《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》月草と魔力回復薬(2)
今日はサンドラと魔法の修練の日だ。
基本的に魔力変換、発、型をひたすら反復練習だ。
反復練習をすることで魔力量を増加させることが當分の目標らしい。
「魔法が発できなくなるまで、魔法を発しましょう‼」
右手の掌を腰に、左手の人差し指を空に向けて彼は僕に修練方法を高らかな聲で指示する。
僕は「はぁ」と小さなため息を出して指示に従った。
ガルンが本來は研究者って言っていたけど、修練方法が脳筋に近いじがするのは気のせいだろうか?
まぁ、僕は魔法が使えるようになれればいいけど。
そんなことを思いつつ、今日の修練を終わらせる。
「サンドラ先生、今日お時間ありますか? 相談したいことがあるのですが……」
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。僕は一度著替えてきますから、サンドラ先生は先に応接室でお待ち下さい」
僕の指示を聞くと近くにいたメイドがサンドラに聲をかけて、応接室に案する。
サンドラが小聲で「汗だくでいいのに」と言っていたのは気のせいだと思う。うん。
著替えてから応接室に行くと、サンドラはメイドが出した紅茶を飲みながら待っていた。
うん、サンドラも何も言わずに座っていればかなりの人だと思う。
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「なんかいま、失禮なことを考えていませんか?」
「い、いえ。そんなことありませんよ。サンドラ先生に見惚れていただけですよ」
「あら、それが本當なら嬉しい限りですね」
鋭い‼ サンドラは笑顔だが目が笑っていない。
彼は発言や行に奇抜な部分があるが、とても頭が切れる人だと思う。
ガルンの話を聞いて余計にそう思うようになった。
普段の奇抜な言もひょっとすると計算のうちかも知れない。
いや、それはないか。
「また、失禮なことを考えましたね?」
「考えていません。それより、本題をお話してもよろしいでしょうか?」
「ちょっと大事な話をするから」と言って応接室の中にいたメイド達に退室してもらった。
僕は彼が座っている場所の正面にあるソファーに腰掛ける。
そして彼との間にある機の上に「月草」を置いた。
「うん? これは?」
「出所と名前はまだ言えませんが、魔力を回復させる効果がある植です。」
「ガチャン‼」彼が僕の話を聞くのと同時に勢いよく立ち上がったため、機の上のティーカップが揺れて激しく音を立てた。
そんなことを気にする様子もない彼は、両手の拳をぐっと握りしめている。
「これは「月草」ですよね。やっぱり、本當に実在していたのですね……」
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「まだ、先程いった通り名前と出所は言えませんので、ご了承下さい」
僕は軽く、ペコリと頭を下げる。
彼がここまでの反応をするのは予想外だった。
それに、月草の名前まで知っているなんて、ガルンの言っていた通り帝都で研究所に勤めていたのは伊達ではなかったのだなと心した。
額に手を當てながら「はぁ」とため息をしてサンドラはソファーに腰を下ろした。
「取りして、申し訳ありません。実は私はリッド様の家庭教師をする前に、帝都の研究所の所長として勤めておりました。そこで、研究していたのは「魔力回復薬」です」
「……なるほど、なら僕が相談したいことも大わかりますね?」
出來る限り表は出さないようにしているけど、心びっくり仰天だ。
ガルンに帝都で研究所に勤めていた話は聞いていたけど、まさか魔力回復薬の研究をしていたとは思わなかった。
彼が協力してくれれば魔力回復薬に大分近づけそうだから、なんとか引きれたい。
「魔力回復薬を制作したいということですね。リッド様は本當に末恐ろしいですね。私が「月草」に辿り著くのにどれだけ時間をかけたか。それに、私は存在を知るだけで手にれることはできませんでした。」
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修練の時の彼と違い、し寂しそうな表をしながら膝の上にのせている手を拳にして力を込めている。
僕は彼の言葉を待った、そうした方が良いとじたからだ。
し無言の時間が流れてからサンドラは帝都であったことを話し始めた。
魔力回復薬を作ろうと帝都では、魔法使いの鋭が分関係なく集められ多額の予算が投された。
だが、分関係なく集められた人員に多額の予算が投されることを良く思わない一部の貴族達から、遠回しな嫌がらせが続く日々が始まる。
さらに、研究材料の調達も巧妙に阻害され結果として研究速度が大幅に遅れてしまう。
最初は集められた魔法使い達もやる気に満ちていたが、數々の問題で意気消沈してしまい。
辭める者が続出。
結果、責任を取る形でサンドラは辭任することになった。
そして、後釜にったのはサンドラを辭任に追いやった貴族の一人だったという。
皇帝含め、一部の貴族達はサンドラを辭任に追いやった貴族の向を把握していたようだが、証拠がなく問い詰めることは出來ない。
それに、経過はどうあれ結果を出せなかった事実。
人員がいなくなり研究が実質的に立ち行かなくなった責任を追及される。
結果、サンドラは辭任せざるを得なくなってしまった。
彼は貴族の出ではあったが、辭任の騒により実家の家族に被害が行くことを恐れた。
その為、家族を説得して勘當してもらったそうだ。
彼が今回の騒で一番辛かったのは家族を悲しませてしまったことだ。
サンドラは4人兄弟で兄二人と姉一人に囲まれて育った末っ子だった。
本來であれば彼自も貴族としてどこかに嫁がないといけなかった。
だが、何よりも魔法と研究が好きだった彼の様子を見た両親と兄弟は、末っ子ぐらいは好きにさせてあげようと結婚を無理強いすることはなかった。
その中で、何度か出していた論文や魔法に関する知識が認められ、國家が取り組む魔力回復薬の研究に攜われる。
しかも、研究所の所長として。
これほど名譽なことはない。
何よりも両親に兄妹に誇れる家族に自分もなれると思い、人知れず泣き明かした。
それなのに、その期待を最悪な形で裏切る結果となってしまった。
それが非常に悔しかった。
國、皇帝からの命令を達できなかったとして、死罪や追放という話も一部の貴族から出たが、ライナー辺境伯を中心とした貴族達が止めてくれた。
皇帝もすでに実家であるアーネスト家とは勘當となっている為、研究所の所長の辭任だけで十分だと言ってくれた。
そして、途方に暮れていたところを助けてくれたのが、ライナー辺境伯だった。
「君は自分が思っているより優秀だ。是非、息子の家庭教師をしてほしい」
そう言われた時、サンドラは自分の中で何かが崩れてライナー様のの中で大泣きしてしまった。
過去を話す彼は、恥ずかしそうに笑っていた。
「……そしていま、私はここにいます」
僕は何を彼に言えば良いのだろう?
家族に好きなことをさせてもらい、その恩を返せると喜んだ矢先に、心無き扱いをけ、責任を取らされる。
そして、大切だった家族との関係も斷絶され彼はここにいる。
その原因となった魔力回復薬の研究を僕はまた、彼にさせようとしている。
非常につらいことを彼にさせることになるのかもしれない。
でも、僕だって母上を助けたい。その気持ちは絶対に譲れない。
「……そっか。でもね、僕も家族を助けると決めた。だから、絶対にサンドラに協力してほしい」
「……家族ですか?」
彼の目にはし涙が滲んでいたが、そのまま不思議そうな顔をして僕を見ている。
「ここだけの話にしてほしい。僕の母上は「魔力枯渇癥」だ。だから、今のままでは必ず近い將來に亡くなってしまう。だから、特効薬を僕が作る。でも、それにはまだ時間がかかる。だから、魔力回復薬を作ることでしでも母上に生きてほしい。時間を稼ぎたい」
サンドラは僕の言葉を黙って聞いている。
僕もここで言葉を止めるわけにいかない。
「サンドラお願いだ。力を……力を貸してほしい。僕は月草が魔力回復薬に繋がることは突き止めたけど、魔力回復薬にする方法がわからない。それに、もし魔力回復薬が出來たら、サンドラとバルディア領の共同開発として発表。開発者はサンドラで発表する」
「それは……」
開発者はサンドラで発表という言葉に、彼の瞳が揺らいだのをじた。
ここで、引くわけにはいかない。
「僕はいま、ある商會に依頼して魔力枯渇癥の特効薬の元になる薬草も探している。それが手にれば、特効薬が作れるはずだ。その時にもサンドラ、君の力が絶対に必要になる。お願いだ。サンドラ、力を貸してほしい」
僕は言い終えるとサンドラに頭を下げた。
「……わかりました。顔を上げてください。リッド様。私で良ければお力になります。それに、ライナー様への恩もお返ししたいですから。ナナリー様をお救い出來るよう最善を盡くします」
「ありがとう、本當にありがとう」
僕は彼の手を両手で力一杯握りしめていた。
その後、二人ともが落ち著いてくると、ちょっと気恥ずかしさでし顔が赤くなった。
「でも、帝都の貴族がサンドラにしたことはある意味、背任行為だと思うけどなぁ」
「まぁ、リッド様のように魔力回復薬を作れる原料に當時は目途がついていませんでしたから、絶対作れないものに多額の予算が組まれたと考えた人達には面白くなかったのだと思います」
二人とも冷靜になったので、改めて今後の方針について話すことになった。
月草については、帝都の研究所には報を殘さなかったらしい。
彼曰く、ほんのしでも抵抗したかったので有力そうな報は渡さなかったそうだ。
「いまの帝都の研究所は本當にただの金食い蟲だと思いますよ」と笑っていた。
「渡さなかったって、あとで言われたりしない? 大丈夫?」
帝都で研究に攜わっていたサンドラがこっちに付くのはありがたいが、後で研究結果を盜んだとか言われても困る。
「大丈夫ですよ。そもそも、月草の報は私の私に記載されていましたし、研究所を出ていくときにむしろ持って帰れと言わんばかりに中も確認せずに渡されたので、報の存在自知らないと思います」
帝都の貴族、やらかしてる。やらかしてるよ。
俺は自ら、金の鉱脈を手放した貴族に謝した。心から。
「わかった。あとは研究施設をどうするかだね。サンドラは今どこに住んでるの?」
「町にライナー様が住まいを用意してくれたので、そこに住んでいますね。でも研究できる設備はないので、研究用の施設をもらえれば助かります」
「それは、商會と打ち合わせしてもらったほうがいいね。父上達が帰ってきたら、その話もしよう」
「リッド様、あと月草も出來る限り用意して頂けると助かります。あと、他の薬草も何點かしいです」
「うん、それも商會にお願いしよう。今度、クリスを紹介するから必要なものは彼に言ってもらえばいいから、請求も僕宛でいいよ」
「ありがとうございます‼ 研究頑張りますね」
サンドラとの打ち合わせはその後もしばらく続き、ガルンに応接室のドアが叩かれるまでずっと話していた。
ただ、最後に「リッド様……授業中では私のことはサンドラ先生と呼んで下さいね」とニコニコ顔で言われて力が抜けた。
本作を読んでいただきましてありがとうございます!
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投稿時に絵文字は一切使用しておりません。
絵文字表記される方は「攜帯アプリ」などで自変換されている可能もあります。
気になる方は変換機能をOFFするなどご確認をお願い致します。
こちらの件に関しては作者では対応致しかねますので恐れりますが予めご了承下さい。
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