《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》エマの思
その日、私はクリス様と一緒に帝都から帰って來た。
本來であれば、クリス様に付き添って一緒にバルディア家のお屋敷に伺わなければならない。
だが、さすがに商會をいつもより長期間留守にしたので、私だけ先に商會に戻り書類整理をしたいとクリス様に申し出た。
クリス様はし思案したあと「わかったわ」と言って送り出してくれた。
ただ、その顔には普段だと出さない疲れのが出ていた。
でも、クリス様なら大丈夫。
と思ったのが私の失敗だった。
商會で書類をまとめていると、バルディア家の使者が來られた。
何事かと思ったら、クリス様がバルディア家に著いたら疲労で倒れてしまったとのこと。
すぐにお迎えにと思ったが、使者の方からライナー様の取り計らいにより客室で休んでおり、彼が回復するまで屋敷に置いてくれるということだ。
それであれば、商會にいるよりも休めるかもしれない。
クリス様は仕事があるとずっと働いてしまう所があるからだ。
だから、私は「よろしくお願い致します」とだけ伝えた。
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何もないことを願って。
その翌日、クリス様が帰って來た。
だけどいつもと様子が違うじがする。
私はあえて特に気にせず聲をかけた。
すると彼は挙不審な様子を醸し出した。
そして、バレバレのごまかしをする。
彼らしくなかった。
そこで話を聞く為に問い詰めた。
すると、「リッド様が彼の寢ている部屋に一人でってきて寢顔を見られてしまった」と恥ずかしそうに話してくれた。
だが、さらに話を聞いていくとクリス様は寢顔を見られたことよりも、一人で寢ているところにリッド様という男が來たことで貞節の危機だった、と言い始めた。
リッド様の年齢から考えればそれはない。
ただ、クリス様はリッド様とんなやりとりをしている間に年齢のことを忘れて、普通の男と同じような覚に陥ってしまったのだろう。
その瞬間、私の中である閃きが生まれた。
クリス様がリッド様を男として意識してしまった事実を好意として自覚させれば、クリス様はリッド様と良いご縁になるのでないか?
我ながら良い案と考え、クリス様が揺している間に畳みかけた。
すると、思いのほかクリス様もまんざらではなかったようで、簡単に好意があったことを認めるようなことを呟いた。
歳の差など関係ない。
好きなものは好き。
エルフだから年齢は壁にならない。
正妻にならずとも側室がある。
と続けたが最終的にクリス様は「もういい」と困していた。
だが私はクリス様とずっと一緒にいることで、その人柄と才覚に惚れ込んでいた。
彼は世が世ならもっと空高く飛び立てる存在だった。
だが、現実には世襲制により商會は継ぐことができず。
経過はどうあれ、商會を二分してしまう原因になりかねないと自ら商會を去ったクリス様。
その才覚を活かそうとすると、世界が追いつかずクリス様の壁として塞がった。
サフロン商會のクリス様のお父様は自國で結婚させようと何通か手紙を送ってきていた。
クリス様はそれを斷っていたが、もし自國で結婚するようなことになればクリス様の才覚は永遠に埋もれたままになってしまう。
それだけは何としても避けねばならないと私は心に誓っていた。
そんな時に現れたのがリッド様だった。
最初に來店された時は、どこにでもいそうな貴族の子供だったがすぐに頭角を現した。
その発想力や行力でクリス様を魅了した。
そして、いまや彼とクリス様の活躍でクリスティ商會の存在は帝都でも大きくなりつつある。
そんな二人が良き縁となれば、クリス様はどこまでも羽ばたいていける。
私はそう確信していた。
だからこそ、クリス様にリッド様に対する好意を自覚して頂く為に、かなり強く推したのだ。
最後はさすがに引いたが、どうにかならないかと思っていたところになんと、リッド様から呼び出しの手紙が屆いた。
すかさずクリス様に持っていくと私は満面の笑みを浮かべた。
「クリス様、リッド様よりお手紙が屆いております。先日お話した件もこの機に、しっかり確認してきてくださいね」
「な‼ だから、私とリッド様はそういう関係じゃないと言っているでしょ‼」
私の言葉にクリス様は顔を真っ赤にしながら答える。
その様子はリッド様への好意を認めているようなものだが、クリス様は気づいていない。
そして、クリス様はリッド様の呼び出しにバルディア家に出かけて行った。
「どうか、クリス様に良きご縁がありますように……」
◇
「ただいま……」
「おかえりなさいませ。クリス様……クリス様?」
帰って來たクリス様は元気がなかった。
何か大変なことでも起きたのだろうか?
私は気になって言葉を選んで質問した。
「クリス様? リッド様がどうかされましたか? まさか、寢顔の件でこじれてしまったのですか?」
まさかとは思うがリッド様がクリス様のした行為をお許しにならなかったのだろうか?
するとクリス様は首を力なく橫に振った。
「いや……寢顔の件は何も言われなかったわ。むしろ、大変失禮なことをしたってリッド様からお詫びの言葉を頂戴したし……」
「それでしたら、何故そのような、お辛そうなお顔をされているのですか……?」
「いや、すべてこの間、エマが言った通りだったと思い知っただけよ。リッド様の存在が私の中でこんなにも大きくなっていることに気付かなかったわ」
なんと、クリス様はリッド様に対する好意をお認めになっている。
何があったか知りませんが、リッド様よくやってくれました‼
「それでしたら、今からでも好意をお伝えになればよろしいじゃないですか」
私は、好意をお認めになったいまが好機と話を進めるが、クリス様は浮かない顔をしている。
どうしてかしら?
「うぅ…… エマ、この件はこれ以上、掘り下げるのはやめて…… エマの言う通り私はリッド様に好意を抱いていると思う。だけど、今は心にめて時が來るのを待とうと思っているわ……」
何か引っかかる言い方だが、それでも良い。
重要なのはクリス様がリッド様に対する好意を自覚して、自らの才覚を潰すような結婚に進まないようにするためだったのだから。
「わかりました。クリス様がそう決めたなら、私から言うことはございません」
「はぁ……」
クリス様がした最後のため息の意図はわからなかったが、とりあえず今はこれで良い。
リッド様にもクリス様にもまだまだ時間はあるのだから。
エマはクリスの話を聞いたあと、ご機嫌な様子で悪戯な笑みを浮かべていた。
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