《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》19

「おい、ルベルメル。どうしてこんなところに……って、風呂にっていたのか」

「そうです、そしたらリディア様が急に來られまして。私、びっくりしてしまいました」

「それは悪かったな。……つーか、やけに狹い浴槽だな。こんな洗濯槽みたいな狹さ、落ち著くに落ち著けないだろ」

「それは三人もっていたらそうでしょう」

ルベルメルの言葉に「ん?」とリディアは首を傾げた。

「三人?」

ルベルメルが向ける視線の先、リディアは背後を振り返る。

そこには突然現れたリディアによって浴槽の隅に追いやられて窮屈そうに顔をしかめるダリアスがいた。

「うおっ! 誰だお前!」

「お前こそ誰だ。急にどこからやってきたんだ? 躾もされていない庶民は好き勝手に著姿で他人の風呂にる習慣でもあるのか?」

鼻を鳴らしながらリディアを白い目で見るダリアス。

のダリアスとびしょ濡れの服が纏わりついているリディア。二人がにらみ合う。

「なあ、ルベルメル。誰だこの失禮なガキは。お前のペットか?」

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「違いますよリディア様。この方がダリアス様でございます。今は私と行を共にしています」

「……ダリアス? お前がダリアスか!」

リディアはダリアスの前髪をかき上げて、その雙眸を確認する。

「へぇ……。たしかに似ているな。いやー、大きくなったもんだなダリアス」

るな、不愉快だ。適當なことを言うな、僕は貴様のことなんか知らん」

髪をるリディアの手を強く払いのけるダリアス。

「ダリアス様、こちらはリディア様でございます」

「リディア? お前たちの仲間か?」

ダリアスが目でリディアに「浴槽から出ろ」と訴えかける。

「もちろん仲間、でございますが正確には『次代の明星』を率いられているお方でございます。私たちの上司、でございますよ」

ダリアスに押され、仕方なく浴槽から上がったリディアは、にぴったりと吸い付いた服を絞りながらダリアスに目を向ける。

「そうだ、あたしを敬えよダリアス?」

「……ちっ」

リディアから顔を背けながらダリアスが舌打ちをした。

湯けむりが立つ中、ダリアスとリディアが閉口する。

湯が浴槽に注がれる音だけが響く浴室で、ルベルメルが口を開いた。

「それでリディア様、どうしてこちらに? 魔のところへ挨拶に行っていたのではないのですか?」

ルベルメルが浴槽の縁に座って髪を括りなおす。

「ああ、それは済んださ。魔の魔もこの目で見てきた」

「それで、魔はどうでしたか?」

にまとわりつく服に気持ち悪さを覚えながら、リディアが肩をすくめて続ける。

「魔の魔に対して、あたしの魔は相が悪すぎた。ちょっかいをかけてみたつもりだったがまったく太刀打ちできなかったさ。やっぱり駄目だな、経験値が違った」

「……なるほど」

『次代の明星』において正式な意味で魔師たりえているのはリディアと、縁に座るルベルメルのを見ても何も思わぬ不遜な態度を崩さないダリアスのみ。

そのリディアが魔と直接衝突して、當の本人が太刀打ちできないと言ったのだ。今後、魔及び王國に対する攻め方を考えなければならない。

「そのあとにエリアスに跳んだ。報告をけていたエインズに會いに」

「っ!?」

「エインズ様に、ですか」

エインズの名前にわずかにダリアスが反応した。

「エインズのき方を聞くに、完全に王國側にいるわけではなさそうだったからな。なら、あたしたちの仲間になってくれた方がありがたい。勧もかねて、その為人を確認しようと、ね。もしあたしたちと相容れないのならそのまま始末してやろうとも考えたんだけどな——」

リディアは続ける。

「結果がこれだ。まさに敗走だったよ。今こうして服の水気を絞っていられるのも間一髪で逃げおおせたからさ。僅かでも遅かったら、あたしのをいっぱいに沁み込ませた服と骸だけがこの浴槽に放り捨てられていただろうさ」

「それほど、だったのですか?」

「いやそれ以上、だろうなおそらく。あたしもあいつの手のを完全に見たわけじゃない。それでもその一端にれてじた。あれは化けさ。魔の存在すらかき消す程の存在だ……」

エインズとの対峙を思い出して手が震えるリディアが続ける。

「あれはあたし一人でどうこうできる相手じゃない。ルベルメル、エインズは一何者だ? あたしよりも長く接し、言葉もわしたお前だ。なにか知らないか?」

真剣な表をしたリディアに尋ねられたルベルメルは首を橫に振った。

「……。いいえ、リディア様に報告した以上のことは私も知りません」

「……」

リディアはダリアスにも目を向けるが、彼は彼で知らぬ存ぜぬ目を閉じて湯に浸かっていた。

「なるほど……。だが、あいつの一端は知れた。もちろん、だからといってあたしたちだけでエインズを何とかできるかと言われれば難しいが、現狀のパワーバランスを利用すれば魔とエインズをぶつけられるかもしれない。なにせブランディがなにやらき出しているようだしな」

「魔のいる王國、最古參貴族二大巨頭のブランディ家とソビ家の向。潰し合わせるというのも悪くないかもしれませんね」

ルベルメルは顎に手をやって、考えを口に出す。

「まあなんにせよ、ルベルメルがあたしの言いつけを守ってくれたおかげで今回は助かった。心から禮を言うよ、ありがとな」

「いえいえ、私はただ普段通りにしていただけでしたので」

「禮は素直にけ取っておくもんだぜ? ルベルメル、どんな狀況においても普段通りに行できるってのは誇っていいことだ。……それじゃ、あたしはもう行くわ。ルベルメルとダリアスはゆっくりしていくがいい。お前たちのエリアスでの働きは十分だ」

「ありがとうございます」

「……」

いまだ濡れたままの服をそのままにリディアは浴室のドアに手をかける。

「今度は酒をわそうぜ、ダリアス。お前の口に合う酒を持ってきてやる」

「ふんっ、発酵と腐敗の違いも判らんような低俗なが持ってくる酒など信用ならんな」

「このガキ……」

リディアはダリアスに抱いた怒りを逃がすように大きく息を吐いてルベルメルに手を振った。

「また指示を出す」

「かしこまりました、リディア様」

ルベルメルがお辭儀をして、浴室のドアが締められた。

再びルベルメルと二人きりになったダリアス。

「なぜあいつに言わなかったんだ、ルベルメル?」

「なんのことでしょうか?」

ハイファンタジー作品を投稿いたしました。

年のでございます。

タイトル

『竜騎士 キール=リウヴェール』

https://ncode.syosetu.com/n6657ia/

ぜひ気分転換がてらにお読みいただけたらと思います。

今後ともよろしくお願いいたします。

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