《【書籍化・コミカライズ】竜神様に見初められまして~げられ令嬢は霊王國にて三食もふもふ溺付きの生活を送り幸せになる~》第64話 悪夢

『由緒正しきエドモンドの家名に泥を塗りおって! 恥を知れ!!』

薄暗い空間。

ぼんやりとした影が、を引き裂くような怒聲を浴びせてくる。

──ごめんなさい、お父様!! ごめんなさい……!!

そう言葉にしようとしても、まるで氷魔法をかけられたように口が固まってかない。

『貴方には失したわ。あろうことか、魔力ゼロだなんて……貴方の母であることは、一生の恥ね』

違う影が、心底落膽したように言う。

──……お母様……ごめんなさい……出來の悪い私で……ごめんなさい……。

やはり、言葉を発する事はできない。

一方的な罵倒が、鼓を、脳を震わせる。

『ほんと、生きてて恥ずかしくないのかしら、お姉様? お姉様のせいで、私も學校で迷していますの。エドモンド家の恥さらしの妹はお前か、って。ま、私の実力を見れば尾を巻いて逃げていきますけどね!』

──マリンも……ごめんなさい……私のせいで、ごめんなさい……。

やっぱり口は開かないまま。

鋭い言葉の刃が何度も何度もソフィアの心を引き裂く。

からじわりと熱い滴が滲む。

ただでさえ朧げな影が余計に不明瞭になる。

その様子がいっそう、不気味さを増していた。

──ああ、やっぱり……皆にたくさん迷をかける、お荷でしかない私なんか……。

──生まれてこなければよかった。

そう思った、瞬間。

……フィア……大丈……ソフィア……。

自分のものではない、誰かの聲がソフィアの頭の中に響いた。

低くて、落ち著いた、そしてどこか安心のある聲。

……ソフィア……おい……しっかりしろ……。

その聲はみるみるうちに鮮明さを増していく。

それに比例して、周りの空間は徐々に形を崩し始めた。

今までソフィアに罵倒を浴びせていた影たちも、波が覆われた砂浜の絵みたいにかき消されていく。

今まで震えることすら許されなかったソフィアの口がしずつ開いていき、一言だけ言葉を紡いだ。

「アラン……様」

ソフィアを閉じ込めていた空間が、ぱりんと音を立てて崩れた。

「……ぅっあ」

短い悲鳴をらしてソフィアは覚醒した。

大きく息を吸い込む。

一度だけじゃ全然足りなくて、何度も。

が燃えるように熱い。

背中や首元、全にじっとりとした不快がある。

ぼんやりとした視界に映るのは、もう見慣れた天井の模様。

アランの屋敷に充てがわれた自室のものだ。

それでソフィアはようやく、安堵の息をつく事ができた。

「大丈夫か、ソフィア?」

はっきりとした聲が鼓を震わせる。

重い頭を橫にかすと、ひとりでに言葉が溢れた。

「ア……ラン、様……」

ベッドのそば。

ソフィアを覗き込むようにして、心配した様子のアランの顔があった。

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【タイトル】

冰の令嬢ヒストリカが幸せになるまで〜「のくせに出しゃばり過ぎだ」と婚約破棄された子爵令嬢は、醜悪公爵の病気を治し溺されるようになったので毎日が幸せです〜

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