《スカイリア〜七つの迷宮と記憶を巡る旅〜》第220話 終結

フラウ=ジャブ様がゲーティアーによって召喚された巨巖を防ぎ、街を守り消え去った後、俺とフウカはみんなの元へと戻った。

リッカとマリアンヌはほぼ煉気が底をついていたが、煉気量に自信のあるクレイルがついていてくれたおかげで皆無事だった。

あの後さらにレベル4のモンスターがもう一現れたらしいが、エレナの力を借りる事でどうにか倒すことができたらしい。

幸いなことに、ガルガンティア様の放った全力の銀嶺(ニヴルヘイム)によって作り出された氷山が防壁となった影響か、街へ侵攻するモンスターの勢いは落ちていた。大波導を行使し、意識を無くしたガルガンティアのを埋めるべく殘りの三大賢者はすぐに各自の持ち場へ戻っていった。

俺たちは代で休みながらもモンスターを迎撃し、なんとか大暴走を凌いでいった。

夜が明ける頃、南の空から現れた浮遊艇団から降下してきた東部軍の援軍によって戦線は増強され、三大賢者の戦もあってか、翌日の晝あたりにはようやく大暴走はほぼ沈靜化していた。氷河を渡って街へ近づくモンスターの姿は疎らとなった。

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多くの人々の強固な意志と、それに応えるかのようなエルヒムの介。己の命を散らしながらも街を守るフラウ・ジャブの姿に心打たれた者達の戦により、水の都プリヴェーラは、三日間に渡る大暴走を退けたのだった。

エルヒムが人々の信仰から生まれるのなら、その意志は街に暮らす人々と同じ。神がとった行はごく自然なものだったと言えるだろうか。プリヴェーラに住まう者の心、意志の強さがモンスターに打ち克ったのだ。それはまさに歴史的勝利だった。

§

「……ん、重い」

意識が覚醒してものだるさと頭の鈍さはとれなかった。既に慣れ親しんだ自宅の寢室、天井をぼんやりと見上げる。……思った異常にが重たい。相當無理したな、これ。視線を下げると、俺に覆い被さるように目の前に広がった橙の髪が目にった。

何故かフウカが俺の上にうつ伏せになって寢転がっている。ここは俺の寢室で、昨日はちゃんと一人で寢たはずなんだが。

コンコン、と部屋の扉がノックされ、ガチャリと開いた。

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「ナトリくん、起きてます? 朝ご飯の支度が——」

部屋にりながら俺に聲をかけたリッカが、俺の上に橫たわるフウカを見て言いよどむ。

「その……、すみません。お邪魔しました……」

「リッカ、それ多分誤解だから」

半開きの瞼をこすりながらを起こす。

「起きたら何故かここにいたんだ。起こしてご飯にしよう」

「そ、そうですね……」

リッカがベッドに近寄りフウカを揺する。

「起きて、フウカちゃん。ナトリくんも疲れてるんだから、自分の部屋で寢ないとだめだよ」

「ん~……? あ、おはよ……リッカに、ナトリ」

エイヴス王國からイストミルに戻ってからというもの、俺たちは三人で暮らしている。正直これで本當にいいのか、疑問がないわけじゃないが……、俺としては好きなの子に囲まれてこの上なく幸せな日々だ。

昨日、収束に向う大暴走の後処理を東部軍のみなさんに任せ、俺たちはそれぞれ家に帰り泥のような眠りについた。時刻は既に正午を回っている。疲労が蓄積しすぎたは、まだまだ惰眠を貪れることを主張する。

「二人とも、よく戦ってくれたよな」

三人で食卓につきながら遅い朝食をとった。

「當然だよ。プリヴェーラには大事な人がたくさんいるもん」

「マリアンヌちゃんとも約束しましたから」

「約束、か」

マリアンヌも街も無事。何一つ失うことなく、大暴走を切り抜けることができた。

「勝ったんだよね、わたしたち」

「うん、俺たち人間の勝利だ」

「ナトリくんとフウカちゃん、大活躍でしたね。魔龍に、ゲーティアーまで倒してしまうなんて」

「めちゃくちゃ怖かったぜ……」

「だねー、私夢に見ちゃった」

「私ももっと波導を磨かないとです」

「リッカも頑張ってたじゃないか。それにモンスターの素材だって確保してくれてたし」

リッカは折りを見て星空の乙(アストラ・イア)のを使い、倒したモンスターの死骸を小して回収していた。黒波導を使いこなす彼ならではの便利な素材保管方法だ。大暴走では多くのモンスターを討伐したが、いちいち素材をはぎ取っている暇なんてないからな。高レベルモンスターの死骸を放置して、他の狩人に貴重な素材を奪われる心配がなかったのが地味に嬉しい。

「必死で戦って得るものがないっていうのも、悲しいですから」

「ほんとに助かる」

「あ、モンスターの素材、みんなに分けないとですね」

それについては昨日の別れ際に皆と約束している。後日バベルに集まって分配する予定だ。

「でも、みんな生きていて本當によかったです」

「えへへ、だね!」

俺たちは顔を見合わせ笑い合った。

§

三日ほど経ち、徐々に街にも人が戻り始めた頃。俺たちは三人揃ってバベル南支部を訪れた。

「ランドウォーカー様~!!」

付カウンターの向こうからぶんぶん手を振りながら呼びかけるのは付嬢トレイシーだ。彼のいる窓口に向かう。

「フウカさんに、リッカさんも。皆さん、本當にお疲れ様でした!」

「なんとか切り抜けられましたよ」

「ここは他所に比べて賑わってるね」

「ええ、大暴走では大量のモンスターが倒されましたからね」

街中はまだ避難者が戻りきらず人がないが、バベルは得た素材を持ち込む狩人が多いらしく賑わっているみたいだ。狩人にとっては大量の素材を得るチャンスでもあった。うまく稼いだ者達もきっと多い。

レベル4がゴロゴロいたし、魔龍がまるごと氷漬けになって殘っているのだ。きっとバベルはしばらく魔龍の解作業で大忙しだろう。

「皆さんも素材の持ち込みでしょうか?」

「はい。それと素材の分配をしようかと思って」

「よォ」

「クレイル」

聲に振り向くと、クレイルが立っていた。り口の方からやってくるマリアンヌとリィロの姿も見えた。

「みんな、ちゃんと休めた?」

「こんにちは、みなさん。私は一日寢込みました」

「俺は案外平気やったな」

「あれだけバンバン撃ってたのにすごいわねクレイル君……。まあ私も探知くらいしかしてないからそこまでなんだけど」

「あはっ、みんなもう元気そうだね」

「よかったです」

ふと付を振り返るとトレイシーが惚けたように俺たちを見ていた。

「どしたの? トレイシーさん」

「いえ、これがこの街を救ったユニット、『ジェネシス』の姿なんだなぁ、と思いまして」

はしみじみとそう言う。

「やっぱり私の勘は間違ってませんでした。ランドウォーカー様がグレートアルプスの紫水晶を持ち込まれた時から、きっとすごいことをする人だと思ってました」

「はは、懐かしいですね」

「でも、三大賢者のみんなの働きに比べたら、私たちはそこまで」

「いいえ。ガルガンティア様から聞いています。水龍ラグナ・アケルナルを倒したのはみなさんだと」

妙に尊敬を込めた眼差しで見つめてくる。若干居心地が悪い。

「っちゅうか、アレをやったんはナトリとフウカちゃんやけどな」

「それでもレベル4のモンスターを二も倒してるんだよ。十分すごいと思うんだけどね」

「カッカッカ。まあな」

リィロの言葉にクレイルが笑って応える。

「ええ、……本當にそうです。私は歴史的瞬間に立ち合ったんです。イストミルの新たな英雄誕生の瞬間に」

「英雄って、それは言い過ぎじゃないかなぁ」

「ナトリくん、魔龍を倒した人がそんなことを言っても謙遜になりませんよ」

リッカがくすくす笑いながら言う。実際俺は頭にを開けただけで、止めを刺したのはフウカだし。

「皆さん、この度のプリヴェーラ防衛作戦へのご參加、改めて謝いたします。重ねてお禮を言わせてください。……この街を守っていただいて。皆さんはプリヴェーラの誇りです」

「いえ、私は……」

「賞讃は素直にけ取っとけ、ちびすけ。なかなかもらえるモンやないからな」

必死で戦ったのは作戦に參加した全員だ。街のためにいた全ての人が賞讃されるべきだろう。

その後、俺たちは別棟にある素材保管庫へ移し、リッカの星空の乙(アストラ・イア)を解いて実大に戻った素材の換金や分配を行った。その中でも特に強力だった二のレベル4、ウルサ・マイヨルと怪魚セルペンスは貴重な固有素材と多くの金貨に変えることができた。

が傾き始める頃に分配は終わり、解散の流れとなった。

「ねえみんな、折角だから打ち上げしない?」

「ええな。久しぶりに騒ぎてぇ気分やわ」

「打ち上げ? 楽しそう!」

リィロの提案に皆が同意する。その様子を見てトレイシーが聲を上げる。

「あ、すみませんお伝えし忘れていました!」

「なんですか?」

「四日後に記念式典が開かれることはもうご存知でしょう?」

「知ってます」

大暴走を耐え凌いだことは、その事実以上に大きな意味を持つ。度々モンスターによって躙されてきた、人間の歴史における大きな希となるだろう。それを祝い、街のために力を盡くしたエルヒムへの謝と、祈りを捧げるための祝祭が開かれることになっている。今、プリヴェーラでは市主導でその準備が急ピッチで進められていた。

「市長からバベルに、記念式典で『ジェネシス』を市民に紹介させてしいと通達がありまして」

「えっ!」

「ほォー、マジかよ」

「式への參加の確認と、改めてバベルで打ち合わせをさせていただきたいんです」

「なにか、すごいことになってしまいました……」

トレイシ−が俺に參加の是非を問うてくる。俺はみんなを見回した。

「みんな、いいか?」

「ええーっと……、私なんかまで、ほんとにいいのかなーって……」

リィロが眼鏡の奧の瞳を泳がせながら挙不審に呟く。

「あはっ、リィロだけ出ないのは変でしょ?」

「そ、そうなの?」

「別に辭退する理由もねえし、ええやないか」

「そうですよ。リィロさんのおかげで私たちは効率的にモンスターを倒すことができたんですから」

「支部長から特別に皆さんをもてなすようにと言われてますので、その後バベルの方でささやかですが宴席も用意させていただきます」

「リィロさん、打ち上げに丁度いいですね」

「たしかに……」

「決まりやな」

「じゃあみんなで參加だな」

「ありがとうございます! よろしくお願いしますね!」

トレイシーはぱっと顔を明るくさせると頭を下げた。

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