《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》ノリスとレイシス

「とうとう、來たのか」

レイシスはバルディア家の面々が迎賓館に著いたと自室で聞いたとき、妹を守れる自分が何とかしなければならないと一人焦りをじていた。

妹のファラとは最近、ようやくしだけ會話をするようになった。

何故なら、レイシスとファラは最近になるまでほとんど會ったことがなかったからだ。

恐らく何らかの意図により出來る限り會わせないようにしていたとじるほどだった。

レイシスが初めて妹に會った時はその年齢に不相応な綺麗な所作、大人びた様子などに驚愕した。

そして、今ではレイシスにとって自慢の妹であった。

以前、レイシスは自分に妹がいると知ってすぐに會いたいと思い、王の母親であるエルティアに人づてで連絡をした。

だが、エルティアからの返事は教育が忙しく王と會う時間が作れないということのみだった。

それでも會いたいと直接、エルティアに話した時に彼のない表で言った。

「レイシス王子、よいですか? 王族には役割というものがあります。王には王の。王子には王子の役割があります。いま王は自分の役割を全うしております。そこに、王子は殘念ながら必要がないのです。どうぞ、レイシス王子自の時間を大切にしてください」

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エルティアは「會う必要ない」とレイシスに告げてきた。

何故、自分の家族。

妹に會うこともままならないのか?

エルティアの言葉に衝撃をけた彼は、言葉の真意を考えてみたがわからない。

そんな時、レイシスに答えを教えてくれたのが相談に乗ってくれた曾祖父のノリスだった。

「ここだけの話ですよ。それは、エルティア様がレイシス様のことをあまりよく思っていないからかも知れませんな」

「どうして?」

レイシスの疑問にノリスは微笑みながら答えた。

その微笑みには邪気が含まれていたが、いレイシスはそれに気付けない。

ノリスの微笑んだ顔や雰囲気は好々爺そのものだった。

そして、ノリスは子供に話すようなことではない事をレイシスにあえて話した。

父親である王のエリアスがしているのはエルティアだけなのだと。

その為、レイシスの母親であり王妃であるリーゼルの事を王も、エルティアも良く思っていない。

だから、妹である王にレイシスを合わせたくないのだろう。

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その話を聞いたレイシスはすぐに否定した。

「そんなはずはない‼ 父上は母上をしておられる。確かにエルティア様もしているかもしれない。だけど、エルティア様だけ特別扱いするようなことはしないはずだ‼」

「辛いお気持ちはお察しいたします。ですが、これは事実なのです。リーゼル様が時折、深い悲しみに暮れた顔をするのは何故でございますか? レイシス様にもお心あたりがあるのではないですか?」

レイシスは「そんなはずはない」と否定していたが、確かにノリスの言う通り母のリーゼルは時折、深い悲しみに暮れた表をすることがある。

だが、自分が話しかけるとすぐ笑顔になり微笑んでくれる。

だから気にしたことはなかった。

レイシスは考えれば考えるほど、混していった。

その様子を見ていたノリスはまた邪気を含んだ微笑みを浮かべると、レイシスに囁いた。

「リーゼル様が深い悲しみに暮れていた時、王はどこに行かれているのでしょうか?」

「……」

ノリスの囁きを聞いてレイシスは理解したが、黙っていた。

「エルティア様のところでございます。殘念ながら陛下はリーゼル様には時折だけなのに、エルティア様には毎日通っておられます。それは、そういうことなのです。聡明なレイシス様であればおわかりになるかと存じます」

レイシスはノリスの言葉を聞いてカッとなった。

父上が母上をないがしろにしていた?

王妃である母よりも、側室のエルティアをしているというのか?

そんなはずがない‼

首を橫に振り、ノリスに力強く鋭い目線を送ると彼は言った。

「クッ……そのような戯言を言うとノリスと雖も許さんぞ‼」

「では、ご自分でお調べになってはいかがでしょう? エリアス様の予定を知っている者に聞けば良いかと存じます……」

レイシスがノリスの話を聞いたあと、父親の予定を調べて確認した。

すると、ノリスの言った通り、母親のリーゼルより、エルティアに會いに行く回數のほうが斷然、多いことがわかった。

そして、母リーゼルが悲しい顔しているのは確かに、父上がエルティアに會いに行く日だったのだ。

ノリスの言ったことは正しかった。

でもそれは、レイシスにとって心の傷になった。

自分の大好きな母親がないがしろにされ悲しんでいるのに、父親はそれを何とも思わず、考えもせず側室のエルティアを大切にしている。

そんなことが何故許されるのか?

レイシスにはわからなかった。

そして、わからなくなった彼はノリスに再度、相談をした。

ノリスは好々爺らしい、優しい雰囲気と笑顔でレイシスの相談に乗った。

「レイシス様の父上である、エリアス陛下は王としてはとても優秀です。それは、お判りになりますか?」

「それは……わかる」

ノリスの言う通り、父であるエリアスはとても優秀な王として國でとても評判である。

それに、レイシスから見ても王として尊敬していた。

だからこそ、ノリスの話が信じられなかった。

だが、その話が事実だとわかった時、尊敬していた思いは反転して軽蔑の思いに変わった。

「そうですか。エリアス陛下を王として尊敬は続けるべきです。ですが、「人」としてどうかとなると別問題です」

「王と人は別問題……」

レイシスはノリスの言葉を聞いて思慮深い顔をして俯いた。

ノリスはその様子に満足しながら言葉を続けた。

「エリアス陛下は王としては優秀ですが、人としては未なのでしょう。ですが、それで良いのです。完璧な人間などいません。王としての務めを果たすために、人として未な部分が出來てもしょうがないのです」

王として優秀なら、人として未でも許される。

そんなことが許されるのだろうか?

だが、実の父親は王として務めを果たしているのは事実だ。

様々な思いがレイシスの中で駆け巡り、二人の間で沈黙の時間が生まれた。

そして、レイシスがおもむろに呟いた。

「王と人、どちらも優れた人間にはどうすればなれるのだろうか……」

レイシスは自分がいずれ王になることは知っていた。

だからこそ、父親であるエリアスを王として尊敬していた。

だが、人として見ると自分の母親をないがしろにしている様子を知ってしまい軽蔑の念が生まれた。

それにより、父親を信用出來なくなってしまっていた。

レイシスの心模様を手に取るようにわかっていたノリスは笑顔の裏に邪気を隠して、答えた。

「もし、差支えなければですが私がレイシス王子をお支えいたしましょう」

「ノリスが……?」

レイシスはノリスの顔を怪訝な顔して見つめていた。

「はい。私はこの國でも最高齢に近いのです。それは、様々な人となりや関係を見てきたということです。レイシス様に足りない経験を私が補うことが出來れば必ずや、王と人、どちらも優れた人になれましょう」

「そうか……そうだな、ノリス。ありがとう。これから、よろしく頼む」

「はい。私で良ければいくらでもお力になります。何かあればすぐご相談下さい」

ノリスはレイシスの言葉に一禮してから答えた。

レイシスは悩みが解決して清々しい顔になっていた。

対してノリスは笑顔を浮かべていたが、その邪気にレイシスが気付くことはなかった。

レイシスは妹の事を案じながら自室で焦りをじ、考え込んでいるとドアがノックされた。

返事をするとって來たのはノリスだった。

「ノリス、どうした?」

「先ほど、エリアス陛下に會って參りました。計畫は問題なく進められます」

「わかった。ノリス、いつもありがとう」

「いえいえ、私に出來ることはこの程度のことです。それより王子、當日はよろしくお願い致します。くれぐれも油斷なさらぬよう……」

「言われずともわかっているさ」

ノリスはレイシスの自信に満ちた様子を見ると満足した様子だ。

「では、また明日」とレイシスに一禮してから退室していった。

レイシスはノリスと話したことで焦りが落ち著いた気がした。

そして、深呼吸をしてから呟いた。

「絶対に妹は僕が守る……」

自分に言い聞かせるような言葉であった。

ノリスはレイシスの部屋から出ると、人目が付きにくい廊下の影に移した。

そして、手で合図をするとノリスの影に目と口が浮かび、不気味な人相が出來上がった。

影に浮かんだ顔はノリスをニヤリと嫌な目で見ていた。

ノリスは気にせずに影に聲をかけた。

「王子の様子はどうだ?」

「……特に何も変わらん。お前のことを信じ切っている。疑うことはなかろう」

「そうか。それなら良い。何かあればすぐに知らせろ」

「……意」

影に出來た不気味な人相は靜かに消えた。

そして、影がしゃべることはなくなった。

「ふふ……すべて順調だ。見ていろ。マグノリアの田舎者が」

ノリスは、吐き捨てるように呟くとその場を後にした。

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