《【書籍化・コミカライズ】さないといわれましても~元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる》【閑話】みたことないものはあじみしないといけないとおもいます 後編

奧様って言った?ノエル様のってこと?

いやだってぼく遠目で見たことあるけどすごく大きくて、あ、そうそう、ほらアビゲイルちゃんと並んだら大きさ違いすぎるし?

屋敷から背の高い男の人が出てきてるっていうのに、ぼくは爪先立ったままけないでいた。ひょっとしたら口開いてたかもしれないけど、でも、それどころじゃなかったんだ。

長めの黒髪を緩く後ろでまとめたノエル様は、アビゲイルちゃんを片腕に座らせるように軽々と抱き上げてしまう。

ここからはちょっと離れてるのに。

ノエル様が目を細めてアビゲイルちゃんに微笑んだ。え。笑った。

前見たときはすごいしかめっ面で父さんと同じ年くらいなのかと思ったけど、今は若く見える。

でもでもでも、それでもアビゲイルちゃんよりずっと年上に見えるのに――

「旦那様旦那様、これは私食べたことないです」

「食べなくていいからな」

食べれないよそれ!だんなさまって言った!

「……うそ――っひゃっ」

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こっち見た!

目と目があった瞬間にぎらって音がした気がして、おが地面にべちゃっと落ちた。

こわっ、え、うそ、怖っ怖っ!

なにあれ!!おとなげなくない!?おとななのに!?こわいんだけど!!

「じいちゃんが明日の朝手伝いにこいってよ」

「……んー、わかった」

「なんだぁ?ちょーっと前まで、いらんってくらいに張り切って行ってたくせによー」

父さんはにやにやするけど、ちょっと前だなんて。去年の話じゃないか。もう年も明けた冬なのに。

あれから何度か子爵邸でじいちゃんの手伝いをしたけど、アビゲイルちゃん……奧様を見かけることはなかった。

見えないようにしてるしね?思ったより年上だったしね?結婚してるの人に、どきどきしちゃうとかそんなの、いやそういうんじゃないんだけど。そうじゃないんだけど。

雪で枝が折れないように縄で支える冬囲いは、ぼくも冬が來る前に手伝った。

今回の手伝いは訓練場の雪かきだ。といっても、ほとんどは下働きや護衛たちで普段からやってる。

今やってるのはその隅にひたすら雪を積み上げて雪山をつくる作業。スコップでどんどん雪を跳ね上げて高い山にしていく。

荒くなった息で首に巻いたマフラーには細かな氷の粒ができていた。

片側の斜面はなだらかに長くのびて、もう片側はなんとなくふわーっと階段っぽくしてある雪山ができあがると、じいちゃんが庭師小屋からいそいそと木のソリを持ってくる。

ぼくが小さい頃に父さんが作ってくれたソリと同じ。一辺が上に向かって反っていて、二つ開いたに通した縄が持ち手になる。……ちっちゃい子なんて子爵邸にいないはずなのにと思いつつ、じいちゃんに言われるまま、山のてっぺんから試し乗りをした。

「どうだー」

「うん、そんなにスピードも出ないし危なくないと思うし。いいんじゃ「お爺!お爺!それなんですか!」わ、わ、あ」

ふわふわの皮が袖と裾についたコート、もこもこの糸で編んだフード付きマントとマフラー、それからミトンの手袋で完全防寒した奧様が走ってきた。

え、著すぎじゃない?転がりそうなんだけど?わ、前にあったときよりちょっとほっぺがふっくらしたかも?かわいい。なんかおねえさんなかんじすごいかわいい。奧様はじいちゃんにり方を教えられながら跳ねてる。なんで跳ねるの。え、かわいい。

軽いせいなのか、奧様はぼくよりもしゆっくりり降りた。

「……ぉぉぉ」

自然に止まったソリの上で、大きな目をもっと丸く見開いて。

きらっきらのラナンキュラスの金。

「すごい!しゅーって!しゅーってすごい!」

ソリを持って山のてっぺんまでまた上がってり降りて、またソリを持ってと……真剣な顔なのに楽しそう……。桃のほっぺ。汗ばんだのか額に前髪が細い束になって張り付いてる。ぼくまで汗かいてきた。

「あ!孫!孫もしますか!順番?」

「ぼく!?う、ううん、い、いいよ、じゃない、いいです!どうぞ!」

「はい!ありがとうございます!お爺は!?」

「爺は乗らんなぁ」

「はい!じゃあもう一回します!」

孫だって!ぼくのこと孫だって!

じいちゃんの孫だって知ってもらえてたのがうずうずして、息でさっきよりも濡れたマフラーに顔を埋めた。つめたくってきもちいい。

奧様は息切れしながら何回も何回も登ってはってる。もう一回って何回も言ってるんだけど?かわいいんだけど?

「アビー」

背後から大人の男の人の低い聲。奧様が登りかけた雪山から駆け下りてきて、ぼくの橫を通り過ぎるのを目で追ってしまう。

ばふってノエル様のに抱きつく背中が見えた。なんか冷たい空気を急に吸い込んじゃって鼻が痛い。

「旦那様旦那様!お爺が!お爺の孫も!とてもいいお仕事をしました!」

「――っ、あ、ああ、ロブ爺は俺が子どもの頃にもこうして雪山つくってくれたぞ。――懐かしいな」

「まぁー、主様やロドニーが遊んでたのよりゃー低くしましたけんどもね」

ノエル様に聲をかけられたじいちゃんはにっこり笑って答えてて、ぼくはその後ろに隠れてしまった。つい。

「旦那様もそりしましたか!」

「子どもの頃な」

「同じ!お爺はずっといいお仕事をしてたのでご褒がいります!」

「お、おう?」

えっと、えっと、と奧様が手袋を外した手をマントやコートのポケットに次々にいれていって、あ!と顔をぼくらの方に向けた。外された手袋が手首のとこでぶらぶら下がってる。手袋の紐、袖の中に通してるんだ……。

「はい!あげます!これは!義母上からいただいた特別なので!」

「「ぶっふぉ」」

取り出したハンカチ包みを開いて、両手に一本ずつ持って突き出された……サーモン・ジャーキー?あれ?サーモン・ジャーキーだよねこれ。

こりゃまたいいものをってじいちゃんは恭しいじに両手でけ取ったから、ぼくも真似した。やっぱりサーモン・ジャーキーだ。じいちゃんは肩が震えてるし、ノエル様は右手を口に當ててそっぽを向いたまま咳ばらいをした。

「ま、まあ、うん。手當はまた別にな」

「旦那様旦那様一緒に!ソリを一緒に!」

「んー……そうか。よし」

気のせいかもしれないけどノエル様はぼくのほうをちらりと見てから、いや気のせいじゃないって!こわ!こわ!なに!?

「わあああ!ぴかぴか!旦那様お上手です!お上手です旦那様!」

ノエル様が口の中で何かを呟くと細かな氷の粒がのった風が吹いて、雪山のふわっとした階段は瞬く間に幅の広いかっちりとしたものに変わった。るような氷ってほどじゃないけど、しっかりと固められてるのがお日様の照り返しでわかる。

「登るときの足場はい方が楽だろ?で、俺にご褒は?」

「ごほうび!」

――抱き上げられた奧様がノエル様の額に!う、うわ!わ!うわぁ……っ。

「……まー、男は大人げなくなってなんぼっちゅう時もあるもんだ。ほれ、かたして帰るぞー」

二人乗りのソリはそれはもうすごい勢いでって、もう一回です!って聲はさっきよりも楽し気で。

ぽんぽんとぼくのつむじを軽く叩いたじいちゃんの後を、スコップ持ってついていった。

「奧様、よろこんでたね」

「んだなー」

「またなにかつくったりするなら手伝ってもいいよ」

「おーたのむわー」

すっごい足が重い気がするし、もらったサーモン・ジャーキーはしょっぱくて堅い。

何が特別なのか知らないけど、やっぱり特別なだけあって味しい。でもしょっぱいし堅い。

奧様は結婚してるの人なんだし?別にそんなんじゃなかったし?そんなんじゃないけど。

「來年は完璧な雪山つくる」

「……ま、まあがんばれやー」

家の人が喜ぶ庭をつくるのが庭師だからなんだからな!

ちなみにアビーの長は嫁り時で153センチ。この初めての冬時點で155センチです。

コミカライズはなんかとても好評いただいてるようですのよ。ありがとうございます!

すばらしいですからね。ちょーかわいいですからね。

報告にもリンクはってありますけども、がうがうにて配信されてますので是非!是非!

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