《【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄のラポルト16」と呼ばれるまで~》第93話 布陣Ⅰ④
ぐすぐすと泣く依の、小さな肩が震えていた。僕は逡巡していたよ。
「弾だ。流れ弾か? ‥‥にしては」
紅葉ヶ丘さんの聲が聞こえた。振り向くとPCのモニターを覗く育ちの良さそうな彼が見えた。
「大畫面で出すよ」
手に持ったPCを作してブリッジ前面、舵する泉さんの頭上の大型モニタ―に映像を映しだす。全員の視線が集まる。
「あれ? 見た事ある建」
「まほろ市民病院じゃね?」
その白亜の建に弾が弧を描いて3本。その1本が施設をかすめて著弾した。
白黒に明滅する畫面。僕の周囲からし悲鳴が聞こえて。
「あ~。今のやっぱ、まほろの病院、だよね~」
という網代さんの聲に、「そうね」と渚さんが答えた。「今くらいの砲撃量だったら、直撃だとしても病院設備のバリアで凌げるわ」とも。
子さんは深刻そうだった。
「流れ弾にしては‥‥。私達をあぶりだそうとしている?」
と首をかしげている。病院を狙ったのか? 偶然にしては不自然だ。
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「行かなきゃ!」
依がんだ。
「もうオリシャさんのオペの時間!」
まわりが押しとどめるけど、依は止まらない。「だめよ。オペの日程が遅れなければ、こんな事になってないよ。やっぱりわたしのせいよ」
僕も止めにったけど、子さんが諫める。
「‥‥逢初さん。みんなも。‥‥戦況言うね。敵の數が多いんだよ。想定してたコンギラト勢以外にも、歐圏の國が參戦してる」
「多いってどれくらい?」とコーラが問うと。
「約2倍」と子さんはため息まじりに言う。
「歐圏からなくとも4國。南半球からも1國は。それで手が空いたコンギラトの國がこのまほろ市を狙ってきてる。」
「それってもう紘國VS他の國家。世界大戦じゃ?」
誰かが言ったこの言葉を皮切りに、みんな一斉にしゃべり出した。
「行っちゃダメよ逢初さん」
「でも」
「うん。正直このままではまほろ市が占領されるのは必至だ」
「そうよう。依ちゃん。捕まっちゃうわよう」
「‥‥‥‥それでも行きます。醫療関係者なら殺されたりはしないはず」
「‥‥殺されないだけで、何されるかわかんないっス」
「逢初先生。ここは無理しない方が」
「‥‥‥‥。殺されない保証、ある?」
「なあ。行かせらんね~だろ流石に」
「だ、だって逢初さん2回捕まって、結構、ひ、ひどい目に‥‥」
「病院の人って避難できないのかな? こんな狀況なのに」
「それは無理だよ。悪い意味でまほろ市は平和都市なんだ。今の今まで攻められると想定してなかったし、まして病院関係だとかせない患者もいる。オリシャさんの手もね」
最後はもう全員で止めるじになって。だけど。
「‥‥それでも行く。行かなきゃ。わたしの初めての患者なのに‥‥‥‥! あああ!!」
大聲で泣き崩れてしまった。依の鳴き聲はよく響くよ。艦橋の、々な計がんな音を出している中、一瞬でここは依の涙に染まって。
わかってるんだ。依が言いだしたら止まらない事を。何よりも自分の責任をじていて、もしかして、いやこのままだと確実に占領されてしまう病院と、初めての自分の患者と運命を共にしようとしている事を。
みんな、黙ってしまった。
「‥‥‥‥‥‥‥‥俺が戦う‥‥‥」
思わずそう呟いていた。自然に、だった。なんだか無に腹が立ったんだ。
だってそうだろ? 攻めてくる敵が悪いのに、なんで依がこんな悲しまなきゃいけないんだ!?
おかしいよ。おかしいだろ?
絶対に!
「渚さん。勝てなくてもいいから、敵の進軍を止めるやり方ってあるよね? 防陣地もあるし、いざとなれば『アレ』もある。俺1人でいいから、DMTの裝備を貸して。市民病院に敵が來なければいいんだよ。手が終わってみんなが避難するまで」
「‥‥‥‥その方策はあるわ。‥‥‥‥‥‥でもいいの? 本當に? 暖斗くん」
渚さんにじっと目を見られたけど、不思議と決意は揺るがなかった。いや、決意じゃあ無い。怒りなんだ。それに。
「俺は戦闘後にけなくなって、何度も依に介(たす)けてもらった。依がいなければ戦い続ける事はできなかった。今度は俺が助ける」
みんなの視線が集まる。不安そうな顔も多い。
「大丈夫。俺がやる。近代DMT戦で死者が出るのは稀、なんでしょ?」
そう言いながら子さんの方を向くと、彼はこめかみに手を當てながら答えた。
「うん。よっぽど悪意を持って隔壁縦席(ヒステリコス)を狙うか、ジャングルの奧地とかでDMTが擱座しない限りはね。そう発言するって事は、なくとも匹夫の勇では無い、と」
「本當にいいのね? 暖斗くん?」
ああ、って答える前に、コーラが前へ出た。
「アタシ、オリシャさんのガードナーだからさあ。このアホに付きあうわ。ね? ソーラ?」
「‥‥‥‥ええ。私達は武娘(たけいらつめ)の候補生。アマリアの人は私達が救う。覚悟はできてます」
「どうする? いちこ? 行ける?」
「わ、私は怖いない。う、うたここそムリしちゃダメ」
「は~~。もうこういう流れっス。パイセン」
「いいじゃん櫻(さくら)。どっちみち陣地に展開して威嚇警備員やるつもりだったんだから。敵が増えたってだけだよ」
今のやり取りで、パイロット組の全員參加が決まった。子さんがみんなの前へ出て深々と頭を下げた。
「‥‥‥‥みんなありがとう。ひとりの紘國軍人として、禮申し上げます。‥‥だけど、無理だけはしちゃ駄目だからね? だったら出撃の許可は出せないよ?」
珍しく仲谷さんが発言する。
「みなさん。大丈夫です。きっと上手くいきます! この選択は吉です!!」
なんか病院でもそんな事言ってたね。あ、ハシリュー村の時でも。仲谷さんって霊ある? なんか占い師とかみたいだ。でもこれがみんなの背中を後押しした。
「メンテ組はやる事やるだけだ。以上」
「ちなみは依ちゃん病院へ送ってくしぃ。ガードよろしくね暖斗くん」
「私はやはり舵を」
戦艦のバックアップ組もやる気スイッチがった。そして麻妃が。
「‥‥なんだよ。いきなり覚醒か。まあウチは、ぬっくん全力サポーターだゼ☆ 昔からね」
子さん渚さん紅葉ヶ丘さん。附屬中3人娘があらためて前に出てきた。子さんの
「依さんを。病院を。新しく生まれてくる命を守りましょう」
という言葉が、妙に心に殘った。
僕は依に駆け寄った。自然と手を取りあう。
「‥‥‥‥ありがとう。暖斗くん」
「僕が守るよ。必ず。怖い思いもさせない。依はがんばって、オリシャさんを救って」
「‥‥一人稱が『僕』に戻ってるよ‥‥」
その言葉に、一呼吸おいて各所で笑いがおこった。
「ね、円陣組もうよ」
といういかにも育會系の提案をした初島さんの聲が終わる前に、ラポルトのレーダーから警報音が聞こえた。
15km西のベースキャンプから、じゃない。
さらに西、洋上の集積艦隊からの
大規模曲砲撃が迫って來ていた。
※「やっと最終決戦。もう異世界いかないよな?」と思ったそこのアナタ!!
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