《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》レナルーテ王國の會議

「陛下、マグノリアの返事をそのままおけになるおつもりか?」

「マグノリアの言い分は、約定通りだ。破っているわけではない。それに、今回の訪問はあくまで婚姻を決定するものでないとあったはずだ」

レナルーテ王城の本丸殿ではマグノリアからきたレナルーテの姫君との婚姻についての回答により連日、會議が行われていた。

もちろん、マグノリアとの約を知る上級華族だけでの會議である。

「しかし、今の時期にマグノリアの辺境伯の息子。しかも、姫君と同じ年齢であれば決まっているも同然ではありませんか? エリアス陛下もそれはおわかりのはずです」

「くどいぞ、ノリス。ではどうしろというのだ? バルスト事変におけるマグノリアとの約はお前も知っているはずだ。この狀況でマグノリアに何を言えというのだ?」

ノリスと言われた男は黒い髪に青い目をしたダークエルフだ。

恐らくかなりの高齢と思われ、ダークエルフながら顔にはし年齢をじさせる印象があった。

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対して、エリアス陛下と呼ばれた男は黒い髪に、黃い目をしているダークエルフで特に年齢をじさせる要素はない。

二人はお互いに険しい顔をして意見をぶつけ合っている。

そして、ノリスはエリアスに言った。

「マグノリアとの約には確かに、「皇族もしくはそれに準ずる貴族」とありました。それであれば、まず皇族と姫が縁談をするのが筋でございます。その上で破談となり「準ずる貴族」であれば私も納得致します。ですが、今回のようにいきなり「準ずる貴族」となれば我がレナルーテと陛下の子である姫が軽んじられているとしか思えません」

エリアスの険しい顔の眉間に皺がよった。

ノリスの言い分もわからなくはない。

エリアス自約があるとはいえ姫は「皇族」と婚姻すると思っていた。

だが、決定ではないがレナルーテに候補者として來るのは辺境伯の息子だという。

これには、エリアスも驚いた。

だが、あの「ライナー・バルディア辺境伯」であれば悪い話ではないと同時に思ったのである。

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「ノリス。お前の言い分もわかる。だが、相手はあのマグノリア帝國において「最強の剣」と稱えられている、ライナー・バルディア辺境伯の息子だぞ? しかも、我が隣國でもある。これはこれで良い條件だと思わんか?」

マグノリアでは辺境伯は公爵と同等に扱われる位である。

そして、ライナー・バルディア辺境伯とグレイド・ケルヴィン辺境伯は帝國の軍事行においては「剣と盾」と稱されるほどの実力であり、軍事力においては帝國でも2トップだろう。

今回のバルディア辺境伯は「剣」と評される存在である。

しかも隣國だ。

バルスト事変が落ち著いたとはいえ、今後のことを考えると帝都の皇族や中央貴族よりも実益は恐らくバルディア辺境伯の息子と婚姻したほうが良い。

エリアスはそう考えていた。

だが、ノリスは違う。

ノリスはマグノリアと結んだ同盟という名の屬國。

約を結ばされ、対等な立場で渉出來なくなったことを非常に悔しがっていた。

そして、機會があればマグノリアと対等な立場になれるようにと國で畫策している。

エリアスはノリスのきをすべてではないが、把握していた。

だが、マグノリアとの約においてはノリスのように思っているダークエルフは他にもいる。

ノリスを泳がすことでその勢力のガス抜きになるようにしているのだ。

だが、こういった話になるとノリスはなかなか下がらないのが悩みの種である。

エリアスが言った言葉に、ノリスが険しい顔のまま答えた。

「はい。陛下の言い分も、もっともでございます。ですが、私共と致しましては、辺境伯との話は、皇族との縁談をしてからが筋だと進言しているのみでございます」

エリアスは永遠とも思える議論の平行線に頭が痛くなってきた。

ノリスは皇子と姫の縁談を諦めるわけにはいかなかった。

姫とマグノリアの皇子を縁談させれば、婚姻出來る可能は0ではない。

だが、會うことも出來なければ可能は0だ。

レナルーテの姫君が將來マグノリアの皇后になれば、帝國の中樞にレナルーテから為政者を生み出すことが出來る。

ダークエルフの出生率は低いが子供が生まれればさらに、強い権力を手に出來る可能もある。

ノリスはマグノリアから屬國を提示された屈辱を忘れたことはない。

だからこそ、レナルーテの姫を皇后にすることでマグノリアに意趣返しも出來ると考えていた。

だが、エリアスはノリスの考えていることに大の想像がついていた。

ノリスはレナルーテという國に生まれたことに、ダークエルフとして高い誇りを持っている。

だからこそ、屬國となったことを非常に屈辱としてじていた。

その格から察するに、姫を帝國に送り込みあわよくば、帝國の中央権力にり込もうとしているのだろう。

だからこそ、エリアスもノリスの意見をれるわけにはいかなかった。

國として、ダークエルフとしての誇りも大切だが、誇りを優先して國と民を王が犠牲にするわけにはいかない。

大きなため息を吐くと、エリアスは強く言った。

「はぁ……ノリスの言い分もわかるが、ライナー辺境伯とご子息がレナルーテに訪問することは、決まったことだ。こちらが婚姻の時期を打診しておいて相手が気にらないから、皇子を寄こせと言えば外問題になる。辺境伯の息子に問題でもあれば別だが……」

平行線の話を延々としていて疲れていたのかもしれない。

エリアスは自分の言葉に失言があったことにすぐ気が付いた。

だが、ノリスがその言葉を聞き逃すわけがない。

「……確かに、辺境伯のご子息にレナルーテの姫を渡せるほどの量があるかどうかは、調べねばなりませんなぁ」

エリアスが険しい顔をしているのに対して、ノリスはニヤリと意地の悪い顔をしている。

そして、ノリスは自分に付いている華族達に目配せをする。

すると、あちこちより「確かに」「その通りだ」という聲が聞こえてきた。

エリアスは心の中で舌打ちをして、苦々し気な顔をしながら、ノリスに聞いた。

「何をするつもりだ?」

「いえいえ、他國の來賓に失禮な真似はできません。ですが、こんな趣向はどうでしょうか……?」

エリアスは自分の失言に後悔しながら、ノリス達のペースとなってしまった會議に頭を抱え続けた。

會議が終わり、自室に戻るとエリアスは大きなため息を吐いた。

「マグノリアに我が姫を送り込んだところで、わが國が対等な立場になれるわけがなかろう……」

マグノリアが皇子と姫の縁談をしなかったのは、恐らく屬國となったレナルーテの姫君と皇子を結婚させたところで帝國側にメリットなどないからだ。

恐らく、帝國中央にいる貴族達が王に意見したのだ。

マグノリアの上級貴族達は優秀な人材が多い。

もちろん、全員ではないが、なくとも公爵、辺境伯達は一癖も二癖もある強者ばかりだ。

エリアスはマグノリアの強かさを、バルスト事変で嫌と言うほど知った。

エリアス自、屬國ではなく同盟で留めようと必死に渉した。

だが、マグノリアが折れることはなかった。

國として滅亡するか、屬國として生き殘るか。

王として非常につらい判斷をすることになってしまった。

だが、マグノリアは約を含め約束を守る國だった。

バルストに対しても、強く圧力をかけて拉致された自國の民を救ってくれた。

故に、レナルーテ國においてはマグノリアに対してとても友好的である。

その時、マグノリアと約を結んで正解だったと安堵したのである。

もちろん、エリアス自、國として屬國の立場を改善したい気持ちもある。

だが、屬國であることをやめれば、またバルストとのいざこざが発生するだろう。

そう考えると抑止力も含んだ「マグノリアという傘」は一つカードになると気付いたのである。

恐らく、ノリス達もそれには気付いているのだろうが、獨立國としてやってきた誇りが邪魔をして認めきれないのだろう。

「ふぅ……難儀だな……」

エリアスは自然と上を向いて一人呟いていた。

それから間もなく、ドアがノックされたので、返事をしたところ、「失禮します」とダークエルフの年が部屋にって來た。

彼は、エリアスと同じ黒髪と黃い目をしたダークエルフだ。

「父上、會議お疲れ様でございました」

「レイシスか、どうした? 何用だ?」

レイシス・レナルーテ、彼はレナルーテ國の第一王子である。

レイシスはおもむろに口を開いた。

「父上、妹を、ファラを婚姻という名のもとに、やはりマグノリアに人質として出すおつもりなのでしょうか?」

レイシスの言葉にエリアスの顔は険しくなった。

「……そのようなことを誰がお前に言ったのだ?」

大方、ノリスだろうと當たりはつけている。

レイシスの母親は遠縁だがノリスともの繋がりがある。

ノリスが昨今、強く出てきているのもそういった背景があった。

「……誰でも良いではありませんか。重要なのは妹が國外に人質として嫁に出されるということです。何故、そこまでする必要があるのですか? ファラはまだ6歳です。國外でも6歳で婚姻出來る國などありません」

レイシスはマグノリアとレナルーテが結んだ約についてはまだ知らない。

彼は8歳にしては中々聡明であり、武の才もある。

いずれは約も知るべきだろうが今はまだその時ではない。エリアスは言った。

「國同士の繋がりだ。何事にも例外はある、私とて自分の娘を意味もなく他國に嫁がすわけではない。お前もいずれ王となるのだ。言葉の裏に潛む意図の理解や狀況から推察できることから仮説を作れる力をつけろ」

エリアスの言葉を聞いたレイシスは、険しい表を浮かべ吐き捨てるように言った。

「それでも、納得出來ません‼」

子供とはいえ王子たるものがこうも簡単にを出してはまだまだか、エリアスは首を橫に振ると諭すように言った。

「……自室で頭を冷やせ」

「……申し訳ありませんでした」

エリアスに一禮すると、レイシスは部屋から出て行った。

「ふぅ……」

レナルーテの王の部屋に深く重いため息の音が響いた。

レイシスはエリアスの部屋を出た後、言われた通り頭を冷やそうと自室に向かっていた。

その時、正面から妹のファラ・レナルーテとその従者がやってきた。

レイシスはにこりと微笑みながら妹に近づき、聲をかけた。

「ファラ、どうしたのだ? こっちまで來るなんて珍しいな」

「兄上……。実は母上に部屋に呼ばれたので今向かっていたところなのです。兄上どうしてこちらに?」

「エルティア様からの呼び出しか……。いや、私は、父上と話していてね。でも、頭を冷やせと怒られてしまったよ」

「そうなのですか? 父上が怒られるのは珍しいですね」

ファラは紺の髪に朱赤の瞳をしたダークエルフだ。

小さいながらとても可憐であり、母親の容姿からしても將來は人になるであろうことが想像に難くないだ。

そして、その容姿を際立たせているのが歳不相応とじるまでの綺麗な所作である。

はレイシスから見ても可憐であり、自慢の妹であった。

だからこそ、王子として、兄として、家族として彼を守りたいと思っていた。

そんな思いが、自然と妹を見ているレイシスの目力を強くする。

対して、ファラはその目線にすこし困しつつニコリと微笑みで返した。

ファラが微笑んだ時、二人の様子を見ていたファラの従者が聲をかけた。

「姫様、差し出がましいようですが、急がないとエルティア様に怒られてしまいます」

「ああ、そうでしたね。……では、兄上失禮いたします」

「引き留めてすまない。エルティア様にもよろしく伝えてくれ」

ファラは微笑んでからペコリと一禮すると、その場を後にした。

二人の後ろ姿を見送るとレイシスは「必ず、俺が妹を守る」と一人呟いていた。

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