《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》4

琥珀の腕力ならいけるはず……という私の予測通り、無事男二人を乗せた荷車は軽快にいていた。

あれからすぐベンゾさんも目を覚まして、二人の怪我のちゃんとした手當てのために、彼らが出発してきた街に戻る事になった。

ベンゾさんは頭を打ったので、荷車の中で安靜に。ゾッコさんも橫になって、怪我をした腳を心臓より高い位置に上げてもらっている。

そして私と、腰が抜けてただけで怪我のなかった槍使いの年……ペントさんは荷車に乗らず歩いていて、私は琥珀の負擔をしでも減らすために、荷車の後ろから押している。

「それにしても、リアナさんは當然として、琥珀ちゃんもすごいなぁ! この荷車を引けるくらい力が強いなんて、ボーン・カウ並みだろ? さすが金級冒険者だなぁ」

「むふー」

「それと比べて、護衛のくせに足らせて頭打って気を失ってたなんてなぁ。面目ねぇ。親父さんにも大怪我させちまうし……」

「そんな事言うなよ、ベンゾ。お前さんもわしも死なずに済んだ、良かったじゃないか」

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「親父さん……」

あれからが止まって落ち著いたゾッコさんと、目を覚ましたベンゾさんに「命の恩人だ!」と大変持ち上げられてしまい、琥珀が張り切ってぐんぐん荷車を引っ張っているので今の所あまり力は必要なさそうだが。

あまりの興ぶりに、ゾッコさんの傷からまた出してしまうのでは、と心配してしまうほどだった。

「俺もけねぇが……ペント! お前が殘っていながらなんて事だ。ファングの十頭くらい、追い払うだけならお前でも出來ただろうが!」

「だ、だって俺……父ちゃんが倒れてかなくなって、頭が真っ白になっちまって……」

ゾッコさんは農園を経営している地主さんで、ベンゾさんはその農園の私兵。ペントさんはベンゾさんの息子さんで十三歳、今日が護衛デビュー初日だったらしい。なんとも運が悪い。

「ベンゾさん、誰でも始めからは上手く出來ないですよ。私も至らぬところばかりだと叱られてましたから。それに頼りにしていた師であるお父様が目の前で倒れたなら、慌ててしまって當然です」

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「リ、リアナさん……!」

思わずフォローする言葉をかけると、よほど參っていたのかペントさんは涙目になっていた。

私も多分、目の前でお父様やウィルフレッドお兄様が気を失うような事があったら「私よりはるかに強い方達なのに」と気持ちがくじけて、揺して実力が出せないと思うし。その気持ちは想像できる。

「へへ……まぁ、金級を持ってるような冒険者様がそう言うなら……ペント、でもお前は鍛え直しだからな!」

「ひぇええっ」

でも実際、追い払うだけならちゃんと対応すれば出來たのではないかな。しかし、大怪我をしてる人がいて、荷車の車も壊れて、修理が出來る知識と技を持ったベンゾさんは失神中、荷車を引いていたボーン・カウも逃げてしまっていたので、やはり私達が駆けつけられて良かった。

ペントさんを元気づけるために口にした自分の話。私は始めての実戦の時どころか、それからもずっと叱られ続けてて、一回も認めてもらえた事が無かった……という事は黙っておいた。

「リアナさん……本當に、助かりました! 貴の手當てが完璧だったおかげで、傷が変にくっついてしまう事も無く、こうしてすぐに治療する事が出來て……わしらの命の恩人です……!」

「いえいえ。私は応急処置をしただけですよ」

ゾッコさん達を連れて、魔の襲撃場所から戻ってササリ街の診療所に怪我人二人を送り屆けた私達は、さっきまでこの街の巡察隊の人達に囲まれて、ゾッコさん達がアイエン・ファングに街道で襲われた件について報告をしていた。街道に魔が出ると言うのは普通ではない。

原因として、近頃森の淺部に強い魔が出ていて縄張りが狂っていた事、荷車の中に街で買ったと思わしき皮が積んであったが、処理が甘くて皮に殘ったが腐臭を発していたのでその臭いに釣られて森から出てきてしまったのではと推測も話した。

は皆そうだが、ファング種は鼻がとても良いからね。

その巡察隊の人達にも、こういう事があったので救援に向かって、こうしました、と事実を話しているだけなのに「あの群れると相當手強いアイエン・ファング十頭を苦も無く倒すとは……!」「いやそもそも、アビサル・ベアを倒せる冒険者さんだなんて」と散々診療所の外の往來で騒がれてしまって……褒め言葉で今頭が破裂しそうなので、勘弁していただきたい。

琥珀がこの軀で荷車に男二人を乗せて軽々引きながら街まで現れたせいで群衆がずっとついて來るし……それでまた「そうなのじゃ、すごいだろう!」なんて反応するので、余計に場が盛り上がってしまって、落ち著かせるのにとても苦労したのだ。

「その応急処置ってやつが大事だったって、治癒師の先生が言ってたじゃないですか! おかげでわしの腳がほら! 言ってた通り、ってからポーション使ったらキレイに治りましたよ! を止めてなかったら街に著くまでに死んでたし、下手な手當てをされてたら半月は歩けなかっただろうって……ほんとに、ほんとにリアナさんはわしらの恩人で……!」

まぁ、それはそうだったろうな。ポーションはが持っている自然治癒力を無理矢理使うような形で傷を塞ぐので、続けて同じ場所に使うと極端に効きが悪くなる。

管をってないままポーションをかけてたら、後でい直すために同じところを切り開く必要があるのだが、その切り開いた傷にポーションを使ってもすぐには治らなかっただろう。適切な手當てをして診療所に運べて本當に良かった。

それにしても、「命の恩人」は大げさすぎるので本當に止めてしいんだけど……「なんて謙虛な人なんだ!」って余計に謝が大げさになりかけてしまい、私は諦めてちょっと恥ずかしくなりながられている。

「本當にありがたい事でした。ぜひお禮を……」

「ああ、それでしたら……今日の事は報告をしておくので、冒険者ギルドから連絡がったら容を確認の上で急依頼として報酬をお支払いください」

「ええ、何ですかそれは?」

ああ、やっぱり知らないのか。私は冒険者ギルドの「急依頼」について説明をした。今回みたいに助けるために冒険者が自らいた場合に、それが急に必要だったと認められれば後から依頼として承認されるシステムの事だ。

でも、その場で助けた相手からお禮をもらって終わり……とする冒険者が多いのは知っている。冒険者以外だと余計に知らないだろう。でも私は制度がそうなってるなら守らないと気が済まない質なので。

でもこれは冒険者ギルドを挾む事で、「そっちが勝手にやった事だ」と善意に漬け込んで報酬を払い渋る人を防いだりする力もある。

ゾッコさんはそんな事はしないのは分かるけど、逆に「命の恩人だから」と過剰な報酬を渡されてしまいそうな気配がするので……冒険者ギルドを挾めば適正な金額を計算して請求してくれるだろう。

「そんな、命の恩人様ですから……そうだ、報酬とは別に! 今夜は家に來てください。こう見えてもわしのやってる農園は結構繁盛してましてね、是非! 馳走をたんと用意して宴を開きますのでお招きさせてください! 丁度ね、うちの息子も冒険者をやってまして、良かったら會ってくれませんか」

「おお、親父さん、それはいいですね!」

全然良くない。私は面倒な話の気配を察して、冷や汗が出た。「馳走じゃと?!」なんて目を輝かせている琥珀の背中をつついて、「ダメ」という意思表示をしておく。

「あの! 私達は、明日まで依頼の期限なので、さすがにそれを置いて宴に招かれるわけにはいかなくて……」

「でもリアナさん、依頼の魔は倒したんでしょう?」

う、と詰まりそうになった私は必死で頭を働かせる。

「い、一応一頭は……けど、他にいないかも調べる必要があるんです! もしまだ他のアビサル・ベアが殘っていたら、それこそ人命に関わりますから……!」

「ふむ、それでは依頼が終わってから、是非宴にお越しを」

「えっとそれが……ごめんなさい、予定が詰まっていて……年はちょっと。この辺りは拠點地から泊りがけじゃないと來られないので」

「そうかの。殘念だ」

「しょうがないですよ、親父さん。金級冒険者さんだもんな、あちこち引っ張りだこなんですよ」

上手くかわした私は、心ほっとでおろしていた。実際予定が詰まってるのも本當だし……。

「それでは、コルトーゾ農園の方で仕事をする時は是非うちに泊まってくださいね。宴の準備をして待ってますから」

「いえ、あの……そうですね。機會があれば」

「そうだ、冒険者やってるうちのせがれと末っ子なんですが。リアナさんと同じく普段はリンデメンにいるんですよ」

「そうなんですか、偶然ですね」

「ミゲルとミセルって名前で、馴染連中とパーティー組んでるんですが。わしの恩人だとよく言い聞かせておきますんで、何かあったら遠慮なく使ってやってください」

「……いえいえ、お気持ちだけで。それでは私達は、明日の依頼に備えて、確保してある宿でを休めに戻りたいと思います」

聞き覚えのある名前が出てきて、私は更にどっと背中に冷や汗をかいた。琥珀は「どこかで聞いた名前じゃの」なんて言っているが……。このゾッコさんがミエルさん達のお父様だったなんて、世間は狹いものだ。

でも本當に良かった、家に呼ばれて宴、なんて事にならなくて。気まずいなんて騒ぎではない。でも……命の恩人だ、と私を持ち上げすぎのゾッコさん。ミセルさん達が実家に帰った時に、お父様の口から私の話と、自分達より下だと勘違いしてた私の本當の冒険者ランクを聞いてしまう事になるのか。……すごく憂鬱だ。どんな反応をするのかとか考えたくない。

でもあの場で、名乗らず介するわけにいかなかったし……仕方ない事だった。帰ったら三人に相談しないとだな……。

「リアナさん!」

心は痛むがいつまでもお禮を言おうとするゾッコさんを遮って、琥珀の手を引いて立ち去ろうとした所に、ペントさんから聲がかかった。

何かまだ用事があるのかな、と立ち止まって振り向く。

「あの……リアナさん」

「はい、何か言い忘れでも……?」

「リアナさん……俺、いつか貴みたいな強くて素敵な冒険者になります! なので……なので、その時は、いえ……その時になったら言わせてください!」

「は、はぁ……? えっと、褒めていただいてありがとうございます……その、頑張ってください……?」

謎の聲掛けをされた私は、心首をかしげながら今度こそ、その場を離れた。

「リアナ……フレドが罪作りだと言うが、お主もなかなかのもんじゃぞ」

「何の事?」

今日は初日で依頼も片付いたし、人命救助もしたし。自己評価の低い私でも大活躍だったなと思っていたのだが、何の罪を犯したのだろう。本気で分からなかった私は聞き返したのだが、琥珀から答えを聞けることは無かった。

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