《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》16
「おいおい、なんだその黒い靄は? 不気味な右腕に不気味な黒い靄、気持ち悪さが渋滯しているじゃないか」
冷や汗を浮かばせ、口角を引きつらせるリディア。
彼からすると、エインズの右腕が纏っている黒炎は、ただの揺らめく黒い靄にしか見えない。
世の理を歪ませる魔ゆえに、発現させた魔による現象というのは普段生活をしていて目にするものとはまったく異なるものが多い。
き、黒炎の魔師が発現させた『黒炎』はまさにリディアが目にすることがなかった現象。
経験や知識が富なリーザロッテならば黒炎の発現の仕方やその靄のように見える炎を確認すれば一目で理解するだろうが。
エインズはただ真っすぐリディアに向かって歩を進めるだけ。
「はは、は。なんて怖い……」
『鏡通り』も忘れて、ただ本能的にリディアはエインズが近寄ってきた分だけ後ずさる。
エインズの歩く姿はただただ異様に映る。
彼に相対するリディアは當然ながら、端で控えているソフィアも思わず息をのんでしまう程。
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はっきりと視覚できるほどに全から膨大に魔力を溢れさせ、奇妙な右腕に不気味な黒い靄。
魔法士はさることながら、魔リーザロッテ以上の凄まじい威圧があった。
リディアはエインズと一定の距離を取りながら、彼の側方へ回り込むように移する。
(気安く近づけない……。あの口ぶり、間違いなくあの靄も魔の一つ。であるなら、あの靄にれたらどうなるか)
エインズから逃げるのは確定しているとはいえ、可能ならば一発くらいその不愉快な橫っ面を毆っておきたいリディア。
(それに黒い靄の報も可能な限り持ち帰らないと、次回に影響してしまう)
その靄が魔師であるリディアに向かうのか。はたまた所詮は魔法士である『次代の明星』の面々に向けられるのか。
現狀、間違いなくリディア以外の面々が寄り集まってエインズを攻撃しようとも軽く封殺されてしまうのが目に見える。
エインズは立ち止まることなくゆっくりとリディアに寄っていくのみ。
とはいえリディアもこのまま永遠距離を取っていられるほど余裕はない。書斎の壁より先は下がれないのだ。
リディアは銀針を取り出しエインズへ投擲する。
放たれた銀針にこれといったきを見せないエインズだが、黒炎だけは違った。
エインズを致傷させん針は彼にとって害悪そのもの。それを見逃す黒炎ではない。
黒炎は大きく揺らめいて、銀針に向かうようにして展開される。
黒炎にれた針は燃えかすも殘さず、完全に燃焼された。
リディアは続いて複數本、エインズの全に向けて針を投げる。
黒炎は再び揺らめくと、エインズの前で薄く広がりその全てを燃やし盡くした。
「防魔ってわけね」
リディアは今度、『鏡通り』を用いての攻撃を試みる。
黒い靄のき方を見た限り、どのようにして靄が針を認識したのかは分からないが投げてから防が展開されていた。リディアはそこを突く。
加えてリディアの目から今のエインズはリディアのきを完全に油斷しているように見える。
エインズによって窓は割られてしまったが、室燈のトリガーは殘されている。
「あんまり不躾にレディーに近寄るもんじゃないぜ、怖い怖い魔師さん。これじゃ、流石のあたしもメス丸出しに悲鳴を上げるしかなくなっちまう」
リディアは軽口を叩きながら、ちらりと室燈を確認してトリガーを設定する。
服の側から大量の針を取り出し全てをエインズに投げる。
そののいくつかがリディアの魔によって室燈をトリガーとしたパスへと消えていく。
リディアの想像通り、どこかのタイミングでエインズのに刺さると判定されたもののみを対象に黒い靄を防にいていたようだ。
ゆえに投げた直後に魔のパスに吸い込まれていく針は燃焼されなかった。
(今のあいつのきならば間違いなくあの針はやつに屆く)
真っすぐエインズへ向かって投げられた針は、黒炎がエインズの正面に展開されてその全てを燃やし盡くした。
「今だ!」
黒炎がエインズの正面に展開されたと同時、パスの中でいくつにも分裂した針がエインズの後方から雨のように降り注ぐ。
エインズもリディアを油斷しきったままなのか、回避行を取ろうともしない。
「殘念だね、今の『黒炎(これ)』はある意味で完全防魔として完しているんだよね」
エインズは後方からの針を見ることもなく、ただリディアに微笑みかける。
エインズの正面に展開されていた黒炎は、その見た目からは想像できないほど素早く揺らめき、エインズの全を包み込むようにして展開した。
後に黒炎のにぶつかりその全てを燃やし盡くされてしまう銀針。
「……全方位防ってのは流石にどうしようもなくないか?」
その景に、リディアはお手上げとばかりに大きくため息をついた。
「さあ、どうかな?」
リディアは今の景に勘違いをしてしまった。
今のリディアの攻撃がもし黒炎の魔師に向けられたものであったならば、その結果は間違いなく彼のんだとおりになっていただろう。
黒炎の魔師が認識しない後方からの銀針を害悪として迎撃することはない。発現者に降りかかる害悪を全て燃やし盡くす炎の網を搔い潛り、針はそのに突き刺さっていただろう。
だが、ことエインズにおいてはそれが起こりえない。
エインズはすでに右目の魔を発させている。
一瞬では數えきれないほどの針をリディアが投げた瞬間にその後の攻撃全てを把握していたのだ。
『からくりの魔眼』と『黒炎』の二つの魔を併用することによって完全な防魔として完されたのだ。
だからこそリディアは勘違いしてしまったのだ。そしてその勘違いはリディアの攻め気を失わせるには十分すぎる程のもの。
勘違いしたままのリディアだが、それでも『黒炎』について彼なりの報を手にれた。
(あいつを一発ぶん毆れなかったのは悔やまれるけど、當初の目的は十分に達できた。あとは無事に帰られるかだな……)
攻め気をなくしたリディアは『鏡通り』を使用して安全圏まで退避することを考える。
しかし、それを読み取れないエインズではない。
「決闘の最中に逃げるのは流石に見過ごせないよね。ここまで最低限、僕に相対してきたから手心を加えてきたけど、そうなったら話は別さ」
ハイファンタジーの新作を投稿いたしました。
年の長でございます。
タイトル
『竜騎士 キール=リウヴェール』
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ぜひ気分転換がてらにお読みいただけたらと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。
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