《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》計畫変更

(なんということだ⁉ ライナー辺境伯の息子は化けか‼)

ノリスはリッドとレイシスの試合を見るなり肝を冷やしていた。

レイシスは決して剣士として弱いわけではない。

大人にだって勝てる剣を持っている。

それを、リッドという子供は苦戦もせず、まるで大人が子供、いや赤ん坊をあやす様に扱って見せた。

圧倒的な実力差があるから出來ることだ。

そして、レイシスよりリッドは年下だ。

それなのにあれだけの実力を持っている。

あれが、化けではなくて何だと言うのか?

念のために準備した、罅のった木刀がリッドにわたっていれば……いや、それでも結果は変わらなかっただろう。

だが、それとは関係なく忌々しいメイドだった。

思い出すだけでも腹が立つ。

わざわざノリス自ら、兵士と共に木刀を持っていき、メイドに渡すように伝えて渡した。

すると、メイドはけ取った木刀の剣先から持ち手を掌でなぞると険しい顔をした。

「……これは、なんでしょうか? 我が主に対して無禮を働くおつもりですか?」

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「なんのことですかな? いきなりそのようなことを仰いますのが無禮と存じますが?」

メイドの言葉にとぼけてみせたが、ノリスの発言を聞くとメイドは木刀の両端を左右それぞれの手で握ると力をれ始めた。

すると、木刀の中心がだんだんと上に反りあがる。

メイドのする所業にノリスと兵士は呆気にとられた。

そして、罅のっていた木刀は中央の反りに耐えきれず真ん中から弾けて折れた。

「な‼」折れた木刀にノリスは思わず聲をあげる。

メイドは折れた木刀を兵士に押し付けると鋭い目をしながら、怒気を含めてノリスに言った。

「私のような……か弱いメイドの細腕の力で折れるような、罅のった木刀を我が主に渡すおつもりでしょうか? その所業のどこが無禮でないと?」

メイドの言葉にノリスの顔は険しくなるが、平靜を裝い言葉を返した。

「……申し訳ない。どうやら手違いがあったようだ。すぐ別のを用意しよう」

「いえ、それには及びません。僭越ながら我が主が使う木刀を選別させて頂いてもよろしいでしょうか?」

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何という生意気なメイドだ。

辺境伯の屋敷ではメイドの教育すらままならんのか‼

ノリスは心、憤慨していたがさすがにそれを表には出さずに苦々しく返事をした。

「……承知致しました」

ノリスは兵士にメイドを案するように指示した。

そして、數ある木刀の中からメイドが手にしたのは一番良い木刀だったと、メイドに付き添った兵士から聞いた。

もはや、木刀の良し悪しで試合結果が変わるとはノリスも思っていない。

だが、ノリスの中でこの一件はバルディア家に対しての嫌悪を高めるには十分な出來事だった。

「ぐあ‼」

メイドの件を思い出していると、外から王子がまた投げ飛ばされたであろう聲が聞こえた。

そうだ、メイドの事などどうでもよい。

それよりもこの狀況を何とかしなければならない。

ノリスは思案した。

本來であればレイシスがリッドにレナルーテに対する嫌悪やトラウマを與えて婚姻渉を阻害するつもりだった。

だが、その手はもう使えなくなった。

次の手を考えた時にふと、「影」のことを思い出した。

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あいつらなら何とか出來るかもしれん。

そう、思い試合に夢中になっている華族の一団の中からスッと姿をノリスは消した。

そして、人気のないところでノリスは手で合図をしながら、小さく呟いた。

「おい‼ いるのだろう、出てこい‼」

合図と聲に反応するように、ノリスの影に目と口が浮かび、不気味な人相が現れた。

その影は目をギロリとノリスを見ると低い聲で呟いた。

「……このような、人気の多い場所で呼ぶとは何事だ?」

「ゆ、許せ。事態は急を要するのだ」

そして、ノリスは影に狀況を説明して、何か良い案はないかと尋ねた。

すると、影の人相の目が細くなり呆れた雰囲気を醸し出した。

「ふぅ……この程度の問題を解決できないとは。どうやら、貴殿を買いかぶり過ぎていたようだな」

「そ、それは違う‼ 計畫は順調だった‼ あの辺境伯の息子が化けなのだ‼」

ノリスは必死に自己弁護をした。

確かに、リッドという存在が規格外だったのはノリスにとっては誤算だっただろう。

その様子を見つめていた影はゆっくり口を開いた。

「なるほど……ならば、辺境伯の息子がいま王子にしていることを問題にして、華族に広げるのだな……」

「……どういうことだ?」

影の人相がノリスの質問に目が険しくなりし口調が強くなった。

「何事にも見方をかえれば良くも、悪くもなる。レイシス王子の格は思い込みが強く反骨心が強いところがある。貴殿の影響も考えれば、負けを認めることはないだろう」

ノリスは影の言葉を聞いて思慮深い顔をしてからハッとした。

「そして、エリアス王も止める様子はないのであろう? ならば、レイシス王子は長時間、辺境伯の息子に痛めつけられるということだ。後は貴殿の得意な吹聴を使うのだな……」

影の人相は言い終えると、スーッと消えていった。

殘されたノリスはニヤリと笑みを浮かべると華族達が集まっているところに戻っていった。

そうだ、何故気付かなかったのか。

リッドの意図は不明だが恐らくレイシスを気絶させるつもりはない。

そして王も止めない。

ということはリッドが一方的にレナルーテの王子を痛ぶったという見方が可能だ。

辺境伯の息子は嗜的で殘酷。

極悪非道の気質があると國に吹聴すればよいのだ。

試合の様子が見える縁側に戻るとノリスは早速、自分の派閥の有力者をひそかに集めた。

そして、辺境伯の息子は圧倒的な実力差でレイシス王子を痛めつけ楽しんでいる。

的で殘酷。

極悪非道の気質の持ち主である。

いま目の前で行われている試合が論より証拠になると伝えると彼らに言った。

「今回の婚姻の件で中立の立場にいるものを中心に聲をかけろ。ただし、王や王妃には悟られるな」

指示されたノリスの派閥に屬する者達はニヤリと笑い、散り散りなった。

今回の顔合わせには國の有力華族はほぼ集まっている。

辺境伯の息子が王に相応しい人かどうかを見極めるためだ。

そして、國の華族達は婚姻に賛、中立(賛)、反対の三勢力に分かれている。

中立は基本賛だが、辺境伯の息子を見てから決めたいと思っている華族達だ。

彼らも、どのような理由でも自國の王子が痛めつけられていい気持ちがするわけがない。

人は誰しも見たいものを見て、信じたいものを信じる。

二人の試合容と結果の真実がどうであろうと関係ない。

自國の王子と他國の辺境伯の息子。

どちらを信じるかとなれば皆、王子を信じるということだ。

その場に殘ったノリスは意地の悪い笑みを浮かべていた。

ファラ王と護衛のアスナはレイシスとリッドの試合に釘付けになっていた。

「兄上が手も足も出ないなんて……信じられない」

レイシスの実力はファラも知っている。

大人顔負けの剣を扱い、同年代には勝てる相手は、この國には恐らくいない。

その兄上を手玉に取っているリッドの実力は相當のものだろう。

ファラは隣で護衛をしているアスナに尋ねた。

「アスナ、剣士としてリッド様の強さをその、どう見ていますか?」

「……一言で表現するなら「化け」でしょうね。どのような鍛錬をすれば、あの年齢であそこまで強くなれるのか……是非お伺いしたいほどです」

ファラの護衛をしているのアスナは、今よりい時からレナルーテ國では天才剣士として有名だった。

にして「化け」と言わしめるのであれば、リッドの実力はまさに言葉通りなのだろう。

その言葉を聞いてファラは自分の兄がボロボロになっていく様子に心苦しくなり、悲しげに呟いた。

「リッド様は、何故あのようなことを兄上に強いるのでしょうか? これほどの実力差であれば、試合をすぐ終わらせることも可能だと思うのですが……」

二人の試合は武の素人でもあるファラにもし異常な様子に見えた。

兄上が立ち向かい、そしてリッドが軽くいなす。

そして、リッドは兄上に木刀の剣先を急所に突きつける。

それは、見ている者に圧倒的な実力差を見せつけているようだった。

ファラの疑問に答えるようにアスナがおもむろに返事をした。

「恐らく、リッド様は勝利も敗北も考えていないのだと思います」

「……どういうこと?」

「見てわかる通り、二人の実力差は火を見るよりも明らかです。ですが、前試合でリッド様は自らの実力を見せる為に、下手に負けるわけにはいかないのです」

ファラはアスナの言葉を聞いて思案する。

前試合が始まった理由を思い出していた。

確か、リッドの実力がどの程度のものか知る為に開催された。

それに、辺境伯の息子の立場であれば下手に負けることは出來ないだろう。

アスナはファラが考え込んでいる様子を見てから説明を続けた。

「しかし、レイシス王子を無下に扱い勝つこともできません。それであれば、圧倒的な実力差をレイシス王子と周りに見せつけて負けを認めさせる。もしくは、王の判斷を待つしかありません。リッド様の本當の意図はわかりませんが、當たらずとも遠からずだと思います」

の説明を聞いて、ファラはし安堵した様子を見せた。

「良かった……リッド様が兄上に悪意を持って行っているわけではないのね?」

「はい。リッド様のきに悪意のようなものはありません。むしろ、何かを教えるような、諭そうとしている印象があります。真意はわかりかねますが……」

「そう……」

アスナの説明を聞いたファラは納得したようだが、心配そうな目で二人の試合を見ていた。

対してアスナはリッドのきを観察して、心驚愕していた。

(あの年齢ですでに強化を使いこなしているなんて……)

アスナは自分の実力や才能をひけらかすようなことはしない。

だが、人より優れているという認識はあった。

そんな自分でもリッドの年齢の時にあのようなきは出來なかった。

それはつまり、自分以上の才能を持っている剣士に出會えたことを意味していた。

レイシス王子も確かに才能はあった。

でも、彼には到底及ばない。

アスナは剣の鍛錬を欠かしたことはない。

その優れた才能によって誰かと高め合ったことはない。

でも、彼となら、リッドとなら高め合うことが出來るかもしれない。

いや絶対に出來る。

それは天才と言われた剣士の直というものでもあった。

元々、ファラの相手となる辺境伯の息子のリッドを自分なりに見定めたいという思いもある。

何とか、彼と手合わせできないだろうか?

と、考えたところでファラに呼びかけられた。

「ねぇ、アスナ。何故、兄上はあれだけ実力差がありながら負けを認めないのかしら?」

確かに妙だ、ここまでの実力差があれば普通は敗北を認める。

だが、レイシスはそれをしなかった。

「それは、殘念ながら私にもわかりかねます。恐らくレイシス王子にも意図があるとは思いますが……」

しかし、それから時間が経過してもレイシスは負けを認めなかった。

そしてエリアスも止めない。

その結果、リッドはレイシスを前に挙手をして「皆さん、僕の……負けです」と高らかに聲を上げた。

その時、リッドの行にファラとアスナは目を丸くして驚いたのだった。

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