《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》前試合 第二試合(3)
「説明はちゃんと出來るのだろうな? リッド?」
前試合の二試合目を開催することになり、アスナの準備が整うまでの間、僕は父上に事の次第を説明しにきた。
だが、父上の表はとても険しく眉間に皺を寄せ、こめかみをピクピク、口元を引きつらせていた。
つまり、とてつもなく怒っていた。
僕は、父上の怒りを気づかないふりをして説明をした。
ちなみに、レイシスが母上とバルディア領の悪口を言ったことについては伏せた。
すると、父上の怒りは呆れに変わったようで、ため息をついて僕に言った。
「はぁ……だから、いつも爪を隠せと言っているだろうが、この馬鹿者……」
「僕には隠すほどの爪がないと思うのですが……」
その言葉に、控えていたディアナとルーベンスが噴き出して笑いを堪えながら、両肩を上下させている。
失禮だな、君たちは。
すると、父上は僕を見據えるとし怒りのこもった聲で言った。
「折角の試合だ、お前の力を思う存分見せてやれ」
「はい。父上」
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さすがに父上も僕の悪評を吹聴されたことに関してはかなり怒っているみたいだ。
後ろの二人もその點については怒っているようで、僕の本気を出すようにと言われた。
そのままし雑談をしていると、後ろから聲をかけられた。
「リッド様、よろしいでしょうか?」
振り返るとそこにはファラが立っていた。
アスナはまだ戻っていない様子で、彼が一人でいるのは珍しい。
僕は、優しく返事をした。
「うん。どうしたの?」
「えーと……」
「?」
ファラはし挙不審なじだがどうしたのだろう?
すると彼は意を決した様子で僕に言った。
「リッド様であれば問題ないと思うのですが、試合中のアスナの言を私に免じてすべてお許しになると約束していただけませんか……⁉」
「へ?」
急に何を言い出すのだろうか?
試合中の言?
そんなもの気にするつもりはない。
でもファラの表から必死さが伝わってくる。
彼は必死の形相をしながら僕を上目遣いで見ている。
そして耳がし下がっていた。
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うーん、可いなぁ……じゃなくて、僕はファラに頷きながら言った。
「わかりました。アスナ様の言については、一切気にしません。なので、アスナ様もファラ様のように僕に接して下さるようお伝え下さい」
僕の言葉を聞いたファラは必死の顔から満面の笑みになって耳を上下させている。
可い。
でも、耳がくダークエルフは彼だけのような気がする。
僕はファラ王に質問を投げかけた。
「ファラ王、失禮でなければそのみ……」
「ゴホン‼ リッド様、ダークエルフのに耳のきを聞くことはマナー違反です。お控え下さい」
ディアナが僕の聞こうとしたことを察したようで、被せて咳払いをして割り込んできた。
通常であれば失禮な行為だが、僕のマナー違反を事前に防いでくれたなら話は別だ。
それに、ディアナの言葉を聞いたファラは顔を赤くしながら両方の耳を手で押さえてオドオドしていた。
なんか、すごく悪いことをしてしまったみたいだ。
僕は咄嗟に謝った。
「ファラ王、大変失禮いたしました。僕の勉強不足で申し訳ございません」
僕はファラに言ったあと頭を下げた。
すると彼は慌てたように言った。
「い、いえ、良いのです。大丈夫…です。あ、それよりも、頭を上げてください」
彼の一言で僕は頭を上げた。
まだファラはしオドオドしていたが咳払いを軽くすると、にこりと笑顔になり言った。
「コホン。リッド様、先程の発言、ありがとうございます。アスナは試合というか、剣を持つとし気が荒くなるところがあって誤解されやすいのです。なので、事前にリッド様にお許しをもらいたかったのです」
「そうでしたか。でも、私も稽古をするときはし口調が荒くなりますから、気にされないで大丈夫ですよ」
僕の言葉を聞いて、ファラはパァっと明るい笑顔になった。
そして、耳が上下にいている。
どうしよう、すごくりたい衝にかられる。
すると彼は笑顔で僕に言った。
「リッド様、お許し頂きありがとうございました。アスナも喜ぶと思います。では、私は失禮致します」
ファラはそういうと、僕に一禮して自分の観覧席に戻っていった。
僕はどうしても気になったのでディアナに疑問を投げかけた。
「……ディアナ、ダークエルフの耳がく理由ってなんなの?」
「……どのような理由があってものを暴こうとしてはなりません。そうですよね? ライナー様? ルーベンス?」
ディアナに振られた二人は知っているのか、知らないのか、わからないがディアナの「オォォ」というオーラに気おされてルーベンスは首を縦に振るだけだった。
すごい、父上もディアナに呑まれていた。
そして僕は諦めたようにため息を吐いて呟いた。
「はぁ……わかったよ。この件はもう質問しない。これでいい?」
「はい。素敵です、リッド様」
ディアナは僕の言葉に満面の笑みになっていた。
結局、ファラの耳のきにはどんな意味があったのかな?
まぁ、機會があれば知ることもあるだろう。
と、僕は深く考えないようにした。
その後、僕は試合會場の真ん中に移してから、アスナが來るのを準備運をしながら待った。
すると間もなく彼は本丸殿の中から姿を現して、僕の前に真っすぐ歩いて來た。
その足取りは軽いようだ。
彼は僕の前に來ると立ち止まり、僕に一禮すると嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「リッド様、改めましてファラ王の専屬護衛をしております。アスナ・ランマークです。以後お見知りおきをお願い致します」
「うん。僕も改めてライナー辺境伯の息子、リッド・バルディアです。こちらこそ、宜しくお願いします」
僕は挨拶をすると軽く一禮した。
そして顔をあげると、彼の姿に見ってしまった。
明治初期でみるような黒を基調とする軍服をにまとったダークエルフは、見渡す限り彼だけだ。
上は黒のフロックコートに首元にはネクタイをしている。
下は黒いズボンと短靴だろうか?
頭には獨特の四角いじの軍帽をしている。
赤みの混ざったピンクの長い髪は、後ろで三つ編みにされて彼の腰近くまである。
すると、見っていた僕を彼は緑の鋭い瞳で見てから、怪訝な顔で呟いた。
「ん? どうされましたか?」
「いや、でその服裝をしている人はアスナ以外見なかったから、し見っていた」
「……そうですか。確かに、でこの服を纏っているのはないですからね」
彼は自分の服裝を確かめるように言った。
そして、僕に目を向けて続けた。
「姫様から伺いました。リッド様は私の言を試合中は一切気にしないと。お気遣い頂きありがとうございます」
「いや、そんなに気にしなくて大丈夫だよ。僕だって、訓練中や試合中は口が悪くなることあるしね」
彼は僕の言葉を聞いて「そうですか」とクスクスとし笑った。
「しかし、リッド様は素晴らしい才能をお持ちですね。レイシス王子との試合はお見事でした。その年齢で「強化」を使いこなせるなんて、素晴らしいです」
「あ……ばれていたかな?」
レイシス王子を強化で圧倒したことが反則ではないか?
と、負けを宣言したあとに気付いたのだが大丈夫だろうか?
僕はし不安な顔をした。
それを見た、彼はし笑いながら言った。
「フフ、そう心配されなくても一部の者しか気付いておりません。それに、ルール違反でもありません。リッド様の強化に気付かなかった、レイシス王子がまだ未なだけです。気にされなくて大丈夫ですよ」
「そう? なら良かったけど」
彼の言葉に僕は安堵した。
また、反則とか揚げ足を取られると思うと今から疲れてしまう。
すると、アスナは先ほどまで笑みをこぼしていたのに一転、真剣な表となり、僕に言った。
「……リッド様の実力。強化を含めたすべての本気を見せて頂きたい……‼」
発言とともに彼雰囲気がガラッと変わった気がする。
そして、全にじたことのある張が走る。
「これは殺気だ」と理解した。
父上と比べればたいしたことはない。
だが、それでも他國の辺境伯の息子に対して、殺気を出すとは思わなかった。
これが、ファラの言っていた剣を持つと「気が荒くなる」ということだろうか?
先ほどまでの彼の様子からは想像できないほど「豪気」な格をしているようだ。
僕はし険しい顔をしながら、木刀を両手で持ちながら彼に向かって真っすぐ正眼に構えた。
すると彼は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「……素晴らしいです。リッド様は素晴らしい……‼」
彼は僕が木刀を構えた姿に何故かしている。
彼はおもむろに腰に差してある、二本の木刀をそれぞれの手に持つと靜かに抜いた。
左手に脇差の木刀、右手に普通の木刀を持ち、無駄な力をれず、彼は靜かに佇んでいる。
僕は構えを崩さずに、呆れたように言った。
「……いきなり、二刀流はやり過ぎじゃないですか?」
「フフ、お許しください。姫様からもリッド様を本気で迎えうてと言われております故……」
絶対うそだ‼ 僕でもさすがにファラが彼にそんなことを言うはずがないとわかる。
その時、僕たちの様子をみたエリアスが高らかに言った。
「二人とも準備はよいようだな。では、これより前試合 第二試合を開始する‼」
木刀二刀を構えて不敵な笑みを浮かべるアスナ、それに対して木刀一刀で対峙しながら険しい表をするリッド。
とても前試合とは思えない両者の雰囲気に息を呑む、観客。
こうして、前試合の第二試合の火蓋が切られた。
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冥府
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