《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第4章 1963年 プラスマイナス0 - すべての始まり 〜 4 二人の苦しみ(4)

4 二人の苦しみ(4)

バスを降りるとすぐ目の前に、懐かしい二子東急と二子玉川園がある。もちろん元の時代にだってちゃんとあったが、智子がいなくなってからは一度たりとも訪れていない。

そしてここからし歩くと、確か裏通りに小さな旅館があったのだ。

記憶違いでないことを祈りながら、し歩くとやっぱり旅館はちゃんとある。

彼は旅館の中にっていって、「ごめんください」と聲をかけた。すると著姿の中年が現れる。懐に用意した一萬円札を二枚取り出し、剛志は軽いじでの前に差し出した。

「しばらくこちらで厄介になります。まずはこれだけ預けておきますので、宿賃が足りなそうになれば、いつでもそう言ってください」

そうなれば、いくらでも出すと言わんばかりにそう告げた。すると將らしいは目をまん丸にして、剛志の手にある紙幣をの開くほど凝視する。

突然現れたと思ったら、優にふた月以上の宿賃と來たもんだから、

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「あの、うちじゃ大したお構いもできません。もしあれでしたら、電車で渋谷まで出られますと、もうしちゃんとしたお宿がございますが……」

そう言って、剛志の顔を覗き込んだって不思議じゃない。

ただ彼としては、そんなところに行くわけにはいかないから、

「普通でいいんですよ。朝食だけ用意してもらえれば、あとはただ寢に帰るだけですから……」

そんなふうに続けて、

「あ、もしかして、前金二萬じゃ足りませんか? もう二萬か三萬、なんなら預けておきましょうか?」

ちょっとした遊び心でそんなことまで言ってみる。すると將は両手を広げて、

――いえいえ、めっそうもない!

まさにそんなじの顔をした。

それから彼は、大井町からの口まで開通していた大井町線に乗って、自由が丘乗り換えで渋谷まで足をばした。

最初は玉電で行こうと考えたのだ。ところがどれくらいかかるかわからない。夕方五時には児玉亭に行きたいし、だから剛志の時代には、田園都市線と呼ばれている東急線に乗り込んだ。

これから日に日に暑くなる。そんな中、著た切り雀ってわけにはいかないし、下著や靴下の替えだって必要だ。二子に高島屋ができる前だったから、剛志は渋谷に出てから東急百貨店で買いをした。さらに母、恵子には、春らしいスカーフと大福まんじゅう、正一へはさんざん悩んだ挙句、一萬円もするジョニ黒を発する。

ずいぶん昔、彼がまだ小學校に通っていた頃だ。

たった一度だけ、父親が剛志に言ったことがあったのだ。

「剛志、おまえがいっちょ前になったらさ、目ん玉が飛び出るほど味いウイスキーを一緒に飲むんだからな。絶対に下戸なんかになるんじゃないぞ! わかったな!」

その頃、下戸がどんな意味なのかわからなかった。それでも嬉しそうに話す正一に、なぜかワクワクしていたのを覚えている。

だからって、一萬円は高すぎないか? ジョニ赤でも十分だろうなどと悩んだくらいで、彼の買いはあっという間に終了する。晝食をとってから旅館に帰っても、児玉亭へ五時には余裕で間に合いそうだった。だから行きに諦めた玉電に、彼は乗って帰ろうと即決する。

まるで映畫を見ているような景の中を、路面電車が走るのだ。瀬田の差點から二子へ下っていく辺りでは、なぜか無に目頭までが熱くなった。

あと五、六年すれば、玉電はすべて廃線となる。線路や駅は消え去って、いずれ古びた建や養鶏場なんかも跡形もなくなってしまうだろう。

そして何より、正一はその頃すでにこの世を去って、元の時代なら恵子だって墓の中だ。

そんなことを心に思い、今という時にいる不思議を今さらながらに噛みしめた。

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