《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》父と子

その日、父上とクリスが帝都から帰って來た。

父上はいつも通りだったが、クリスは憔悴しきっていた。

「リッド様、私は全力で頑張りました……」

帰ってきてからの第一聲は小さい聲だったが、クリスの顔は力強く自信に満ち溢れていた。

だが、張の糸が切れたのか、屋敷で倒れて寢込んでしまった。

し慌ててしまったが、クリスを客室のベッドに寢かせてすぐさま醫者を呼んで見てもらったが、疲労によるものでしばらく寢たらよくなるだろうと診斷された。

「皇后陛下に気にられて、ずっと商談していたからな。道中も私がいるせいで、休むこともままならなかったのだろう。うちの客室でしばらく眠らせてやりなさい」

父上はクリスの診斷結果を聞くと、メイド達に客人として扱うこと。

クリスティ商會に事の次第を連絡するよう、ガルンに指示を出した。

「リッド、お前にも話がある。この後、執務室に來い」

「承知しました。今からご一緒してもよろしいでしょうか?」

「わかった。では行こう」

クリスを寢かした客室から出ると、メルが出待ちしていた。

「ちちうえ、おかりなさいませ‼」

「うむ」

ペコリと頭を下げて、挨拶するメルに父上は表を変えず、耳を真っ赤にしていた。

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「エルフのおねえさん、だいじょうぶ?」

「うん、疲れていただけだから、今はベッドで気持ちよく眠っているよ」

「そうなの? わたしね、エルフのおねえさんとおはなし、してみたかったの」

メルはクリスが眠っていると聞いてし寂しそうだった。

「じゃあ今度、紹介してあげるね」

「ほんと? ありがと、にーちゃま‼」

「ゴホン、そろそろいくぞ」

咳払いをした父上は先程まで耳が赤かったのに通常に戻っている。

というかし睨まれている気がする。

「はい、父上」返事をしてメルに「またね」と言葉をかけると、今度こそ執務室に父上と二人で室した。

執務室には書類作業用の機と來客時に対応するためのソファー&テーブルのセットがある。

「今日はこっちに座れ」とソファーに促される。

父上もソファーに座ったのでテーブルを挾んでお互いに正面に座る狀態になった。

「今回の帝都はし疲れた」

「公務、お疲れ様でございます」

「うむ、先の手紙は読んだか?」

「はい、重要な話があると記載頂いておりました」

父上はソファーの背もたれに寄りかかりながら、僕を無表で見ている。

何か、探られているのだろうか?父上に聲をかけようとすると執務室のドアがノックされる。

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れ」父の返事にって來たのは、紅茶を持ってきたガルンだった。

「失禮します、紅茶をお持ち致しました」

僕と父の前にはガルンが置いてくれた紅茶が湯気を立てている。

ガルンが紅茶を置いている間も何も言わず、僕の様子を観察していた。

なんなのだろう?

紅茶を置き終えると、部屋からガルンが出ていこうとするが父上が呼び止めた。

「ガルン、お前の意見が聞きたいこともある。そこで、今からする話を一緒に聞いてくれ。あと、しばらく私達以外は執務室には誰もらないように指示を頼む」

「承知致しました。すぐ周知して參ります。しお待ちください」

ガルンは他のメイド達に指示をする為に一旦、執務室を出て行った。

また、僕と父上の二人だけで、重い雰囲気が流れる。

「リッド」

「は、はい」

「お前は、何故ここまで人が変わったのだ?」

「え?ど、どういうことでしょうか?」

「さっき、私はお前に対してそれなりの圧をかけていた。いまもそうだ。だが、お前はびくともせず私を見ている。到底6歳の子供の所業とは思えん。それに獻上品の件もそうだ。あのような知識が記載されている本はこの屋敷にはない。説明できるか?」

今まで、こんな話をしていないから、父上にここまで、突っ込まれるとは思っていなかった。

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僕は必死に何を言うか、どうやって切り抜けるべきかを考えた。

ひたすら考えた結果、諦めた。父上のような猛者に適當なこと言ってしまえば、行制限もかかりそうだ。

ここは素直に話そう。

そう決めた時、ドアがノックされる。

ガルンが戻ってきたのだ。

「ライナー様、家の者に周知して參りました」

「わかった。さあ、リッド。話の続きをしよう」

ガルンは無表でドアの前で待機している。

僕は深呼吸をして話す決意をした。

「荒唐無稽にじるかもしれませんが、すべてお話しいたします。ですが、よろしければガルンに席を外してもらっても良いでしょうか?」

「何故だ?」

「父上にはすべてお話しいたしますが、私のお話を聞いたうえで父上に、ガルンにも伝えて良いかご判斷願いたいのです。それが無理なら私は口を閉ざします」

前世の記憶が蘇りリッドの記憶と混じった。

そして、その知識は世界を変えてしまう可能があるなんて話はまず信じてもらえないだろう。

でも、それでもこの報を與えていいのは父上だけだと思う。

「わかった。ガルン、すまんがお前も席を外してくれ。話が終わり次第、再度聲をかける」

「承知致しました」

ガルンは一禮して、執務室を後にした。

「さて、ここまでしたのだ。話してもらうぞ。お前のとやらを」

父はおもむろに機に置いてある紅茶を口に含んだ。

そして視線だけは僕から逸らさずに、言葉を待っている。

僕はそんな父に慎重に言葉を紡いでいった。

自分が庭で倒れたあの日、ベッドから目が覚めると、別世界の人間で過ごしていた前世と思える記憶が蘇った。

そして、その記憶と6歳のリッドの記憶が混ざりあい、新たな人格のリッドが生まれた。

この世界で6歳まで過ごしていたリッドよりも前世の記憶のほうが経験や人格が出來上がっていた為、人格のベースとなったのは恐らく前世の記憶である。

だが、6歳のリッドの記憶やがないかと言われればそうではない。

リッドとして妹メルディにしてしまったことへの罪悪

屋敷のメイド達にしてしまったこと。何よりも死に向かっていく母上に対して何も出來ない無力な自分を呪っていたあの日々の記憶。

そしてだからこそ、母上やメルを必ず守りたいという意志が強いのだと話をした。

そしてリッドとして父上を尊敬していたことも伝えた。

リッドの記憶を遡ると父、ライナーのようになりたい。

なるのだというとても強い思いもあった。

でもだからこそ、何もできない自分に絶して、心が荒んでしまいリッドは自暴自棄になったのだと思う。

ライナーは、父上はただ、黙って僕の話を聞いていた。

そして無言の時間が流れて、し経つとおもむろに父は呟いた。

「……すまなかった」

厳格である父上が僕に目の前で頭を下げている。

その事実に驚いて慌ててしまった。

「ち、父上、頭を上げて下さい!」

ライナーは頭を下げたまま話を続けた。

「妻のナナリーが病で寢込み、それと合わせてリッドがだんだんと荒れていく姿を見ていたのにも関わらず、ただ荒んでいるだけだと、本人の資質だと決めつけていた。そして、リッドの心の中にそのような絶があったとは知らなかった。いや知ろうとしなかった。もっと、お前と向き合うべきであった……父親失格だ」

「父上……」

なぜだろう。

父上の言葉を聞いた時、安堵と安心した気持ちが湧いてきた。

それは、自分の存在に気付いてもらえたこと、ちゃんとしてもらっていたということを知ることが出來たリッドのなのだろうか?

僕は気づくと涙が頬を流れていた。ハッとすると、涙を服の袖で拭った。

「父上、顔を上げてください。父上のお気持ち大変ありがたいです。その、正しい言い方かわかりませんが、私は幸せ者だと思います」

父上は僕の言葉に反応して顔を上げた。

普段は無表な父が神妙な面持ちで僕を見ていた。

すると、まるで「いないいないばぁ」のようで何だかおかしくて「プッ」と笑ってしまった。

「どうした?」

父がさらに神妙な面持ちになる。神妙になればなるほど普段とのギャップで笑ってしまいそうになる。

「い、いえ。すいません。普段、無表でいる父上がそのように神妙な面持ちをされますと、その、あまりにも普段とかけ離れている雰囲気なので・・・プックククッ‼」

とうとう噴き出して笑ってしまった。

その様子にライナーは最初、ポカンとしていたが、「そうか、そうだな。ワハハハ‼」と自分の顔を想像したのか、僕の様子に釣られたのか笑い始めた。

僕ら二人がこのように笑うのは多分初めてだろう。二人の笑い聲は短くも、楽しそうな聲だった。

「父上、大変失禮しました」

「よい、気にするな。折角だ、これからは二人だけの時はお互いにもうし気を抜いて話そう」

ふとしたきっかけで二人して大笑いしたら、なんかお互いに悩んでいたことが小さくじられて、部屋の雰囲気がガラリと変わった。

なんだか、本音トークみたいなじになっていた。

「承知致しました。でも、私の言葉をすべて信じていただけるのですか?」

僕の予想に反して父、ライナーは「前世の記憶」に関して一切否定しなかった。

「今のお前の行を見ていると、話に合點がいく所が多い。むしろ、そうでなければ逆にお前のことを信じられん。それほどにリッド、お前の行は規格外だからな」

「き、規格外……」

「ほかに何か話していないことはないか?」

「あとは、前世の記憶でこの世界を疑似験していたようです」

テレビゲームの概念がないこの世界で、伝わりやすい言い方を考えた結果「疑似験」という言葉にいきついた。

「疑似験……つまり、お前がいまいる、私たちの世界を前世ですでに験していた、ということか?」

「はい、そして疑似験で得た世界の知識とこの世界の知識は繋がっているようです」

「なるほど。それが、お前の規格外の本というわけだな?」

紅茶を飲みながらライナーは、荒唐無稽にも思える子供の話を真剣に耳を傾けていた。

その姿はどこから見ても、仲の良い親子に見える。

「はい、そのように思います。そして、事後報告になりますがその知識を使い、父上には緒で開発した薬があります。それを、母上に服用して頂きたいのです」

「薬の容にもよるが、どんな薬だ?」

ナナリーのことになると、さすがにライナーの眉間に皺がより、普段の強面に近い表になった。

「ええと、ですね。魔力回復薬です」

「ゴホッゴホ‼……ゴホン、魔力回復薬だと‼」

あまりの衝撃に紅茶でむせかえってしまった。

だが、魔力回復薬があればナナリーを助けることが出來る可能がある。

ライナーがずっと探し求めていたものだ。

「はい、私が原料となるものを仕れて、サンドラに製作してもらいました。効果に関してもサンドラと開発した特殊魔法で魔力數値の増減が確認できました」

「特殊魔法で魔力數値の増減を確認だと……?」

魔力數値という聞きなれない言葉についてライナーは怪訝な顔をした。

その後、僕の説明をけて怪訝な顔の眉間に皺が寄った。

この世界において魔力量を數値化して推し量る方法などなかった。

それを、自分の息子と家庭教師が數値化に功したという事実にライナーは呆気に取られて呟いた。

「サンドラが……」

サンドラが研究所を追い出された時も、彼の優秀さからどこかで何かが繋がるのではないかと思い手を差しべた。

息子の家庭教師にすることで繋がるとは夢にも思わなかったが。

「だが、魔力回復薬があればナナリーは助かる。禮を言うぞ、リッド」

ライナーは心からリッドに謝して、頭を下げようとしたが僕は制止した。

「父上、殘念ですが、この薬では完治はできません。この薬はあくまで延命です。治療薬は他にあります」

「な‼」

言葉が出ない。

不治の病と言われた「魔力枯渇癥」これの「延命治療」に使える薬だけでも大発見なのに、まったく別の薬で治療薬があるという。

それは、驚愕に値することだった。

「……その知識の來るところが、さっき言っていた疑似験か」

「その通りです。父上」

「これは、ガルンにも話せんな……」

ガルンはバルディア家でもっとも信頼できる執事である。

彼から報がれることは恐らくないだろう。

だが絶対ではない。

は共有するものが増えるだけ洩のリスクが高くなる。

政治に攜わるライナーは痛いほど知っていることだ。

「魔力回復薬の原料は「月草」というものになります。ですが手ルートは限られており栽培も出來ておりません。私としてはこの薬は母上が回復、もしくは治療薬が完するまでは発表しないつもりです」

ライナーは僕の話を聞くとし思案して問題點や解決策を考え、眉間に手を當てながら僕との打ち合わせを進めて行く。

「確かに、知られれば獲が起きて高騰するであろうな。わかった、魔力回復薬の件は聞かなかったことにしよう。お前が勝手にやって、完したら事後報告で持って來い。あと、我が領地で栽培など出來ることは事前に相談しろ。大は許可できる」

「それから、月草の仕れはクリスからか?」

「はい。いまのところ唯一の仕れルートです」

「ふむ。洩の原因は人だけではない。もし原料の「月草」をバルディア領で仕れているのが知られたら、必ず裏を探るものが出てくる。その點の対処は恐らくクリスだけでは難しいだろう。私もこう」

「ありがとうございます。あと、治療薬に関してはもうしお時間を下さい」

「わかった、妻のナナリーを救えるのであれば私も可能な限り力を貸す。よろしく頼むぞ」

「はい、承知しました‼ ……一応、私からの話は以上ですね」

予定していなかったが、僕は心底ライナーに話せてよかったとじていた。

これほど頼りになる存在が味方なのは凄く嬉しい。

そして、父として6歳のリッド同様にその姿に憧れるのであった。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!

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頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張る所存です。

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