すような、小さな男ではないことをセリスは知っている。
だからこの発言は敢えてしているわけで、セリスからキスをするという要求を飲ませるためにやっているわけだが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
(でも……好きにしてくださいって、言っちゃったのよね)
つまりそれは、何でも許容するということ。それがセリスからのキスであったとしてもだ。
「っ、分かりました……! 屆かないから、屈んでください」
「……ああ、これで良いか?」
目を閉じて、「ん」と言いながら屈むシェド。まだ微妙に足りない高さは、セリスがうんと背びをした。
シェドの両頬に、セリスはそっと手を添える。
そして一度、ごくんと唾を飲み込んでから、自のそれを、ジェドのに、ふに、と優しくれ合わせた。
「………………」
僅か一秒。もはや一瞬とも思えるキスを終えると、セリスは気恥ずかしそうに足全をぺたりと床につける。
すると、ジェドは恍惚とした表でセリスをじぃっと見つめた。
男の薄いが、ゆっくりと開く。
「誰も口にだなんて言ってねぇのに……かーわい」
「……!?」
「けど足りねぇから、もうちょっとな」
「……っ、ん……」
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