《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》ファラとアスナ

「ファラ様、バルディア家の皆様が城の迎賓館に到著したようです」

「……そう」

「ファラ様」と聲をかけた彼はファラより年齢が上と思われるダークエルフのだ。

はレナルーテの黒を基調とした軍服をにまとっている。

その軍服と彼の緑の鋭い目が相まって、意気地のない者は睨まれただけで退散しそうな雰囲気を纏っている。

髪は赤みの混ざったピンクをしており、後ろで三つ編みにしている。

ただ、髪が長く多いと思われ、腰下まで三つ編みが屆いているのが印象的だ。

ファラは彼の言葉に、あまり興味のないように靜かに答えた。

「……もしよければ、今から會いに行かれますか?」

「ありがとう、アスナ。でも余計なことをしてしまうと母上に叱られてしまうわ。それに、城の皆も良く思わないと思うの……」

「……承知致しました」

アスナはファラの言葉に寂しそうに頷いた。

達は、王ファラの部屋に二人きりでいる。

アスナはファラの専屬護衛であり、城を移する時を含めいつも一緒だ。

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最初は専屬護衛になったことに々と思うこともあったがファラに比べればアスナは自分が恵まれていたと思うようになった。

アスナはレナルーテでも有數の武勇が轟く伯爵家の出だった。

の剣は天才と言われるほどであり、同年代では敵う相手はいない。

大人でも一部の者しか相手にならないほどの実力を持っていた。

だが、彼の才能は兄からは嫌われてしまった。

の兄は、妹の存在を自分の立場を脅かすものだと考えたのだ。

アスナ自にそんな気は當然ない。

は剣さえ磨くことが出來れば良かったのだから。

そんな時、父親から大事な話があると言われ、聞かされたのが王の専屬護衛だった。

アスナもファラのことは知っていた。

「いずれマグノリアに嫁ぐ姫」と一時期、噂でよく聞いたことがある。

その噂が事実かどうかは不明だが、もしそれが本當なら恐らく厄介払いをされたのだろうとアスナは思った。

がもしマグノリアに行くことになれば専屬護衛のアスナも行くことになる。

つまり、兄の言葉に父上が折れたのだろう。

何故、何もしていないのに兄の妬みとやっかみで王の専屬護衛。

しかも最悪、國外に行かないといけないのか?

とアスナは最初、憤りをじていた。

だが、姫の専屬護衛になったほうが何も考えずに剣だけ握れるかも知れない。

そう思い、何も言わずに専屬護衛を引きけた。

その後、王に會うまでに今までおざなりにしていた侍教育のツケが回ってきて大変だった。

だが、それはまた別の話。

アスナがファラに初めて會った時には、その年齢にそぐわない大人びた様子に驚いた。

何故、自分よりもがこれほど大人びているのか?

その疑問はすぐにわかることになった。

専屬護衛として、初めてファラの様々な授業に立ち會った時だ。

それは、とても王にする教育とは思えないほど厳しいものだった。

しでも間違えば、ファラに厳しい言いで指摘がる。

アスナがそれを制止すると「陛下とエルティア様の指示です」と逆に諫められてしまった。

ファラからも「大丈夫。いつものことだから」と笑顔で言われて、何も言えなくなった。

アスナは自の侍教育を思い出しても、これほど厳しくされたことがない。

と驚きが隠せなかった。

さらにアスナを驚愕させたのは、マグノリアの文化を徹底的に學ばされていることだった。

これは、レナルーテにおいてかなり特殊なことだ。

確かに過去の出來事からレナルーテの文化に対して友好的なところはあった。

だが、ファラが學んでいたのは文化だけではない。

マグノリアの國のり立ち、貴族、領地など、とてもにすることではない。

丸一日、遅くまで授業は行われた。

そして、ファラは自室で必ず當日の復習と翌日の予習までさせられていた。

その為、ファラの就寢する時間はいつも遅かった。

ファラの一日のきには一切隙間がない。

それは、まるで時間がないとでも言わんばかりだった。

その時、アスナは真意が不明だがファラがマグノリアに嫁ぐことは噂通り事実なのだろうと思った。

そうでなければ、ここまでする理由がわからなかった。

ファラは、この過酷な一日を毎日続けていた。

アスナが専屬護衛になる前からである。

そしてある時から、アスナはファラを支えて上げられる存在になりたいと思うようになった。

最初はぎこちなかったが、最近だとファラはアスナだけには本音をし話してくれるようになった。

ある時、ファラがアスナに本音を言ってくれたことがある。

「毎日、辛いことや厳しいことはいいの。私が我慢したり、頑張ればいいだけだから。でも、どれだけ頑張っても母上や父上が私を見てくれないのはちょっと悲しいの……」

自分よりが言う言葉にが締め付けられる思いがした。

だが、アスナもそれは疑問だった。

ファラが何をしても、陛下もエルティアも彼のことを褒めることをしなかった。

むしろ、會うのを避けている、そんな様子もあった。

結局、理由はいまだにわからない。

そして最近で唯一、進展というべき変化があったとすれば、ファラがマグノリアの皇族もしくは準ずる貴族と婚姻するということが決まったことだった。

ファラの年齢で婚姻までするとなれば、國同士のきが何かあるのだろう。

アスナはそれでも、彼さえ幸せになってくれればと思っていた。

だが、皇族との婚姻となると思いきや、候補者として訪問に來るのはマグノリア辺境伯の息子だという。

アスナは憤りをじた。

レナルーテの王との婚姻に何故、皇族ではなく辺境伯の息子なのか。

準ずるとあったとしても皇族との話があってからではないのか?

これではファラが今まで、頑張った日々が報われない。

そう強く思った。

でも、ファラは「誰と婚姻しても私は大丈夫だから、心配しないで。ね?」と笑顔で話すだけだった。

アスナは何もできない自分がとても悔しい。

せめて、ファラの為に辺境伯の息子を見定めることが出來ないか。

そんなことばかり考えていた。

「アスナ? アスナ聞いているの?」

「え? あ、申し訳ありません。考えに耽っておりました」

「もう……」

アスナの慌てた顔にファラはし呆れた顔をしていた。

「それよりも、ふと思い立ったのだけど、明日著る服を決めておきましょう、ね?」

「え? は、はい。承知致しました」

アスナは突拍子のない発言にし驚きながら一緒にドレスを選ぶことになった。

一応、アスナは侍も兼ねている。

「これなんか、驚いてくれるかしら?」

「……ファラ様、いくらなんでも王がメイド服を著るのはどうかと思います」

「そう? マグノリアが流行りということで、侍が用意してくれたのだけど」

アスナはし呆れた顔して、マグノリアのメイド服を著ようとしているファラを制止した。

「いくら、マグノリアのデザインと言っても、王となる方がメイド服で謁見はできませんよ。普通のドレスにしましょう」

「えー…ちょっとつまんない」

ファラは指摘されたことに対してし不満顔をしていた。

アスナはその様子見て小さく「はぁ」とため息をついた。

ファラは年齢のわりに聡明だが時折、突拍子のないことを言い出したりする。

その為、意外と目が離せないところがあったりするのだ。

「そうだわ‼ 私もアスナと同じ軍服で行ったらどうかしら? ね?」

「絶対にやめてください……」

その後、しばらく二人でドレス選びをした。

翌日、ファラの母親であるエルティアからドレスが屆いた。

殘念ながら前日に選んだドレスが謁見の日に使われることはなかった。

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