《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第4章 1963年 プラスマイナス0 - すべての始まり 〜 5 常連客と「おかえり」(3)

5 常連客と「おかえり」(3)

思えば、自分だけが部外者だ。

ここにいる誰をも知っているが、向こうは誰ひとり自分のことを知っちゃいない。そんなことまで思ってやっと、剛志はこの場に踏ん切りをつけた。

日が暮れればあっという間に、この時代の剛志が帰ってくるのだ。

そうなれば當然、十六歳の自分と対面することになるし、それだけはどうしたって避けたいと思った。だから背後から靜かに近づき、正一の耳元でこそっと呟く。

「それじゃあ、わたしはこれで、そろそろ失禮します」

そう言った途端、正一は驚いたように振り返り、

「ダメだよ旦那。もうすぐうちの息子が帰ってくるから、ちゃんと紹介させてくれよ。生意気な野郎だが、頭だってそう悪くねえし、俺にとっちゃ出來がいいってくらいの息子なんだ。だからぜひ、會ってやってくださいよ」

なんて言いつつ、剛志の飲み殘したビールをグイッと一気に飲み干してしまう。

それから空になったコップに日本酒を注いで、

「ねえ旦那、いいだろ? 俺の息子のために、涙まで流してくれる人をさ、そう簡単に帰しちまうわけにはいかないんだって……」

低い聲でそう言うと、剛志の前にそのコップ酒を突き出した。

息子のために、大の大人が泣いている。そんな姿を眺めてたとあっちゃ、とんと気の回らない野郎だ――くらいきっと思ったに違いない。だからすぐに視線を外して、正一は見て見ぬ振りをしてくれた。

ただとにかく、このまま居続けたらどうなるか? 剛志はとっさに考えたのだ。

その瞬間、同じ空間に同じ人間――もちろん三十六歳になった剛志の方は細胞だってくたびれている。だからまったく同じとは言えないだろう――が、同時に存在することになる。

もしかしたら、そういった不合理を防ごうとして、

――発が起きるとか、まさか、どっちかが消えちゃうなんてこと、ないだろうな?

なんて思うと同時に、さらに突拍子もないことを思いついた。

――まさかあの二人、どっちも伊藤博志! だったんじゃないか!? 

違う時代から來た伊藤博志二人が、どのような理由であろうとあの林で出會ってしまった。

――だからって、どうして殺すなんてことになる?

過去を生きる伊藤が殺されたなら、さらに未來を生きていた方は、

――その瞬間、消えちゃうってことだ……。

過去の存在がなくなれば、當然それ以降の未來など訪れない。だから寫真の男は忽然と消え失せ、その足取りは未だ不明のままなのか? そんなことを思えば思うほど、いよいよここにいちゃダメだという気がしてくる。

――やっぱり出よう!

だからそう決めて、正一が背中を向けている隙にソッと席を立ったのだ。

人と會う約束がある。そう告げて、何を言われても無視すればいい。そんな決心を心に思い、彼が足を一歩だけ踏み出した時だった。

まるで後ろにも目があるように、正一の顔が剛志を向いた。

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