《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》15

先の傷と同じく赤い線が、その白のに引かれる。

が一滴垂れてくるがそれをエインズは一切気にせずただ紡ぐだけ。

「疑似解除『強奪による慈』」

再度エインズによる魔の発現。

再びリディアは僅かなを覚える。

目の前のエインズの傷に注目しつづけるリディア。

當然のように先ほど同様、傷は消え去っていった。

(聞いていた話と違う。奪う魔じゃなかったのか?)

エインズは本當に楽しそうに笑みを浮かべ続けている。

「久しく魔師を相手に決闘をしてこなかったから、覚が鈍ってしまっているね。僕自、右腕の不完全解除は久しぶりだよ」

白手袋に隠された右手は、外から見ればただただ普通の右腕として見える。ただ、その中は不可思議で奇妙そのもの。

「こりゃ、魔が執著するのもわかる……」

「そういえば君、魔と呼ばれているリーザロッテさんに會ったんだってね。君は彼から見せてもらえなかったみたいだね」

「なにを?」

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「彼も魔の不完全解除が使えるよ? 僕も実際彼の不完全解除された魔けたけど、あれはすごいね。まだ完全に視れていないから看破できていないんだけどね。うん、あれはすごい!」

「魔も……」

リディアは震えた。

相対して手も足も出なかった相手がまさか手加減していたとは思いもよらなかった。リーザロッテもまたエインズと同じステージに立っていながら、リディアとの対峙の場ではリディアのステージに合わせて魔を使っていたのだ。

敵わない。

リディアはまさに自分が井の中の蛙であったことを痛した。今のままではまったく二人に太刀打ちできない、と。

となればリディアの次に取るべき行が自ずと決まる。

(この場からなんとしても逃げなければ)

リディアはまったく思ってもいないことなのだが、対するエインズはこのリディアとの対峙を決闘と認識している。

手合わせではなく決闘としているのであれば、その終著點は明快だ。なにせ、なんの條件も設定されていない単純な決闘なのだ。

「こないのかい? 僕としてはまだまだ君に勉強させてあげてもいいんだよ? 僕はいま、とても気分がいい」

「おいおい、無粋もいいところだぜ? そんな挑発しないでくれよ。後の先を取るって戦法なんだからさ」

肩をすくめるしぐさを見せるが、どのようにこの場を凌ごうかと考えていただけのリディア。

リディアはとりあえず焦りを見せないように見繕ってみたけれども、エインズの魔眼を前にそんな演技は意味がないのだろうと、言った後になって自嘲する。

「それじゃあ、僕のほうからいくよ。疑似解除『強奪による慈』」

エインズは魔力の拠り所をリディアに設定する。

生命あるもの、全て魔力を有する。そして『強奪による慈』は他者の許可なしに魔力を奪うことを肯定するのだ。

リディアを襲うは先ほどに二度にわたる魔発現の時よりも強かった。

一瞬目の前はブラックアウトしてしまうほどの急激な

(こんな滅茶苦茶な魔を使うやつがこの世にいるのかよ……。どんな殘酷な願を抱けばこの魔に目覚めるっていうんだ!)

酒を呷った次の日の二日酔いに似たに襲われながら、それでもエインズを目の前にリディアは倒れることをしない。

「他人の魔力を使うほど楽なことってないね。加えて、この魔の制約と魔効果。その先が楽しみでならない。——オーバーヒート」

エインズの全から魔力が噴き出る。

魔力消費の燃費を度外視してを魔力で満たすオーバーヒートは、強化はもちろん魔法の発現すらもその速度と威力を発的に増大させる。

まるで瞬間移のように、『鏡通り』に似た一瞬でリディアの懐まで飛び込んだエインズのきにリディアは脂汗がにじむ。

「この狀態で魔法を使ってもいいんだけどそれだと君も面白くないでしょ?」

「なにをっ」

手の屆く位置まで詰め寄ったエインズはリディアの腹部に右手を添える。

常にエインズの全から溢れ出ている魔力の放出先を右手の平に集約する。

「っ!!」

靄のようにエインズが纏っていた魔力が消え去ると同時、リディアは死をじた。

放出され続ける膨大な魔力を手の平の一點から放出すればどうなるか。そしてその手の平にれられているリディアはどうなるか。

考えるよりも先にリディアは魔を発現させる。

(どこでもいい! とりあえずパスにらなければ)

エインズの掌底は瞬間的速さを有していた。剣士や魔法士、そしてそれは特定の権能を持たない魔師であればけること必至の一打。

だが幸いにもリディアの魔はエインズの瞬間的速さを有した一打を上回る。

ほぼ同時か、わずかにリディアが魔のパスにるのが早かった。

右手が添えられていたリディアのは音もなく消え去った。

空に放たれたエインズの掌底は魔力の小発を起こし、右手から距離の離れた書斎の窓を叩き割った。

窓枠やガラスは木っ端微塵に暗闇の外に吹き飛び、夜風が吹き込む。

「ほら頑張ってき続けないと今日君が食べたものを全て吐き出すことになってしまうよ?」

満面の笑みで移したリディアに振り向くエインズに、リディアは苦蟲を噛み潰す。

「吐き出すだけで済むんなら今すぐにでもに指を突っ込んで吐き出してやろうか」

を言うしかないリディア。

「あはは」

(なに無邪気に笑ってんだこの野郎!)

焼石に水にしかならないと分かっていながらも、リディアは銀針を數本取り出す。

エインズは再びリディアにを向けて追撃を狙う。

「それはもう見たよ。でも、傷を作るのも嫌だね。これ以上君から魔力を奪っちゃったら、決著の前に干からびちゃうし」

エインズは右手の覚を確かめながら、ふと思い出したように呟いた。

「……そうか、これはまだ初めてだったのか」

「?」

眉をひそめるリディアに、エインズは聲のトーンを落とす。その目は一瞬、悲しみのを見せていた。

「……誓約。世の理に迎合されしかの魔師に代わり、エインズ=シルベタスが魔の使用時において英霊の制約を継承する。かの魔が□□に至らんことを。——疑似解除『黒炎(ボリション)』」

エインズの元に黒い炎が燈る。

どこまでも黒く、何も飲み込んでしまう程の黒。

それはエインズの元から右腕にび、白手袋を嵌めた右手に纏う。

この世界において、エインズのみが覚えている黒炎の魔師が扱った魔

制約にれ、世の理に迎合されたその死を他者は偲ぶことも許されない。ソフィアも目にしたはずのその黒炎は、彼の中に何一つとして殘っていない。

道半ばで途絶えた魔師の願。理に干渉する

その歪みの全てを、エインズはかの魔師を偲びながら継承する。

皆様、ご無沙汰しております すずすけ でございます。

ハイファンタジーの新作を投稿いたしました。

年のでございます。

タイトル

『竜騎士 キール=リウヴェール』

https://ncode.syosetu.com/n6657ia/

ぜひ気分転換がてらにお読みいただけたらと思います。

今後ともよろしくお願いいたします。

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