《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》3
獣道をするすると走っていったらしい、琥珀からびる魔力痕跡を辿って森を走る。
森の切れ目が見えてくると、私の耳にも喧騒が聞こえてきた。琥珀の聲……と男の人の悲鳴。
牽引していたが逃げて車が壊れて傾く幌付きの荷車と、地面に倒れてる冒険者らしい男と、もう一人足を抑えて座り込んでいる男が見えて、なんとなく経緯が分かった。車の故障で停止したところを魔に襲われてしまったようだ。
アイエン・ファングか。數頭は琥珀が仕留めたようだが、ぱっと見でまだ十頭はいるのが見て取れた。
倒れた男を庇う位置に立って闘する琥珀に……短槍を持った冒険者裝備の年がなんと言うか……すごく錯していた。
「ひい、ひぃい! わぁああ! やめろ、やめろ來るなぁぁぁっ!」
「おい、お前! 後ろに引っ込んでろ! こら! 聞こえんのか! のわっ?!」
「わぁああ!」
アイエン・ファングは群れで狩りをする厄介な魔で、鞭のようにしなる刃狀の尾と骨も砕く牙が特徴の魔だ。けどそこまで強くはない。
きっと、琥珀一人なら私が著く前に何とかなったんじゃないかな……。そのくらい、周りをよく見ないまま大げさなきでやみくもに槍を振り回している年が足かせになってるのが見て取れた。
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けない二人を狙っているアイエン・ファングから守りつつ仕留めたいが、すぐそばで刃を振り回して右往左往している人がいるので思うようにけないみたいだ。
思っただけ燃やせる便利な「狐火」だが、條件付けには多の神集中を必要とする。き回る人を含めて複數人を守りながらでは流石に使う余裕が無かったのだろう。
なのでまず、私はこの場を掌握する。パニックが一番怖い。琥珀と私なら邪魔がいなければ、この程度の魔を退けるのは容易いのだから。
脅威を減らしがてら、ある程度の実力をアピールすればいいかな。まだアイエン・ファング達が私を認識していないこの狀況で、矢を弓につがえてった。琥珀達を取り囲んでいた群れの外周にいた一頭のに刺さり、地面にい留める。
自分が何もしないまま「ギャンッ」と鳴き聲上げて倒れた個を見て、琥珀が私が追い付いた事に気付き「リアナ!」と聲を上げた。
「わぁああ?!」
「落ち著いてください! 私はリンデメンで金級に登録されている冒険者です! 森の中で魔の襲撃に気付いて助けに來ました! 全員助かりますから、まず落ち著いて!!」
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恐慌狀態が頂點に達しているようで、助けに來た、と口上を上げた私に槍の穂先を向けて來る。
一応、服の下に隠していた冒険者ギルドタグも引き出して見せたのだが……全く意味が無かったようだ。ちょっと予定と違う。
ほんとにこれ、近付いたら危ないな。一頭じゃなくて、もっと遠くから數を減らせば良かった……。
「下がって……下がりなさい!! 死にたいの?!」
「ひぃいい?!」
ザク、と年の足元に飛びかかろうとしたアイエン・ファングに矢が突き刺さる。
倒れてる男の様子を見て、……とか役割を與えて武を手放させようと思ったんだけど、手っ取り早い暴な手段を取ってしまった。人命第一なので。早く片付けて手當てをしたいし。
私の剣幕に怯えた年は、もちをついてへたり込んだ。そのままかないでいてくれる方が危険が無いので、とりあえず放置する。彼は怪我はしていないみたいだし。
「琥珀、そっち側の四頭お願い!」
「任されたのじゃ!」
琥珀達を包囲していたアイエン・ファング達は一転、琥珀と私に前後を挾まれた恰好になる。
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最初の一撃を與えた後弓はまた地面に置いて、藪払い用に持ってきていた剣鉈を握った。邪魔が無くなれば手こずる事も無い、私達はすぐさま殘りのアイエン・ファングを制圧する。數頭森の中に逃げ込んだが、の臭いのする中追いかける方が危険なので見逃した。
「魔に襲われたのはここにいる三人で全部? 貴方と、倒れているこの男の他に怪我をしている方はいませんか?」
足を抑えてうずくまっている男に話しかけながら、頭から出して意識を失っている男傷の合を確認する。
良かった……傷は深くない。傷の合と狀況から推測するに、魔にやられたのではなく転んで頭を打ったようだ。脳震盪を起こしているようなので、かさない方が良いだろう。
琥珀は私が何か言うまでもなく、森の方から他の魔が來ないかどうか警戒してくれていた。
「さ、三人だけだ……わしはファングに飛びかかられて、足を咬まれて……が止まらないんだ……」
座り込んでいた中年男が聲を上げる。脳震盪を起こしている男も他にも怪我はしているが、他の傷は軽いものであるのを確認して気道確保してから一旦離れる。
しかし座り込んでいる男を一目見て、深い怪我だと分かった。のが、足から流れたが地面に水溜まりのようになっていたのだ。見ている間にも、水をれた革袋の底にが開いているように絶え間なく、ふくらはぎのやや下を抑えている指の間から、鮮紅のが脈を打ち流れ出ている。
街に連れていくような時間的余裕はない。ここでまずどうにかしないと。
「!! 結構が出て……まず出を止めますね」
「あ、ああ……」
「大丈夫ですよ、私は大怪我に使えるポーションも持っています。出を止めたらすぐ街に戻れますから」
私は努めて、ごく自然な調子で聲をかけた。思いつく限りの「安心できそうな言葉」もかけながら、魔の咬傷の対処方法を思い出して。こうは言ったが、ポーションを使うかどうかは傷の狀態次第になる。
家族が手を出してない分野を収めよう、と醫療についてたくさん勉強していて良かった。でもウィルフレッドお兄様の指揮する訓練に同行した時に醫療班の手伝いもしたけど、ここまでの出をしてる怪我を実際手當てするのは初めてなので手が震えそうになってしまう。それをぐっと奧歯を噛んで堪えた。
怪我をして一番不安なのはこの男なのだから、私がそれを助長するような態度を取ってはいけない。
「|水よ(エス=アクー)」
清潔な水を出して私の手と傷口を洗い流してから、出している咬傷を服の上から渾の力でぐっと握った。もう片方の手で、拡張鞄の中から醫療資材をまとめてある袋を引きずり出す。
「いたたた……!」
「を止めるためなのでちょっと我慢してくださいね」
「ああ……が、これは全部わしのか? こんなにたくさん……っ?! ベンゾのやつも、もしかして、死んじまって……?!」
「だ、大丈夫です! たくさんは出てますけど、助かる怪我です。あちらで倒れてる冒険者の方、ベンゾさんというんですか? あの人も頭を打って気を失ってるだけでした。安靜にしていればじきに目を覚まします」
自分の出を自覚してパニックなりかけた男をなんとか落ち著かせる。もし暴れたりされると出が増えてしまう。
「私は金級冒険者のリアナと言います。今日は依頼されてたアビサル・ベアを倒した帰りだったんです。あなたのお名前を窺っても?」
「わ、わしはゾッコ……この先の、コルトーゾ農園を経営しとる地主だ。いつもはこの道、こんな事はないはずなんだが……」
「それは運が悪かったですね」
「いや、アビサル・ベアを倒せるような冒険者さんに助けてもらえて運が良かったよ……いたた……」
「ところでゾッコさん、この怪我、結構深いんです。出してる傷の奧を処置しないといけないので、し切り開きますが、いいですか?」
「切り開……?! ポーションじゃ治らんのか?」
「管が破れてるので、そうすると後からもう一度塞がった傷をまた切って、管などを正しくい合わせる必要があります。この怪我なら止だけして、街でってからポーションを使った方が良いですよ」
もう一度切る、と聞いた男……ゾッコさんは青い顔になって私の提案に従ってくれた。
良かった、説明を分かってもらえて。一般の人は大怪我にあまり縁がないからか、ポーションや治癒が「使うだけで怪我が元通り治る」という便利なものに思われがちで、時々こうして齟齬が起きる。軽い怪我にはたしかにかけるだけでお終いだが、正しく、効果的に使うには知識が必要なのだ。
骨折を整復しないまま治癒を使って、折れたまま「治って」しまった例などはとても悲慘になる。
本當に失死の恐れもあるような急な出の時は後で傷を開き直すのを承知でポーションを使う事もあるが、今回は該當しない。
私は安心させるために喋りながらも出箇所に対してぐっと力を込めて、直接圧迫止を実施していった。患部の奧の骨を使って、出箇所をしっかり押しつけて抑える。
しかし魔やの咬傷は、傷のは小さく深くまで達しているので、管から出していた場合こうして上から抑えただけでは足りない。出している管を直接止する必要がある。
「槍使いの人、そこの袋の中から黃い紙で包まれたガーゼを出してくれます?」
聲をかけたが、恐慌狀態は戦闘が終わった今も解除されてないみたいだ。倒れている男のそばからこうとしないし、私の聲は聞こえてないみたい。
琥珀には周囲の警戒をさせておきたい。私は諦めて、ちょっともたつきながらも、片手で袋の中から必要なを取り出した。
「ちょっと痛みますよ、ゾッコさん我慢してください!」
「は、はい……ぐうっ……いだ……っ! ぅうううう!!」
必要最低限咬傷を切り広げると、出している管に直接れるようにパッキングを行う。圧迫を維持しながら、止材を含侵したガーゼを隙間なく、傷口の奧まで素早く指で押し込んでいった。
傷口にガーゼを詰めて、強く圧迫。そのまましばらく止したら、上からぎゅっと包帯を巻く。
搬送中に傷口のパッキングが緩んで再出しないように、副木をあてたら私がやる処置は一旦終わりだ。
「リアナ、の臭いが大分広がっとる。早めにここを離れた方が良いぞ」
「そうね……」
しかし歩けない人と、意識を失ってる人と、腰が抜けてる人と。の臭いで新しい魔が寄って來る可能もある中置いていけないし、私達二人では三人は運べない。
街道を使ってるなら発煙筒を持ってるだろうけど、街から救援が來るのを待つのもやはり怖い。
「しょうがない、荷車の車も応急手當てしちゃうから、琥珀……もうちょっと周りを警戒しておいて。あとアイエン・ファングの死を街道の脇に寄せて、燃やしてしいの」
魔石も採らずに燃やすのはちょっともったいないが、仕方ない。そんな時間は無いし、このままでは他の魔が寄って來てしまうからね。
今度は工類を拡張鞄から取り出しながら、私は琥珀に新しい頼み事をした。幸い、軸けが割れてしまってるだけだ。替えようとしていたらしい同じ口徑の軸けが落ちてるのを見つけたので、荷車に積んであったジャッキも使ってぱぱっと付け替えてしまう。一応街に戻るまでは持つだろう。
「分かったぞ。でも直してどうするんじゃ? 引いてたボーン・カウは逃げてしまっておるぞ」
臭いで何がこの荷車を引いていたのか言い當てた琥珀が、頼んだ通りに仕留めたアイエン・ファングの死をスコップに乗せてヒョイヒョイと片付けていく。
「それなんだけどね……琥珀にちょっと頑張ってしくて」
「? 何をじゃ?」
荷車の中は、街にを売りに行った帰りだからか、重いは乗っていない。琥珀の怪力ならいけるはず……と計算した私は、どうやって全員を連れて街に戻るかを説明した。
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