《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》溫泉
「リッド様、そろそろ溫泉に移した方がよろしいかと存じます」
「え? ああ、そうだね。ザックさん、案してもらっても良いですか?」
ディアナの聲でハッとすると思ったより時間が過ぎていたことに気付いた。
意外に話し込んでいたらしい。
「ええ、承知致しました」
先程までザックと々と話していたが、ディアナに溫泉のことを急かされて迎賓館の中を移し始めた。
それにしても、ディアナがやたら溫泉を押している気がするのは気のせいだろうか?
「こちらでございます」
案された溫泉の出り口には赤と青の「のれん」がかけてある。
すごく見たことのある風景にし呆気に取られてしまった。
しかも、のれんをよく見ると漢字はさすがにないが、見たことのある溫泉マークが描かれている。
川っぽいマークを湯気に見立て、そのマークのし下を円で囲むようにデザインされたものだ。
恐らく日本人ならだれでも一度は見たことがあるのではないか?
そう思わせるものだった。
「青が男。赤がとなりますので、るときはご注意下さい。それからお湯が熱すぎる場合は恐れりますが、係の者に申し伝え下さい」
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「わかった。ありがとう」
ザックは一禮してその場を後にしようとしたが、ふと気になることが頭に浮かび質問をした。
「そういえば、迎賓館の溫泉のお湯ってどうしているの?」
溫泉と言っても確か、分によって危なかったりしたはず。
それに、この世界には電気などもないから、どうしているのだろう?
と、疑問を抱いたわけだが、ザックはすぐに答えてくれた。
「ご安心下さい。ここの溫泉は人に問題はありません。源泉と水路をつないでおりますので、お湯はそこからです。また、溫度に関しては「湯もみ」を行って調整しております」
ザックは言い終えると再度、一禮をしてこの場を去った。
湯もみと言えば、草津溫泉とかでしているやつかな?
船の櫂みたいな棒で混ぜて溫度調整していた気がする。
とすれば源泉のみのかなりいい溫泉ではないだろうか?
質問して良かった。
僕の溫泉に対する期待度が上がった。
だけど、ディアナも目を輝かせている気がする。
でも、長旅の疲れもあるし、ディアナにもゆっくりしてもらいたい。
そう思い、僕はディアナに言った。
「僕は一人でもれるから、ディアナもゆっくりってきなよ」
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「……いえ、護衛の任務がありますから、そういうわけには參りません」
「気にせずりなよ。お風呂ぐらい大丈夫だよ。もし、気になるならルーベンスでも呼んで、風呂場の前に立たせておいたら?」
僕は冗談じりにいったのだが、ディアナの目が輝いた。
「……それ、名案ですね」
彼はそう呟くと近場にいたダークエルフのメイドに聲をかけた。
ディアナの言葉を聞いたメイドは僕たちに一禮をしてその場を後にした。
ルーベンスを呼びに行ったのだろうか?
彼も疲れているから寢ているだろうに。
し気の毒に思ったが、考えたらディアナはルーベンスの彼だ。
なら、そんなに気にしなくて良いのかもしれない。
「リッド様、私はここでルーベンスが來るのを待ちますので、先におり下さい」
「わかった。護衛は最悪ルーベンスに全部任せていいから、ディアナもゆっくりしてね」
「ありがとうございます」
ディアナは僕の言葉に一禮すると、姿勢を正してのれんの前に立った。
うん。門番みたいだ。
僕は「じゃあ、先にるね」とディアナに聲をかけ青いのれんをくぐり、その先の通路を進んで所の中にった。
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「うわー、見たことのある風景だなぁ……」
そこは前世の記憶にある溫泉とよく似た所だった。
棚が何個もあり、各棚にはいだ服をれる籠がっている。
それを、引き出すと僕は驚いた。
「タオルと……うん? これは……浴だ」
僕には殘念ながらサイズが合わないが、浴に間違いない。
迎賓館がますます高級旅館に思えてきた。
僕は服をぐと、溫泉の浴室の洗い場に移した。
移する時に溫泉に目をやると巖風呂の天風呂だった。
良い、とても心擽る溫泉だ。
早速、を洗おうとするがそこで気が付いた。
石鹸がない。
そういえばこの世界ではまだ石鹸は高級品だったはず。
さすがの迎賓館でも置いていないらしい。
し殘念だが僕は諦めてにかけ湯をしてから溫泉に浸かった。
「いい湯だなぁ~……」つい言葉にしてしまう。
僕は溫泉につかりながら「石鹸」に関しても何か出來ないか考えることにした。
こういう時こそ「メモリー」だ。
そう思った矢先、所から音がする。
誰だろうか?
ルーベンスか父上かな?
と、思いながら所をのんびり眺めていた。
そして人影が目にり、やがてそれがだと理解した。
「リッド様、失禮いたします……」
「へ……?」
僕は予想外の浴者に呆気に取られた。
そして、間の抜けた返事をしてしまい、そのまま固まってしまった。
え? なんで? ディアナが來るの? 湯いかなかったの?
いや、そもそもルーベンスは來ていない?
あまりの出來事に頭が混する。
そして、ボーっと彼、ディアナのを眺めてしまった。
「……リッド様、さすがにそんなに見られると恥ずかしいです」
ディアナの言葉に僕はハッとした。
その瞬間、僕は激しい水音を立てながらディアナとは反対方向を向いた。
そして顔を赤くしながら強く言った。
「ディアナ‼ なんで男湯にってくるの⁉」
「え? 護衛のためですが……?」
ディアナは當然のように僕に言った。
溫泉まで來るのが護衛の役割だろうか?
所前に立っていても良い気がする。
「ル、ルーベンスは?」
「はい。來ました。なので、のれんですか? あれの前に立っていますよ」
會話しながらディアナが巖風呂に近づいているのをじた。
「なら、湯‼ 隣に行けばいいじゃないか⁉」
「リッド様、何を言っておられるのですか? 今のタイミングが一番危険なのですよ? それに、ザック様の様子を見るかぎりレナルーテも様々なきがあるでしょうから」
確かにディアナの言っていることは正しいかもしれない。
でもそれと、これとは別だ。
「ふふ、リッド様。何をそんなに戸っているのですか?」
ディアナは僕のほうに近づいてきて、真後の耳元で囁いている。
顔が真っ赤になっていくのをじる。
これ以上は危険なじがする。
というか、婚姻の候補者が護衛とはいえと浴しているのはまずいのではないだろうか?
そう思い、お湯から立ち上がると言った。
「ぼ、僕はもう上がるから、ディアナはゆっくりしてきて‼」
「それはダメです」
僕は目を瞑りながらディアナの橫を通り過ぎようとして、腕をディアナに捕まれてしまった。
咄嗟にディアナに振り返ってんだ。
「なんで⁉」
「先ほど、ゆっくり浸かっても良いと仰ったではないですか? 私はリッド様の護衛を兼ねておりますから、リッド様が上がると一緒に出ないといけません」
振り返った僕はさらに顔が真っ赤になった。
咄嗟の事で目を開いてしまった。
そして、ディアナの綺麗なをしっかり見てしまった。
「な、ななな……」とたじろいでいると、ディアナはクスクスと笑い始めた。
「リッド様は本當に面白いお方ですね。まだ小さな子供なのですから、私とお風呂にっても誰も何も気にしません。それより、気にする方がおかしいと思いますよ?」
確かにその通りかもしれない。
でも、僕の中で何かがダメだと言っている。
前世の記憶の僕は普通に邪な気持ちは人並みにあったと思う。
でも、今の僕はディアナを邪な気持ちでなんか見ることは出來ない。
ディアナというかがとても尊いものとじるようになったからだ。
僕は深呼吸をしてから、深いため息を吐いた。
そして、ディアナに言った。
「はぁ……わかったよ。でも、僕は出口近くの所でディアナを見ないようにするから、上がりたくなったら言ってね」
僕の言葉にディアナはしきょとんとしてまたクスクスと笑い始めた。
「ふふ、ありがとうございます。でも、私はそんなに魅力がないですか?」
ディアナはまたからかうような意地悪な顔をして言ってきた。
僕は頭をがっくりさせて呟いた。
「そんなわけないでしょ……? その逆だよ。ディアナはとても綺麗で誰だって目を奪われる。そんなしさを持っているよ? そんな、気を子供に見せたらそれこそ教育上良くないよ……」
「あら……」
お風呂でのぼせてきたのか、今度はディアナの顔が赤くなった。
大丈夫だろうか?
僕は心配になり聲をかけた。
「ディアナ、大丈夫? 顔が赤くなっているよ? のぼせてない?」
「……リッド様なら、ザック様の言う通りファラ様をきっと大切になさるのでしょうね。はぁ、ルーベンスに見習ってほしいぐらいです」
顔を赤くさせつつ、し殘念そうな表をしてディアナは呟いていた。
「ファラ王のことはわかるけど、なんでルーベンス?」
「……なんでもありません。それより、もうし溫泉につかりましょう」
「あ、うん」
その後、ディアナにからかわれることはなかった。
ただ、気になった事としてルーベンスとどうなのかを聞いたら、「そのことは今、聞かないでください」と怒られてしまった。
ルーベンス、お前はディアナに何をしたのだ?
それからし溫泉で溫まってから順番に上がった。
先に僕があがり、次にディアナがあがった。
所ではディアナのを見ないように気を付けた。
すると、ディアナから「これ、どう著るのですか?」と聞かれて浴の著方を伝えた。
でも、口頭だけでは伝わりにくいから最後は手伝った。
浴を著たディアナは湯上りでの良いなども重なって凄い気を醸し出していた。
それに、騎士をしているからディアナは姿勢がとても良い。
その姿勢の良さがより浴の魅力を引き出していた。
僕はちょっとした悪戯心からディアナにお願いをした。
「お願いなのだけど、その姿をルーベンスに見せようよ。絶対、反応面白いよ」
「え?……ま、まぁ、リッド様のお願いでしたら……」
ディアナは恥ずかしそうに、ルーベンスがいるところに向かった。
僕はニヤニヤしながら所からその様子を見ることにした。
のれんから所まではし通路がある。
だから、所を出て通路から、のれんのある方を見れば、二人のやりとりだけは見ることが出來るわけだ。
◇
「ふ…う……」
ルーベンスは眠気からきたあくびをかみ殺して直立不でのれんの前に立っていた。
部屋で眠りかかっていたところに、ダークエルフのメイドがやってきた。話を聞くとディアナが護衛を一時的に代してほしい、ということだった。
すぐメイドにディアナがいるところに案してもらった。
代の理由を聞くと、リッド様の護衛で溫泉にるからと聞いた。
以前からディアナが溫泉にりたいと言っていたからこの機會を逃すまいと思っているのかもしれない。
俺は快く引きけた。
そして、結構な時間が経過したわけだが、「長いな……」溫泉とは、かくも長いものなのか?
と、ため息を吐いていた。すると、のれんの奧からディアナの聲が聞こえてきた。
「ルーベンス、し良い?」
「うん? どうした? リッド様の護衛はだいじょう……」
ディアナがのれんの奧から現した姿を見て、ルーベンスは絶句して彼に目が釘付けになってしまった。
普段の姿とは想像できないほどの気が彼から溢れていた。
潤いと瑞々しさをじさせるの良い。
溫泉上がりで濡れた髪は下ろされておりとても艶がある。
彼が普段しているポニーテールとはまったく違う魅力が出ており、そのギャップがルーベンスの目をより釘付けにする。
気にたじろいでいるルーベンスにディアナはし顔を赤くして上目遣いで聲をかけた。
「この服どうかな? レナルーテの服で「ゆかた」っていうらしいの……似合っている?」
「あ、ああ……」
ルーベンスは口元を自然と手で隠していた。
そして、ディアナから視線を逸らした。
彼があまりにも魅力的だからだ。
それでも、ついつい目はチラ見をしてしまう。
ディアナのゆかた姿は気に満ちていた。
所作が綺麗なことに加えて、リッドでは気付けなかった魅力がルーベンスの目には映っていた。
浴で隠しきれていない、ディアナのの谷間である。
恐らくディアナ本人も気付いていないかもしれない。
その為、彼がをかすたびにルーベンスの理を追い詰める。
だが、ディアナはそれに気づいていない。
それどころか、ルーベンスが目を逸らしたことでしシュンとしてしまった。
「……やっぱり、私には浴似合ってない? リッド様が私のゆかた姿がとても良いから、ルーベンスに見せてしいって言われたのだけど……」
「‼…… そんなことはない‼」
ルーベンスは強くはっきりと「似合っていない」という言葉を否定した。
そして、逸らしていた目をディアナに向けた。
ディアナはしシュンとしながら、上目遣いでルーベンスを見上げている。
そんな目をルーベンスはまっすぐ見つめた。
見つめ合っていくうちに二人の息と鼓が同調していく。
そして、気持ちの高ぶりが言葉を出さずともお互いに伝わっていった。
ルーベンスは浴の上からディアナの腕を握り、のれん奧の通路側、外から見えない壁に優しく彼を押し付けた。
握られた腕も壁に押さえられたディアナだが、抵抗はしなかった。
それどころか、潤んだ眼を泳がせながらルーベンスに向ける。
そして、しだけ頷いて彼をけれの合図を送った。
ルーベンスはその様子に魅了され気づくとディアナのを塞いでいた。
「ンウ……ン」
その場は二人の熱く、妖艶な世界に包まれた。
「ディアナ、綺麗だ。している」
「私も……」
もはや完全に二人の世界にり込んでいる。
しかし、彼らは忘れていた。
そもそも、何故ここにいて、自分たちの役割はなんなのか?
二人だけの世界から戻るきっかけ。
それは大きな、とてもわざとらしい咳払いだった。
「ゴホッゴホゴホ、ゴホン‼」
その咳払いを聞いた瞬間二人は我に返った。
ディアナはあまりの恥ずかしさに珍しく悲鳴を上げた。
「きゃぁああああ‼」
「いってぇ‼」
悲鳴と合わせて頬が激しく叩かれる音が「のれん」の通路に鳴り響いた。
ディアナは全を真っ赤にさせて顔を両手で覆ってしゃがみ込んでいる。
対してルーベンスはディアナに叩かれた頬を手で押さえながら目を丸くしていた。
そこに、一人の子供がのれんの通路奧からやってきた。
実に気恥ずかしい様子を醸し出してその子供は二人に対して言った。
「えーと。僕は何も見ていないから安心してね?」
ルーベンスとディアナは二人とも先ほどの自の様子を思い出しているのだろう。
ゆでだこのように真っ赤になっていた。
その後、悲鳴を聞きつけたザックやメイド達がやってきてし騒ぎになった。
だけど、ディアナが所で蟲に驚いて悲鳴をだした。
そして、駆け付けたルーベンスをビンタしてしまった。
と、ラブコメのテンプレみたいな説明してみたところ案外納得してくれた。
その説明中もルーベンスとディアナは赤いままだった。
騒ぎが落ち著くと集まっていた皆がいなくなり、その場は僕達だけになった。
その時、僕は二人に念押しでもう一回伝えた。
「僕は何も見てないからね?」
僕の言葉に二人はまた真っ赤になるのだった。
最後まで読んでいただきましてありがとうございます!
もし、しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、
差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。
評価ポイントはモチベーションに直結しております!
頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張る所存です。
これからもどうぞよろしくお願いします。
後は野となれご令嬢!〜悪役令嬢である妹が婚約破棄されたとばっちりを受けて我が家が沒落したので、わたしは森でサバイバルすることにしました。〜
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