《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》前試合 第二試合(4)

「二人とも準備はよいようだな。では、これより前試合 第二試合を開始する‼」

エリアスの聲が高らかに響く。

アスナは左手に脇差の木刀、右手に普通の木刀を持って、無駄な力をれずに靜かに佇んでいる。

その顔にはどことなく笑みが出ている。

対してリッドはアスナの様子を窺うように木刀を両手で持ち正眼で彼を見據えている。

そして最初にいたのはアスナだった。

「……アスナ・ランマーク推して參る‼」

はリッドに向かって言い放つと両腕をの前で差させ、木刀を背負う様に構えた。

その様子にリッドが構えた瞬間、地面を蹴るような音が聞こえる。

音と同時に一瞬でリッドの視界からアスナが消えた。

「な⁉」と思った瞬間、今度は地面がれる音がわずかに左から聞こえた。

音に気付いたリッドが左に目をやると、そこにはアスナが先ほどの構えのまま、こちらにを向けていた。彼は今の一瞬でリッドの死角に飛んだのだ。

(やばい‼)そう思いリッドが急いで回避行に集中した。

アスナはその構えのままリッドの側面に突進する。

そして、肩に背負っていた刀を自分の前で差させるように斬り抜けた。

だが、リッドは回避に集中したことで何とか躱す。

アスナは躱されたことでリッドに背を見せる格好になった。

リッドはここぞとばかりに、襲い掛かる。

「もらったぁ‼」

しかし、アスナはニヤリと笑うとその場で高く跳躍しながらを翻して、リッドの後方、背中側に著地した。

「……」その様子に言葉を失い目で追っていたリッドは彼の緩急激しいきに驚愕していた。

対するアスナはとても楽しそうな顔してリッドを見ている。

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今のきで彼の軍帽が外れて地面に靜かにおちた。

「……ムーンサルトなんて初めてみたよ」

「フフフ、アハハ。リッド様は最高だ。今のきに対応できる奴は中々おらん」

アスナの言葉遣いに明らかな変化が生まれていた。

その瞬間リッドはファラの言葉を思い出して、これか‼ と驚いていた。

その様子に気付いたアスナは不敵な笑みを浮かべながら呟いた。

「何を、驚いている? 私の言葉遣いは一切気にしないのだろう?」

「うん。さすがに変わり様には驚いたけどね。そんなに気にはならないよ」

「フフ、謝しますぞ、リッド様」

リッドとアスナは今のきでお互いにし距離が出來て見合っている狀態だ。

一瞬で二人が行った一連のきを見ていた観客は全員、開いた口が塞がらなくなっていた。

アスナのきもそうだが、それに食らいつくリッドを見て驚愕したのだ。

レイシスの言った言葉は本當だった。

最初の試合はレイシスとリッドでは実力が違い過ぎただけだと嫌でも納得させられた。

いま、試合をしている二人はお互いに年齢不相応の実力を持った剣士だと観客は畏敬と畏怖がこもった眼差しを二人に送っていた。

リッドとアスナがこれほど激しいきが出來るのは當然二人とも魔力による強化を発しているからだ。

といえば簡単なように聞こえるが、これを行う為には魔力と武を両方ともに一定以上の修練が必要になる。

つまり、二人はそれだけの修練を積んだ強者ということになる。

二人は互いに構えながら、見合っている。

次に最初にいたのはリッドだった。

を見據えながら右回りに歩き始める。

そのきを見ていたアスナはニヤリと笑い、同様に右回りに歩き始めた。

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そして、円を描くように二人は見合いながら歩き始めた。

そして、段々とその歩く速度が上り、走り始める。

強化を使って円を描き二人が走ることでその場で砂が舞い上がり始めた。

砂が舞い上がると同時にリッドはアスナに向かって切りかかる。

対するアスナも同様にリッドに切りかかる。

その瞬間、木刀がぶつかりあい重い音が何度も連続であたりに鳴り響く。

だが舞い上がった砂で観客はその様子が見ることができない。

やがて、音が聞こえなくなり、舞い上がっていた砂が無くなっていく。

そして、視界が晴れるとアスナとリッドは円を描いていた中央で鍔迫り合いを行っていた。

その様子を確認した観客たちのどよめく聲があたりに広がった。

リッドの木刀をアスナは二刀の木刀を差させてけ止めている。

鍔迫り合いの最中、リッドは彼に言った。

「……しは手加減してくれてもいいじゃない?」

「……それは、姫様の命令に背くのでな……フフ」

アスナは楽しげに笑っている。

だが、段々と眼のが無くなり據わってきていることに気付いた。

恐らく試合にどんどん集中していっているのだろう。

のスイッチがったら、絶対に勝てない。と、リッドは思った。

経験、実力、など、どれをとっても彼が上だ。

でも、「勝ちたい」と思う自分がいる。

「……アスナは強い。僕より強い。でも、僕だって簡単には負けたくない……‼」

「素晴らしい‼ リッド様は本當に面白い‼ では……これならどうだ‼」

は言葉を言い終えると、鍔迫り合いの力を緩め後ろに倒れ込んでいく。

「クッ‼」リッドは彼作によりバランスを崩して、し前に倒れ込みそうになる。

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すると、彼が後ろに倒れると同時に下からリッドに向かって、上がってくるものがある、アスナの蹴りだ。

「グッ‼」リッドは咄嗟に木刀でアスナの蹴りをけ止め、その勢いのままに後ろにバク宙をしながら飛びのいた。

対してアスナは先ほどと立ち位置は変わらず、バク宙で飛びのいたリッドを見ながら不敵な笑みを浮かべている。

そんなアスナにリッドにしては珍しく険しい、鋭い目で彼を見據えると正眼に木刀を構えると言った。

「……ムーンサルトにサマーソルトか。隨分と軽ですね? それに、顔に蹴りはやりすぎでは?」

「リッド様なら躱せると思っていたぞ?」

「アスナはやっぱり強い。だから僕も出來ることは全部やろう」

「まだ何かあるのか? 楽しませてくれる……‼」

は僕の言葉にが震えている。

でもそれは武者震いと言うべきだろう。

それにしても、蹴りが來るとは思わなかった。

そして、彼の強さに舌を巻きつつ、ルーベンスや父上との訓練にはじない高揚に僕は包まれてきていた。

楽しい、自分より強いけど、ルーベンスや父上ほどの圧倒的な差はまだじない。

手に屆きそうで屆かない。

そんな、気持ちにさせる試合だ。

だからこそ、やれることはやる。

(魔力測定)

魔力數値

リッド:五四八〇

アスナ:二二〇〇

僕は心の中で唱えて、彼と僕の魔力數値を測った。

思った通り、魔力數値自は僕のほうが大きい。

これは普段からの魔力修練のおかげだ。

対してアスナは僕のよりない。

は恐らく剣の修練と強化だけでここまでの魔力數値まで鍛えたのだろう。

懸念材料はあるが、この數値から勝つ方法を考えれば持久戦で彼の魔力數値が無くなるのを待つしかない。

でもそれは、彼の剣を長時間浴び続けることを意味する。

それは、まるで僕がレイシスにしたことが自らに返ってくるようにじた。

僕は彼に向かって木刀を立てて頭の右手側に寄せ、左足を前に出して八相の形に構えた。

そして、小さく呟いた。

「……因果応報か」

が初手で見せた突進力の速度から考えれば、距離を作るのは悪手だと判斷した僕は彼に向かい、地面を蹴り突進した。

リッドが自ら懐に飛び込んでくる姿に、アスナは笑みを浮かべ喜んだ。

「次は接近戦か‼ その覚悟‼ 最高だ‼」

僕は間合いにり八相の構えから斬撃を繰り出すが、彼は斬撃を左手の木刀でけ止め、右手の木刀で斬撃を浴びせて來る。

僕はそれを躱して、し距離を取ってから再度、打ち込む。辺りには木刀が激しくぶつかり合う音が絶え間なく連続で鳴り響いた。

二人の激しい試合の様子は、もはや見る者にを與える演武となっていた。

観客は二人の試合に気付けば釘付けになり、一瞬たりとも目を離せない。

そんな中、ファラが小聲で言った。

「が、頑張って下さい……‼ 二人とも頑張ってください‼」

その聲に気付いた、周りの華族達は今見ている景を見て自分達は最初、彼とリッドをどう見ていたのか思い返し恥ずかしくなっていた。

二人は剣士であり、自分達のような思いもなく純粋な気持ちで試合をしている。

時に覚悟と人の思いを背負った試合は心を震わせ、人をさせる。

それが、いまこの前試合で起きていた。

ファラの聲を聞いた、華族の一人が聲を震わせながら言った。

「か……勝ってくれ‼ アスナ殿、レナルーテの誇りをマグノリアにみせてやれ‼」

その言葉は華族として、この場では正しくなかったかもしれない。

だが、それを注意するものはいない。

むしろその言葉とは伝染していって大きな聲援となり、試合をしている二人に屆けられた。

「アスナ殿‼ レナルーテの剣技を帝國にみせてくれ‼」

「二人とも、その調子だ‼」

「素晴らしい剣です‼ アスナ殿、あなたは最高の剣士だ‼」

前試合は気づくとすごい熱気に包まれていた。

先ほどまで居たリッドの悪評の吹聴を信じている華族はこの場にはもういなかった。

ライナーは前試合の雰囲気が変わったことで、厳格な顔がし緩んだ。

するとルーベンスから聲がかかった。

「ライナー様、私もリッド様を応援して良いでしょうか?」

「構わん」

「はい。ですが、ライナー様も応援されては?」

「……私には立場がある」

ライナーの言葉を聞いた、ディアナとルーベンスはクスクスと笑ったあと、リッドに向かい応援の言葉を送った。

「リッド様、日ごろの訓練の果を見せる時でございます‼ 私やライナー様との訓練を思い出してください‼」

「リッド様、バルディア家のお力を存分にお示し下さい‼」

二人が大聲で応援する中、ライナーは誰にも聞こえないように小さく呟いた。

「……勝て、私の息子が負けるわけがない」

レイシスは二人の試合を見て、自分が最初に行った試合がいかにけなく、みじめな事をしたのかと思い知らされていた。

そして、自分があの場に立ちたかったと悔しがって涙をこぼしていた。

その様子を見て気持ちを察したリーゼルはレイシスに優しく言った。

「悔しい気持ちはわかります。ですが、あなたのその気持ちを言葉に出してアスナを応援しなさい。彼はあなたの気持ちにきっと応えてくれます」

「母上……」

レイシスは涙を服の袖で拭うと聲を張り上げてアスナを応援した。

「アスナ殿、勝ってくれ‼ 僕らの為に勝ってくれ‼」

帝國とレナルーテは約があるが同盟國だ。

だが、約を知らない者でもレナルーテは帝國に敵わないと、どこか鬱屈した気持ちを抱えていた。

その部分がノリス達の付ける隙でもあったのだろう。

今はその気持ちが華族達をよりアスナにさせていた。

アスナ本人はそんなこと気にもしていないだろうが。

エリアスは黙って二人の試合を熱い眼差しで見ていた。

前試合を見ていた華族達がアスナとリッドに聲援を送っている。

その聲にアスナは微笑みながら呟いた。

「何やら、騒がしくなってきたな」

「クッ‼」

斬撃の応酬のなか、アスナには微笑みながら話す余裕はあるがリッドにはない。

何故なら、アスナの二刀流が兇悪だからだ。

右左の木刀がまったく違うきをして鋭く襲い掛かってくる。

そして、二刀流ばかりにも注意していられない、何故なら彼は足技まで行使してくるからだ。

その様はまさに変幻自在でとても攻めることなど出來ない。

リッドは常に防戦一方だ。

しかし、一方のアスナもリッドのきに心驚愕していた。

(なんという膽力だ……)アスナの剣け容赦がない。

一度でも手合わせすれば、その苛烈さに慄いて誰も攻めてこない。

だが、リッドは違った。

アスナの剣をひたすらギリギリで躱す様に意識して、極力無駄なきを減らすことに徹している。

言葉にするのは簡単だが、リッドの全ですれすれにアスナの木刀が掠めていく。

木刀を振るアスナが心ヒヤリとするほどだ。

(リッド様の年齢で何故こんなにも膽力がある? 普段、どんな訓練をしているのだ……)

は知る由もない。

膽力訓練と稱して真剣のサーベルを振り回す父親めがけて、突き進むことで得たリッドの膽力。

ルーベンスの手加減無しのスパルタ教育によって得た剣と実戦に近いき。

だが、本人のリッドもそのことには気づいていない。

何故なら、リッドが本當の意味で対人戦をしているのはアスナが初めてなのだ。

リッドは自分の実力を初めてアスナによって知ることが出來ていた。

アスナに防戦一方となっている中でリッドは痛していた。

先ほどは彼にスイッチがれば勝てないと思ったが、それ以前の問題だった。

に僕が剣で勝つのは現時點で不可能に近い。

何故なら彼の二刀流は恐らく両手持ちと変わらないほどの威力を持っている。

一般的に、二刀が一刀に勝てないと言われるのは両手持ちの剣に対して、片手の剣では抑えることが出來ないからだ。

そして、それは攻めにおいても同じ事が言える。

だが、彼は片手でも強化で恐らく両手持ちと変わらない威力を誇っている。

そして、足技まであるのだ。つまり、手數が圧倒的に足りない。

僕が木刀で一回攻撃するとアスナは、左右で計二回、場合によっては足で一回。

つまり、アスナは最大で三回攻撃してくるのだ。

僕が一回攻撃すると、アスナは常に二~三回攻撃をしてくる。

有名なゲーム、竜語のラスボスを彷彿させる攻撃回數だ。

そしてもう一つの懸念が的中してしまった。

その時、ひと際激しく木刀同士がぶつかる音があたりに響きわたった。

そして、僕とアスナは互いにし距離を取って構えていた。

「ハァハァ……くそ……」

「どうした、リッド様? もう終わりか?」

僕が抱いていた懸念、それは強化で使う魔力だ。

(魔力測定)

リッド:一六四〇

アスナ:一九〇〇

魔力數値が最初は僕が勝っていたが、すでに逆転している。

そう、強化の消費魔力量は使っている當人の狀態によって増減する。

もしくは練度とも言うべきだろうか。

これは父上達との訓練でもじていたことだった。

同じ強化と言っても彼と僕では使い続けた年數が違う。

そして、経験という強みもアスナにはあった。

対して僕は強化を覚えてまだ間もない。

加えて訓練以外で初めての対人戦だ。

その結果、強化で思った以上に魔力を消費してしまった。

もはや、持久戦でも勝てない狀況だ。

なら、次にするべきことは決まっている。

僕は深呼吸をして息を整える。

そして、アスナに対して上段に剣を構えると言った。

「次の一撃にすべてをかけます……けてくれますね? アスナ」

「……いいだろう。リッド様の一撃見せてもらおうか……‼」

前試合を見ていた観客たちも二人の雰囲気が変わったことに気付いた。

次の一撃ですべてが決まると直して息を呑み、聲援は止まり靜寂が訪れる。

「……行きます‼」

僕は言い放ったあと、木刀を上段に構えたまま地面を蹴り、彼に突進する。

そして、そのまま真っすぐに彼に木刀を鋭く振り下ろした。

それに対してアスナはリッドから振り下ろされる木刀に対して両手に握られた左右の木刀を差させた斬撃を繰り出す。

リッドとアスナの木刀同士がぶつかった瞬間、あたりに重く鈍い音が鳴り響くと同時にリッドの木刀が弾けて折れた。

それを見たアスナは勝ち誇って呟いた。

「終わりだな。リッドさ……」

「まだだ‼」

僕はこの瞬間を待っていた。

勝利を確信した瞬間に気が緩む、この一瞬の隙を見逃さなかった。

持っていた折れた木刀を捨て、アスナの懐に飛び込み投げ技を繰り出す。

「リッド様はやはり素晴らしいな……」

の言葉がきこえた瞬間、投げ技を出した僕の視界が回り最後に背中を地面に優しく叩きつけられた。

「グッ‼」

「今度こそ、終わりだな。リッド様?」

「……そうだね」

殘念ながら捨ての投げ技は彼にいとも簡単に返されてしまったらしい。

ふと周りをみると彼が握っていたと思われる木刀が二本転がっている。

僕が懐に飛び込んで、投げ技を出そうとした時にすぐ手放したのだろう。

「アスナって強すぎ‼」と僕が呟くと同時に、エリアスの聲が高らかに聞こえた。

前試合の勝者、アスナ・ランマーク‼」

その言葉に、レナルーテの貴族達は歓喜に震えた歓聲を上げた。

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